ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 隣人グッドモーニング2016年6月2日 02:48二口くんと茂庭さん。(お隣同士に住む二人のはなし)二茂の日おめでとうございます!ふわふわと、なんだかくすぐったくなるような気持ち。なんだろ、あ、思い出した。小さい頃母さんと父さんに撫でてもらった時に似ている。小さい時に頑張ったねって頭を撫でてもらう事が好きだった。けれど今はどちらかというと後輩に頭を撫でてあげる事の方がいいかもしれない。それはやっぱり自分が経験してきたそのふわふわとした気持ちがあったから、よく頑張ったって褒められるのってやっぱり嬉しかった。なんてこの前それを二口にしたら手を跳ね除けられたんだけど。あれは結構ショックだったな。まぁでも大人にもなって頭を撫でられるなんてそりゃ恥ずかしいか。そんなお年頃ですよね、なんて。自分で言って少しじじくさい。なんて違う違う、何が言いたいかと言うと俺は今どうして二口に頭を撫でられているのだろうか…。 「お久しぶりですね」「よっ、元気だったか?」 1年に1度行われるOB会。高校を卒業し、それぞれ違う道を歩んだ、かつての後輩、先輩、同級生、マネージャー、そしてコーチ。仕事で既に宮城にはいない者もいれば、地元に残ってる者もいる(ちなみに自分は後者だ)。そんな中この毎年やっているOB会では、不思議とほぼ欠席者はいない。つまりあのバレーボール部のかつての部員がほぼ集まる。それほどあの高校で、あの部活で過ごした日々が自分達にとってかけがえのないものだったと皆が思っている証拠だった。 歴代の部員が集まるので、とにかく人数が多い。何度か参加している会だが、未だに口を聞いた事もない人もちらほらいたりする。とりあえずいつもお世話になっている人には一通り挨拶が終え、誰と呑もうかなとぐるりと会場を見渡せば、五月蠅い酔っ払いを避けるかのように会場の片隅に避難していた後輩が目に留まる。「ここ座ってもいい?」「…どうぞ」久しぶりに会った二口は相変わらずどこか面倒くさそうな表情をし、周りで大騒ぎをするメンバーを呆れたように見ていた。 二口に最後に会ったのは確か半年前に行った鎌ちの誕生日会だったような気がする。かつて自分が主将をしていた時のメンバーは誰一人まだ結婚もせず(まぁ恋人いる者もいるけれど)、独り身の鎌ちを労おう祝ってやろうの会が開催され、皆で会った時振りだった。最近どう?とか近況報告を交え、二口と話していると、そういえばと口を割る。「今度俺、引っ越すんだよね」「あ、そうなんですか?」「今住んでる所2年契約なんだけど、丁度更新でさ、今度はもう少し職場寄りにしようと思ってて」「茂庭さんって今住んでる所どこでしたっけ?」「今はね…うわっ!」「茂庭~呑んでるか~」口を開きかけると同時にどしりと急に誰かにのしかかられ思わず変な声が出てしまった。「鎌ち、重い…」「なんだ~あんまり呑んでねぇじゃん」テーブルに置いてある、自分のビールジョッキが半分残っているのを見つけると、鎌ちはニヤニヤと笑いながら片手に持っていたビール瓶を容赦なくジョッキにトクトクと注ぐ。「ちょ、零れてる!」慌てて近くにあったおしぼりでジョッキから零れてしまったビールを拭いていれば、鎌ちは反省した様子など一切見せず、今度は目の前にいた後輩に目標を変えた。「オラ、二口、お前も呑め呑め!」自分と同じように二口のジョッキへとビールを注ごうとすれば、二口は逃げるようにジョッキを遠ざけてしまった。その後輩の行動にあぁ!?とまるでどこぞの不良のような不満の声を上げる。「鎌先さんが注ぐと泡だらけになるんで、いいです」「あぁ!?なんだと?てめぇ先輩がせっかく注いでやろうってのに」また些細な事で言い争いを始め、ビール瓶の取り合いを始めてしまう。そのせいでさっき拭いたばかりのテーブルの上にもビールは零れ、更に床にもバシャバシャとビールが零れていく。「あーもうお前らやめなさい!青根、助けてー!」 そんないくつ歳を重ねても変わらない状況のまま、腹を抱え目尻に涙を浮べる程笑い騒いだ後、二口と先ほどの話の続きも特にする事もなく、そのままOB会は終了した。そしてOB会が行われた2週間後、ついに引越しとなった。場所は会社から最寄の駅までドアツードアでだいたい30分くらい。