いま、なぜファイトケミカルに注目すべきなのか?

 食品と健康の話題になると、これまでは糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルの栄養素に、食物繊維をプラスした6大栄養素をもって語られるのが一般的でした。しかし、それらに含まれていないにもかかわわらず、ファイトケミカル(非栄養素)が古くからなぜ食べ継がれてきたのかを調べるため、ファイトケミカルの約9割を占めている野菜や果物などの植物性食品について研究を行いました。この新しい学問を、食品と薬理学を融合させた言葉を使って、独自に「食理学」と呼んでいます。
 栄養素は多くても100種類程度、しかしファイトケミカルはざっと1万種類くらいになるだろうと考えられます。学問としての栄養学が確立されて現在まで約100年経ちますが、私たちはまだ食品成分の一部(約10%)しかわかっていないということです。
 医学・薬学と食べ物のかかわりも重要です。病院などでよく「脂肪や砂糖は少なめに」などとアドバイスされるように、人間の健康や寿命と食べ物は関係があり、従来の栄養学(栄養素)だけでは説明できない深い意味合いをもっていることを理解しなくてはなりません。
 このようなことを踏まえて、私たちは研究をはじめ、栄養素が体の素材を作り、生存に必要なエネルギー源を作るのに対し、ファイトケミカルは抗酸化作用、免疫系制御、解毒酵素誘導など、健康に重要な効果をもたらすことがわかってきました。

白血球の働きを高めて、病気を治療・予防!

 赤血球を持たない動物は、イカやタコをはじめとしてたくさん存在します。しかし、地球上の全動物で白血球を持たない動物は存在しません。その意味において、白血球は、健康面で話題になりやすい赤血球より重要度が高いと考えても自然だといえるでしょう。
 ファイトケミカルは、その白血球を構成する要素のひとつ、マクロファージを活性化することがわかりました。全動物の保有するマクロファージは、体内に侵入した異物を次々に食べてしまう性格が特徴で、例をあげれば喫煙者の真っ黒な肺の中で必死に活動して肺ガンを防いでいるのもそれなのです。
 そして、白血球が作りだす生理活性物質(通称サイトカイン。免疫をつかさどるホルモンのような物質)の中には、TNF(腫瘍壊死因子)があります。TNFはマクロファージとの関係も深く、その働きは、ガンを殺す以外に、ウイルスやバクテリアなどの病原体を排除する作用、傷を治すために炎症を起こす作用、組織を修復する作用、発熱・睡眠・痛み・食欲などをコントロールする作用など、多種多様な役割をになっています。たとえば、風邪などの感染症のときだるくて眠くなるのは、TNFが睡眠を誘導しているからです。
 これらの働きをになう白血球が正常に機能しないと、病気が発症します。いいかえれば、白血球をいつもよい状態にしておくと、病気を防ぐことができるわけです。そのためにも、ファイトケミカルは必要とされています。

日本人に多い死因であるガンを予防できる

 ガン予防のための国家プロジェクトであるデザイナーフーズ計画がスタートしたのは、1990年アメリカ合衆国でのことです。さまざまな分野の研究者が世界中から参画し、「どんな植物性食品がガンを予防する可能性が高いか」の選定をした結果、トップグループに掲げられたのは、含硫化合物などのファイトケミカルが効力を発揮していると思われるニンニク、キャベツ、カンゾウ、ショウガ、セロリといった淡色野菜でした。
 さらに、私たちが研究した結果において、果物におけるファイトケミカルの多い順を示すと、キウイ>バナナ>グレープフルーツ>マンゴー>ブドウ>オレンジ>パパイヤ>パイナップル>リンゴ>メロン>イチジク>スイカ>ナシ>モモの順でした。モモはキウイの6分の1でした。そして、バナナは黒い斑点のついた熟しすぎた状態の方が、ガン抑制効果が強く、白血球の活性を一段と高めることもわかりました。
 また、ガンを誘発する活性酸素や、発ガン物質に含まれるプロモーター(タバコに含まれる成分など)に対抗するのは、抗酸化物質や抗プロモーター物質といわれるもので、これらの物質は両方ともファイトケミカルに含まれています。ほかにも、人間の体内では、変異した細胞やガン化した細胞も生まれていますが、それらは私たちの知らない間に白血球を中心とする免疫機構によって取り除かれていると一般に考えられています。つまり、ファイトケミカルによってマクロファージをより活性化させ、ガン細胞をどんどん取り除くという対策もあるのです。

花粉症、アトピー、ぜんそくなどのアレルギー病に効果的!

 アレルギー性疾患の症状改善に有効な植物性食品として、シソとショウガを最初に発見したのは私たちでした。薬に比べれば、即効性や特効性は弱いといえますが、食べ物の中でその作用は傑出しています。作用は薬以上にマイルドであり、極端な摂り方をしなければ、服薬で起こる副作用のようなダメージは体にないと思われます。
 そして、さらなる私たちの研究によって、アレルギー症状にかなり有効性が高いと確認できたもののひとつに、緑茶があります。
 そもそも炎症の慢性化が起こると、その刺激によって組織がダメージを受け、組織を構成するひとつひとつの細胞の遺伝子もダメージを受けてしまいます。遺伝子がダメージを受ければ、正常細胞はガン化し、病気としてのガンの発症にもなりかねません。こうしたメカニズムを考えても、炎症を短期で抑えて長期化させないことが大切であり、日常的に緑茶を飲むことは、それを可能にするという意味で非常に有効だと思われます。

10年、20年という長期間で摂ることが必要!

 ファイトケミカルは安定的な物質が多いので、加熱調理でも生のままで食べても問題ありません。通常は野菜(350g/日)、果物(200g/日)を摂れば十分だと思われます。必要に応じて、目的にあわせたサプリメントで補充するのもよいでしょう。
 野菜は、淡色野菜は免疫力を強める潜在能力が強いという事実はありますが、当然のことながらビタミンなどの栄養素も人間には大切なため、緑黄色野菜もきちんと摂る必要があります。他方、「果物はカロリーが高い」という印象を若い女性はもっているようですが、これは大きな誤りです。1日200gという果物の量を忠実に守って食べた場合、1日に必要な栄養素の所要量のうち、果物だけでビタミンC51%、ビタミンA20%、カリウム18%などを摂取できてしまいます。しかし、そのエネルギーは1日の所要量のたった5%にしかなりません。
 ファイトケミカルの摂取については、忘れてならないのは10年、20年という長期間で摂取する必要があるということです。これを続けるか否かによって、動脈硬化、糖尿病、ガンなどになりやすい、なりにくいといった将来的な健康面の差として表われてきます。このことは生死の分岐点にもなりかねないので気を配る必要があるといえます。

監修:帝京大学薬学部教授
薬学博士 山崎正利先生

『長生きしたければファイトケミカルを摂りなさい』(河出書房新社)