「IPO会社の社長に聞きた~い!」インタビューならびに構成、原稿執筆を担当する角田佐哉香です。今回登場するのは2014年12月16日に東証マザーズに上場したメディカル・データ・ビジョン (3902)の岩崎博之社長です。
同社は病院経営の支援ソフトを提供するビジネスなどを手掛けています。主な顧客のターゲットは、医療費の適正化を図ろうと2003年から開始された「DPC」と呼ばれる制度を導入している病院です。
医療費をめぐっては、診療行為ごとに料金が発生する「出来高払い」で計算されると、過剰診療を行って高額な費用を請求する病院がある、との批判がくすぶり続けていました。「DPC」制度は入院患者の1日当たりの診療報酬を疾患ごとに定めたものです。報酬が定額だと治療が長引くほど病院のコストが膨らむため、無駄な医療行為の削減につながるという狙いがあります。
14年11月末現在でDPC導入に踏み切った病院は全国に1585あります。導入に伴って、収益にどのような影響が出てくるのかを分析するソフト「EVE」が同社の主力商品。このソフトを使って厚生労働省への提出が義務づけられているDPC病院の診療データを基に複数の病院間で在院日数、患者数、診療報酬などを比較し、ほかの病院のよい点を経営改善に生かせるよう支援を行います。
株価は上場当日に公開価格5180円の約2.4倍の1万2220円で初値がつき、翌日の取引時間中には1万6400円まで買われました。しかし、買い一巡後は軟調に推移し、15年3月11日には一時、5150円まで下落しました。その後は若干持ち直しており、前週末3日の終値は6240円です。
IPO人気の流れに乗って高水準まで引き上げられてしまった感が強く、足元は落ち着いてきた印象があります。トップの舵取りが株価の趨勢を左右する大きなカギになりそうです。今後の収益環境や株主還元などについて、岩崎社長はどのような考えを持っているのでしょうか。
同社は2003年設立。医療機関に対して経営分析ソフトなどを提供するだけでなく、同ソフトを介して入手した病院で薬がどのように使われているかといったデータを製薬会社などに販売するビジネスも行っている。前者の事業を「データネットワークサービス」、後者を「データ利活用サービス」と呼ぶ。「データネットワークサービス」の主力経営分析ソフト「EVE」の導入費用は400万円で、ランニングコストが月5万円。14年12月末時点でDPC対象病院の42.4%、数にして700超の病院が導入している。同社によると、似たサービス内容のソフトを販売する企業はほかに2社あり、「それぞれ約200病院をユーザーに抱えている」(岩崎社長)と推測する。
アフターメンテが最大の強み
ーー病院向けの経営分析ソフトは、高いシェアを獲得しています。
今、病院は当社に対し「EVEを手掛ける会社」というイメージを持っていますが、これはデータを利活用するためのパッケージソフトです。当社の目的は診療データや医療データを集積し、エビデンス(その治療法がよいとされる証拠)を吐き出して医療の役に立つこと。データの発生元は病院とクリニックなので、それらと仲良くなるためにパッケージソフトとしてつくったのが同商品というわけです。
ーーソフトをどのように使うと、経営改善にどう結び付くのですか。
DPCを導入して診療報酬が定額制になると、同じ疾病の患者に同じ処置、処方をしても導入前と売り上げが変わってしまいます。増収になるのか減収になるのか、病院はそこをみなければいけません。
このソフトを使えば、「増収している病院がどのように売り上げを計上しているのか」を見ることができる。ほかの病院と比べることで、自病院の欠点、いいところ、具体的にどのような処置・処方に変えていけばいいのかといったことが明確になります。(ほかの病院との比較ができる)ベンチマーク機能を搭載したパッケージソフトは今までなかったので、画期的なものだと思っています。
ーー他社も似たようなソフトを提供しています。そうした中で「強み」はなんですか。
アフターメンテナンスのよさが他社との違いです。他社はパッケージソフトを売って儲ける会社ですが、当社にとってソフトは信頼を得るためもの。ユーザーからデータを預かって利活用するのが本来のビジネスです。だから、「あの会社はいい」と言ってもらえるためにソフトをつくり、メンテナンスを徹底しています。
