EU離脱? 英国民投票のゆくえ
最新の世論調査です。
一時、離脱派が7ポイントの差をつけていましたが、議員の殺害事件を受けて、逆転。
そして、最新の調査で、再び離脱派が上回っています。
双方、きっ抗し、大接戦となっています。
イギリスが離脱すると、どんな影響があるんでしょうか。
こちらはEU28か国を、各国のGDP=国内総生産の大きさをもとに人型に表したものです。
イギリスのGDPは、ドイツに次いで第2位。
EU全体の2割近くを占め、なくてはならない存在です。
そのためEU各国はもちろん、アメリカも日本も、イギリスがEUから離脱しないように必死に引き止めてきました。
またIMF(=国際通貨基金)は、イギリスがEUから離脱した場合、3年後までに経済規模が5.6%程度縮小するという試算も出しています。
世界の株式や為替に大きな打撃を与える可能性があり、今、世界中が臨戦態勢を取っている状況です。
残留が多数を占めるという当初の予想を覆す展開。
なぜ、ここまで離脱派の声が大きくなっているんでしょうか。
離脱?残留? 大接戦の英国民投票
EUへの残留を主張してきた、キャメロン首相。
イギリスがEUから離脱すれば、経済や市民生活に計り知れないダメージを与えると訴えてきました。
残留派 イギリス キャメロン首相
「離脱すれば仕事や住宅、日々の買い物、生活費のすべてに悪影響を及ぼすリスクがある。
これまで積み上げてきた成果が失われてしまう。
だからEUに残るべきなのです。」
イギリスがEUに加盟していることで、大きな恩恵を受けているのは、ヨーロッパ各国と取り引きする企業です。
金属部品メーカーを経営する、トム・モンガンさんです。
製品の40%余りをEU域内のメーカーに輸出していますが、関税はかかりません。
また、EU域内から比較的安い賃金で技術を持った移民を雇えることも大きなメリットです。
EUを離脱すれば、こうしたメリットを失うおそれがあるのです。
金属部品メーカーを経営 トム・モンガンさん
「製造業の将来について考えると心配です。
離脱すれば取引先がイギリスを見放し、私たちは生き残れないかもしれません。」
これまで優勢だった、残留派の支持率。
しかし、思わぬ展開となります。
投票間近となり、離脱派の支持が急激に増え、逆転したのです。
なぜ、離脱派が急激に支持を伸ばしてきたのか。
最大の原因は、EU域内から訪れる移民が急増していることです。
イギリス中部の町、ボストン。
東ヨーロッパからの移民が、ここ数年で急速に増え、人口7万人のうち、20%以上が外国出身だと見られています。
安い賃金で、農作業や工場労働の仕事に就いています。
リトアニアからの移民
「たくさんカネを稼ぐために、イギリスに来たんだ。」
「どれくらい稼いでいるのですか?」
リトアニアからの移民
「リトアニアにいた時の4倍さ。」
ラトビアからの移民
「ここのほうがいい生活ができるし、仲間もたくさん来ている。
チャンスをつかみに来たのさ。」
押し寄せる移民に仕事を奪われ、地元の住民は困惑しています。
その多くは、離脱派支持に回りました。
「EUを離脱して国を救おう!」
離脱派
「外国人にはもううんざり。
人数が多すぎて病院もいっぱいで、治療が受けられないんです。」
移民が増えた背景には、EUの急速な拡大があります。
イギリスが、EUの前身の組織に加盟する1973年には6か国だけでした。
しかし2004年以降、東ヨーロッパの国々が次々と加盟し、28か国に増えました。
EUに入ると、国境を自由に移動できるため、東ヨーロッパの人たちの多くが、豊かなイギリスで仕事を探すようになりました。
その数は年間およそ20万人に上ります。
離脱派を支持する、アンジェラ・クックさんです。
トラック運転手を派遣する会社を経営していましたが、賃金の安い移民を使った同業者に仕事を奪われました。
離脱派 アンジェラ・クックさん
「価格競争に負けました。
仕事が激減して、社員たちは去っていきました。」
クックさんの自宅近くにある大規模農園です。
1,000人余りの移民が住むプレハブが、ずらりと立ち並ぶようになりました。
離脱派 アンジェラ・クックさん
「都市部にはたくさんの失業者がいるのに、なぜイギリス人を雇わないのでしょうか。」
離脱派の不満が高まる中、キャメロン首相は今年(2016年)2月、EU首脳会議に臨みました。
移民の流入を抑える対策として、給付する社会保障費を制限できることなどが認められました。
しかし、EUに対する国民の不満を和らげることはできませんでした。
離脱派 レッドウッド下院議員
「キャメロン首相は交渉で成果を上げられず、国境のコントロールも取り戻せなかったのです。
“独立国家”に戻りたいのです。」
さらに、離脱派の議員たちは、EUに主導権を握られることへの不満も各地で訴えました。
世界有数の大国であるイギリスが、なぜEUに譲歩を重ねなければならないのか国民に問いかけたのです。
離脱派 ジョンソン下院議員
「イギリスの法律がEUを通じて、どれだけ決められているか、ご存じですか?
