結合組織に対する染色 Connective Tissue Staining
病理診断における結合組織の同定には特殊染色が一般的に用いられている。結合組織のタンパクは免疫染色でも同定可能 である (J Am Soc Nephrol 2011;22:176)が,これまで結合組織は疎水性アミノ酸の割合が高いため抗体の非特異的な 結合がおきやすいとされてきた。一方,特殊染色 special stain は免疫組織化学が利用できなかった時代から用いられており,経済的で重染色が容易などの利点がある。
結合組織中の主な線維状タンパクはコラーゲン線維,弾性線維,細網線維に分けられている。
コラーゲン線維 collagen fiber
コラーゲンは人体のタンパクの約30%,皮膚のタンパクの約70%を占める。肉眼的には白い。線維芽細胞から分泌される。コラーゲンにはいくつかの種類が あり,対応する遺伝子,関連疾患はそれぞれ異なる(表1)。しかし通常,コラーゲン線維といえば, Type I コラーゲンに 代表される線維性コラーゲンを指す。病理診断では線維化の程度の判定に膠原線維染色 (= コラーゲン線維染色) が必須である。HE染色ではeosin でピンク色に染まるため,筋肉や細胞質との鑑別がしばしば困難である。
表1 主なコラーゲンの例
Collagen Type
部位
遺伝子
関連疾患
Type I
線維性
骨,歯,腱,真皮,動脈
もっとも多い
分子シャペロン: hsp47
COL1A1~2
Dermatofibrosarcoma protuberans 隆起性皮膚線維肉腫
t(17;22)(q22;q13) COL1A1-PDGFB
Osteogenesis imperfecta 骨形成不全症 I~IV型
アリル欠失,プロモーター/エンハンサー変異, など
Infantile cortical hyperostosis 乳児皮質過骨症
COL1A1 Arg836Cys (100%)
Ehlers-Danlos syndrome の一部
COL1A2の全欠損 = 心臓弁型;
COLA1or2のスプライシング異常 = 多発性関節弛緩型;
COL1A1, Arg134Cys = 動脈破裂傾向がある古典型類似型
Type II
線維性
硝子軟骨(関節),硝子体
COL2A1
Chondrosarcoma 軟骨肉腫
COL2A1 insertions, deletions, rearrangements (37%)
Type III
線維性
細網線維(肝・骨・リンパ節,脾)
肉芽組織
COL3A1
Ehlers–Danlos syndrome の一部
血管型および関節可動性亢進型の一部
Type IV
非線維性
基底膜
COL4A1~6
Alport syndrome
COL4A3~5の変異で基底膜が脆弱化;
COL4A5はX染色体, COL4A3~4は第2染色体上
Goodpasture's syndrome
COL4A3産物に対する自己抗体が基底膜に沈着
Type V
線維性
胎盤,I型と併存
COL5A1~3
古典型 Ehlers–Danlos syndrome
COL5A1>COL5A2の変異
Type VI
非線維性
microfibril 細線維, I型と共存
COL6A1~3, 5
Pigmented villonodular synovitis/diffuse form of tenosynovial giant cell tumors 色素性絨毛結節性滑膜炎/びまん型腱滑膜巨細胞腫瘍
t(1;2)(p13;q37) CSF1-COL6A3
Type VII
非線維性
anchoring fibril 係留線維 表皮真皮境界の基底板とI/III型コラーゲンをつなぎ上皮の細胞極性を保つ COL7A1
Dystrophic epidermolysis bullosa 栄養障害型表皮水疱症
点突然変異,欠失
Type XVII
非線維性
hemidesmosome 半接着斑 を構成する膜貫通タンパク (=BP180)
COL17A1
Bullous pemphigoid 水疱性類天疱瘡
Type XVII コラーゲン (BP180) に対する自己抗体による基底膜破壊
弾性線維 elastic fiber
主にエラスチン elastin とフィブリリン fibrillin からなるタンパクで,動脈,肺,黄色靭帯などに豊富に含まれている。肉眼的には黄色調を呈する。引っ張ると弛緩時の1.5 倍くらいまで伸びる。長期間の日光曝露は真皮内の弾性線維を変性断裂させ肥厚した球状塊に変化(日光弾性線維症 solar elastosis)させ,皮膚の皺の原因となる。病理診断では肺や血管構造の同定に重要だが,HE染色では染まらない。
細網線維 reticular fiber
Type III コラーゲンで構成されているがコラーゲン線維と呼ばずに細網 線維と呼ばれる。病理診断においては骨髄や肝臓を除くとあまり注目されなくなった。HE染色で染まらない。
膠原線維染色 ± 弾性線維染色
(1) マッソントリクローム染色 Masson's Trichrome Stain (MT)
