たとえば、今日あなたが強い決心のもとにダイエットを始めたとします。よくある話ですが、そんな日にかぎって同僚がカップケーキを手渡してきます。そしてそれを「たった1個だけだし」と正当化しながら一かけらも残さずに食べてしまうと、罪悪感に襲われます。さらにそれでは飽き足らずに大きなピザと1ダースのクッキーまで食べてしまい、ダイエットの計画が台無しになります。
ダイエットをしたことがある方なら、この筋書きのバリエーションをいくつか経験済みでしょう。こういうときは往々にして、恥かしい気持ちや自己嫌悪といった不快な感情が心に入り込んできます。ダイエットのコーチをしている私は、このような状況に陥ったクライアントとどんな会話が交わされるか、かなり正確に予見できます。
クライアント:結局、1日中馬鹿食いしてしまいました。私は自制心がまったくないクズですよね。私:あなたはクズなんかじゃありませんよ。よくがんばりました。それで、そのときに何がありましたか?
クライアント:カップケーキを食べた後はピザも食べてしまいました。多分3日分のカロリーをとってしまったと思います。
私:私が伺っているのは計画が台無しになったきっかけが何かということです。そのとき、どんな考えが浮かびましたか?
クライアント:おっしゃっている意味がわかりません。どういう意味ですか。
私の質問がダイエット中のクライアントを混乱させるのは、彼が「自分には自制心も、規律も、意志の力も、精神的な資質もないから失敗したのだ」という考えにとらわれているからです。しかし、もしマインドフルネスを実践していたら、こんなことにはならなかったでしょう。
マインドフルネスを理解する
マインドフルネスとは、自分の存在を意識して自分が世界を認識することに意識を集中させることです。それは客観的に行なわれなくてはならず、善悪の判断もしてはいけません。
マインドフルネスの練習は次のように行います。心から一切の考えをなくして、深く呼吸します。呼吸するときの肉体的感覚にだけ意識を集中してください。肺がふくらみ、鼻から空気が出ていきます。その繰り返しです。別の考えが頭にふと浮かんでも、呼気と一緒に優しく外に吐き出してください。
次に、善悪の判断を抜きにして自分の気分を吟味してみてください。どんな感情を感じていますか。多分不安を感じているのではないでしょうか。そうだとしたら、それがすぐに自責の念、罪悪感、気苦労に転じるのは自然なことです。しかし、この練習で、自分の不安感を素直に認識して受け入れてください。
この練習が上達すると、湧き上がってくる感情はコントロールできないけれど、自分の感情に対する反応はコントロールできることがやがてわかってきます。
次に自分で自分の足を引っぱる衝動的な行動「自己妨害」が起きそうになったら、自分に問いかけましょう。「どんな気持ちがする? 不安? 罪悪感? どんな気分がそうさせているの? 今の環境は自分の感情にどんな影響を与えている?」これを客観的に、善悪の判断をせずに行うことが重要です。そうでないと自分か他人を責め始めてしまいます。
何がきっかけになるかを認識して「自己妨害」をやめる
「自己妨害」は常に何らかのきっかけで始まります。過食を例にとりましょう。その引き金となるのは自分の頭の中の小さな声です。
「あと1粒ピスタチオを食べたって構わないだろう。たった1粒だもの」
「今週はずいぶんダイエットをがんばったね。ケーキでお祝いしてもいい頃だ」
「もうカップケーキを1つ食べたからダイエットは挫折したのさ。だからピザを食べたっていいのさ」
「自己妨害」は生産性の低い衝動的な行動です。考えてもみてください。今まで誘惑に屈服して良い結果になったことはありましたか。たぶんないでしょう。むしろ欲望に打ち勝つ意志の力を発揮できない自分の精神的な弱さを痛感したのではないでしょうか。
しかし、それは違います。意志の力には限界があります。過ちを犯したからといってあなたがダメな奴だということではありません。単にあなたは感情を持つ人間だというだけです。次に「自己妨害」をしそうになったら、次のステップを踏んでください。
1. 自分にとって「自己妨害」の引き金になるものを吟味する
何を言い訳にしてその行動をとったかを考えて次の質問に答えてください。「前にそれをしてしまったとき、良い結果になりましたか? 多分ならなかったでしょう」
2. この行動につながった自分の感情をマインドフルネスによって突き止める
多分同僚がカップケーキを手渡すより前に、あなたは自分をねぎらいたい気分になっていたのかもしれません。それでカップケーキを差し出されたときにプレッシャーを感じてしまい、カップケーキを食べたあとは罪悪感を感じました。こうした感情が湧き上がってきたときは、将来のために自分の心の動きのパターンを客観的に吟味した上で書き留めておくべきです。
3. 自分は感情に支配された存在ではないことを認識する
一番最近に同じような感情を感じたときのことを考えてみてください。今あなたは前回と同じ衝動を覚えたのではありませんか? ということは、やたらと飲食をしたい衝動は精神的な弱さによるものではありません。むしろそれに駆り立てる感情やできごとのせいで発生する避けがたいものなのです。自分の感情はコントロールできません。しかし行動には責任があります。
4. 感情の奥にある根元的な原因を探る
あなたは仕事の締切のせいでストレスにさらされているのかもしれません。その場合は、過剰に飲食したいのはその締切が原因だと認識して、根元的な問題を解決するには何をすべきか理解しましょう。
5. 何か別のことで気を紛らわせて、素敵な未来に意識を集中させる
散歩に出かけたり、コンピューターゲームのように比較的害のないことをしてください。自分の感情と行動をうまく切り離した後、翌日はどんなに気分が良いだろうということに意識を集中させるのです。これがうまくいくと、今までのように自分で自分の足を引っ張るようなことはしなくなります。
これをやってみても最初の何度かは失敗するかもしれません。それでもいいのです。自分に少し寛容になってください。自転車に乗る練習をしているときに転んでも、自分に怒りを感じたりしないでしょう。フィットネスはスキルです。だからたった一晩で大食をやめることはできないのです。
自分を責める代わりに、うまく行かなかったときのことを正確にメモして、次に「自己妨害」をしそうになったら、その点を改善してください。意志の力や自制心ではなく、マインドフルネスを活用して「自己妨害」への衝動を克服することで得られる達成感はおおいにあなたを力づけます。「自己妨害」は精神的な弱さによるものではないと実感できるでしょう。それまでは、まだ自転車の車輪を上手く回す訓練ができていなかっただけなのです。
Dick Talens(原文/訳:春野ユリ)