ビールがおいしい季節になってきた。左党の記者(39)が好きなのはクリーミーな泡が乗ったビール。でも自宅で缶から注ぐと泡が早く消え、居酒屋のビールサーバーでついだ生ビールのようにはならないのが残念だ。うまいビールの条件を探った。
ビールの泡はおいしさに重要な役割を果たしている。「うまいビールの科学」の著者でキリンビール広報部の山本武司さんは「泡が蓋となり、空気と触れての劣化や、ガス抜けを防ぐ」と話す。泡が消えると、味を損ねることにつながる。
2~3回に分けて粗い「カニ泡」消す
ビールメーカーは「泡もちがいい」注ぎ方を推奨する。キリンビールとサッポロビールが3回に分けて注ぐ「3度つぎ」、アサヒビールとサントリー酒類は「2度つぎ」だ。本当にこの注ぎ方は泡が消えにくいのか、検証した。
ビールグラスの縁までたっぷり泡がある状態から、泡が消えて2センチ下がるまでの時間をストップウオッチで測る。液体と泡の比率は蓋の役割を十分に果たし、見た目も美しい7対3になるように注いだ。
泡と液体が1対1になったらグラスを傾けて静かに注ぐと泡が壊れず上がってくる
まずはシンプルに1度で注ぐ。泡はきめ細かく見えるが素早く消えた。2センチ消えるまで約1分半だった。
続いて推奨の2度つぎと3度つぎだ。1度目は約30センチの高さから注ぎ、グラスの半分以上まで泡立てる。しばらく待って「カニ泡」と呼ぶ粗い泡が消えたら、2度つぎはグラスを斜めにして静かにビールを注ぐ。3度つぎはやや高めから注いで泡を足し、3度目で静かに注げば泡が壊れず、きれいに上がってくる。
どちらのつぎ方も実験で泡が消えるのは2分半程度。1度つぎより1分も長い。3度つぎは泡を足す分、よりこまやかな泡に見える。泡が1センチ消えるまでの時間は2度つぎより3度つぎが30秒長い例があった。
確かにこのつぎ方は泡が持続すると分かったが、本当に30センチもの高さから注ぐ必要があるのだろうか。自分としては泡が静まるまでの時間が、待ち切れない。
そこで30センチのドボドボ注ぎと、グラスの縁の高さからの省エネ注ぎを比べた。結果は1センチ消える時間で勝負が付いた。2度つぎの場合、30センチ注ぎは約40秒も長く泡を保ったのだ。
サントリー酒類武蔵野ビール工場技師長の角井達文さんは「高いところから注ぐと勢いで多くの泡ができる。しばらく待てば粗い泡がなくなり、より消えにくいきめ細かい泡だけが残る」と話す。泡を30センチ注ぎで作り、厳選した上で、静かに飲む分のビールを注ぐ。これがポイントのようだ。
グラス汚れも影響 専用スポンジが力
続いて泡の状況を左右するだろうと考えたのはグラスの汚れ。フライパンを洗った後のスポンジでグラスを洗うと、油分が水をはじく。油が付いていないグラス専用スポンジで洗うとどれほど違うのだろうか。
結果は予想通り。油汚れ洗浄後のスポンジで洗ったグラスにビールを注ぐと、大きな粗い泡がとたんに消えた。2センチ消えるまでわずか1分だった。新品のスポンジで洗ったグラスの場合、約2分半持った。よし、第2の条件発見だ。
グラスを乾かす時に付くごみ・汚れはどうか。布巾で拭くと細かい繊維が付着する。グラス専用のクロスで拭くのなら大丈夫か。自然乾燥でも水滴の跡が残ることがあるし……。
この比較実験は泡もちに大きな差が出なかった。ただ、布巾と自然乾燥ではグラスの内側に気泡が付いていることがあった。グラス専用クロスで拭き上げた方が見た目はおいしそうだ。
もう1点気になるのが温度だ。キンキンに冷えたジョッキを出す居酒屋は多い。泡に影響するのか。
5分ほど冷蔵庫で冷やしたグラスに注いでみた。泡はきめ細かく、2センチの泡もち時間は最長2分50秒。常温のグラスより15秒ほど長い。「ビールは温度が低いと泡の中の圧力が低く、粗い泡ができにくい」(サッポロビール)という。
一方、冷凍庫で30分冷やしたグラスの場合、常温より約30秒早く泡が消えた。洗った後、水滴が付いたまま冷凍庫に入れると、さらに泡がもたない。氷の結晶が付いてしまうと、泡を消す要因になるようだ。また、冷凍庫のにおいが付いているのも気になった。
新品のスポンジで洗い、専用クロスで拭き、5分冷蔵庫で冷やしたグラスに2度つぎで注いだビールを味わった。クリーミーな泡と適度な苦みが心地よい。缶から直接飲む方がスカッとして好きという人もいるだろうが、やはりビールはグラスに注ぎ、泡と一緒に楽しむ飲み物だと思った。
第三のビールもきめ細かさ同じ
ビールと第三のビールはどちらがきめ細かい泡になるのか。アサヒビール容器包装研究所のマイクロスコープを借りて実験したところ、2ミリ四方にある泡の数はビールが平均20個。麦芽など麦成分を100%使った第三のビールは21個で、ほぼ変わらない結果だった。第三のビールも技術革新でビールと遜色ない泡ができるという。
記者のつぶやき
サントリー酒類のビール工場を見学し、ビールができるまでに1カ月程度かかることを初めて知った。その間に技師らが品質チェックを積み重ねるという。原料の麦芽を食べてみた後、加工されたホップを「やめたほうがいい」と言われたが口に入れた。さわやかな香りと後を引く苦み。ビールは農作物の恵みと技師らの手を経て作られていることを再認識した。
(岩本隆)
[日経プラスワン2011年7月2日付]
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