第397回  ぶくぶく - その1

 南の海からの魚の到来にワーワーと湧いている内に気が付いたらもう12月です。水温は確実に低下を続け、海の中で行き交うダイバーもドライスーツ姿が大多数に成って来ました。でも、Cカード取得時に

  「1年中潜る。凍死してもウェット」

の誓いを立てたウェッターズとしては、6半のスーツを手放す事は出来ないのです。でも、可能であるならば温かく潜りたいと言う思いは勿論強くあります。

  「水中で使えるカイロがあればなぁ」

とは、ダイバーの間で良く話題になるテーマです。そんな思いから、水中でも使えるカイロを自作した事が以前ありました。確かにそれは水中で使用可能な発熱体ではあったのですが、さほど持続時間がなく、温かさを最も必要とするダイビング後半には殆ど冷えてしまっており、更に、仕様前に毎回加熱せねばならないと言う面倒さもあり、一時の話のタネに終わってしまいました。

 そんな時の事。地元東伊豆で魚の生態のお話が出来る数少ないダイビング・ガイドの一人である瓜生さんが、

  「入浴剤のバブをスーツの間に入れて潜ると暖かい」

とご自身のブログで紹介されていたのが目に止まりました。

  「なに~~っ? 入浴剤を~~?」

500円玉より大きい位の錠剤を浴槽に入れると、ブクブクと泡を出して独特の色と香りに湯を染めて行く、あの入浴剤です。それで体を暖めるなんて想像した事もありませんでした。こんな無茶苦茶面白そうな事を見逃す訳には行きません。

  「是非とも試してみたいっ!」

もう既に遣る気満々です。

 でも、ただ、

  「やってみました、こうでした」

だけでは面白くありません。徹底的に掘り下げてやろうじゃありませんか。

 と言う訳で花王のバブを近所のドラッグストアで買って来ました。

 このバブ・ネタで僕が意外に思ったのは、

  「入浴剤って発熱するものだったのか?」

と言う事でした。入浴剤の働きは、お風呂から出てからの湯冷めを低減する事なのだと思っていたのでした。つまり、一旦温まった体を冷めないようにするのが仕事であり、それ自身が発熱するなどとは思っていなかったのです。

 でも、特別に体を温めてもいないのに、そのまま海に入ってもホカホカすると言うのですから、やはり幾ばくかの発熱があるのでしょう。そこで、このバブに含まれる成分を調べてみました。

 炭酸水素ナトリウム (いわゆる重曹)、
 炭酸ナトリウム、
 炭酸カルシウム、
 フマル酸

と言う所が主成分のトップ4成分です。これを見ると、

  「なぁるほど、そう言う事なのかぁ」

と、入浴剤がブクブクとお馴染みの泡を出す仕組みが大凡想像できます。単純に言えば、弱塩基性の重曹と酸性のフマル酸による中和反応と考えればよいのでしょう。

 上の反応によって生じる二酸化炭素が、あのブクブクの小さな泡となって出て来ているものと思われます。

 ただ、この2つの成分がお風呂に入れる前に袋の中で勝手に反応してしまっては困る訳です。でも、そこにも一工夫が凝らしてあります。フマル酸も重曹も室温では固体なのです。ですから、フマル酸、重曹それぞれの粒を個別に作ってから混ぜてあるのでしょう。

 袋の中で両成分が触れ合ったとしても点と点の接触程度ですので、反応はごく僅かです。それが水に溶けるとそれぞれが均一に触れ合い、反応が一気に進むのであります。或いは、袋の中での僅かな接触すら避ける為に、それぞれの粒の表面に別の成分の粉をまぶしたり、コーティングしたりしてあるかも知れません。

 以上がバブのブクブクの仕組みであるらしい事が分かりました。ですから、この全行程を通じての、

  • 成分が水に溶ける際の溶解熱
  • フマル酸と重曹の中和反応の反応熱
  • 炭酸ガスが放出される脱炭酸反応の反応熱

以上の合計の熱量が「暖かさ」として感じられる筈なのです。但し、上の「熱」と言う言葉は必ずしも「発熱」を意味するのではなく、場合によっては「吸熱」の場合もあります。その時は周囲から熱を吸収しながらの進行になり「暖かい」どころか「冷たく」感じられる結果となります。

 では、実際にバブはどれほど発熱出来るものなのでしょうか。もうこれは小難しい事言う前に実際に自分で試してみるのが一番です。

 そこで、まずプラスチック容器に500ccの水を入れました。

ダイビング中、ウェットスーツと体の間にある海水はこれ位の量はあると想像しての事です。この水を5℃上昇出来るとすれば、ウェットスーツの下の海水も5℃上がってホカホカする筈です。

 水を室温に暫く馴染ませてから測定した水温は14.0℃でした。さあ、それでは愈々バブの投入です。これ一つで40g です。香りはベルガモット・リーフ。

 投入と共にシュワーッと泡立ち始め、水が見る見る内に緑色に染まって行きます。お風呂だったらいいのかも知れないけど、こんな小さな容器の中だと何だか毒々しい色です。

  「さあ、水温はジワジワ上がって行くのかな」

と目盛を見つめるのですが、

  「あれっ?」

水温計の水銀は殆ど動きません。それどころか、少しずつ下がっている様に見えるのです。そして、バブ投入から15分後。

 水温は12.5℃になってしまいました。バブ投入後から1.5℃の低下であります。

  「ええ~っ!」

これは意外な展開。この結果が本当ならば、バブをウェットの下に忍ばせて海を潜ったら体が冷える事になります。そ、そんな筈はありません。そこで、今の測定をもう一度考え直してみました。

 ひょっとしたら、バブが溶けるのに15分以上を要したので、その間に低い室温の影響を受けたのかも知れません。何しろ我が家にはエアコンもストーブもないもので。

 そこで、今度はこの入浴剤を一気に水に溶かす為に粉々に砕いて水に入れる事にしました。更に、入浴剤自身の影響も見る為に、更に別メーカーの物を買って来て試してみます。今度はTOP VALU ブランドの量販品です。1つの重量は同じく40g。

 これを袋の中で粉々に砕いて、500ccの水に一気に投入しました。

 さすがにこの粉砕法は効果てきめんで、泡が一気に湧き立ち、入浴剤は1分ほどで全て溶けてしまいました。それで、肝心の水温は・・・

 う~ん、初め12.5℃だった水温が11.5℃。やはり、1.0℃の低下です。入浴剤の種類や測定のバラつきなどを考慮しても、

  「入浴剤は決して発熱しない」

とは結論付けてよい様に思います。それどころか、逆に吸熱するのです。

  「これで本当にダイバーを暖める事が出来るのか?」

こりゃあ、面白く成って来ました。そこで、実際にこの入浴剤を持って富戸の海へと向かったのでした。