ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 ゆゆゆゆの食卓 その32016年10月18日 22:38ゆゆゆゆご飯もの第三弾、今回はデザート編です。ゆゆゆゆと言いつつ、今回はユーゴとユーリのみとなっています。遊矢とユートはまた次回の予定。CP要素はあまり考えていないのですが、気持ちユゴユリ入ってます。今更ですが、このシリーズにおける遊矢以外のゆゆゆは遊矢ガチ勢だったりもします。ところで、VJあくご2巻読みました。ゆゆゆゆ尊いとしか言えないですし、今回のにも多大なる影響を与えておりますとくにユゴユリ…。アニメも漫画もこれからの遊矢くんがどうなっていくかどきどきですね。「たっだいまー」 Dホイールの整備を終えて帰宅したユーゴを出迎えたのは沈黙だった。いつもなら誰かしらいるはずの時間なのにおかしいなと首を傾げるも、記憶の隅に残っていた今日は出掛けるといった遊矢とユートの姿を思い出す。通りで静かなわけだと思いつつも、この家にはあと一人残っているはずだ。まあ、あいつがわざわざ玄関まで出迎えてくれるわけはないのだが、それにしたって静かすぎる気もする。 ヘルメットを片手に居間を覗けば、四人で座ってもなお余裕のある広々としたソファを独り占めしている紫の髪が見えた。「なんだ、いるんじゃねえ……か?」 ひょいと、ソファを覗きこむようにして回り込めば、予想に反して沈んだ表情のユーリがいた。不貞寝をするかのように赤いクッションを抱えて寝転ぶユーリは、ユーゴの声に反応すらしない。「おい、ユーリ……?調子でも悪いのか?」 流石のユーゴも心配になって、声のトーンをいつもより抑えながら声をかける。けれど、眉を顰めるばかりでユーリの返事はない。だが、それで諦めるユーゴでもなく、なあなあと肩を揺すり、腕を引っ張り、段々と声も大きくなる頃には、ユーリも無視をしきれなかった。鬱陶しげに腕を振り上げ、視線だけをユーゴに向けて睨み付ける。「うるさい、ユーゴ。君は傷心の僕を気遣う思いやりってものがないの?」「なんだとっ!?こっちだってお前の心配してんじゃねえか!なのに返事しないのはどうなんだよ!」 売り言葉に買い言葉。普段であれば、ここから怒涛の毒舌がユーリの口から紡がれるのだが、そんな気力もないようで、ぷいとそっぽを向いてしまった。予想外の反応に肩すかしをくらったユーゴはぽりぽりと頬を掻き、やがて仕方ないなと溜息を吐いた。「んー……お前、ちょっと待ってろ」 ぽん、とユーリの頭を叩いて、キッチンへ向かう。何があったかしらないが、腹が減って気も立っているのだろうと考える。何か飯でも作ろうか、と考えてふと思い直す。どうせなら甘い物のほうがいいだろう。最近、リンにねだられて作ることはあっても家で作ることはなかったなと考える。さて、家にあるもので今作れるとしたらなんだろうか。「薄力粉や砂糖は充分あるな。卵……も、ある。お、生クリーム残ってるじゃん」 ラッキーと笑いながらユーゴの頭の中で今日のデザートが決まる。「今日はシフォンケーキに決まりだな」 そうと決まれば。キッチンにかけられた青い自身のエプロンを引っ掴んだユーゴは、腕がなると言わんばかりにぐるぐると肩を回した。 準備するのは卵に薄力粉、砂糖とサラダ油に牛乳とバニラエッセンス。卵は卵黄と卵白を分けて、卵白の方はぎりぎりまで冷蔵庫に入れたままでなるべく冷たい状態にするのがコツだ。卵白だけを冷蔵庫に戻して、次はオーブンの準備。予熱で170度に設定する。 ここまで出来たら、次は材料を量る作業だ。ことお菓子作りに関しては、分量をしっかり量ることが大切になる。いつもは勘だったり、目分量で行うユーゴも、流石にこの時ばかりは秤を使う。 薄力粉75g、砂糖は20gと45gに分けて、サラダ油は30g、そして牛乳は45ml。これで基本のシフォン型で作る材料は揃った。初めてレシピを見たときは、こんなものでいいのかと驚いたものだが、パウンドケーキみたいな密度のあるケーキと違って、シフォンケーキはまさにそのふわふわさが売りだ。そのため、粉や砂糖といった密度を濃くするようなものは意外と使われないのだそうだ。