2012.4.22

HSPiP Team Senior Developer, 非常勤講師 山本博志

 

International Journal of Engineering Science and Technology Vol. 2(6), 2010, 1526-1531

Prediction of Skin Penetration using Artificial Neural Network
化合物の皮膚への浸透をニューラルネットワークを用いて検討したものだ。
論文中では以下の化合物の透過係数、Kp(cm/h)を用いていた。

Hcode name logKp
46 Aniline -2.65
48 Anisole -1.6
52 Benzene -0.9547
58 Benzyl alcohol -2.22
325 Ethanol -3
490 4-Methyl-2- pentanol -2.33
904 Catechol -2.77
1071 4-Ethylphenol -1.46
1200 Caffeine -4
1204 Salicylic acid -2.2
5291 4-Cresol -1.76
9291 4-Cyanophenol -1.983
20324 Diclofenac -1.7399
20333 Chlorpheniramine -2.66
20448 Corticosterone -4.22
21376 Codeine -4.3098
22213 Amylobarbital -2.644
22239 Butobarbital -3.7144
977 Chlorocresol -1.26
22346 Chloroxylenol -1.2774


幾つかの化合物については馴染みの無い構造だろう。それらの構造を示しておく。



持っている官能基も分子のサイズもとても異なっているのが分かるだろう。
論文ではAbraham の識別子、R2 (excess molar refraction), π2 H (dipolarity/polarizability), Σα2 H, Σβ2 H (the overall or effective hydrogen-bond acidity and basicity), と Vx (the McGowan characteristic volume)を使ってニューラルネットワークを使って学習させて、学習に使わなかった化合物について予測を行いモデルの検証を行っている。我々はこれをHansenの溶解度パラメータ(HSP)を使ってやってみよう。

ハンセン溶解度パラメータ(HSP)

ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)は、ある物質がある物質にどのくらい溶けるのかを示す溶解性の指標です。ヒルデブランドのSP値と異なり、溶解性を多次元のベクトルで表し、そのベクトルが似ているもの同士は溶解性が高いと判断します。”似たものは似たものを溶かす”、”似たものは似た所にいたがる”というのがHSPの基本です。このベクトルは[分散項、極性項、水素結合項]で表されます。分散項はファンデルワールスの力、極性項はダイポール・モーメントの力、水素結合項は水、アルコールなどが持つ力です。(さらに水素結合項をドナー、アクセプターに分割すると4次元になります。)


”似たものは似たものを溶かす”と言う単純な考え方で、ポリマー、医薬品などがどんな溶剤に溶けるか? 高分子の添加剤がどれだけポリマー中に居やすいか? 匂い物質が鼻の嗅覚細胞にどのくらい溶けるか? 医薬品がレセプターにどのくらい溶けるか? ガスクロやHPLCの充填剤にどのくらい溶解しやすいか? 化粧品の皮膚への溶解性は?などを理解するのに役立っています。


まず、データベースからHCode(ハンセン・コード)を探して物性値を得るか、DBに無ければSmilesの構造式を調べY-MBを使って物性を推算し各化合物のHSPの値と分子体積を得る。Scoreにはlog Kpの値を入れる。

HSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)

HSPを効率的に扱えるように、ハンセン先生とアボット先生がHSPiPというWindows用のソフトウエアー、データベース、電子書籍の統合パッケージを開発されました。これを使うと溶解性に関する様々な疑問に答えてくれます。もちろん材料設計は溶解性だけで決まるほど単純ではありません。そこで、Y-MBという分子を自動的に分割し、様々な物性を推算する機能が付け加えられました。Y-MBはver.4 からはY-Predictというパワーツールとしても提供されています。

次にHSPiPのSphereを計算する。その際にGAオプションをonにして、定量的なSphereを選択しSphereを計算する。 HSPiPのver. 3.1.xではまだ計算出来ない。HSPiP Ver. 4に搭載のパワーツール、Y-Fitを使うと計算できる。(簡単に言えば、Kpの値が大きいものは皮膚への溶解度が高い。皮膚のHSPをある値に仮定し、皮膚と化合物のHSP距離が短いものはKpが大きく、距離が長いものほどKpが小さくなるように皮膚のHSPを決定する。)

