ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 隻眼の剣士と偽りの王2015年2月23日 23:56「RLS、か…」「RLS?」昼休み、いつものように並んで昼食を食べているのは今からひと月前にこの学校に復学したばかりの和人とそれを献身的に支えている明日奈だ。二人は今明日奈手作りの見た目も美しく美味しそうな弁当を仲良くつつきながら和人の持参したVRMMO関連の情報誌を眺めていた。「Realworld Link System(リアルワールド・リンク・システム)の略称だよ、現実世界結合システム…今度ALOに実装されるって噂が出てるんだ」「それってどんなものなの?」情報誌の表紙をめくった途端に特集が組まれている見慣れない言葉に明日奈は首を傾げている、一方の和人は得意分野とあってゴホンと咳払いをした後嬉しそうに説明を開始した。「読んで字の如くだよ。現実世界の身体とALOの自分のアバターが完全にリンクするんだ。…そうだな、例えるならプロのハンマー投げの選手がALOを初めてプレイしたとしよう。勿論初めてのログインだからステータス値も高くないだろう?そんな中いきなり現実世界での要領でハンマーを投げたって全く飛ばない、そんな時にこのシステムだ。このシステムを使えばログイン初日だってブンブンとハンマーを振り回せるよ」「へぇ〜便利だね…いや、便利…なのかな?」「まだわからないな…現実世界とリンクしてしまったが故に仮想世界だからこそ出来る事が出来なくなるかもしれない、そこら辺は来月号かもしくは運営からの発表待ちだな」そう言いながら弁当箱の中にあるアスパラのベーコン巻きを箸でヒョイと掴むとそのまま口に運びもぐもぐと咀嚼し幸せそうな顔をした和人、それを見て明日奈は嬉しそうに笑う。和人が復学する以前、九州の大学病院に行ってしまった当初は寂しさや不安で気が狂ってしまうのではないかと言うほどであったが現在ではその期間を取り戻そうと明日奈・和人共々二人の時間を大切にしている。「和人君はこのシステムが導入されたら使うの?」何気無く和人に質問をしてみると和人はう〜むと唸った後少し照れながら返事を返した。「いや、俺は使わないかな…どれほどのレベルでリンクするのかわからないけどせめてALOの中では両目でちゃんと君を見たいから…」和人の返事を聞き明日奈はボンと言う音と共に顔全体を真っ赤にして俯いてしまった…数ヶ月前に和人は脳腫瘍を取り除く手術を受けていた。かなり難易度が高く完治・根治が難しいとされていた病魔を倒す為に臨床試験段階の新薬に賭け九州の大学病院へと渡ったのだ。結果として手術は成功し腫瘍は全摘出され再発の可能性はほぼ皆無となったものの腫瘍の浸潤箇所に一部視神経が巻き込まれていた為に和人は右目の視力を失ってしまった…しかしそれは現実世界の身体の話であり仮想世界のキリトとしての身体には一切影響がない、故に和人がキリトでいる間は今まで通り両の目でアスナやユイという大切な存在を見つめる事が出来ている。「もう…急にそんな事言わないでよ…」俯いたままボソリと話す明日奈の頭を撫でてやりながら和人は柔らかい笑みを浮かべていた。今日も二人は絶好調のようでカフェテリアでその様子を見ていた里香と珪子は揃って舌打ちをしながら明日奈の作る弁当と比べるのもどうかと思うが味気ない昼食をモソモソと機械的に口に運んではため息を繰り返す…「和人が帰って来てから余計放たれるピンクのオーラが増したわよね?」「そりゃそうですよ、難病を乗り越えて愛する人の元に帰って来たんですから…互いに盛り上がりますよ…」「またあの黒い眼帯、あれ付けて私の周りの女子からの評価だだ上がりになっちゃってさ〜」「勿論見えなくなった目を隠す為ですけど普段の和人さんの雰囲気にミステリアスな感じが加わっちゃって私の周りも凄く和人さんファンが増えた気がします」手に持つイチゴ牛乳のパックを潰しながら話す里香とお楽しみにとっておいたエビピラフのエビだけを口に運んでいる珪子、和人が九州に行った際は明日奈を心配し常に一緒にいたが和人が戻って来てからは再びカフェテリアから二人を見守る人に戻っていた。