その分、必要となるものがあるのだが、それはまた後で。「よし。材料は揃ったな。んじゃ、作っていくかー」 並べられた材料をざっと確認して、足りないものがないことを確かめたユーゴは一つ頷くと、まずはボウルに卵黄3つを入れた。軽くほぐしてから砂糖の20gに分けた方を加えて混ぜていく。じゃりじゃりと砂糖が混ざって砂のような感触が手に楽しい。白っぽくなってきたら、次にサラダ油を少しずつ加えて馴染ませていく。油が分離しないようにしっかり混ぜたら次は牛乳とバニラエッセンスを4,5滴加えてまた混ぜる。そうしてある程度まとまった感じがあれば、次は薄力粉だ。あらかじめふるっておいた薄力粉を少しずつ加えてしっかり混ぜていく。全ての粉を入れて、まとまりができたら卵黄生地は完成だ。このとき、材料が分離している箇所がないか、ちゃんと均一に混ざっているかをよく確認するのが重要だ。綺麗に混ざっていないと、その分ふわふわ感が失われてしまう。要注意だ。「……ん。こんなもんか」 ホイッパーで生地の状態を確認して上手く混ざっていることに、満足気な笑みを浮かべる。さあ、次はいよいよシフォンケーキ作りのメインだ。と同時に結構な重労働が待っている。もうひとつボウルを用意したユーゴは、冷蔵庫に向かい、ぎりぎりまで冷やしておいた卵白を取り出す。卵白は卵黄よりもひとつ多く、4個分だ。ここから、シフォンケーキの要、ふわふわを生み出すためのメレンゲ作りが始まる。 流石にホイッパーで作るのは時間がかかるし、時間をかければかけるほどメレンゲとしてはあまり良い状態とならないのでハンドミキサーを使う。最初は低速でゆっくり卵白をほぐしていく。全体が均一になって、泡立ってきたらミキサーの速度も上げて、空気を含ませるように泡立てる。そうして全体的に白っぽくなってきたら砂糖の残った45gの方を加えていく。この時、一度に全部入れてしまうとメレンゲが潰れてしまうのでまずは3分の1程度。メレンゲの気泡が細かくなっていったら、残りの砂糖半分を入れて同じように泡立てる。そうして、メレンゲに濃度がついてつやつやとした光沢を感じたら残りの砂糖を加え、ツノが出来るまでひたすら均等に混ぜていくのだ。「流石に疲れるなあ……。けど、これやんねえと美味くなんねえしな」 少し凝ってきた肩をほぐすようにぐるぐると回しながら、メレンゲを泡立てる手を止めることはない。このメレンゲが綺麗に泡立っていないと膨らまないし、逆に泡立てすぎても卵黄生地と馴染まなくてぼそぼそになってしまう。どんどんつやが増していくメレンゲの状態を注意深く観察しながら泡立てていくと、やがて柔らかいツノが出来始めた。ミキサーの電源を止めてふわり、すくってみる。つやを纏ったメレンゲが柔らかいツノが立ち、やがてふんわりと曲がっていく。シフォンケーキにぴったりの柔らかさだ。これがもっとぴんと立つツノになるとマカロンに最適な状態といえるのだが、今回はシフォンケーキ。このくらいの柔らかさが丁度いいのだ。 上手くできたメレンゲに知らず笑みが浮かぶ。けれど、それも束の間、ここからは手早くいかねばならない。卵黄生地のボウルに、先程できたメレンゲを3分の1だけ加えて、卵黄生地と馴染むように混ぜていく。なじませたら残りのメレンゲも加えて、ゴムべらでさっくり、メレンゲの泡を潰さないように軽く手早く混ぜていく。そうして全体が均一になったら型入れだ。 シフォンケーキ独特のドーナツ状の型に、生地を一気に流し入れていく。生地自体もふわふわしている分、ゆっくり少しずついれると、それだけ余計な空気が入ってしまうからだ。ボウルに残った生地をゴムべらですくいながら型に流し入れ終わったら、型に流した生地の表面が滑らかになるように、軽く型の底をトントンと台に打ちつける。これで余計な空気が抜けて表面も綺麗にならすことができるのだ。そうして、3,4回ならしたら、後は焼くだけだ。 あらかじめ予熱していたオーブンに型を入れて40分焼き上げる。オーブンの蓋を開けた途端、広がる熱気に火傷しないよう気を付けながら型をそっと入れ、タイマーをセットしスイッチを押す。後は焼き上がるのを待つだけだ。大仕事を終え、ユーゴはほっと息を吐く。「やれやれ。