駅から徒歩8分、近くにコンビニあり、家賃もそこそこ、築10年、3階建てのアパートの2階、1DKの角部屋だ。鎌ちと笹やんに引越しの手伝いをお願いしようと思っていたが、二人とは予定が合わず、結局全て引っ越し会社に任せた。荷物が運び終わり、引っ越し会社がありがとうございました!と元気の良い挨拶をして出て行くと、先ほどまでバタバタしていた部屋がシーンと静まり返る。この間不動産会社と物件を見たときはあんなにも広々としていたのに、実際ダンボールの荷物を運び込まれると少しだけ狭く感じた。いやでもこれはダンボールがあるからだ。「よし!やるか」着ていたシャツの袖を捲くり、気合を入れ順番に荷物を解いていく。ダンボールにはそれぞれ中に何が入っているのかわかるように名称が書かれているから、とりあえず急ぎの物だけ先に片付けていこう。まずは生活用品かなと積み重なったダンボールを崩していけば、一つ小さめのダンボールが出てきた。ダンボールにはお隣さん用と書かれている。「そうだ、挨拶用」ビリビリとガムテープをはずし、中から取り出したのは他人から貰っても困る事はないと思われる、至って変哲もない洗剤の詰め合わせだ。引越し作業で既にバタバタと迷惑を掛けてしまった後だが、一旦落ち着いた事だし、挨拶を先に済ませてしまおう。取り出した洗剤の詰め合わせを手に持ち、いざ、お隣りへと向かう。自分が越してきた場所は角部屋なので、まずお隣りの部屋だ。隣りの部屋のドアの前に立ち、スーハーと一呼吸。意を決めて呼び鈴に手を伸ばす。ピンポーン。しかし誰かが出てくる様子はない。ピンポーン。もう一度鳴らしてみても、やはり中から反応はなかった。どうやら今は留守のようだ。また明日、挨拶すればいいかと踵を返し、部屋に戻ろうと、自分の部屋のドアに手を伸ばせば、先ほどまで閉まっていたドアがガチャリと開いた。なんだいたのか、隣りで開いたドアを見る。そして出てきた人物は男性だ。自分も決して身長が低いわけではないし、一般的に見たら身長は高い方だろう。しかし現れた人物は人物よりも大きい。大きいというか、知ってるぞ?「え?」戸惑いが思わず口から飛び出す。何故ならば目の前に現れた高身長の男性はよく見知った人物、高校時代の後輩の二口がいた。目の前に立つ二口も自分と同じよう目をまん丸と開き酷く驚いた顔をしている。「茂庭さん!?ど、どうしたんですか?つか茂庭さんって俺の家の場所知ってたんでしたっけ?」「え?」「え?」お互い状況が把握しきれなく、戸惑いの声が上がる。今、なんて言った?俺の家の場所?「二口、この部屋に住んでるのか?」 「え、あ、はい」「え、あ、はい」最近は防犯上、部屋の入口に表札を付けている人はいない。付いてもいないのに確認にする為、入口の部屋番号が書かれている場所を見てしまう。釣られるように二口がそこ見るが、別にそこには何もなく。部屋番号の205という文字が書かれているだけだった。「つかまじどうしたんですか」「あ、えーっと。はい、これ」手に持っていた挨拶用の洗剤の詰め合わせを二口に差し出せば、何ですかとこれと不思議そうにそれを受け取る。「えっと、お隣りの206号室に引っ越してきた茂庭です。よろしくお願いします」「………は?」 二口とお隣り同士の生活が始まった。 『隣人グッドモーニング』 ピンポーン、ピンポーンと何かの音が聞こえる。目を開けなきゃと思いつつ、瞼はそれを拒むようにぴたりとも開かない。やがてピンポーンという音がしなくなり、やっと静かになったとまた意識がなくなりかけると、今度は耳の傍でリリリンと何かがけたたましく鳴り響く。あ、これ着信だ。なんとか重たい瞼を開ければ、眩しい白い光が入ってきて、思わずまた目閉じる。耳の傍らで鳴っていた音がやがて止み、今度はまた別の物がジリリリと鳴り出す。五月蠅いと被っていた布団を手繰り寄せ、布団の中に潜り込む。音が少し緩和し、今度こそ寝れるとまた意識が遠くなったと思ったら、今度はドンドンドンと何かを叩く音が聞こえ、茂庭さんっと自分を呼ぶ声が聞こえた。 「茂庭さん」「はい」今、俺は二口の目の前で正座をさせられていた。「あんた目覚ましいくつ掛けてるんですか」「えーっと、1、2、3、4…5つ、かな?」枕の傍らに置いてある目覚まし時計を指で数えながらそう告げれば、二口ははぁーと頭をがくりと垂れ勘弁してくださいと呟いた。