色々と話してはいるが二人とも和人達の姿を見ると本当に元に戻って良かったと心を撫で下ろしている。「多少ピンクオーラが出過ぎてる気はするけど明日奈が沈んでるよりましか」「ですね、私達がそのオーラに充てられてどうにかなっちゃいそうですけど…」カフェテリアまで飛んで来ているオーラを感じつつ二人は和人達に生温かい視線を昼休みが終わるまで送り続けていたのだった。ー 同日 ALO内 ー「キリト!スイッチ!」「俺様が一気に決めてやるぜ!」ALOに浮かぶ浮遊城アインクラッド、つい三日前に開放された76層『アークソフィア』のボス部屋ではフロアボス『ガストレイゲイズ』の討伐が行われている。かつてSAO事件の折には75層攻略後イレギュラーによりゲームクリアとなった為SAO生還者達にとっても未知の領域での戦闘が繰り広げられていた。「麻痺とスタンを含んだ魔法攻撃、ボスを中心に円型に発動します!」「全員円の範囲外に退避!」ユイとキリトの指示で全員が敵の周囲に出現したサークル外へ退避する、全員の退避直後ガストレイゲイズの特徴とも言える巨大な眼『邪眼』から禍々しい光を放った。その光『邪眼開放』は麻痺とスタンの効果を持つ闇属性の攻撃で既に攻略情報として出ていた為に戦闘に参加しているキリト達以外のプレイヤーもそれを難なく回避出来ている。「後少しだ!全員でかかるぞ!!」キリトの号令に合わせアスナ達だけで無く他のレイドを組んでいるプレイヤー達も一斉にガストレイゲイズに持ちうる最高位のSS(ソードスキル)を撃ち込んでいったのだった。Congratulations!!巨大な身体をポリゴン片に変えたガストレイゲイズを見届けながらキリトは二振りの片手剣を背中の鞘に戻し一息つきながら周りを見渡す、SAO時代にも足を踏み入れなかった領域に立ちそして踏破していく…もしあの世界が75層で終わっていなければこの層を含め25層闘い続けていただろう。そう思うと何とも言えない複雑な気分になる。(あそこで…75層でクリア出来て良かったんだよな…でもほんの少し、残念に思ってる自分がいる…)そこはゲーマーの性分なのか、無事に帰還出来た事よりもゲームが完全クリア出来なかった事に少し未練を感じているキリトだったが腕に抱きついて来たアスナと肩にとまったピクシー姿のユイの笑顔に全てが吹き飛んでしまった。「お疲れ様、キリト君!」「お疲れ様です!パパ!」「おう、お疲れアスナ、サポートありがとなユイ」あの頃とは違う鮮やかな水色の髪の毛を見ながら頬を緩ませキリトは次層77層のアクティベートをする為に開放された階段の方へ向かおうとする。が…「おぉ〜い、キリト君!」背後から聞こえて来た声に振り向くとアスナと同じ水妖精族、長髪眼鏡の男性プレイヤーが駆けて来た。「な、なんだよクリスハイト…」「いや〜今日の戦闘は上手くやれたと思うんだけどどうかな?」「どうって言われても今日も相変わらず後方支援だったしな…」クリスハイトと言う水妖精族の青年、その正体は総務省仮想課に籍を置く菊岡誠二郎であり、和人にSAO内部の出来事の詳細を聴き取り調査し代わりに現実世界の明日奈の居場所を教え更にはその後GGO事件に和人を巻き込んだ張本人である。現在は情報収集の名目で時々ALOに自身のアバター『クリスハイト』としてログインしキリト達と共にクエストや戦闘を行っているのだ。ただしGGO事件以降アスナからは顔を合わす度に睨まれたり話しかけても無視をされたりと散々な目にあっているのだが本人は全く気にする様子は無くキリトはクリスハイト、ひいては菊岡誠二郎なる人物の心臓はダイヤモンドでコーティングでもされているのではないかと疑っていた。「この層はかつてのSAO時代には踏み込まなかった…いや、踏み込めなかった場所だしキリト君達にはどう映ったのかな?」どうやらこちらの質問の方が本質のようだ。それを理解したキリトは自分の本音を包み隠さず語る。「ま、そこに関しては新鮮だったよ。75層より上には俺達SAO生還者にも情報は無かったわけだしな、とうとうこの城を完全に攻略する日が来れたんだってワクワクしてる自分がいるよ」「でもこれで後24層、クリアしちゃったらどうするんだい?」