これでひとまずはオーケーか」 ケーキが焼き上がるまでの時間にトッピングの準備もするかと、ユーゴは再び冷蔵庫へと向かった。ユーリのこだわりもあって常備されている果物の中からベリー類をあるだけ取り出していく。途中、目についたミントもひょいと摘まんで、とりあえずこれでいいだろうと頷いた。 赤、紫、黒。取り出したベリーを洗っていけば、そんな色たちが混ざり合っていく。ラズベリーにブルーベリー、ブラックベリーまであるとは思わなかったけれど、あるならあるで使うに限る。ミントも必要な分だけ葉をちぎってざっと水で洗う。洗ったベリー達は水気を切って器の中へ。ミントはまな板の上へ。ざく切りの要領でミントを刻めば、すーっと鼻を抜ける香りが爽やかだ。そうして香りが広がったミントをベリーと混ぜて、砂糖を加える。比率としては、ベリー:砂糖で6:1といったところか。これはさっきまでの慎重な計測と違って目分量でも問題ない。ベリーが潰れないようにざかざかと混ぜたところで、リキュールを一回し。砂糖とベリーが馴染む程度に入れたらまた混ぜる。それだけで、ベリーの甘酸っぱさと、ミントの爽やかさをまとめるように、リキュールの甘くて奥深い香りが広がってくる。 ぱくり、一口味見して。砂糖とリキュールのバランスをみる。「うっし、完璧!あとはこれも冷やしといてー。クリーム……は、ケーキが出来てからだな」 オーブンを横目にとりあえずひと段落、とユーゴは息を吐いた。使った道具を洗いながら、ひょいと居間を覗いてみる。それなりに時間が経ったはずなのに、ぴくりとも動いた様子のないユーリの頭を見ては、だいぶ重傷だなと遠い目になった。 ユーリが落ち込むようなことなんて、限られてくるから、予想がつかないでもない。けれど、思い浮かぶからこそ、あそこまでの落ち込み様は大袈裟なのではないかとも思う。とはいえ、そういうユーゴだって、自身がユーリの立場になればそう変わらないのだが、生憎と本人がそれに気が付くことはない。「……お、できたか」 ピーという電子音に顔を上げれば、オーブンのライトが消えたところだった。蓋を開けて型を取りだして、ふわふわ山のように膨らんだシフォンケーキを出迎える。ほのかな甘さを感じる香りに口元が緩むも、ここが一番時間との勝負だ。素早くひっくり返して逆さにする。こうしないと折角のふわふわが萎んでしまうのだ。台の上に平らなコップを用意して、その上に逆さにした型を置く。そうして冷えるまではこのままだ。完全に冷ましてからじゃないと、型から外すときも縮んでしまうから、しっかりと冷ますことがポイントになる。型を触っても温かさを感じなくなったら冷えた証拠だ。くるり、ひっくり返して型の縁からナイフを刺しこむ。そうしてぐるりとナイフを通らせたら、また型をひっくり返す。そうすれば、ふわふわのシフォンが重力に従ってゆっくりと落ちてくるのだ。型から解き放たれた瞬間のふわっとした弾力と、一瞬遅れてやってくる甘い香りがユーゴの鼻腔を擽った。「膨らみ方は充分だな!流石、俺!」 とくれば、次はクリームの出番だ。冷蔵庫に冷やしておいた生クリームを取り出して、砂糖と一緒にボウルの中へ。この時の砂糖は好みによるから、甘さ控えめがいいなら少なく、逆なら表記されているものの1.2倍くらいいれるとちょうどいい。今回はベリーのトッピングがあるから砂糖は控えめだ。 生クリームの硬さも個人の好みによるけれど、ふわふわのシフォンに対して少し硬めの生クリームくらいがちょうどいいとユーゴは考えている。かといって混ぜすぎるとぼそぼそになってしまうからやりすぎも注意だ。この辺りはメレンゲを作る時と似ているのかもしれない。とかく、お菓子作りというのはひたすら混ぜたり、分量や時間をしっかり量ったりと、重労働で気を遣うのだ。 生クリームがシフォンケーキにぴったりのホイップクリームへ姿を変えたら、次はシフォンケーキのカットが待っている。そっと包丁を入れてゆっくりと切る。シフォンは乾燥しやすいから食べる分だけカットして、残りはシフォンケースの中へ入れて冷蔵庫行きだ。ふんわり、切ったときの弾力を確かめて、そうして断面をみる。穴が開いていたり、生地が目詰まりしていなかったら、完璧だ。