頭蓋咽頭腫
1.基本事項
1932年にCushingにより命名された.胎生期頭蓋咽頭管 (ductus craniopharyngeus)の遺残組織 (Rathke's pouch epithelium)から発生するとされる.
2.発生部位
下垂体柄部 (pars tuberalis)に多い.鞍上部~鞍内にかけて存在するものが70%,鞍上部のみは20%は,トルコ鞍内限局例は5%である.まれに第3脳室内,視神経,小脳橋角部,咽頭,蝶形骨洞,松果体部に限局して発生する (ectopic craniopharyngioma).
3.頻度,年齢,性別
原発性脳腫瘍の3.5%を占める (脳腫瘍全国集計2003).小児脳腫瘍の約9%で,神経膠腫,髄芽腫,胚細胞腫に次いで多い.性差はほとんどない.成人では鞍上部腫瘍の約20%を占め,下垂体腺腫に次いで多い.全年齢層に発生するが,エナメル上皮腫型は小児期~思春期に多く,扁平上皮型は成人に多い.
4.臨床症状
1)腫瘍は徐々に発育し,周囲組織を圧排する.視神経,下垂体,視床下部,第3脳室の圧迫症状が主体である.極まれに嚢胞が自然破裂して髄膜炎を起こすことがある.
- (i)視神経圧排による症状 (62~84%)
- 視野障害は両耳側半盲の傾向にあるが,視神経に対する圧排が下垂体腺腫ほど均等になりにくいために,左右対称でなく不規則なことが多い.眼底は視神経萎縮が多いが,小児ではうっ血乳頭をきたすことがある.
- (ii)下垂体圧迫による症状 (52~88%)
- 成人より小児に多く,汎下垂体機能低下となる (GH低下75%,LH,FSH低下40%,ACTH低下25%,TSH低下25%).小児では二次性徴が出現せず,下垂体性小人症となる.基礎代謝は低下し,成人では易疲労性,低血圧,陰萎,皮膚蒼白,体毛の脱毛,無月経などを生ずる.
- (iii)視床下部圧排による症状
- 尿崩症 (小児20%,成人30%程度),傾眠,体温異常,電解質異常,低血圧,脂肪性器異栄養症 (Fröhlich症候群,dystrophia adiposogenitalis),まれに思春期早発症がみられる.成人では精神症状や性格異常も現れる.
- (iv)第3脳室圧排による症状
- 第3脳室,モンロ−孔を閉塞して水頭症を来たし,頭蓋内圧亢進症状が出現する.
2)腫瘍の発生部位と進展方向による症状は以下の如くである.
- (i)suprasellar type
- 上方に進展すれば視神経,視床下部,第3脳室圧迫症状.前方に進展すれば前頭葉症状,側方に進展すれば側頭葉症状,視索圧排による同名半盲をきたす.
- (ii)intrasellar type
- 下垂体機能低下が主体である.
- (iii)intraventricular type
- 視床下部症状,頭蓋内圧亢進症状,精神症状が主体で.視神経障害や下垂体機能低下は20%程度である.成人に多く,ほとんどが扁平上皮型である.
- (iv)basisphenoid type
- 後方へ進展して小脳,脳神経,脳幹圧迫症状をきたす.
5.神経放射線学的所見
1) 頭蓋X線撮影
suprasellar typeではトルコ鞍の平皿状の変形 (saucer-like change),intrasellar typeではballooningを認めることがある.エナメル上皮腫型では鞍上部に石灰化を認める.
2) CT
充実性腫瘍,嚢胞,石灰化の3要素が主体をなす.CT上,①充実性腫瘍(約15%),②充実性腫瘍と嚢胞の混在 (約35%):エナメル上皮腫型に多い,③嚢胞(約50%),とに分類できる.充実性腫瘍は等吸収域を示し著明に増強される.嚢胞は低吸収域を示し,嚢胞壁がリング状に増強される.石灰化は高吸収域となる.扁平上皮型では石灰化は認めない.
3) MRI
充実性の部分 (嚢胞を伴う場合は壁在結節状となっている)はT1強調像で等信号を示し,増強効果を認める.嚢胞壁はリング状に増強される.石灰化やヘモジデリンの多い部分はT1,T2強調像ともに低信号を示す.嚢胞は通常T1強調像で低信号,T2強調像で高信号を示すが,コレステリン含有が高いとT1,T2強調像ともに高信号となる.