「その時はまた別の何かが起こってくれるさ、俺はそう信じてる」そうかいと笑ったクリスハイトの後ろからクラインやシノン達が集まり次層のアクティベートをしに行こうとキリト達を誘い歩き出す、キリトやアスナも笑顔で階段を上がり77層に降り立ったのだった。ー アインクラッド77層 トリベリア ー「おっし!いっちば〜んと!」クラインを先頭に77層に到達した面々はまずその街の主街区にある転移門をアクティベートし他のクリア済みの層からプレイヤー達が自由に行き来出来るように設定を済ませた。その後街の喫茶店で少しの間休憩をした後早くもフィールドに赴いていた。フィールドは緑が美しい草原でMobさえいなければ格好のピクニックエリアだ。「風が気持ち良いわね」「どこかMobの沸かないポイント見つけてみんなでピクニックしません?」「リーファの意見に賛成!じゃあお弁当よろしくね、アスナ?」「私?たまにはリズが用意してもいいんじゃない?」「そうですよ、リズさんいつも食べる側じゃないですか?」前を行く女性陣の楽しげな話し声を聞きながらキリト達男性陣はやや後ろを並んで歩いている。「ところでキリト君、その後身体の調子はどうかな?…っと、こっちで現実世界の話はNGだったね」「いや、いいよ…もうなんの問題も無い。勿論定期的に検診は受ける必要はあるけどな」「そうかい、それは良かった。久々にログインしたら九州の病院だって言われたから驚いてしまったよ」「しかしよキリト、右目が見えないのは大変じゃねぇか?」「遠近感とか立体感とか掴み難いだろう?」クリスハイトの質問に合わせクラインとエギルも便乗して質問を重ねた。キリトは少し困ったように笑いながらもそれに答える。「確かに距離感には戸惑うな、特にこうやってALOにいて現実世界へ戻った時とか特に。でもそれも慣れだよ、慣れれば何とかなる…ただどうしても死角が増えるんだよな〜そっちの方が問題だ、何せ万が一の時にアスナを守れないかもしれない」そりゃ切実だなとエギルは笑ったがクラインは面白くなさそうな顔をして舌打ちをした。まさかこのタイミングで惚気るとは思っていなかったのだろう。クリスハイトは特にリアクションを取る事は無く頷いて聞いていた。現実世界の和人は右目が見えない為健常者と比べるとどうしても両目で見えていた部分が一部欠けて見えない部分、つまり死角が多くなってしまっている。だからこそ現実世界の和人は日頃から増えてしまった死角に注意しながら道を歩いたり明日奈と過ごしたりしているのだ。「あなたは誰?!」「!!」不意に前方から聞こえて来た声に驚きそちらを向くとアスナ達の前に一人のプレイヤーが立っていた。そのプレイヤーはフード付きのマントを纏い目深に被ったフードのせいで性別すらわからない、ただアスナ達の前に立っているだけだ。不審に思ったクラインがそのマントの前に立ち声をかけた。「おい、なんだアンタ?」するとマントの裾から右手が出ると空中で忙しなく動く、ステータス画面を操作しているような動きにクラインが首を傾げた瞬間キリト達の目の前でクラインが地面に倒れこんだ。「!…んな…」「クライン!」すかさず駆け寄ったエギルがクラインを支えるがマントから伸びた右手は動き続けている。「お前…何…を…」すると次はエギルが力無く地面にその巨体を沈めてしまった、キリトはそれを見てすぐ残った全員を後ろに下がらせ背中の剣を抜く。それをマントのプレイヤーに構え目の前で起きた事態を訊ねた。「お前何者だ?さっきの手の動き、あれはステータスウィンドウじゃなくて管理者権限のウィンドウを操作してたのか?じゃないとクラインとエギルが何も無しに麻痺状態になったりしないよな?」キリトの視界左上のパーティーメンバーのパラメーター、そのクラインとエギルの部分には麻痺状態を表す稲妻のマークが点灯している。「プレイヤーなら呪文の詠唱が必要だ、けどお前は手元の操作だけで二人を状態異常にした…本当に管理者権限でこれをやったんなら趣味が悪いぜ?」