腫瘍科
リンパ腫
リンパ腫は猫の血液・リンパ系腫瘍で最も発生頻度が高い腫瘍であり、胸腺、消化器などに発生し、末期になるまでほとんど症状を示さない特徴がある。腫瘍細胞がリンパや血液によって全身に広がるため、手術による治療は効果が低く、抗がん剤による治療が必要となる。抗がん剤は約70%の反応率を示し、腫瘍は肉眼的に消えてなくなりますが、腫瘍細胞は完全に死滅することは無く、数ヵ月後には再び発します。治療の目的は完治ではなく、腫瘍をできるだけ抑え、健康に、快適に長生きすることになります。
<発生・シグナルメント>
・発生には遺伝的要因と環境的要因の両方が作用していると考えられている。
・猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)の感染が発症の原因となる場合がある。ワクチンの普及によって、ウイルス感染が発症の原因となるケースは減少している。
・発症年齢は若齢~高齢まで幅広いが、若齢ではFeLV感染陽性、高齢では陰性であることが多い。
・FeLV陽性猫では胸腺(胸の中にある大きなリンパ腺)に、陰性猫では消化器に発生しやすい。
<症状>
・元気消失、食欲不振、削痩、発熱、貧血などの症状が認められやすい。
・上記以外の症状は発症部位によって様々である。
・消化器型リンパ腫は高齢(平均11歳)のFeLV陰性猫に発生しやすい。腸壁の肥厚が認められ、胃、腸間膜リンパ節、腸管付属リンパ節に病変が発生しやすい。腹部膨満、嘔吐、下痢、血便、重度の脱水・削痩などの症状が見られる。特殊なタイプとしてLGLというリンパ腫があり、非常に悪性度が強い。
・胸腺型リンパ腫は若齢(平均3~5歳)に発生し、FeLVの感染が認められることが多い。胸の中に発生したできものによって肺を圧迫されるとともに、胸水が貯留するため、呼吸困難を起こす。
・多中心型リンパ腫は胸腺、脾臓、肝臓、消化器などに多発性に病変が発生する。肝臓の病変がある場合は、肝機能が低下し、黄疸や肝性脳症(肝臓が解毒すべき毒素が体内にたまり、脳障害を引き起こす)などがみられる。
・まれではあるが、腎臓、眼窩(眼の下のくぼみ)、神経、皮膚にも発生することがある。
<ステージ分類(腫瘍の進行状況)>
Ⅰ:単一リンパ節または単一臓器におけるリンパ系組織に限局した浸潤
Ⅱ:複数のリンパ節に限局した浸潤 扁桃への浸潤がある場合もない場合も含む
Ⅲ:全身のリンパ節への浸潤
Ⅳ:肝臓あるいは脾臓への浸潤 全身のリンパ節浸潤を認めない場合も含む
Ⅴ:血液、骨髄、その他の部位への浸潤
サブステージa:臨床症状なし b:臨床症状あり
<診断>
・リンパ節の細胞診(リンパ節に針を刺して、その成分を吸引し、顕微鏡で観察する検査)ではリンパ腫の確定診断ができる場合とできない場合がある。できない場合はリンパ節の病理組織学的検査(リンパ節を切除し、検査センターで詳しく調べる)、または遺伝子検査(PCR)が必要である。
・病理組織検査ではグレード(腫瘍の悪性度)を決定することができ、低グレードを他と区別することは臨床的な意義がある(詳細は後述)。
・腫瘍の進行・治療に対する反応を評価するためにリンパ節、病変のサイズを定期的にチェックする必要がある。
・体内のリンパ節、臓器への腫瘍細胞浸潤の評価にはレントゲン検査やエコー検査が必要。
・腫瘍の進行状況、抗がん剤の副作用(白血球数の減少など)などを評価するために血液検査が必要。
<予後因子(今後の見通しを決定する要因)>
・FeLV感染の有無は予後を決定する重要な要因である。FeLV陽性猫の生存期間は平均37日、陰性猫は170日である。
・発生部位によっても予後は大きく異なる。消化器型リンパ腫の生存期間は平均7~10ヶ月であるが、LGLという特殊なタイプのリンパ腫は非常に予後が悪く生存期間は平均2ヶ月である。胸腺型および腎臓型リンパ腫の治療成績は悪い。鼻腔に発生したリンパ腫は放射線治療によって平均15ヶ月の生存が期待できるが、化学療法では平均4ヶ月である。
・組織学的グレード:病理組織検査などにより、腫瘍の悪性度が高、中、低グレードに分類される。低グレードは明らかに高・中グレードとは異なる挙動をとる。
*低グレードリンパ腫:猫のリンパ腫の約10%を占める。治療に対する反応率は低いが、臨床経過の進行は遅く、生存期間は長い(生存期間は平均20ヶ月)。消化器型リンパ腫に多い。
<治療(一時治療)>
治療を実施するかどうか、どの治療法を実施するかは予後、副作用、費用、猫の性格、飼い主の時間的余裕などから検討する。治療の目的は完治ではなく寛解(*)である。治療の目標は健康に、快適に1年以上生存することである。
*寛解とは:抗がん剤によって腫瘍が小さくなることであり、完全寛解(CR)とは腫瘍が肉眼的に完全に消えること、部分寛解(PR)とは腫瘍の50%以上が消えることである。完全寛解の状態は肉眼的な腫瘍の消失であり、顕微鏡レベルでは腫瘍細胞が残っている。そのため、腫瘍の再燃が予想される。完全寛解=完治ではない。
治療の実際:ガーデン動物病院では以下の治療法が可能である。
① 最も治療効果が高い方法:コストは最も高く、副作用も多い。1週間に1から2回、25週間の通院が必要。
Wisconsin(25週)プロトコール:CR(完全寛解率)68% 反応持続期間(腫瘍が消失してから再燃するまでの期間)平均270日
② ①よりも効果は落ちるが、低コストの方法:最初の4週間は毎週、その後は3週間に1回の通院が必要。
COPプロトコール:CR70% 反応持続期間 平均150日
③ ②と同等の効果・コストで、通院回数が少ない方法:副作用はやや多い。3週間に1回の通院が必要。
ドキソルビシン単独療法:CR26% 反応持続期間 平均90日
④ 最も低コストであるが、治療効果も低い方法:副作用はほとんどない。通院は1から2週間に1回必要。
プレドニゾロン単独療法:治療効果のデータは無し
支持療法 食餌療法
症状が重い場合は入院が必要であり、点滴、抗生物質の投与、胃腸薬の投与を、患者が自力で食べられるまで継続する。
プロトコールの最初の3週間は嘔吐止めの投与が必要。
抗がん剤の副作用で白血球数が低い場合は抗生物質の投与が必要。
<レスキュー療法>
一時治療で寛解が得られ、その後再燃した場合は、再度一時治療と同じ薬剤で治療を行う。反応が悪い場合はレスキュー療法を実施する。レスキュー療法の反応率、反応期間は一時治療よりも悪い。
レスキュー療法のプロトコール
ドキソルビシン、ミトキサントロン、ロムスチンなどの薬剤を用いて治療を行う。
CR50%以下 反応持続期間1~2ヶ月