60%です。
我々はコントロールを失っています。」
EU残留を支持していた金属部品メーカーの経営者モンガンさんです。
離脱派の主張に共感し始めていました。
移民による強盗や暴行事件が増加する、イギリス。
有罪判決を受けても、出身国に強制送還できないという、EUの規制もまた、モンガンさんにとっては不満でした。
離脱派を支持する取り引き先などと、頻繁に意見を交わしています。
金属部品メーカーを経営 トム・モンガンさん
「国民投票についてどう思いますか?」
取り引き先
「私は離脱した方が、新たなチャンスが生まれると思います。
チャンスを見つければいいのです。」
金属部品メーカーを経営 トム・モンガンさん
「気持ちが離脱派に傾いてきました。
私にとって離脱派のほうが、未来を変える前向きな力を感じるからです。」
大接戦の英国民投票
ロンドンにいる松木支局長と中継がつながっています。
最新の世論調査では、再び離脱派が上回りました。
VTRを見ていても、イギリスの国民、最後までどっちにすればいいのか決めかねている人も少なくないようですね。
松木昭博支局長(ロンドン支局)
「そうですね。
世論調査では、およそ10%がまだ態度を決めていません。
離脱派、残留派それぞれどういう人が多いのか、その特徴はまず都市部と地方といった、地域によって色分けできます。
ここ、ロンドンなどの都市部は、残留派が多い傾向にあると言われています。
学歴が高く、リベラルな人たちが多く住んでいまして、冷静にEU離脱の経済的なデメリットを考えているものと思われます。
これに対して、地方は離脱派が多いといわれています。
かつての石炭産業が衰退した地方都市など、経済成長の恩恵を実感しにくい地方に住む労働者などが含まれています。
一方、年齢層で見ますと、高齢者に離脱支持が多いのが特徴です。
こうした人たちは、かつての大英帝国の栄光を今も誇りに思っています。
イギリスの主権がEUに制限されていると、屈辱的な感情すら抱いているのです。」
大接戦の英国民投票
そもそも、この国民投票はキャメロン首相が言い出したことで、危険なギャンブルとも言われているが、なぜこういう事態にまでなったのか?
庄司さん:それは、彼の保守党の中でEU離脱派がとても多いんですね。
それを抑えて、政権を維持するために国民投票をやって、その時の作戦が、EUから主権を取り戻して、EUに残留すると、それで国民投票で勝てば、EU離脱派を抑えられるという作戦を取ったわけです。
(でも結局、読みが違ってしまった?)
そうですね。
EUから主権を取り戻すのに、どれくらいやればいいのかということを政府が調査したら、EUとイギリスの権限は、ほとんどバランスが取れているという調査結果が出て、慌てて、それをトーンダウンしたという経緯があったんですけれど、結局、EUから主権を取り戻すって言ってしまったものですから後に引けなくなって、世論に火がついてしまった、キャメロン首相は慌てた、そういう構図ですね。
このまま仮に離脱ということになると、イギリスとEUの関係はどうなる?