「朝は苦手なんだよ…」「苦手って言っても限度ってものがありますよね。いつもどうやって起きてたんですか…」「えーっと、なんだろう…気合い?」「今急に思い出しました、そういえば合宿の時、茂庭さん起こすのに鎌先さんと笹谷さんが涙目だった事」再びあからさまに溜息を吐き、信じられないと頭を抱えた後輩に少しだけカチンと来てしまい、何故かこんな事を口から滑らしてしまった。「だったら二口が起こしてよ」「は?」人間誰しも苦手な物はあるじゃないか。それが俺は起きるのが苦手ってだけだ。まぁ確かにネットの通販で見た朝苦手な人でも目を覚ますといううたい文句の目覚まし5つを5分ごとにセットしても起きれないんだけど。でも会社には遅刻できないので、家を出発しなければいけない時間の1時間前からちゃんと時刻をセットしている。正座を崩し、二口を置いて玄関と向かい目的の物を掴み、はいと今持ってきた自分の部屋の鍵を二口に渡せば、二口は口をぽかーんと開けていた。どうしたんだよ?と問いかければ、いやいやいやと今渡したばかりの鍵を二口は突き返しくる。「これで俺が茂庭さんの家に泥棒入ったらどうするんですか!」「え?二口はそんな事しないだろ?」「例えばの話ですよ!そんなほいほい他人を信用していいんですか!」「他人って…だって二口だよ?」「いやいやいや、あのですね」目の前にいる二口はまた呆れたように長い溜息を吐く。「二口が起こしてくれれば、二口が俺の目覚ましで悩む必要もなくなるし、俺も会社に遅刻しないで済む!ほら!一石二鳥!」「ほらって茂庭さん…」「…駄目、かな?」じーっと二口の瞳を見つめれば、ばっと顔を逸らされ、二口は立ち上がった。「あ~もうわかりましたよ!仕方ない人ですね!こんな良い後輩他にいないんですからね!」「わーい!ありがとう二口!明日からよろしくな」 「茂庭さん」「起きて下さい」「起きないと会社遅刻しますよ」「今日急がないといけないって昨日言ってたじゃないですか」「遅刻しても俺のせいじゃないですからね」「俺はちゃんと起こしましたからね」「…起きろー!!!!」 二口に起こしてもらうようになって2週間。何故か最近は起きたら朝ごはんも用意されている。以前に朝はギリギリに起きるから、朝ご飯を食べないと二口に話したら、だからそんな痩せてるんですよ。いやスポーツ辞めたからですかね?なんて憎まれ口を叩かれてしまった。確かに高校を卒業してからスポーツというものは真剣には取り組んでいないと思う。時々気分転換で家の周りをジョギングする程度だ。そして実家を出てから朝ごはんを食べない習慣となり、朝がもっと苦手になったような気もするのも事実だった。それを二口に正直に話したら何故か起きたら朝ご飯が出来ている、という日常が始まった。「トーストでいいですか?」「うん」「ジャムは?」「うーん、いちご」「いちごですね、はい」「ありがとう」 二口が用意してくれる朝ごはんはとても美味しい。トースト(マーガリンorジャムまで塗ってくれる)、お味噌汁(二口家は茂庭家同様に白味噌らしい)、目玉焼き(はじめて焼いてくれた時に好みを聞かれ今ではばっちり半熟だ)、スクランブルエッグ(牛乳入りでふんわりしていてる)等々。初めて二口が作ったご飯を食べた時あまりの美味しさに感動してしまい思わずお嫁に来ない?とポロリ零したら、早く彼女出来るといいですねと嫌味を言われてしまったのは記憶に新しい。そう二口は料理が出来る。自分が家を出て、数年経ったが自炊とは無縁だった。朝飯は食べず、昼飯は会社の食堂、夜はコンビニ弁当か、適当に店で食べて帰るが基本だった。その話を二口にすれば、茂庭さんってそんなにズボラだったんですかと厭きられた。たぶん包丁を握ったのなんて…うーん、思い出せない。打って変わって二口は何でも出来た。勿論実家にいた時は自分と同様包丁なんて握った事などなかったのに、いざ一人暮らしをした際に、外食での出費が酷く、自炊に移行した所、それが成功したみたいだった。 そして朝ごはんだけでも有り難いのに「俺、晩飯も作りましょうか?」と提案してくれた。さすがに仕事行く前にも終わった後にも作らせるなんて気が引けると断ったのだが、二口曰く1人分作るのも二人分作るのも手間も時間も変わらないらしい。料理に疎い自分にはよくわからないが、そういう事らしい。