「愛と脱毛の東京OL物語」第7話~脱毛ガールに訪れたまさかの恋~
群馬出身、勤め先は赤坂、そして住まいは三軒茶屋。木下双葉(29)は、都会の女の欲望の渦に振り回され、恋も敗れて人間不信に陥っていた。
長年憧れた東京に出てきて働く意味や、女としての自分を磨く意味を見失いかけた彼女の前に、一筋の光がさす。それはハッピーエンドへの道標か、それとも奈落への罠か…。
■男はどうせ裏切る…傷心の脱毛ガール
あれからヨシオとは連絡を取っていません。そして向こうも何も言ってこないので、それまでの関係だったんだなぁって思います。
優佳とも連絡は取ってないし、きっと彼女は私とヨシオの関係を知った上でヨシオを誘ったので、ヨシオから事の顛末は聞いていると思います。次の土曜日のヨガどうしようかな、優佳には会いたくないし、休んじゃおうかな。
やっぱり、東京で大人になってから来れるせる女友達作るって無理なんですかね。私は大学がこっちじゃないっていうハンデがあるから、余計に会社以外の人付き合いを築くのは難しいし。
何よりアラサーになると優良物件(結婚に適した男性)は本当に激減するし。この歳になって遊びで男と付き合っている余裕もなければ、結婚視野に入れているって言うと重いって言われるし、なんだか八方塞がりな気がしてきました。
そもそも心を許していろいろな話をして、いろいろと尽くしていた友人に裏切られたというダメージが大きくて、なんだか人間不信になっちゃって。
女はいつでも自分に利益があるかどうかで動いている気がしてくるし、今まで普通に喋っていた会社の同僚も所詮は女だって思ったら、向けられる笑顔を純粋に信じられなくなってきました。仕事終わりに歩く三軒茶屋の街頭も、暴力的に眩しく感じられました。少し前まではきらめいて見えていたのに……。
やっと迎えた金曜日。翌日のヨガは休むって心に決めたから、土日は家でゆっくり過ごすつもりです。1週間仕事きつかったなぁ。あと2時間がんばれば帰れる。突然の展開を迎えたのは、そんなことを考えていた遅い午後です。
■脱毛ガールに訪れたまさかの恋
「木下さん、最近調子悪そうですね、顔色悪いですよ…?」
同じ部署の新人社員・将生がそうやって声をかけてきました。いつもなら書類の受け渡ししかしないドライな関係なのに、突然個人的なことを突っ込まれたので動揺してしまいました。そんなことないよ大丈夫だよ、と言って取り繕ったつもりでしたが、その声はどこか嘘くさくなってしまって、我ながら、ごまかせてないなって感じました。
「あの、木下さん今夜用事ありますか? もしよかったらお食事行きませんか」
新人社員といっても将生は大学院を修了してから就職したので、今年25になるはずです。とはいえ5つも下の子に心配されるなんて、私そんなにプライベート隠すの下手なのかなぁって逆に心配になったんですけど、まっすぐな将生の瞳に何か断れないものを感じて、ついついOKしてしまいました。疲れたからまっすぐ帰って寝ようって思ったの誰だっけ。
将生はまだ入社して数ヶ月。赤坂のお店は詳しく知らないと言いました。でも赤坂付近だと会社の人に出会いそうで嫌だから少し足を伸ばしませんかって言われて。私としては、今日は街のキラキラした華金の雰囲気に耐えられる気分ではなかったし、正直ありがたい提案でした。
向かったのは新宿駅から少し歩いた、飲み屋街の中にある半地下のイタリアン。
早稲田大学を出ている彼だから、きっと学生時代に合コンなんかで使ったんだろうなぁと思いました。でも小ぎれいな雰囲気で、今日の飲み屋街のガヤガヤした感じはなくて、なんだか落ち着けました。
はじめは少し緊張気味の将生でしたが、お酒が回り始めたら、ポツポツと話をしてくれました。入社当初から私に憧れてくれていたと言うこと。でも5つも年下の男なんて見てもらえないだろうなぁって思っていたこと。
彼の偽りのない直球の言葉に、かえってドキドキしてしまいました。こんなに率直でピュアな口説かれ方はしたことなかったな。
■脱毛する前の私を知らない彼女
あまりにピュアな彼を前にして私は後ろめたくなりました。彼は4月入社だから、1月の赴任当時の私の姿を知らないのです。歓迎会で足のムダ毛を気にしてもじもじと過ごしていた私や、うなじにコンプレックスを持って、いつもそれを隠すためにだらしなく髪を下ろしていた姿、ムダ毛にかまけて肌のケアすらしていなかった、女子力の欠片もなかったような私の姿を、彼は知らないんですから。
優佳やヨシオに弄ばれて疑心暗鬼になった私だけれど、さすがに新卒のピュアボーイ将生を疑う気にはなりませんでした。
むしろこのまま彼の好意に答えてしまったら、偽りの自分で付き合っているような気がして、私が彼を騙しているような気分だなと思ったんです。だから私は彼に、彼が入社するほんの少し前まで、自分がとてもダサかったことを打ち明けました。
地元の短大を出たこと、群馬の田舎で町工場の事務をしていたこと、何年経ってもたいした仕事を与えられずお茶汲み係として社内では扱われていたこと……。だから大学を東京で過ごしたような人とは違って、自分はおのぼりさんであること。
だから今、将生の見えている私の姿は、一生懸命無理をして虚勢を張った上で出来上がったものだし、とにかく都会の女になりたくて必死だったこと。そしてそんな私はきっと、本当の都会っ子にはものすごく痛い人として映っていただろうということ。
それでも私のことをいいと思ってくれるなら、私も嬉しいけれど、もしそう思わないなら、またクーリングオフが効くよ、と冗談めかして言いました。
すると驚いたことに、仕事場でクールな将生の姿からは想像がつかないような荒っぽさで、彼は私の手を握ってきました。その勢いに一瞬たじろいでしまいます。
「なんでそんなに自分の価値をおとしめるんですか。双葉さんは自分を過小評価していると思います」
彼はさらに私の手を強く握って続けました。
「自分がいいと思った女を、悪く言われた時の気持ち、双葉さんにはわかりますか?」
気がついたら私は将生にキスをされていました。歳下男子に迫られるという初めての展開に動揺してしまって、彼の唇が離れてからやっと、キスをされていたということに気づいたくらいです。
されたことに気づいてからやっと恥ずかしくなってきて頬が熱くなるのを感じました。こうやって思いがけないことがあるから、女を常に自分を磨いておかないといけないんですね。以前の私だったら顔が接近したときに、産毛で男の人を幻滅させたかもしれない。
もともとヨシオを迎えるためにムダ毛処理だったから、すっかり時間と手間が無駄になったなぁと思ったけれど、そんなことはなかったんです…!
「双葉さんって見かけによらずピュアなんですね。キスしたくらいでそんな真っ赤になって」
恵比寿の女は常に臨戦態勢と、昔読んだ小説の中にそんな一節があったけど、実際は三軒茶屋の女もいつでもパンツを脱げるようにしていないといけなかったみたいです。