口唇の荒れ(2)
作者: ミルディス皮フ科院長:村上義之
《口紅・歯磨剤・アルミ缶による接触口唇炎(かぶれ)について》
以前にも同テーマで患者様指導用の簡略な指導箋を作成いたしましたが、「具体的な商品名などの紹介も含めてもう少し説明してほしい」とのご要望が多かったので、今回「Visual Dermatology」掲載の石崎論文を参考にして追記することにいたしました。
口唇の荒れ、かぶれの原因としては、口紅やリップクリーム、歯磨剤(しまざい)が多いため、通常は先ずはそれらの使用を1~2週間全て中止してもらいます。歯ブラシも新しいものへ交換していただき、歯磨剤なしで歯磨きを行ってもらいます。これは、多くの歯磨剤に含まれるラウリル硫酸ナトリウム(sodium lauryl sulfate、 SLS:界面活性剤の1種で、乳化剤・発泡剤・洗浄剤として日用品に多用されている)が、アレルギーの直接的な原因とはならなくても湿疹・皮膚炎の増悪因子として作用し、一次刺激を起こすためです。それとともにプロペトなどをリップクリームがわりとして頻回に使用していただき、患部を外的刺激から保護します。これは唾液による口唇周囲の皮膚の荒れ(舌なめずり・口舐め皮膚炎:lick dermatitis)を防止する目的もあります。口唇が荒れていると、無意識のうちに潤そうとして舌なめずりをしてしまいますが、よけい乾燥させてしまい症状を悪化させるのです。赤ちゃんの「よだれかぶれ」を思い浮かべてください。唾液の付着は、醤油が付着したのと同じだと考えましょう。
なお当院では、口唇の荒れに際しては、希望があれば患者様がお使いの口紅、リップクリーム、歯磨剤(20倍希釈)、陰性対照(ワセリンなど)、一部金属(クロム、ニッケルなど)を用いたパッチテストを行っております。成分パッチテスト(エステルガムや各種タール色素、香料など)は施行しておりませんので、ご希望の方は大学病院などの施設をご紹介いたします。
下記の商品に関しては、メーカーにて要事成分変更が行われることも少なくないため、購入にあたってはメーカーあるいは販売店にて直接ご確認ください。
◆口紅
口紅は基剤の油性成分、着色料、つや出し成分、保存料、香料などから構成されている。アレルゲン(かぶれの原因)となる成分としては、油性成分としてのラノリン、ヒマシ油(リシノール酸)、着色料としてのタール色素、保存料のパラベン、つや出し成分のエステルガム、香料、紫外線吸収剤などがあげられる。代替品としての対策としては、ラノリンなどの天然基剤は合成基剤をはじめ、その他のものへ変更し、保存料やつや出し成分、香料など付加価値成分も極力取り除くことが大切になる。
難しいのは色素への対応であり、一般的には無機顔料は安全性が高いと言われるが、タール色素ほどの着色効果が得られないとされている。タール色素を含有しない商品としてはファンケルリップカラースティック、NOVリップグロスがあり、これらではタール色素の代わりに無機顔料(酸化チタン、赤酸化鉄)を用いている。
タール色素を用いながらも、工夫にてアレルギー回避を図った商品もある。タール色素によるアレルギーの場合、アレルゲンは色素そのものではなくPAN(1-フェニルアゾ-2-ナフトール)などの不純物によることが知られている。そのため、資生堂のdプログラムでは、タール色素を精製して不純物を除去している。また、アクセーヌ(トリートメントリップスティックPV)では微量のアレルゲンも直接肌に触れないように、色素粒子をシリカ薄膜コーティング処理している。
ラノリンなどの天然油性基剤でのかぶれの増加に伴って、合成分枝脂肪酸エステルが使用される頻度が多くなっているが、これらによる接触性皮膚炎の報告もなされてきている。また、ラノリンでかぶれる場合には、それらを配合した医薬品も控えねばならない(*)。
*精製ラノリン(アクロマイシン軟膏、アズノール軟膏、アンダーム軟膏、エキザルベ、強力ポステリザン軟膏、スピール膏、ソフラチュール、タリビット眼軟膏、ネオメドロールEE軟膏、フシジンレオ軟膏、ポステリザン軟膏、レダコート軟膏など)、ラノリンアルコール(トプシム軟膏、ヒルドイド、メサデルム軟膏、モビラート)、ラノリン(フルコート軟膏、ベナパスタなど)、還元ラノリン(ヒルドイドローション)などがある。
エステルガムによるかぶれの場合、膏薬や粘着剤の糊成分や風船ガムや板ガムの食感改善剤、あるいは食品添加物としても使用されており、注意を要する。 その他、近年では紫外線対策として口紅やリップクリームに「UVケア」などの表記なくサンスクリーン剤が配合されていることもある。可能であれば紫外線吸収剤を含まず、酸化チタンなどの紫外線散乱剤のみを使用したものが望ましい。
◆歯磨剤
歯磨剤には種々の形状のものがあるが、ペースト状の練歯磨剤が最も一般的である。これらは、研磨剤、湿潤剤、発泡剤、粘結剤、香料、着色料、保存料、その他の薬効成分などで構成されている。
発泡剤は練歯磨剤には欠かせない泡立て成分であるが、口囲りの洗浄が不十分である場合や、その他の原因によるかぶれや湿疹症状などによるバリア機能低下状態では一次刺激を生じやすい。
◆アルミ缶
口唇中央部に限局して湿疹反応を繰り返す症例で、パッチテストで口紅やリップクリーム、歯磨剤が陰性、さらには金属(クロム、ニッケルが多い)で陽性を示したときに飲料容器としてのアルミ缶などを原因として疑う。
一般的に、金属は合金として使用されているため、商品のネーミングに惑わされることが少なくない。実際に、アルミ缶においてもアルミニウム以外に、銅、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン、チタン、クロムなどが含有されている。さらに、塗料にはバインダー(接着剤)と顔料(色素)が使用されており、その顔料にも金属が含まれている場合がある(無機合成物使用時)。例えば、チタンと亜鉛で白色、カドミウムで黄色などが表現されている。口唇には関係なくとも、手で触ることへの関与も考慮せねばならない。金属は我々の日常生活の至るところに、思わぬ形で存在していることも少なくなく、注意が必要だ。金属の接触性皮膚炎に関しては、また機会を改めてご紹介する。
◎参照: ・Visual Dermatology、7(4):420、2008. ・化粧品の構成成分・皮膚外用剤Q&A(南山堂) ・アルミ缶の成分:分析表・塗料の種類・構成・絵の具の顔料・アクセーヌ・資生堂・NOV・常盤薬品・サンスターGUM・コープノンフォームハミガキN・ウエルテック・太陽油脂・シャボン玉石けん・花王・クリアクリーンプラスホワイトニング薬用デンタルリンス・第一三共ヘルスケア・モイストウオッシュ