利用法:主に「コラーゲン線維」と「平滑筋」を区別するのに用いる。
MTの概要:
鉄ヘマトキシリン iron hematoxylin で核を黒く 染める。
小分子である酸フクシン acid fuchsinで細胞質を赤く染める。
大分子であるアニリン青 aniline blue でコラーゲン線維を青く染める。
MTで赤血球(鮮やかなオレンジ~赤),線維素(赤)とコラーゲン線維を区別することができる。核が染められるため,肝臓においては線維化だけでなく,胆管の同定も容易となる利点がある(STERNBERG'S DIAGNOSTIC SURGICAL PATHOLOGY 5th ed., page 1492)。
日本で膠原線維染色としてしばしば用いられているアザン染色 Azan stain はおなじアニリン青を使用しているが核がみえない。線維化部分を定量化しやすい反面,肝臓の詳細な構造はわかりにくくなる。また共染(色の重なり)のためか,細網線維まで青く染めるためか,Kupffer 細胞部分が青く見えることがある。欧米の論文では,肝臓の線維化評価にアザンでなくマッソントリクロームを使用している例が多い。
MTは細網線維が染まりにくい(淡青)ため,細網線維の増加を主体とする線維化(脂肪肝炎や骨髄の線維化)では細網線維染色(後述)を 用いる。
(2) エラスチカワンギーソン染色 (EVG) Verhoeff-van Gieson Stain
利用法:線維と筋肉を区別するだけでなく,弾性線維を同定するのに利用される。弾性線維はHE染色ではほとんど染まらない。
EVGの概要
レゾルシンフクシン resorcin-fuchsin で弾性線維:黒(黒紫)
鉄ヘマトキシリンで核:黒
小分子のピクリン酸で筋肉・細胞質:黄色
大分子のフクシンでコラーゲン線維:赤
EVG は日本で広く使用されているが,色が重なりやすい(共染),褪色しやすいなどで適切でない染色例が少なくない。赤の発色不良で EVG 染色を弾性線維染色と思い込んでいる病理レジデントは少なくないのではないだろうか。弾性線維を染めるだけならオ ルセインやビ クトリア青(後述)がある。
シリウスレッドを用いると共染を防げるとの論文がある。シリウス レッドは安価で,染色が容易で,動物実験で線維化の証明によく用いられている。コラーゲンの定量キットになっているくらいコラーゲン 線維の定量に優れているが,なぜかヒトの病理診断であまり使用されていない。しかしシリウスレッドを用いたとしてもなお,特殊染色としての総合的な価値は後述のエラスチカマッソンの方が上と個人的には思っている。
(3) エラスチカマッソン染色 (E-M) combined Verhoeff and Masson trichrome Stain
利用法:EVGと同じ目的で使える染色法。日本では東北大学で開発されたとされるが,北米でもほぼ同じ染色が別々に開発されて用いられている。肺,皮膚,肝,消化管,腎などにおいて血管病変,弾性線維変化,線維化を個々の細胞形態を確認しながら捉えることができる。E-Mでは筋肉とコラーゲン線維のコントラストはEVGに比較して良好。赤血球や角化物と他の細胞との区別も容易。ただし核所見や角化以外の細胞質の観察はHEを用いるべきであり,病理診断においてHE染色での観察を省略することはできない。
E-Mの概要
レゾルシンフクシンで弾性線維:黒(黒紫)
鉄ヘマトキシリンで核:黒
小分子のフクシン,オレンジGなどで細胞・赤血球:赤系
大分子のライトグリーンでコラーゲン線維:緑
E-Mは,染色過程にやや時間がかかる難点がある。E-Mに粘液染色を加えたような では染色工程はさらに長くなる。通常の病理業務では非効率に思えるが, 学生の組織実習などの教材などでは有用かも。
cf. ペンタクロームの結果
酸性粘液:青
コラーゲン線維:黄
弾性線維・核:黒
フィブリン:鮮紅
筋肉:赤
弾性線維染色
(4) ビクトリア青染色 Victoria Blue Staining
利用法:主として癌の血管や胸膜侵襲同定のために,HE染色の重染色として用いる(ビクトリアブルー・HE染色, VBHE)。HBs抗原,銅,肥満細胞を染めることもできる。
線維化を問題にしないなら,E-MやEVGを用いず,ビクトリアブルー・HE染色だけで十分。
VBHEの概要
弾性線維:青
細網線維染色
(5) ゴモリ鍍銀法 Gomori Stain for Reticular Fibers, Reticulin Silver Impregnation
鍍銀染色(鍍銀 = メッキ),レチクリン染色,あるいは Gitter 染色とも呼ばれる。酸化された糖鎖部分を着色する点で Grocott 染色や PAS 染色と原理的に類似している。細網線維は表面に糖鎖が多い。細網細胞 reticular cells から作られるとされる。
肝臓では肝細胞索を同定することで腫瘍性増殖の判定に重要な役割を果たす。また骨髄の線維化など,type I コラーゲンの増加に乏しい(初期の)線維化の証明に用いる。
鍍銀染色の概要:
細網線維:黒
細胞質・コラーゲン:紫
Gitter や Elastica はドイツ語由来らしい。エラスチカマッソンは和製ドイツ語?