お互い定時で上がる時もあれば残業する日もあるので、帰り時間はバラバラな時が殆どだが、二口はご飯を用意してくれたし、お互い帰宅の時間が重なる場合はどちらかの家で一緒にご飯を食べていた。まさか後輩とこんな生活をするよえになるとは1ヶ月前の自分だったら想像も付かなかっただろう。 顔に当たるひんやりとした空気が冷たくて、いつもだったら起こされても起きないのに目が覚めてしまった。枕元に置いてある目覚まし時計を手探りでもぞもぞと手に取り時刻を確認すればいつもの起床時間より30分早く目が覚めてしまった。二度寝しようと布団を引き寄せるが、ピタリと手を止める。今から二度寝するとまた二口に迷惑が掛かる。それならばもう起きてしまおう。しかし少し肌寒い気温のせいで布団の誘惑に負けてしまい起き上りはせず布団に入ったままだ。そうだ、たまには二口を驚かしても良いのではないだろうか。 きっと今日もいつものように声をあげて起こしてくれるに違いない。チクタクと一定のリズムで時計の針が時を刻む音が心地いい。また瞼が重くなってきた、と考えていると、玄関の方からガチャガチャと音が聞こえてきた。どうやら二口が来たらしい。慌てて瞼をぎゅっと閉じ、二口を驚かす準備に入る。ガチャリとドアが開き、二口ががツカツカと自分のベッドの元まで歩いて来て隣りにしゃがみ込んだ音がする。しかし隣りにいるはずの二口はいくら待っても自分を起こそうとはしない。どうしたんだと疑問に思いつつらいつ目を開こうか悩んでいると、何かが自分の頭に触れる。え?っと思うも束の間、その何かは勿論隣りにいる二口の掌で、その掌は壊れ物を扱うかのように優しく髪を撫でる。その手つきがあまりにも優しくて驚いてしまう。頭を撫でなれたのなんていつ振りだろうか。先日いつも美味しいご飯を作ってくれた二口に感謝の意味を込めて、自分より高い位置にある頭を撫でたら嫌な顔をされた手を跳ね除けられてしまった。いやいやいや、それはどうでもいい。なんで俺は今、二口に頭を撫でられているんだ?いっその事目を開いてしまおうかと思ったけれど、今このタイミングで目を開いた所で気まずいだけだ。どうしようか、と悩みつつけれど撫でられているのが心地よくて葛藤していると、二口の掌は撫でるのやめた。 「茂庭さん、おはようございます」 不意に聴こえてきた聴き慣れた二口の声。その声があまりにも優しくて、握りしめていた布団を思わずぎゅっと握り込んでしまった。いつもこんな風に優しく起こしてくれていたのか。いつも本当にごめん。二口は憎まれ口は叩くけど根は真面目で頑張り屋で優しい奴なんだって事を知ってはいたのに、まさかここまで優しいとは思ってなかった。ごめん、今度何かプレゼントでも上げようかな。よし、起きるかと目を開こうとすれば、ちゅっとおでこに何かが触れた。え? 「いつまで、こうしていられるんですかね…」おでこに触れた感触が何なのかわからないまま、先ほどの優しい声とは違うどこか寂しそうな声が耳に届いてきて、ふと冷静になる。どういう事?目を開いてそう尋ねるだけなのに何故か今、目を開いて二口の顔を見たらいけない気がして、怖くて目は開けられなった。お互いしばしの無言の中、枕元にあった目覚まし時計が空気を読んだかのように五月蝿く鳴り響く。すると肩を二口に揺らされやっと起きたフリをして恐る恐る目を開けば、先ほどの寂しそうな声をした二口はいなく、そこにはいつもの二口がいた。「茂庭さん、起きました?」「お、おはよ」「ほらほら遅刻しますよ」「あ、うん」 「茂庭さん、もしかして風邪でも引きましたか?」「え?」「顔色、あんまりよくないですけど…」 そんな事はないと答える前に、目の前いた二口の長い腕がするりと伸びてきて、おでこに触れる。「熱はないみたいですね」そういえば今二口が触っているおでこに、さっき…あの感触が何なのか、二口の寂しそうな声に気を取られててすっかり忘れていたが、先ほどの頭を撫でられいた件と謎のおでこの感触をを思い出し、顔がぐあっと一気に熱くなる。「…ね、眠い!寝る!」二口の腕を振り払い先ほどまでいた布団に再び舞い戻り、布団を深く被った。布団越しにどうしたんですかと慌てる二口の声が聞こえてきたが、火照った熱が冷めるまで布団に潜り続けた。おかげで会社に遅刻しそうになったのはあと数十分後の話。 二口と不思議なお隣り同士の生活は続く。