管理者権限による一斉麻痺状態、まるでSAO時代75層のボス部屋で事件の主犯者である茅場晶彦こと『ヒースクリフ』が行った行為そのものでありキリトは嫌悪の感情を露わにした。「いい加減何か言いなさいよ」静かに弓を引いたシノンを見て再び手を動かしたマントのプレイヤー、その直後シノンを始め残っていたキリトを除くメンバーが立て続けにその場に倒れこむ。キリトは咄嗟に隣にいたアスナを支え優しく草原の上に寝かせた。「アスナ!」「キリ…ト君…」「やっぱり君達だったか…」マントのプレイヤーが突如言葉を発しフードで隠れた顔をキリトとアスナの方へ向けた、その声を聞く限り男性のようである。アスナの隣でキリトは剣を構え今にも斬りかからんとしていたがマントの男がフードを外した事でその場から動けなくなった。「お、お前…須郷…なのか?」「覚えていてくれて嬉しいよキリト君、そして久しぶりだね、ティターニア」ニンマリと笑いかけられたアスナの顔には動揺と恐怖、そして嫌悪の感情が滲んでいた。かつて自分をこの仮想世界の鳥籠に幽閉した張本人、須郷伸之こと妖精王『オベイロン』が目の前に立っている…アスナは耐えきれず目を逸らし更に固く目を瞑った。「なんでお前がALOにいるんだ?お前は今…」「刑務所にいるはず、だろう?…ふふふ、確かに僕は今君達の所為で刑務所にいるよ…しかしねキリト君、刑務所からログイン出来たって不思議ではないだろう?現に今更生プログラムの一環としてカウンセリングを受けるって名目でアミュスヒィアを被っているんだから僕は」自慢気に話す元妖精王の姿にキリトは背中にゲームでは感じるはずのない悪寒を感じた。キリトを除く全員を麻痺状態にしたのは明らかに管理者権限を行使した物だ、しかし須郷を筆頭にSAOサーバーの維持管理に関わっていたレクト社はALOの一件が発覚した後に撤退を余儀なくされている。現在は他のベンチャー企業が運営を行っているはずであり幾ら須郷と言えど管理者権限を行使する立場には無いはずだ。「ALOにログイン出来たとしてもなんでお前のアバターに管理者権限が与えられてるんだ?今の運営はお前には関係ないだろう?」「確かに現在のALOの運営と僕は全く関係がない、だが個人的に、僕の手伝いをしてくれてるヤツらがいるんだよね〜」ニヤリと粘着質な笑みを浮かべたオベイロンを見てキリトはポケットの中にいるユイにとある伝言を頼むとユイがポケットから出たのを見てオベイロンに剣を構えて見せた。「どっちにしろお前はここにいるべきじゃない、すぐにログアウトさせてやるよ」「ひひ…ひひひひ…」「何が可笑しい?」「いや〜全く君はガキだね、僕が何の手段も持たず君に正面から戦いを挑むと思うかい?それに君だけ麻痺にしていないのも君は何も感じないのかな?」確かにそこはキリトも疑問だった、もし自分を麻痺にせずとも勝てる何かがあるのならそれは注意しなければならない。「キリト君、君には僕が味わった何倍もの屈辱を味あわせてあげるよ…」「キリト君…逃げて!」「ダメだよアスナ、俺は君を守る…そう決めてるから…だから逃げない、あいつが何を仕掛けてくるかわからないけど必ず勝ってみせるから…少しだけそこで見ててくれ」アスナの頭を優しく撫でた後みんなから離れた場所にオベイロンを誘導し睨みつけた。「いいね!その目が悔しさや絶望に変わるのを楽しみにしているよ」そう言うとオベイロンは両手を天にかざすと声高に叫ぶ。「システムコマンド!RLS(β)起動!対象指定プレイヤーID:kirito!!」その瞬間キリトのアバターの身体に異変が起き始める、まずは先ほどまで軽々と振っていた剣が鉛のように重く持ち上げるのも難しほどに感じてしまう。更に右目がどんどんと霞みその後ブラックアウトしてしまったのだ。オベイロンが使用したのはALO実装前のテスト用RLSだった。本来はALO連動式のアクセサリをアミュスヒィアに取り付けナーヴギアで行ったキャリブレーションのような作業の後RLSは起動する、しかし和人は未だナーヴギアを着けてダイブしている為その手間がかからなかった。その故筋力パラメーターが下がっただけで無く右目に信号が送られていない事を読み取ったナーヴギアが忠実にそれを再現してしまったのだ。