庄司さん:EUとイギリスの間で離脱のための交渉を行います。
協定を結ぶんですが、大体2年ぐらい延長しても可能だということなんです。
ただ、私の読みでは、離脱となったら大変なことになるので、その交渉の間に、結局、残留というふうにイギリスの世論が変わるのではないか。
イギリスはもう1回、国民投票をするかもしれないんですが、EUに残留するんじゃないかというふうに見ています。
(仮に、今回一度『ノー』と出しても、それですぐに全てが決まるわけではなく、この問題はまだまだ何度でもくすぶり続ける可能性がある?)
キャメロン首相が辞めることになるかもしれませんが、別の首相の下で、もう1回、国民投票をやって、残留になるんじゃないか。
(という見立てもある?)
そうですね。
世界経済への影響は?
視聴者の方より:「イギリスがEUを離脱すると、日本や世界の経済にどの程度の影響があるのでしょうか?」
松木支局長
「イギリスには、およそ1,000社の日本企業が進出していますので、戦略の見直しは避けられないと思います。
すでに現時点でも、世論調査の結果が出るたびに、株価や為替は大きく変動しています。
実際に離脱が決まれば、その影響は計り知れません。
このため、いち早く開票結果の傾向をつかもうと、投票日に独自に出口調査を行う市場関係者もいるほどです。
実際に離脱が決まると、イギリスの株価や通貨ポンドは下落し、物価上昇を招くと見られます。
外国企業の多くが、イギリスをEUへの窓口と位置づけて拠点を設けており、イギリスへの投資が減少することも心配されます。
さらに、主力の金融業でも、金融街“シティー”から、パリやフランクフルトなどへ拠点を移す金融機関が相次ぐ可能性も指摘されています。
離脱した場合のイギリス経済の影響について、キャメロン首相は、向こう2年間で50万人の雇用が奪われるなど、甚大なダメージを受けるとして、ギリギリまで残留支持を訴えています。」
さて、そのEU離脱を望む声はイギリスだけではありません。
EU各国にも広がっています。
フランスでは、ルペン首相率いる国民戦線が台頭し、イタリアでは、通貨ユーロに懐疑的な候補者がつい最近、ローマの市長に当選しました。
EU懐疑派の勢力がどんどん台頭している、その背景には、中東、アフリカからの難民対策への不満があります。
イギリスの離脱をきっかけに、離脱ドミノが起きるのではないか。
国民投票の動きが出ている、デンマークとオランダを取材しました。
EU“離脱ドミノ”!? 広がる衝撃
リポート:長尾香里(ブリュッセル支局長)
デンマークでも、国民投票を求める動きが活発化しています。
“すべてをEUが決めるのか?”
「国民投票を求める署名です!」
「名前を書くのね?」
「ありがとう。」
「お疲れさま、頑張って」
署名を呼びかける市民団体
「イギリスの国民投票は、非常に意味のあるものです。
デンマークでも民意を問うべきだと思うようになりました。」
先月(5月)行った世論調査では、「国民投票をすべきだ」が「すべきでない」を初めて上回りました。
デンマークは、単一通貨ユーロを導入せず、イギリスと同じく、EUと一定の距離を置いてきた歴史があります。
EUが難民を受け入れる姿勢を示したことで、デンマークにも多くの難民が流入。
それが財政を圧迫していると、国民の反発が強まっています。
EUへの不信感を募らせる1人、警察官のベント・アナセンさんです。
3年前まで、EUの国境警備隊員として、ギリシャに派遣されていました。
難民たちの多くが、豊かなデンマークへの移住を望む現実を目の当たりにしました。
警察官 ベント・アナセンさん
「福祉や手厚い支援があるからと、多くの難民たちが、デンマークなどに行きたいと言っていました。
デンマークは難民に対して、何百億円も費やしてきたのです。
もう限界です。」
アナセンさんには、介護が必要な母親がいます。
難民がこのまま増え続ければ、これまでのようなサービスを受けることができなくなるのではないかと不安を感じています。
こうした国民の不満を吸い上げ、急速に支持を伸ばしてきたのが、野党のデンマーク国民党です。