この瞬間はいつも緊張する。上手くできているだろうか、どきどきしながらそっと包丁を離した。「おぉ!良い感じじゃん!」 ふわふわと、小さな目が細かくある断面は綺麗で、大きな穴が開いていたり、不自然にシフォンが詰まっている箇所もない。どうやら成功したようだ。 さあ、あとは、トッピングだけだ。カットしたシフォンケーキをお皿の上に置いて、その横にホイップクリームをたっぷり添える。そうしてクリームやシフォンの周りに、先程作ったベリーとミントのリキュール漬けを小さな山のように添え、ブルーベリーソースでくるりと囲んだら完成だ。我ながら中々の出来。満足気に笑みを浮かべたユーゴはその皿を手に、居間で不貞寝を続けるユーリの元に向かった。「おーい、ユーリ!いつまでもふてくされてんなよ。ほら、これ食って元気出せって」 ことり、ソファの前のローテーブルに置かれたそれに、ユーリは渋々顔を向け、次いで目を瞬かせた。 ふわふわの黄色いシフォンに、真っ白なクリーム。それらを彩るかのように、赤が、紫が、緑が舞う。そして、それら全てを囲む紫の線はくるりくるりと楽しげな軌跡のようで、鮮やかな色彩はユーリを象徴する色たちだった。 目の前にあるケーキと、それを作ったユーゴを見比べる。いつもの何も考えていないようなお気楽な笑顔であると同時に、どこか自分を心配するような目に、ユーリは一つ溜息を吐く。「全く……よりにもよって君に気を遣われるってのはね」「あ!なんだよ、てめえ!そんなん言うなら食わせねえぞ!?」「食べ物に罪はないからね。これは僕がいただくよ」 するり、ユーゴが伸ばした手を避けるようにケーキを取ったユーリは、ぱくりとケーキを頬張り始めた。 フォークを通すときのふわりとした感触と違わぬ口どけは、口の中に卵の風味とほんのり香るバニラだけを残して消えていく。少し硬めのホイップクリームと一緒に食べれば、ふわふわのシフォンとの食感の違いが楽しく踊る。ベリーはミントの爽やかな香りが鼻に抜け、クリームやケーキ自体の甘味とはまた違う甘酸っぱさも感じさせてくれる。色んな食感と甘さに、知らずユーリの目は穏やかに、口元も柔らかくなっていった。 そんなユーリの様子に、最初はふて腐れていたユーゴも、自然と笑みを浮かべてユーリが黙々とケーキを食べていくのを眺めた。やがて皿の中のケーキもクリームも全て綺麗にたいらげたユーリは、すっかりいつもの調子を取り戻したようだった。ぺらぺらと今回のデザートの批評を話すユーリの言葉を話半分に聞きながら、そういえばとユーゴも口を開いた。「んで、結局なんであんな落ち込んでたんだよ」 ユーゴの言葉に一瞬動きを止めたユーリは、やがて溜息とともに小さな声で話し始める。「……遊矢が」「遊矢?」「遊矢が僕を置いてユートと出掛けたからだよ!僕は来たら駄目だって!なんでユートは良くて僕は駄目なのか答えもしないしさ……なんだか逃げられた気分で」「……それでふて腐れて寝てたってか」 なんとなく遊矢絡みのことなんだろうなとは思っていた。思ってはいたが、まさかその程度の理由だとは。ユーゴは頭が痛くなるのを感じた。確かに遊矢のことを気にするのはこの家に住む皆が同じだ。けれど、ユーリは輪をかけて過保護な気がある。遊矢が逃げたくなるのも分かるというものだ。とはいえ、ユーゴだって自分は駄目で他のユーリやユートならいい、なんて言われた日には多大なるショックを受けるのだが。例によってそこまで考えが及ばないのがユーゴなのだ。 いまだぶつぶつと文句を言うユーリに帰ってきたときの遊矢、というよりもユートの安否を案じつつ、とりあえずユーリの調子が戻っただけよしとする。「ま、遊矢たちが帰ってきたら何してたか聞けばいいさ。あいつらだって俺らにずっと内緒ーとか無理だろ」 基本的に嘘や秘密といったことが苦手なのだ。そう言うユーゴにそれもそうかとユーリも頷いた。「そうだね。泣き落としとかしたら遊矢困るかなあ。ああ、困った遊矢の顔も見てみたい!」 妖しく笑うユーリに、余計なことを言ったかもしれない。ユーゴは苦笑を浮かべて、その時はお詫びがてらこのシフォンケーキを二人にも出せばいいかと考えた。 さて、件の二人が帰ってくるのはいつになるのだろうか。