2010年5月30日 (日)

ツノ、ありますけど…(1) シカですか?ウシですか?

アフリカのサバンナには、角を持った動物が数多くいます。

…と改めて言ってみたところで。


それがどうしたの? (トピ ケニア・マサイマラ国立保護区)

…ですよね。


角があるなんて、めずらしくないでしょ?
(トムソンガゼル ケニア・ナクル湖国立公園)

…おっしゃるとおりです。


サバンナじゃなくても、角がある仲間はたくさんいるでしょ?
(ムフロン 千葉市動物公園)

…たしかにそうなのですが。

動物園で見ていると、あんまり角の形は意識しないものなのですが、
サバンナではいろんな形の角を持つ動物を同時に見られるので、
「いろいろな角の形があるものだなぁ」と、あらためて思うのです。

動物の種類によって角の形がちがうのはもちろん、同じ種類でも、
個体によって微妙に角の形がちがうので、角の形は個性のひとつ
と言うことができるかもしれません。


角は動物の個性のひとつです
(ハーテビースト(左)とトピ(右) ケニア・マサイマラ国立保護区)

動物園で角がある動物を見ていると、「これってシカの仲間だよね」
という声をよく聞きます。特に小さい子供は、角があればみんなシカに
見えてしまうようですね。日本人にとっては「角がある=シカの仲間」
というイメージが強いのでしょうか…

たしかに、日本にいる角がある動物といえば、たいていはシカです。
物語に出てくる「角がある動物」も、ほとんどがシカの仲間ですから、
それも当然のことかもしれません。


角といえば、シカでしょう~ (エゾシカ 都立上野動物園)

しかし、角を持つ代表的な動物には、もうひとつ忘れてはならない
ものがあります。それは…


ボクをお忘れじゃありませんか? しかし…前がよく見えないなぁ。
(スコティッシュハイランドキャトル マザー牧場(千葉県富津市))

そう、ウシです。ウシの仲間にも角があることを忘れてはいけません。

実は、アフリカのサバンナで見られる「角を持つ動物」はほとんどが
ウシの仲間…つまりウシ科の動物です。


僕はウシの仲間だよ。
(アフリカンバッファロー ケニア・ナクル湖国立公園)

バッファローは体型や顔つきがウシとよく似ているし、日本語では
「バッファロー」=「水牛」と訳されるくらいですから、ウシの仲間
であることはスグにわかると思いますが…


僕たちもウシの仲間なんだよねー
(オグロヌー ケニア・マサイマラ国立保護区)

サバンナの草食動物の代表格であるヌーも、実はウシの仲間で…


実は、おいらもウシの仲間だったりするんだよねー
(ベイサオリックス ケニア・サンブール国立保護区)

一角獣のモデルといわれるオリックスも、ウシの仲間なのです。

まぁ、ヌーもオリックスも、顔つきはなんとなくウシに似ているので、
「ウシの仲間」と言われると「そういえば、そんな感じ…」と思われる
と思うのですが…

では、こちらはどうでしょう。


んー、僕も実は… (インパラ ケニア・マサイマラ国立保護区)

スレンダーな体型、美しく湾曲した角を持つインパラも、実はウシ科。
体型も、顔つきも、とてもウシには見えず、むしろシカに近いですが、
れっきとした「ウシ科」なのです。

そして、コチラも。


僕もだよー (キルクディクディク ケニア・マサイマラ国立保護区)

キルクディクディクは、サバンナ最小のウシの仲間。成獣でも大きさは
体長が1mにも満たず、肩高もわずか40センチ程度と「超小型」。
とても「ウシの仲間」には見えませんが、れっきとしたウシ科なのです。

サバンナには、実はシカ科の動物がいないのです。

このコラムの冒頭で登場したトピもトムソンガゼルもウシ科ですし、
とにかくサバンナでは「キリン」と「サイ」と「イボイノシシ」以外は、
角を持つ動物を見たら、みんな「ウシ科」…ウシの仲間なのです。


どう見ても、ウシの仲間には見えないでしょ?
(ゲレヌク ケニア・サンブール国立保護区)

このように「どう見てもウシの仲間には見えないウシ科」の動物たちを
総じて「アンテロープ」と呼びます。

サバンナでは「シカの仲間かな?」と思える動物たちは、すべてウシ科
アンテロープと考えれば良いのですが、動物園ではそうはいきません。
でも、角の特徴で「シカ?ウシ?」を簡単に見分ける方法があります。

その見分け方は、「角が枝分かれしているか、していないか」です。

一般的に、シカ科の角は枝分かれをしています。
いっぽう、ウシ科の角は枝分かれをしていません。


シカ科の角は、枝分かれをしているのが特徴です。
(ヤクシカ 都立多摩動物公園)

ここで、「え?でも、ニホンカモシカは枝分かれしていないよ?」と
気付いた方は、かなりの動物ツウですね。

そうなんです、ニホンカモシカの角は枝分かれしていません。


僕は「シカ」なのに、角が枝分かれしていないんですけどー
(ニホンカモシカ 長野市茶臼山動物園)

実は、ニホンカモシカは「カモシカ」といいながらウシ科の動物です。
さらに詳しく分類するとウシ科の中で、さらに「ヤギの仲間」なのです。


なんとー!僕もウシ科だったんですねー。ウッシッシ…!!
(ヤギ マザー牧場(千葉県富津市))

枝分かれをする、しないという特徴のほかに、シカ科とウシ科の角には
もうひとつ大きな違いがあります。

それは「抜け落ちるか、落ちないか」です。

ウシ科の角は、骨の芯を角質化した皮膚が覆っているもので、体の成長に
よって伸びて、抜け落ちることはありません。骨格に由来するものなので、
オス・メスの両方に角があるのも特徴です。

それに対してシカ科の角は、頭骨の一部が皮膚をかぶった状態で伸びて、
いわゆる「袋角」という形態になり、その後に皮膚部分がはがれ落ちて、
骨質の角だけが残されるもので、毎年抜け落ちて、生え変わります。
こちらはトナカイを除いてオスにしか角が生えません。

例年、秋になると奈良公園の鹿の「角切り」がニュースに出てきます。
そうしたニュースを見ると、「痛そうだなぁ」「かわいそうだなぁ」と
思うものですが、鹿にとってみれば、いずれ抜け落ちる角を少し早めに
切っているだけのことで、痛みもないのだろうと思います。
(実際どうなのかは、鹿に聞いてみないとわからないのですが…)


サバンナのアンテロープたちは、角が生え変わりません。
(エランド ケニア・マサイマラ国立保護区)

ちなみに…

日本語ではどんな角でも「ツノ」としか言いませんが、英語ではちゃんと
表現が分かれていて、枝分かれしない角(一般的にはウシ)は「corn」で、
枝分かれしている角(一般的にはシカ)は「antler」と表現します。

日本語には「角」はひとつしか表現がないのは、日本の野生動物には、
ウシ科の動物がいなかったから…なのかもしれませんね。


サバンナのアンテロープが集合した、ちょっと珍しい光景です。
左から…トピ、ハーテビースト、トムソンガゼル、ヌー
(ケニア・マサイマラ国立保護区)

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