キリトは自分の右目を手で覆うとその様子を楽し気に眺めているオベイロンに怒りを滾らせる。「あれあれ〜?キリト君もしかして現実世界だと右目、見えないの?はは!あの時とは逆だね…あの時は僕が右目をやられて君に止めを刺し損ねた。そう!まさに立場が逆転したんだよ!隻眼の剣士君?!」「須郷…!」オベイロンが左手に持つ杖を振るとボッという音と共に一つの火球が宙に生成された、そしてその杖をキリトの方へ向けると火球が凄まじいスピードでキリトに襲いかかったのだ。「このっ!」「無駄だよキリト君」避けた火球はキリトの後方でUターンし再びキリトに向かっていく、再び避けようとするがしかし…「クソッ!」火球がキリトに直撃し眩い閃光と爆発による煙が辺りに広がった、煙が晴れるとその中心にキリトが苦悶の表情をして膝をついている。HPバーはたった一回の攻撃でイエローになってしまっていた。先ほどの火球、Uターンした後にキリトの右目側、つまりキリトの死角に回り込み攻撃して来たのだ。キリトが火球を見失ったのは一瞬だがそれでも火球はキリトのスキを突きHPを削ったのだった。「キリト君!」「だ、大丈夫だ…」「ねぇ?本当にそう思ってるの?たった一撃でもうフラフラじゃないか…キリト君、現実を見た方が良いんじゃないかい?」勝利を確信しているオベイロンの物言いに眉を顰めたキリトは小馬鹿にしたように鼻で笑った。「そもそもここで俺を倒したところでお前は塀の中だ、それなのに俺を倒して何になるんだ?」「ふふ…まず君を倒したら次はアスナ君に決まっているじゃないか、君が死に戻りしている間に管理者権限で君とアスナ君のフレンド登録を解除してこの広い世界のどこかへアスナ君を連れて行く…そして後はお楽しみだよ…今度は彼女の心を徹底的に壊してやるんだ!どうだい、楽しそうだろ?散々僕に遊ばれた後、彼女は君の元に戻れるかな〜?ひひひ…」「須郷!…貴様!」オベイロンは本性を現しキリトやアスナに下劣な笑みを向けていた、それに対してキリトは唇を噛みながらもオベイロンに気づかれないように小さく唇を動かす。(アスナ、聞こえる?)(キリト君?!…これって…光属性魔法?)(あぁ…『光源鏡』、闇属性の『月光鏡』の対になる遠距離通信魔法、こうやって思考で会話出来る便利な魔法だよ。ただかなり上級魔法だからスペル噛まなくて良かった…)(キリト君、これからどうするつもりなの?)(あぁ…これからあいつがもう一度あの火球を飛ばしたら俺を魔法で守ってくれ、ほんの少しだけ時間が欲しい)(でもキリト君だけじゃ…)(アスナ、俺を信じてくれ。必ず須郷を倒してみせるから)アイコンタクトを送り優しく微笑んだキリトにアスナも頷いた。今はキリトを信じて待つしかない。再びオベイロンと相対したキリトは深く息を吐くと重く感じる剣を構え戦闘の意志を表した。それを見たオベイロンは下卑た笑みを浮かべ先ほどと同じように火球を生成し高らかに勝利を宣言する。「さようならキリト君、これで全て終わりだ!」一撃目より凄まじい爆発音と煙が辺り一面に広がりアスナ達の周りに立ち込める…「キリト!」「お兄ちゃん!!」もくもくと立ち込める煙に向かってクラインとリーファが声を出す。エギルやリズベット達はその煙の中心地をただ眺めるしか出来ないでいた。そんな中全員の耳にけたたましいボリュームで笑い声が響く。「ひゃははは!これで!これで終わった!やっと僕をコケにしたヤツを消せたぞ!…さぁアスナ君、キリト君が戻ってくる前にここから離れようじゃないか?」「キリト君が消えた?須郷さん、貴方何か勘違いしているんじゃない?」近づき自分を連れ去ろうとするオベイロンに吐き捨てるように話すアスナ、その目は強くキリトの事を信じて疑わないのだろう。それが気に食わないオベイロンは煙立ち込める場所を指差した。「だから!ヤツは!たった今!この僕が消したじゃないか!いい加減現実を見なよ!」「だれが消えたって?」!!立ち込める煙の中から聞こえて来た声にオベイロンだけでなくアスナを除く全員が驚きの表情を浮かべその声の方に注目した。