2016.01.13 更新
【妄想小説】忘れられない初恋。憧れの先生はいい匂いがした……。<ローズツヤ髪特集>
Category:ビューティ
「ふぅ。」
ため息が空気を白くにごしていく。
2月は嫌いだった。
正月の慌ただしさも落ち着いて、目標も見えない、どこか心に穴が開いたような気持ちになる。今乗っている暖房が効き過ぎた電車は心までも乾かしてしまうように感じる。
ホームに降りて、寒い空気を胸いっぱいに取り込む。
日常の冷たい空気が、どこか足取りの重い心を現実に戻してくれる。空は今にも雪がこぼれそうなくらい、重い雲に覆われている。
「今夜は雪が降るのかな?」
ツーンと鼻の奥に刺さるような寒さは、天気の匂いすら嗅ぎ分けられそうだ。肩から落ちたマフラーを巻きなおし、改札を通ったとき不意に懐かしい匂いを感じた。
「あれ、この匂い……」
「あれっ! 翔太君?」
「七瀬先生……」
透き通る様なツヤ髪を少し巻いていて、ベージュのコートがよく似合っている。
そしてうっすらと香る甘いローズの匂い。少ししか歳は違わないけど、大人びたその雰囲気は高校生にはないものだ。
懐かしい思い出が脳裏に流れる反面、少し胸の奥がチクリと痛んだ。
七瀬先生、数か月前まで俺のクラスの教育実習の担当してくれた女子大生で、俺の初恋の人だった。
初めて見た瞬間から一目惚れして、内緒でLINEを交換してもらい、やり取りをしていた。
でも、過去形だ……。
クリスマス前、偶然七瀬先生が男の人と一緒にいるのを見て、そのとき自分の立場と状況を察してしまった。
それ以降、なんだか気まずくてやりとりの回数が減っていき、途絶えてしまっていた。
本当は渡そうと思っていたクリスマスプレゼントもずっとバッグに入りっぱなしだ。
会えてうれしい反面、どうしてか素直に喜べない……。
もともと手が届かない相手だって、自分には何度も言い聞かせていた。
「ん?? どぉしたの?」
覗き込む表情は、教室で見ていた先生の表情とは違った年上のお姉さんって感じだ。
化粧とかもクラスの女子とは違って、すごくきれいだ。
一瞬見るだけで、そのきれいさはよく分かる。ローズの匂いは先生によく似合っている。
「ねぇってば!!」
「え? ぁっ、その……すみませんっ」
なぜか後ろめたさが出てしまい、言葉がどもってしまう。
(今の俺、すげぇカッコ悪りぃ)
「せっかく久しぶりに会ったのにどうしたの? 体調でも悪いの?」
「いや、別に、いつも通りっす」
ちらっと視線を左手に移してみるも、薬指は手袋で隠れている。
(いちいち気にしてしまう自分の小ささが嫌になる)
「大丈夫? 顔も赤いよ?」
そういって先生は手袋を外し、おでこに手をあててきた。
「え! ち、ちょっと先生……」
「う~ん、ちょっと熱いかな?」
(それは先生のせいだよ……)
ちょっと背伸びしながらおでこにあてる先生の手はどこかひんやりしている。
「ぁ、あれ? 先生、指輪は……?」
「指輪? 何のこと?」
「だって、彼氏……この前、歩いてるとこ見たし……その、彼氏いるんでしょ?」
「彼氏? 何のこと言っているか分からないよ? とりあえず、そこカフェでも行こうよ。
どうせ暇なんでしょ?」
そういうと先生は半ば強引に俺の腕を引いて、カフェに向かって歩きはじめた。
事の顛末を白状させられた俺は、見た人は勘違いだったことを教えてくれた。
「ふふふ、意外と純情なんだね」
そういって小悪魔みたいな表情で笑う先生は、やっぱりかわいかった。
帰り際、先生がコートを羽織ったとき、またうっすらとローズの匂いがした。
「先生ってすごくいい匂いするよね。その、香水とか使ってるの?」
「……また言ってくれた。嬉しいな」
「え?」
「実習の時に、君が先生いい匂いするって言ってくれた事あったでしょ? その日シャンプー変えたばっかりだったんだけど、それ以来気に入って使ってたの。」
思い出した。
光を浴びた髪がツヤツヤでとても綺麗で。思わず口走った記憶があった。
先生、覚えていてくれたんだ。
それって、もしかして……。
「じゃあ、あたしはこっちだから!」
駅の改札、先生を見送るとき、言うタイミングはここだと思った。
改札へ向かう先生の手をつかんで、まっすぐその瞳を見つめた。
「七瀬先生! 今度、俺とデートしてくれませんか?」
「うん! いいよ。どこ行こうか?」
にっこり笑う先生の、笑顔はやっぱりかわいい。
その笑顔をずっとそばで見ていたい。急にそんな衝動に駆られてしまう。
「おれ、七瀬先生のこと、好きです!」
思わず言ってしまった……。
完全に口が滑ってしまった。
先生も驚いている。
(どうしよう、何言ってんだよ……)
勢い任せに言ったはいいものの、うつむいてしまう。
「ぁ、えっと、その……」
表情をあげた瞬間、先生の顔がすぐ近くにあった。
「知ってるよ。ありがと」
そう耳元でささやくと先生は、またね。と言って改札の向こうへ行ってしまった。
あまりの突然のことで、呆然としてしまったが、その触れそうになった頬にはかすかにローズの香りが残っていた。
「あっ、プレゼント渡すの忘れた」
でも、いいか。次会える時にちゃんと渡そう。
ヒュウっと火照った頬を横切った風はバラの匂いがして、春を運んできたような気がした。
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