ネパールの女性が誇りを持てる仕事を作り出していくためのブランド「Lalitpur(ラリトプール)」
Coffret Project という化粧を通じた女性支援の活動をスタートした向田麻衣さん。2年間の準備期間を経て、日本の女性たちにヒマラヤの恵みを、ネパールの女性たちには仕事と自由、そして自尊心を手に入れてほしいという願いを込めて出来上がったオーガニックスキンケアのブランド「Lalitpur(ラリトプール)」です。
表参道ヒルズの裏へと続く路地を入ると、街の喧騒を忘れさせる静かな住宅地が広がっている。その一角に2016年11月オープンしたのがオーガニックスキンケアブランド「ラリトプール(Lalitpur)」だ。
コンクリートと白いタイルが基調の内装は良い意味で飾り気がなく、自然体な雰囲気を醸し出している。タイル貼りのテーブルの上にはネパールで作られたコスメたちが丁寧に並べられている。
「ラリトプール」は2012年にスタートしたオーガニックスキンケアコスメのブランド。代表の向田麻衣さんは15歳の頃に学校で識字教育のNGOをしていた高津亮平さんの講演をきっかけにネパールへ強い関心を持つようになった。
高校時代に初めてネパールへ。当時は「何もかもが新鮮だった」と語る。
「ネパールは精神的にとても近い国です。友人たちもたくさんいて、自然がたくさんあって、とても落ち着きます。また、東京のように色んな建物や物がぎゅっとしていなくて、隙間がある感じ。その隙間と言うか、余裕があるところが創造性を育んでくれます」
大学卒業前、就職活動をする中で「本当にやりたいことは?」と自問し、アジア各国をフィールドワーク。そこで出会ったアジアの女性たちが楽しく元気になれるのは何かと考えた末、始めたのは化粧をして女性の自尊心を引き出していくというワークショップ「コフレ・プロジェクト」である。
4年間のコフレ・プロジェクトの活動で女性たちは「仕事を見つけるのが難しい」と訴えているのを知り、私にできるのは日本とネパールを繋げ、女性たちの仕事を生み出すことではないかと始めたのが「ラリトプール」だ。約1年間の準備期間を経て、2012年5月からECで発売を開始。現在では百貨店やセレクトショップなど、約20店舗で取り扱われている。
「ラリトプール」では3つのフィロソフィーを掲げ、ブランド展開をしている。
1つ目は「大自然の恵み」。
すべての商品に自然の恵みを使うということを意味している。高山で採れるワイルドハーブはもちろん、バスソルトの岩塩もヒマラヤやインドなど隣国で原料を調達し、ナチュラルでオーガニックな商品を作っていく。
2つ目は「芸術家や文化人と共に」。
これは世界中で活躍する芸術家や文化人、クリエーターとコラボレーションすることで、知性や感性を刺激し、新しいライフスタイルの提案をしていきたいという思いが込められている。
最後は「世界中の女性が自由に生きるために」。
ラリトプールに関わる全ての女性へ、その中でも仕事をしたくても就くことができないネパールの女性が誇りを持てる仕事を作り出していくために、このブランドを立ち上げたという想いが込められている。
ラインナップは全9アイテム。人気はリピーターも多い「フェイシャルソープJY」と「マルチバームSA」だ。自分用だけでなく、プレゼントとして買っていくお客様も多いそうだ。
贈り物としての需要が増えたことから、ギフト用に「メッセージソープ インタイム」が誕生した。石鹸の中に使わないと出てこないメッセージを入れられており、既存のメッセージの他に自分で手描きしたメッセージを入れられるオリジナルソープも作れる。使わないと読めない、時間差で送られる言葉に想いも深まることだろう。
主な原材料はネパールで採れるハーブやヤクのミルクや岩塩など、天然のものばかり。
「フェイシャルソープJYに使われているヤクミルクは、牛乳17倍の脂質があるので保湿に優れています。マルチバームSAには、アンソポゴンとシーバックソーンという植物のエッセンスが入っています。シーバックソーンは珍しい植物で『オメガ7』という抗酸化作用のある成分が含まれていて、アンチエイジングに効果があるということで、欧米ではサプリメントとしても人気です。また、フェイシャルソープSAやシャンプーバーなどに配合しているジャタマーシーという植物は、その根から抽出されるエッセンスが精神を落ち着かせるのに効果があり、古代ローマ時代から場を清める際にも使われてきた希少な精油です。精神的な効果の他に、肌細胞の再生・修復を助けるという効能もあるのです」と楽しそうに商品や原材料について丁寧に説明してくれた。
ネパールには珍しい原料がたくさんあり、一つ一つ効能を調べ、サンプルを作っていく作業はとても面白かったそうだ。ただ、ここに辿り着くまでには大変なこともあった。
特に良質な原材料のサプライヤーを見つけること、価値観を共有できる化粧品を作る工房と出会うまでが大変だったそう。今では良いパートナーが見つかり、納得のいく商品が作られている。そして現在では、その工房で7名の女性たちが仕事をしているという。
ブランドロゴやパッケージのデザインはジュエリーブランド「SIRI SIRI」のデザイナー岡本菜穂さんが手掛けた。パッケージのポイントになっている飾り紐も岡本さんのアイデアだそうだ。作っているのはネパールのシェルターに入っている女の子たち。この仕事で得た収入は「シェルターを出る時の蓄えにしてもらえればと思っています」と向田さん。
ネパールでのものづくりは色んな面で不安定が尽きないだろう。特にインフラ面や天候などの影響で原材料が入荷されないなど、現在でも一部商品が完売状態になっているものもある。
「できれば安定的に商品をお届けできることを目指していますが、自然の材料を使うため、安定的に材料が供給できないこともありますし、年によって香りも少しずつ変化します。自然の大きな流れの中に生きていると思い知る瞬間でもあります。自然のゆらぎの中で作るアイテムは常に一度きり。まるで同じ畑で育っても、毎年、香りも味も変化するワインを作るようなものだなと思います。その変化を楽しんでいただけたら嬉しいです」
日本に住んでいると何でもかんでも、すぐに物が手に入る。極端ではあるが外へ出かけなくとも物が入手できてしまう世の中である。また、理由を慮ることなく荷物の遅延にイライラしてしまうこともあるだろう。
そんな社会を否定する訳ではないが、欲しい時に手に入らない事や荷物が届かないことに対し、もう少し寛大になれる心の余裕が欲しいところである。
「ラリトプール」のスキンケアコスメは慌ただしい生活の中でほっと一息、心を落ち着かせる瞬間を与えてくれる様な存在と言えよう。
Text: Kaori TomabechiPicture: Kaori Tomabechi