そしてその煙が一瞬でパッと晴れる、キリトが振るった剣の風圧の所為だ。そこから現れたキリトの姿にはアスナも目を丸くしてしまった。煙を切り裂いて出て来たキリト、その右目には現実世界と同じ黒の眼帯が装備されていて更に右手には見慣れない片手剣を握っている。黒色の刀身でその形状は『絶剣のユウキ』の使っていた片手剣に似ていて一瞬細剣と見違うほど細い、そして何よりかなり軽量のようでRLSの所為で筋力パラメーターが下がっている事を疑ってしまいたくなるくらいにキリトは片手剣を振るって見せた。「リズ、あの剣、リズが打ったもの?」「違うわ、私の鍛えた物じゃない…他所で作った物かクエスト報酬かモンスタードロップか…」「な、なんだ…眼帯と剣を変えただけじゃないか、幾ら振り回せる剣を使えたところでこの攻撃は防げないだろう?」今までは余裕の表情だったオベイロンだがキリトが生きていた事に驚きが隠せない、しかも装備が変わっている事にも動揺しているようだ。それでもどうにか取り繕うと三度火球を生成する。「どうだろうな、やってみなきゃわからないさ」そう言ってキリトは片手剣を身体の正面に構えると小さく息を吐き、見える左目を閉じてしまった。それにはオベイロンもあからさまに驚きそれを嘲笑する。「何を気取ってるか知らないがこれで本当に終わりだ!隻眼の剣士君!!」「キリト君逃げて!!」アスナの声も虚しくキリトに向かって行った火球は不規則に動き回りキリトの死角、右後方から襲いかかる…そしてキリトに着弾する直前にそれは起こった。「ここだー!!」目を開いたキリトは見えていないはずの火球の方に向き直りその軽量型の片手剣で火球を一刀両断したのだ。魔法破壊(スペルブラスト)、キリトが編み出したシステム外スキル…魔法そのものをSSで斬り裂くものでキリトはオベイロンの放った火球を自身に着弾する直前に片手剣用単発SS『スラント』で破壊した。「な…なな…」オベイロンは驚愕の眼差しでキリトを見つめる、元々魔法破壊はキリトの尋常ではない反応速度故のもので他者がこれを真似るのは不可能だからだ。アスナですら修得困難なものの上に今回死角から飛んで来た火球を難なく斬ってしまった…SSに関してはシステムアシストが働いているようだがそれでも今回のキリトの行動はオベイロンだけでなくアスナ達全員の度肝を抜いた。「なんだそれは!一体どんな手を使ったんだ!」「お前に教える義理は無いさ、今度はこっちの番だ…須郷…覚悟しろ」静かに、だがハッキリとした口調で告げたキリトは右手に握る剣にライトエフェクトを纏わせオベイロンの間合いに入ると二連撃SS『バーチカル・アーク』を放つ。V字の剣跡がオベイロンの身体にハッキリと刻まれその衝撃でオベイロンは後ろに弾き飛ばされた。 「やっぱり軽いな…どうする?色んなSSを身を以て体験するのは?俺もこの剣で試したいんだよ…前みたいに痛みは無いから楽だろ?」「や…やめ…やめて!」「なら、さっさと俺の、俺達の前から消えてくれ」再び刀身にライトエフェクトを輝かせ始めたキリトを見てオベイロンは恐怖の色を滲ませすぐさま手元を操作するとキリト達の前から消えたのだった。「キリト君!!」「キリト!」オベイロンがログアウトしたのを見届けた後その場に倒れこんだキリトに麻痺が解けたアスナ達が駆け寄り声をかけた。キリト自身は76層の草原に大の字に倒れたまま空を流れる雲を見つめてふ〜と長いため息をついて一言だけ呟いた。「しんど…」5分もしないうちにキリトの前にあるウインドウが開く。RLS(β)の運用を停止しますか?YES or NO迷わずYESをタップすると身体が軽くなり力が入った、どうやら筋力パラメーターも元に戻ったようだ。それを感じたキリトはピョンと身体を起こすと腰を曲げたり跳ねたりした後ようやく落ち着いたのかアスナ達に笑いかけた。「ありがとうキリト君、助けてくれて」「しっかしあれがかつての妖精王ってヤツか?ありゃあんまりだろ?」「まぁオベイロンはかつてのALOの象徴だったからな、古参のプレイヤーはみんな世界樹の上の天空都市を目指してたんだし…けどそれはデタラメだった…妖精王オベイロンはただのマッドサイエンティストだ」「お兄ちゃん、なんか遠回しに私を小馬鹿にしてない?」