去年(2015年)の選挙で、第2党に躍進し、政策に大きな影響力を持つようになりました。
EUの政策を批判しています。
若手議員
「EUは国境を管理するとしていますが、出来ていません。
そもそもEUの政策に欠陥があるのです。」
デンマーク国民党 EU担当 ベアト議員
「イギリスが離脱すればデンマークも新たな一歩を踏み出すでしょう。」
EUは、もともと6か国の共同体から始まりました。
その創設メンバーのオランダでも、EUに反発する動きが広がっています。
市民グループの代表、ティエリー・ボデさんです。
EUが28か国に拡大したことで、EUの権限が強まり、細かい規制や基準が増えたことが市民生活を縛っていると感じています。
市民グループ代表 ティエリー・ボデさん
「EUが創設当時の姿から変わり、人々は不満を感じているのです。」
この日、ボデさんは訪れた靴の修理店で、店主からEUの規制が経営を圧迫していることを打ち明けられました。
靴の修理に欠かせない接着剤の保管について、EUが各国一律に厳しい安全基準を設けたのです。
同時に保管できるのは、5リットル缶2つだけ。
まとめ買いができなくなり、コストがかさむといいます。
店主
「すべてEUが勝手に決めてしまうんだ。」
市民グループ代表 ティエリー・ボデさん
「なんとかしないとね。」
店主
「切実な問題だ。」
ボデさんたち市民グループは、EUに「ノー」を突きつけるため、動き始めました。
目指すは、EU離脱の賛否を問う国民投票です。
オランダの制度では、30万人の署名を集めれば、国民投票にかけることができます。
ボデさんの活動への賛同者は、すでに7万人を超えました。
賛同者
「私たちも国民投票をしたいわ。
それが民主主義でしょう。」
市民グループ代表 ティエリー・ボデさん
「私たちはオランダの人々に理解してもらいたいです。
ネットワークを広げて、オランダに変革をもたらしたいのです。」
EU“離脱ドミノ”!? 広がる衝撃映像
EUの創設メンバーであるオランダの国内でも離脱の声が強まっている。
これはEUにとって、深刻な事態では?
松木支局長
「そう思います。
ヨーロッパは2度の大戦を経て、共存共栄のシンボルとして、EUを創設し、加盟国を増やしてきました。
しかし、中東などからの難民の受け入れを巡る問題など、EUを取り巻く、さまざまな課題に適切に対応していないと、今、各国は不信感を募らせています。
こうした中で、さらに亀裂を生じさせかねない離脱の連鎖だけは、何としても避けたいところです。
ただ、イギリスの国民投票は、EUに『ノー』を突きつけることは可能だというメッセージを各国に送ってしまいました。
実際に離脱の連鎖までは起こらなくても、国益に合わないEUの政策には、国民投票にかけるぞと、圧力をかけてくる加盟国が増えてもおかしくありません。
そうなりますと、EUの求心力はますます低下して、EUが効果的に機能しなくなるおそれも排除できないと思います。」
EU離脱? 英国民投票のゆくえ
改めて高い理念を掲げて、スタートしたEU その理念が転換点というか、限界に来ている?
庄司さん:そういう点も少しはあると思います。
そもそも、加盟の動機がかなり違う。
独仏は主権を制限してまで、平和を達成しよう。
でもイギリスなどは、経済的な利益を中心に追求しようということで、そこに違いがあります。
一方で、EUはやっぱり拡大をし過ぎたと思います。
28か国集まると、やはり経済格差が開き過ぎて、いろんな問題が出てきます。
他方で、統合の面でも壁にぶつかってしまっているということで、これからは独仏を中心に、統合を財政統合、政治統合に向かわせる「二速度欧州」という立場と、イギリスのように、好きな政策だけ協力しようよという「アルカルト欧州」という立場の2つに分かれていくんだと思います。
来年(2017年)注目したいのは、ドイツの総選挙と、フランスの大統領選挙です。
それによって欧州会議派が、どれくらい伸びてくるのかということで、将来のEUの方向性が見えてくると思います。
番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。