ユーザー数がまだ20程度の時代から「ユーザー会」を運営し、ソフトを使った有効事例が出ればそれをすべての病院と共有してきた。数年前からは地域勉強会を開催しています。スタッフが持ち込んだサーバーに、勉強会へ参加した病院のデータを落とし込んで情報を共有します。Webで告知すると、用意した250前後の席がその日のうちにいっぱいになってしまう。
インバウンドのコールセンター(顧客から電話を受けるタイプのセンター)もユーザーが少ないころから設置し、問い合わせにはとにかく「即日回答」してきました。アフターメンテナンスはユーザーの間でも評判で、圧倒的なユーザーとのパイプができました。
岩崎社長が「本来のビジネス」と話す「データ利活用サービス」は、経営分析ソフトの提供で得た医療情報を二次利用するもの。病院や診療所の許諾を得て薬がどのように処方されているかといった分析データを製薬会社などに提供するものだ。2月末現在で950万人分に上る大規模な診療データベースをサービスに生かしている。
データ利活用サービスは法人向けと個人向けの二本立てだが、中心は法人向けサービスだ。法人向けサービスはさらに、急性期医療機関の薬の処方量、処方した患者数、併用した薬状況などを把握できるWebシステムの提供と、個別の製薬会社からの求めに応じて薬などの調査を行うサービスに分かれる。前者は年間2000万円で提供しており、昨年の契約実績は10社。後者の報酬は1件当たり平均で300万円程度だ。
業績面では前2014年12月期に増収増益を達成。売上高は前期比約28%増の19.5億円、営業利益は同24%増の2.6億円だった。一方、今15年12月期営業益は同1%増の2.62億円とほぼ横ばいを見込む。
向こう2年は投資フェーズ
ーー950万人ものデータを集めるのは難しいことなのですか。
データを病院から出してもらえる会社がほかにあるのかというと、なかなかないと思います。また、仮にデータを集めても、それをデータベースに放り込めばすぐに分析できるというものではありません。データクレンジング(データベースに保存されたデータの中から誤りや重複を取り除いて、データベースの精度を高めること)など、ノウハウが必要なのです。それをいわゆる「ビッグデータ化」するのも難しい。「ここの製薬会社にはどのようなデータを出したら活用してもらえるか」といった知見が求められます。他社が参入するハードルは高いでしょう。
データがある程度たまった段階で製薬メーカーへ販売に行ったところ、「ものすごく売れちゃうだろうな」という予想に反してまったく売れなかった。製薬会社側も見たことのないデータだったので、使い方がわからなかったのです。そこから、製薬会社のスタッフとともに、手探りでナレッジを集積しました。そうして、今があるのです。
ーー前14年12月期は「データネットサービス」の売上高が全体の6割強を占めています。
今後は「データ利活用サービス」の売上構成比率が高まっていくでしょう。ただ、今期と来16年12月期に関してはあえて、投資の期間にしたいと考えています。
第1フェーズでは、「データネットワークサービス」によって信頼を獲得し、ユーザーと個々にデータの利用許諾契約を結んだ結果、診療データが900万人を超えました。
第2フェーズが「データ利活用サービス」。製薬会社向けのデータ販売が拡大し、花が開き始めました。向こう2年間の投資フェーズでは、当社が考える最高のデータ採取方法を実現しようと思っています。
ーー「最高のデータ採取方法」とは何ですか。
患者の同意が前提ですが、診療が終わった瞬間にカルテそのものが当社のデータベースへ入るようにするという都合のいい方法です。電子カルテ(診察の経過や検査結果、処方薬など医師が記録するカルテの情報を電子的に保存するシステム)の仕組みを整えることでそれを実現したい。
現在は利用許諾を個別に得た病院から1カ月単位でデータをもらっているので、受け取った患者のデータは古いものになってしまう。しかも、医療ITのインフラ整備の遅れもあり、検査データが取れているのは一部の病院にとどまっています。