ムスッとしたリーファに愛想笑いをしながらキリトは後退りしながらエギルの背後に隠れエギルは笑いながらもキリトを庇ってやっている。「キリト、これはクラインの台詞なんだろうがさっきのはなんだ?勿論スペルブラストじゃない方な、お前さん敵の魔法を斬る前に目を閉じたろ?あれは新しい魔法か、それともスキルか?」「そうよ、あれを説明してもらわないとどうも納得しないんだけど」「私はその剣が気になるんだけど、勿論答えてくれるわよね?」「皆さんあんまり質問攻めにしちゃキリトさん大変ですよ〜」エギルにシノン、リズベットから矢継ぎ早に質問されキリトはあうあうと困ったように質問者達の顔を見ていてシノン達の後ろにいるシリカとアスナに助けてと視線を送るが先ほど助け舟を出してくれたシリカも、恋人であるアスナも哀れんでいるような目をしているがその奥には好奇心が見え隠れしている。クラインとリーファは面白くなさそうにキリトを見ていてもっと困ればいいとさえ思ってそうな目をしていた。「ではここからはパパに変わって私が説明しますね?」「おぉ!頼むよユイ」キリトの肩に止まったユイが父親の真似をしてコホンと咳払いした後に今回の件の説明を始めた。「まずはパパが目を閉じたまま敵の攻撃を斬れた理由ですがこれはパパの新しいシステム外スキル『危機察知(センシングデンジャー)』です。簡単に言うと索敵スキルの豪華アップデート版ですね。別の言い方をすると第六感、とも言えると思います。元々この現象はGGOでも働きました。パパ曰くこの力で遠くから放たれたサイレントアサシンの弾丸を回避できた、だそうです。センシングデンジャーが本格的に使えるようになったのは右目の視力を失ってからですね。パパはナーヴギアとの親和性が極めて高く現実世界で死角が増えた分それを補おうと脳の一部が鋭敏化した為にそれがALOで反映されたのでしょう。それ故精神集中という形を取る事で敵の直接的な攻撃や迫ってくる魔法による攻撃に含まれる闘気や剣気、更には殺気までをも感じられるようになったのです。これがパパが敵の、しかも死角からの魔法攻撃を目を閉じていたのに斬れた理由です」全員がユイの説明を聞くがポカンとしてしまっている。システム外スキルは最早キリトの専売特許になってしまっているようで剣技連携(スキルコネクト)、魔法破壊(スペルブラスト)、危機察知(センシングデンジャー)…誰にも真似出来ない三つのスキルはOSS(オリジナルソードスキル)と同等、もしくはそれ以上の価値があるはずだ。しかし今回のシステム外スキルに関しては以前からその様な現象があったものの引き金を引いたのは病気とは何とも皮肉である。「では話を続けますね、次はパパの新しい剣の事ですね。あの剣は『濡れ羽色の[[rb:剣> つるぎ]]と言います。片手用直剣では最軽量に分類されています。本来あれを所有していたのはシルフ領主のサクヤさんでした、ただサクヤさんは刀をメインの武器にしていますし剣の色合いがパパ好みだろうという事で内々にパパが譲り受けました。しかしパパは皆さんが知っての通り筋力要求(STR)値の高い武器を好みますので日の目を浴びるのはだいぶ遅くなりましたけど…」「へぇ〜サクヤさんと会ってたんだ、な・い・な・いに…キリト君?」「え、えぇ……いや、だって領主様から武器を譲り受けるなんて…しかも他種族のヤツがって話が広がったらさ、だから言えなかったんだよ〜」先程と打って変わって冷たい視線を投げかけられたキリトはアスナにひたすら頭を下げ許しを乞うた、それを見てシノン達は頬を緩ませる。そんな中クラインがようやく異変に気付いた。「おい、クリスの旦那、もう終わってるぞ?いつまでそうやって…ってあれ?」「あぁ、クリスハイトは今ログアウトしてるよ。俺がユイに頼んだんだ、多分今は須郷のいる刑務所に行ってるはずだ。上手くログアウトする前に現場を押さえられてればいいんだけどな」オベイロンと出くわした直後キリトはユイを挟みクリスハイトに隙を見つけてログアウトし須郷のいる刑務所に行くように依頼したのだ。