求まった結果は、上に示すように、かなり高い相関になる。
皮膚のHSPは [17.12, 3.03, 13.89]となる。


Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。

もしiPadやChrome、Safari (iPad/iPhoneのMobile Safari)、FireFox4などのHTML5対応のブラウザーをお使いなら、上にキャンバスが現れるだろう。 溶媒をクリックすれば溶媒の名前が現れる。

緑色の球が皮膚を表し、赤と青の球が今回の試験体になる。赤い球で示したものが、Kpが大きなもの。青い球がKpが小さなものを示している。するどい読者は皮膚のHSPと赤い球の距離が短くないのでこれはおかしいと感じるはずだ。実にその通りで、この計算ではHSPは水素結合項をdHdo, dHacと分割して考慮しないと正しい距離を示さない。しかし、ドナー/アクセプターに分割すると4次元ベクトルになり、それを3次元にプロットすると、このようにおかしな表示になってしまう。非常に悩ましく開発者も困っている宿題だ。 文献を送ってくれた方が面白いアイデアを送ってくれた。(2012.4.24) 4次元を3次元に落とす際に、dDとdPをまとめてしまってdDPとdHdo, dHacの3次元で表示すればいいというものだ。もともと、今の表示でも、dH=sqrt(dHdo^2 + dHac^2)として4次元を3次元に落としているのでHSP距離を見たいのであれば、dDP= sqrt(4*dD^2 + dP^2)としてしまえば正しい距離を表示するはずだというものだ。(ついでに試験体の分子体積を溶媒球のサイズに指定してみる。距離が小さいのにKpが小さいものは分子が大きいことがわかる。)

ここで注意しなくてはならない点は、これは皮膚のHSPベクトルと試験体のHSPベクトルだけでここまで説明できてしまう事だ。分子のサイズは入っていない。通常こうした検討はオクタノール/水分配比率 logKowで評価する事も多いだろう。しかし、logKpとlogKowをプロットすると下の図のように余り相関があるとは言えない。

分子体積の効果も、分子が大きいとlog Kp も小さくなる傾向があるが、分子が大きくてもlog Kpが大きいものもあるし、分子体積が同じ100程度でもKpの値は100倍異なるものがある事も分かる。

これらの指標に対してハンセンの溶解度パラメータを用いた方法は非常に明確に現象を説明している事がわかる。つまり、”似たものは似たものを溶かす”だ。我々はここで言う似たものとはHSP[dD, dP, dH]のベクトルが似たものは、ベクトルが似たものを溶かすと表現している。それでは透過係数に影響を与える効果としてはHSP以外どんなものがあるのだろうか?Y-MBの吐き出す推算結果を利用して、QSAR式の構築を試みてみる。このQSARというのは、定量的構造活性相関の事で、物理化学的な意味合いはほとんどない(単なるフィティングである)が、どのような識別子が相関を上げるのかを検討するには有効である。識別子の組み合わせを相関係数が高くなるように自動的に探索するプログラムを利用して変数選択を行うと、一番重要な変数は当然HSP距離であるが2番目に重要な変数は水への溶解度の対数をとった、logSであった。2つを組み合わせて作ったモデル式は下に示すように、決定係数R^2=0.83476となった。


log KP = A*HSP距離 + B*logS + C
どちらのパラメータがどのぐらい効いているかを表すA, B, Cのパラメータは情報を送ってくれた方へのプレゼントだ。

何故QSARを使っても分子体積の項目は選ばれなかったのだろうか?
それはlogSと分子体積は下の図のようにかなり高い相関があるからだろう。
つまり、log Sは、分子体積の効果も取り込み、水への溶解度の効果も含んだパラメータであるので、それとHSP距離を組み合わせたQSAR式が最も効果的だとプログラムが判断した事になる。

それでは、logSはどのような意味合いを持つのだろうか?
Yakugaku Zasshi 13283) 319-324 (2012) ,木村、藤堂、杉林らの論文、”ナノ粒子の皮膚浸透性と安全性”に示唆に富んだ説明があった。
化学物質が経皮吸収されるには、化学物質が溶媒(媒質)に溶解し、そこから、角層(主に角質細胞内脂質)へ分配し、表皮を拡散していく。おそらく、その部分はHSPの溶解度パラメータが支配的なのだろう。
しかし、それ以外にも汗腺などの付属器官ルートがあり、それがlogSに相当する部分、透過を助けているのではないかと考えられているようだ。

さらに多くの皮膚透過のデータを集めていただいたのでさらに詳しい解析を行おうと思う。