ーー今期の営業利益が微増にとどまるのは、投資があるからですね。
そうですね。再来期以降は再び、利益の伸びが拡大していくシナリオを描いています。なぜ、このタイミングで投資なのか。20年には医療データ関連のマーケット規模が現在よりも拡大していると予測しています。そのときに「ナンバーワンプレーヤー」としての地位を獲得するためにも、最高のデータを持つ唯一無二の存在であるという状況をつくっておきたいからです。
2年間の投資で形をつくり、17年くらいからさらに花を開かせて、来るべき20年にしっかり備えたいと考えています。
カルテは本来、患者のもの
ーー電子カルテの話について詳しく聞きます。電子カルテシステムの開発や販売の競争は激化していますが。
確かに今、いくつかのメーカーがしのぎを削って「値引き合戦」を繰り広げていますが、電子カルテ単体にはまったく興味がありません。当社は、電子カルテとWebを連携し、データを循環させることで、病院や患者がメリットを享受できるようにしようという考え方です。
まず、患者からは個人情報をカットして診療の中身に関するデータだけ、無償で自由に二次利用することに対して同意を取り付けます。同意した患者にはWeb上に患者個人のカルテ倉庫を無料でつくります。そこには、いつ、どのような症状で病院に行ったのか、あるいは病名はなんだったのか、さらには検査結果、薬などに関する情報が自動的に入るようにします。
患者にとってのメリットは、「カルテが返ってくる」ということ。今、病院に行っても「カルテを持って帰りますか?」と聞かれることはないでしょう。でも、それは本来、患者のもの。当たり前のように返してもらうということなのです。だから、相当数は同意してくれると思っています。
ーーただ、電子カルテは全体で見ると、さほど普及していないのが現状です。
マーケットが広がっていないのは当社にとってむしろ、フォローだと思っています。実際、電子カルテは大して便利なものではないうえ、おカネがかかる。病院長にヒアリングすると、「電子カルテのために働いているようなもの」という声まで聞こえてきます。
しかし、当社の電子カルテソリューションを使えば、患者を増やすことができる。たとえば、行くことのできる範囲に病院が三つあったとします。その中に一つだけカルテを返してくれて、Web上にカルテ倉庫のできる病院があるならば、僕はそこへ行きます。僕のように行く人がいるのでこの病院の患者は増える。違う病院へ行ったらカルテを返してくれないので、同じ病院へ足を運び続けるでしょう。
病院にとっては「患者を集める」というメリットがあります。患者にはカルテが返り、カルテ倉庫にはデータがたくさんたまってエビデンスができる。エビデンスがドクターの元へ返る結果、医療の質が高まります。
こうした仕掛けが有効なものであると提案し、二次医療圏の単位で1病院ずつ入れたいと思っています。
ーー医師は「患者を増やせる」という説明に納得するのでしょうか。
実際に「カルテを返す」という事業をしている医師は複数おり、いずれも「患者が増えた」と言っています。当社のソリューションシステムも3病院の採用が決まりました。春から夏にかけて稼働し始める予定です。この3病院も患者が増えないはずはない。
当社は「EVE」のように作業の「見える化」は得意なので、外来や入院の患者、手術がどれだけ増えて利益構造がどのように変わったかというデータを蓄積。それを基に、ほかの病院やクリニックへも販売しようと考えています。
上場後も筆頭株主の富士フイルムが発行株式の30.6%を保有。2位のメディパルホールディングス保有分(22.8%)を合わせると過半を超える。前期末の「現金および現金同等物」の残高は約18億円。しかも、実質無借金経営だが、利益剰余金は約8000万円の欠損で今期の配当は見送る予定である。
株式分割などは「時期を見て」
ーー上場後も大株主上位2社合計の保有比率が高く、流動性に乏しい面は否めません。
物理的には流動性が低いと考えています。ただ、上位2社は売却することもないので、「会社存続に対する保全に資する」という意味では、評価してもらいたい部分もあります。
