プロフィール
小野邦彦(おのくにひこ)
1983年、奈良県生まれ。
実家が農家だった事もあり、野菜に親しんだ幼少時代を送る。
京都大学に進学し、文化人類学を専攻。
起業するためには財務を学び、社会経験を積む必要があると考え、フランス系の大手金融機関に就職。
業務内容は「金融工学を使った商品開発」。
商品の例を挙げると、企業やファンドに対する投資信託。
2年余りの金融機関での修業期間を経て、2009年の夏、「坂ノ途中」を設立。
未来に胸を張って残せる農業を提案する。
「農薬や化学肥料に頼る農業をやめたい」。「坂ノ途中」はこの思いを軸にする有機農家を増やすべく、様々な販路を維持し、多様な農業のあり方を肯定し、提案する「野菜提案事業」です。事業例としては、農家さんと共に何を、いつ、どの量を栽培するかといった相談を一緒になって考える。Webショップや、本社の1階に構える「坂ノ途中soil」という直営店で野菜の販売を行う。レストランと坂ノ途中の野菜とのコラボメニューを提案し、野菜を流通する。高品質な農産物を「KYOTO HARVEST」というブランドでデザイナーグループMODERN DESIGN GROUP.と共同し、シンガポールのオーガニック専門店へ輸出する等があります。非営利として被災農家を支援するプロジェクト「ハローファームプロジェクト」も展開しています。
人が幸せになる事業がしたい。
キッカケは、小野さんの大学時代での気付きからといえます。
自炊のため、スーパーで野菜を買って食べると、「なんて味のしない野菜だ」と驚きました。大量生産を目的として作られていたため、農薬や化学肥料を使った野菜であったためです。農業を生業としてした両親は、「農薬を使わない、野菜本来の育て方で育てていた」と気付きます。
他に、大学時代、アンティーク着物にはまり、よく着ていました。その中で現代の人、特に若い人は昔の着物の刺繍や模様の価値に気づけない、着物の扱い方を知らないという現状を知ります。そこで、アンティーク着物の販売や若者に着こなし方を提案する事業を始め、着物をより身近に、そして正しい扱い方をしてもらおうとしました。事業をしていく中で、ビジネスはメッセージ、価値観を表現する手段としても使える。そして、価値観の共有をしたうえで、売り上げを伸ばすといった成果を出すことなのではないかと気づきます。この事業では、自分たちの価値観はお客さんに伝えられたのかもしれないが、しっかり共有しておらず、お互いが幸せになっていないのではと思います。「もし本気でビジネスを行うなら、自分たちと共感したことによってお客様が幸せになれる事業にしたい」。この時は農業にかかわりなく小野さん自身のビジネスの価値観が生まれます。
決定的な気付き。それは、バックパッカ―の旅で訪れた先での事。田舎では、自然に合わせた満ち足りた生活をしている。都市に行くと、機械やコンピュータで人の都合にあわせた、自然に反した、持続不可能な生活を送っている。その現状を知り、生まれてきたからには人と自然のために何かを果たすべきだと思います。
そこで、農業であれば、人と自然とのあり方についてだけでなく、人が自然とどうかかわれば、お互い無理のない関係を結べるのかを表現できると気付き、農業に関する事業をしようと思い至ったそうです。
大事なものを言葉にすると、やることが見える。
「大変なのは、自分の価値観を明確にできるか。何が一番大切なのかをちゃんと言えるか」。坂ノ途中さんでは「農薬や化学肥料を使わない農業を未来に伝える」という想いを軸に事業展開がなされています。この想いに絞るまで半年かかったそうです。問題意識として、スーパーで売っている野菜はみんな同じ形、大きさ、味で何の個性もなく、まるで工業製品みたいだと思っていました。次々と問題が浮かんでくるため、あれも大事、これも大事となりがちで、問題意識を解決する手立てが思い浮かばず、明確に目的が立てられずにいました。売上も伸びず、人とのネットワークもうまく広げられなかったそうです。
野菜は同じ種類でも様々な条件によって、それぞれ違った形や味わいになることから、『野菜の個性を生かした農業の解答例になる』という目的が見えます。それが、持続可能な農業につながると考えます。
「いらないモノをそぎ落として、この主張に共感してくれる人を増やそうとした途端に、周りの全部の風景がガラリと変わった。」と小野さんはいいます。
一つにまとめることによって、進むスピードが速くなり、小野さんの考え方に賛同する人を巻き込みやすくなり、事業も拡大していき、次々と相乗効果が生まれました。
「何が大事か。ちゃんと言える、言えないでは、圧倒的な差がある」と実感したそうです。
世界で日本の野菜の価値を上げたい。
まずは、海外展開を進めること。日本産の野菜と日本のやり方での農業を海外に発信していこうとしています。日本の野菜+有機野菜という二つの価値が海外でもてはやされることに注目した小野さんは、現在香港に輸出を始めています。そして日本の農業は丁寧で技術力があることから、中国の大連で日本の栽培法を広めていく活動もしています。
次に、日本で土づくりから教える農業学校を作ること。日本と海外と比べた時、日本は技術面ではトップレベルなのに、土台である土などの基本的な知識がないことを知ります。
日本の多くの有機農家が、もっと世界へ羽ばたいていくために、しっかりと基本に立ち返ることで、日本の農業の価値がもっと上がると考えています。
そして、サラダバー等のシンプルなお総菜店を東京に進出することも考えているそうです。素材の味を活かせてかつ手間のかからない料理で野菜と触れ合うきっかけを作ることによって、料理をする人もしない人も、野菜に興味を持ってもらえるのではないかと思ったそうです。
日本の中だけにとどまらず、世界という視野をいろいろな視点から覗くことによって、「日本の有機農家を増やす」という一つの目的に向かっているのだと理解できました。
メッセージ
| 株式会社 坂ノ途中 | |
| 所在地 | ■ 九条オフィス 京都市南区西九条比永城町118-2■ 京大オフィス 京都市左京区吉田本町 京都大学構内 京大VBL3階 |
編集後記 取材 ・栗山遠音|Photo :ムクメテツヤ
一つの目的のために様々な視点を探し、それを実行しようとする。いろんな可能性を小さいところから大きいところまで逃さないというのはなかなかできないと思います。それを飄々と成し遂げている小野さんに尊敬です。いろんなチャンスを逃さない大人になりたいと思いました。