キリトの見立てでは今回の一件は須郷一人の手によるものでは無く協力者が複数人おりALOに手引きしたと思われた。そこで総務省の肩書きを持つ菊岡誠二郎に動いてもらいダイブ中の現場を押さえ関係者もろとも捕まえられるようにと手を打ったのだ。「と、言う事でみんな、77層の散策は後日に回して今日はログハウスで攻略記念パーティーでもしないか?」「お、いいわね!ボス攻略でお金はたんまりあるし食材や飲み物買って行きましょっ!」「そう言えばさっきフィールドに出る前に街中で珍しい食材を売ってるお店ありましたよ?」「ならまずそこに寄って行くか?飲み物は俺とアスナとユイで買って行くよ、エギルとクラインはクリスハイトをログハウスに運んでくれないか?」キリトの鶴の一声でワイワイと歩き出した一同は先ほどの騒ぎが嘘のように笑顔が溢れ楽しげに街の方へと消えて行った…「ねぇキリト君、眼帯外さないの?」「お!忘れてた…これで…良しと」みんなから頼まれた飲み物類を買ってログハウスに戻る途中アスナから指摘され慌てて眼帯を装備フィギュアから外したキリトは少し恥ずかし気に頬を掻いた。現実世界では当たり前だった眼帯にALOの中でもすっかり慣れてしまっていた事に若干のショックを感じていたキリトだったがアスナはそれをクスクスと笑う。「本当にありがとうキリト君、また私を守ってくれて…それに眼帯姿で戦うキリト君もカッコ良かったよ?隻眼の剣士様?」人目が無くなったところで腕を絡ませて来たアスナに今度は顔中を真っ赤にしてキリトはう〜とかあ〜とか口から漏らしながらログハウスまでの湖畔の道を歩いていくのだった…ー 三日後 銀座 ー「じゃ、須郷はキチンと処分を重くされたんだな?」「そうだね、以降の更生プログラムはアミュスヒィアを用いた物から対人対面式の物に変更。それに無断でALOの管理者コードを使用した件でそれを許可した運営側の内通者共々運営企業側に被害届を出されているからまた裁判になるかもしれない。今回の件で須郷伸之に協力していた刑務官、そして更生プログラムを担当していたカウンセラーは懲戒免職の後法律上の問題があれば逮捕・検挙になるだろうと思うよ」以前も目の前に座る総務省の官僚様と話をした高級感ある喫茶店内で和人はALO内の姿とは比べようもないほど地味な雰囲気を放つ菊岡から三日前に起こった件に対する報告を受けていた。一通りの報告を済ませると菊岡は生クリームたっぷりのシュークリームを美味しそうにかぶりつく。それを見て周りから放たれる痛々しい視線を存分に感じ和人はため息をつくがここに来てもう8回を数えている。「ところで結城さんは一緒じゃなかったのかい?」「菊岡さん…あんた明日奈に嫌われてるっていい加減気付いてくれよ…あそこまで露骨に明日奈が嫌ってる人間なんていないぞ…」いや〜そうかな?などと笑っている菊岡に和人は9回目のため息をつきながら季節のイチゴを使ったミルフィーユなるものをフォークで崩しては口に運ぶ動作を他人のような顔をして繰り返した。「…では僕はこの辺で失礼するよ、後ここのマカロンをお土産用で準備してもらうから結城さんに渡しておいてくれないかい?…それから今回の件、ご苦労様、君のおかげでまた一つ仮想世界で芽吹こうとしていた闇を摘む事が出来たよ。本当は僕達大人がしっかりしなくちゃいけないんだけど…本当にありがとう」「いや、須郷の事については俺も無関係じゃないしな…それにもう二度と明日奈を悲しませたくないから」しっかりとした口調で話す和人の左目はどこまでも真っ直ぐだった、それを見て笑った菊岡はコートを手にすると出口の方へと歩いていく…だが途中で振り向くと店の雰囲気などかんがみずに笑顔で手を振りながらこう残して店を後にした。「じゃぁ次はALOで会おう、隻眼の剣士君?」今度こそ店中から冷たい視線を一斉に浴びた和人は手から熱々のブラックコーヒーの入ったカップを自身の膝に落としたのはその直後である。「あっ!!ちぃーーー!!!」勿論だが後日ALOで再開したクリスハイトにアスナだけで無くキリトも冷たくなったのは言うまでもないだろう…END