ーー繰越損失を抱えていますが、キャッシュは比較的潤沢なようにもみえます。
会議室の扉に掲示された「会議原価」などの表
先ほども話したように、この2年間は投資のフェーズです。最終赤字もかなり続いたため、今は累積損失を一掃する段階。配当する状況ではないと思っています。
上場時に投資資金用途でマーケットから集めたおカネがあるのでキャッシュリッチにみえますが、一時的なものです。2年間しっかりと有効活用して17年以降、継続的に利益率の高いビジネスができる環境づくりを整えたうえで配当したいと考えています。
ーー東証は上場企業に対して最低投資金額を50万円以下にするよう要請していますが、株式分割などは考えていないのですか。
明確に「いつ」という計画はないですが、指導もされているので「時期をみて」ということになるでしょう。
ーー「会議の原価表」が会議室の扉に掲げられています。
「無駄な会議」はなくそうということで9年前から原価表をつくり、実践しています。当社は二人以上で打ち合わせをするのを「会議」と呼び、議長が立たないと会議をしてはいけない決まりです。
議長は会議の冒頭、三つのことを宣言します。まずは「会議の原価」。いくらかかっているかということを伝えます。二つ目は「獲得目標」。会議で決める内容をはっきりさせます。何かを決定するのではなく、単に「話し合いましょう」では駄目。三つ目は「終了時刻」。予定時刻になったらたとえ途中でもストップするのがルールです。当初はまったく守れなかったのですが、10年近く経って守れるようになった。「文化」になってきたのです。
【取材後記】
会社に着くと、まず目に留まったのが会議室のドアの掲示。「原価」や「職位別固定費」といった会議でかかるコストや、取り決めなどが細かく書かれていました。「全体会議の原価は30分で40万円」、「役員の固定費は1時間1万0200円、傍観者にも原価は発生している」……。
発案者は岩崎社長。「創業当初は赤字が続き、投資家に対して心苦しいという思いから、せめて無駄な会議はなくそう」と考えたそうです。こうしたまっすぐで、まじめな人柄をインタビュー中にも感じました。
真摯な姿勢は経営の舵取りでも同じ。経営支援のソフトを利用する病院との信頼関係を築くことから始め、着実に診療データを蓄積してきました。向こう2年は、創業の目的である「電子カルテを普及させて患者にカルテを返す」ことを実現させるために投資する段階だと強調します。
電子カルテが登場してから約20年が経ち、大きな病院では導入が進みましたが、小規模の病院や診療所への普及の割合はまだ低いのが現状です。その最も大きな要因として挙げられるのが、電子カルテを導入する際の医療機関側の負担です。「当社の電子カルテは、患者を増やして数カ月で初期費用をペイし、その後おカネを稼ぐことができるシステムなので、ほかのものとは違う」と岩崎社長は自信をのぞかせました。
ただ、電子カルテの普及を阻害する要因はほかにもあります。その一つが「パソコン操作の問題」です。「データ入力をしながらの診療は集中出来ないだろう」という理由で、導入をためらう医師は少なくないといいます。患者も、パソコン画面にばかり目をやる医師に不安を抱くことがあるかもしれません。
私の通う皮膚科では、そうした患者のストレスを和らげるためか、医師の隣にパソコン入力のスタッフが座るというスタイルを取っています。医師は患者と会話をしながら、入力する内容をスタッフに指示します。若い医師もいれば、医師歴何十年というベテラン医師もいる。そんな中で、広く電子カルテを普及させるには、どんな医師もストレスなく使える仕組みが必要です。
以前、電子カルテやレントゲン写真を基に丁寧な説明を受けることで、疑問に思ったことを質問し、納得して治療を受けることができた経験があります。手元にカルテがあれば、違う病院にかかっても診察がスムーズに進むなど、患者と医療機関双方の無駄減らしにもつながるでしょう。
「医療のIT化」が進展する中で、患者側も「医師にお任せ」というこれまでのスタンスを見直し、「主体的」にかかわっていくよう意識改革を求められているように思います。
(撮影:梅谷秀司)