| 「トランジション・ゲーム(1)」において、トランジション・オフェンスに対立する概念として、ゲームテンポを落として5対5でがっぷり四つに組む「ハーフコート・オフェンス」ないしゲームテンポを場面によって使い分ける「コントロールド・オフェンス」があると述べました。今回は、これら3つのオフェンス・スタイルの特色と選択の基準に関し、大学のバスケットボール部の監督の方々のコメントを引用しつつまとめてみますが、それを通してトランジション・オフェンスのより効果的な使用法を考えるきっかけになればと期待しています。
私の中では、トランジション・ゲームを最も強調し、一貫して実践してきた指導者は、慶応大学の佐々木三男ヘッドコーチ(以下「佐々木HC」と記します)をおいて他にいません。例えば、佐々木HCは長身の外国人センターを擁する相手チームに関して、以下のように仰っています(以下、同氏のコメントはすべて慶應塾生新聞の記事による:URLはhttp://www.jukushin.com)。ここには、トランジション・ゲームを仕掛けることで、相手のOF時のターンオーバーが増え、DF時のファウルが増えるという狙いが明確に表出しています。
「こういうチームは、ハーフコート・バスケットには慣れてるんです。でも、慶應がやっているようなトランジション・ゲームをやると、相手は普段やっていないので、パスミスをしたりしてくる。始めはちゃんとやるけど、2Q以降はターンオーバーが多くなるんです。(中略) 向こうはうちの速い展開に、ディフェンスでついてこれないですよね。ハーフコートならいいけど、スリークォーター・バスケットの時からついてこれない。それで、それに対して(ファウルの)手を出してる。」
更に同HCは、ハーフコート・オフェンスに比べ、アップセット(実力が上と目されたチームが番狂わせで敗れること)が生じやすいと指摘されています。トランジション・ゲームは、彼我の実力差をより際立たせることで、実力通りの結果につながるという考え方に通じるものがあります。
「僕は、(他のチームとは)バスケットの質が違うし、いつもトランジション・ゲームをしっかりやれば、勝率は絶対上がるという確信を持ってますから。ハーフコート・バスケットっていうのはアップセットの起きる可能性は大きくなりますから、トランジション・ゲームをやるぞ、というのを貫けたのが良かったかなという風には思ってます。」
また、2008年のインカレで、東海大学が長身の満原選手を怪我で欠いたために天理大学に苦戦した際には、こうコメントされています。
「勝ちにくい。ハーフコートの一番の欠点です。どういう相手にも負ける可能性がある。勝率が悪くなる。高い能力の選手がいればもちろん勝ちますよ。だから逆に、満原選手が出ないだけでこうなっちゃう。」
能力の高いチームであればハーフコート・オフェンスでも勝ち切ることは可能と認めつつも、実力差が相当ないと確実に勝つことはできない、逆に言うと、ある程度の実力差はトランジション・ゲームを採用することでひっくり返せるとの考え方とも言えそうです。実際、別の記事では、フルコートのゾーン・プレスでトランジション・ゲームに誘い込めば、10分あれば10点位はひっくり返せるとも話されています。
ところで、トランジション・ゲームの副作用としては、お互いの攻撃回数が増えることで、相手チームのリズムまで良くなることがあるという点が挙げられます。シュート力やリバウンド支配力あるいはターンオーバーの差から、最終的には確実に得点差がつくのですが、このパターンはミニや中学段階のゲームでもしばしば見られます。佐々木HCの次のコメントはその核心を衝くものです。
「積極的なトランジションをやらせたので、ああいうの(格下のチーム)とやると自分達のオフェンスもすぐ終わって、相手にオフェンスの時間を与えてしまって、どうしても相手のオフェンスの回数が多くなるんです。だから相手は気持ちよくやってるような感じなんですけど、でもそれはこっちの作戦なので。だいたい20点以上点差が開いてると思うんで、我々としてはそんなに悪い戦いじゃなかったと思ってます。」
逆の観点から、環太平洋大学女子バスケットボール部の小牟礼ヘッドコーチのHPからのコメントを引用してみます(URLはhttp://sports.geocities.jp/kckck190/index.html)。とても明確な理由付けをされていますので、敢えて説明書きを加える必要はなさそうです。こちらはトランジションを切り札にして勝負というのではなく、コントロールド・オフェンスを重視する立場に立っておられると考えられます。なお、文中のハディ・ジャトゥ・ゴンさんは身長184cmの長身センターです。
「私は勝つためにゲームのテンポ(速さ、調子、リズム)を、コントロールしたいと考えています。基本的に、速攻は3人で行い、うまく攻めきれない場合は、センターが来るのを待ち、フロア・バランスをとってから攻撃をしたい。アップダウンが多くなっている場合には、ゾーンの導入も考えますし、ベンチから待てと声をかけ、セット・オフェンスの指示を出すこともあります。私が考える攻撃回数の目安は、1試合100回です。
このような方法で攻撃スピードにメリハリをつけ、ゲームをコントロールしたい理由は、 ・アップダウンの回数が増えれば増えるほど、能力の差が勝敗に影響してくると考えている。 ・早く攻めれば、それに比例してミスも増えると考えている。 ・ハディ・ジャトゥ・ゴンが、走れないし持久力がない。
日本代表チームにいる時も、このように考えていました。コーチという私の立場で、その考えを前面に押し出してゲームをしていたわけではありませんが、ディフェンスでギャンブルすることなく全員で粘ることを徹底したことが影響し、所謂いけいけどんどんではなく、メリハリのついたゲーム、テンポになっていたと記憶しています。」
「トランジション・ゲーム(4) - 導入時のポイント」に続きます。 |
私は現在指導中のチームでは小牟礼氏の理由1・2と考えを同じくしています、もちろん素材が良くなればもっと違うバスケをやりますが。生徒たちは「一般的な」バスケのセオリーを知るということで嬉々としてやってます。得点差で勝敗というゲームの物差しとは違う価値観があってもいいと思っています。
2009/3/25(水) 午後 2:57 [ keiroku ] 返信する
そのような趣旨でおやぢ様が書き込まれていたのを読んだことが、その時までの自分の単純なトランジション志向を見直すきっかけになりました。
それでも何となく自分を納得させることができずにいたところ、佐々木HCと小牟礼HCのコメントを読んで、結論らしきものが出たというところです。
これで迷いなく、トランジションを追求しつつ、それを有効なものとすべく、スキルを高めていく方針で邁進できます。私はミニや中学生相手ですから、素材の良し悪しを論じる段階ではないです。
試合の直前まで僅かでも技術を高め、勝負できる余地を最大限にしておいてあげたいという「欲」は捨てないでおこうと思います。勝敗がみえている試合であっても、良い勝ち方・良い負け方を追及したいです。