6.病理所見
1) 肉眼所見
表面は平滑,または分葉状を呈し実質性部分は黄色顆粒状である.エナメル上皮腫型では石灰化を認め,白く,硬い.嚢胞はエナメル上皮腫型または混合型で認め,黄色調 (motor oil状)でコレステリンを含んでいる.嚢胞内におから状の残屑を入れていることもある.クモ膜のように半透明の薄い腫瘍もある.扁平上皮型では通常嚢胞は認めない.
2) 組織所見
エナメル上皮腫型 (adamantinomatous type)と扁平上皮型 (squamous type/papillary type/squamous-papillary type)とに大別される.またこれらの混合型 (中間型,移行型)を示す症例もある.壊死,核分裂像などの悪性所見は通常認めない.免疫染色にて,実質上皮細胞はcytokeratin陽性である.
- (i)エナメル上皮腫型
- 実質細胞は三層構造を示す.基底細胞層はameloblastに似た1~2層の円柱~立方上皮,中間層は重層扁平上皮様,内層は星芒状細胞が網目状に配列する.これら実質細胞層内に角質細胞の集簇を認め,ここに石灰沈着が頻繁にみられる.頭蓋咽頭腫における角質化は正常皮膚や類上皮腫のものとは異なり,角質化が進むに従って細胞質の大きな角質細胞 (wet keratin)を形成するのが特徴である.腫瘍の間質は血管豊富な結合組織であり,ここにコレステリン結晶 (cholesterin cleft),リンパ球や組織球の浸潤 (無菌性炎症反応),異物巨細胞,ヘモジデリン沈着などがみられる.腫瘍は通常第3脳室底の脳と癒着しており,強いgliosisを認める.gliosisの部分にはRosenthal fiberがみられることが多い.腫瘍実質細胞が脳実質内に島状に浸潤した像がしばしばみられるが悪性の所見ではない.骨化もまれに認める所見である.極めてまれに歯牙の形成 (odontogenic craniopharyngioma)をみることがある.またメラニン色素を含むことがあり,これは顎に発生する歯原性腫瘍との類似性を示唆するもので,頭蓋咽頭腫がRathke’s pouchより発生することを支持する所見であるとされる.
- (ii)扁平上皮型
- 基底細胞層は数層の柵状,円柱状細胞よりな,中間層はなく,内層は明瞭な層構造をとらず有棘細胞様の細胞が多層に並ぶ.嚢胞,角質化細胞,石灰化はみられない.血管結合組織はエナメル上皮腫型と基本的に同じであり,コレステリン結晶もみられる.
- (iii)混合型 (中間型,移行型)
- 上記,(1),(2) の混在したもの.
7.分子生物学的所見
第 2 ,12染色体の異常が報告されている.同胞例の報告もまれにあるが,遺伝性素因に関しての詳細は不明である.
8.治療
手術による腫瘍摘出が第一選択である.腫瘍の進展方向や大きさにより種々の手術到達法が試みられている.開頭により可及的に摘出することが多いが,トルコ鞍内に限局しているか,トルコ鞍内から上方に進展している症例では経蝶形骨的摘出術が行なわれることもある.腫瘍全体が一見実質性に見えるものでも,腫瘍の最外側は嚢胞性腫瘍壁により構成されていることが多い.小児例ではこの嚢胞壁と周囲脳組織の癒着があまり強くないことが多く,積極的に全摘出を試みる.しかし成人例では周囲組織との癒着が強いことが多く,この場合には部分摘出にとどめて術後放射線療法を考慮する.最近では定位放射線照射の有用性の報告が増加している.嚢胞に対してはOmmaya reservoirからの間歇的な嚢胞液の吸引,bleomycinの局注が有効なことがある.下垂体機能低下に対してはホルモン補充療法を行なう.
9.予後
腫瘍が全摘出された場合,または部分摘出で放射線療法により腫瘍が縮小した場合には社会生活は充分に可能である.部分摘出で腫瘍が残存した場合,嚢胞形成を繰返し,生命予後が悪くなることがある.近年の画像診断の発達により腫瘍が小さい時期に発見され,全摘出可能な症例も多くなってきている.Ki-67の陽性率により長期的な再発を予測するのは困難である.悪性度はWHO grade Iである.