平成26事務年度金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)の公表について
新日本有限責任監査法人
金融アドバイザリー部 エグゼクティブディレクター
金融庁は、9月11日、「平成26事務年度 金融モニタリング基本方針」を公表した。「金融モニタリング基本方針」は、昨平成25事務年度に、金融機関や金融システムに対するより深度ある実態把握のため、従来の「検査基本方針」に替え、検査局の検査機能・監督局のオフサイト・モニタリング機能を一体化し、今後実施する検査を「金融モニタリング」と定義し、監督局の「オフサイト・モニタリング」、検査局の「通常検査」及び「ターゲット検査」のモニタリング手法を組み合わせるなど、「枠組みの見直し」及び「検査手法の見直し」を柱とする「金融モニタリング基本方針」として公表された。本年度においては「オンサイト・モニタリング」と「オフサイト・モニタリング」の運用の一体化及び監督・検査の連携を一層図る観点から、監督方針と金融モニタリング基本方針を統合し、金融商品取引業者等を除き、一体化した方針として策定・公表されている。
「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」は、「Ⅰ.今事務年度の監督・検査の基本的な考え方」、「Ⅱ.重点施策」、「Ⅲ.具体的なモニタリングの取組み」、「Ⅳ.主要行等に対する監督・検査」、「Ⅴ.中小・地域金融機関に対する監督・検査」、「Ⅵ.保険会社等に対する監督・検査」及び「Ⅶ.金融商品取引業者等に対する監督」の7章で構成され、9項目の重点施策等が示されるなど、今後の各金融機関の業務運営を改善する観点や新しいステージに入った金融モニタリングに対し適切な対応を図る観点からも十分な留意が必要である。
以下は、今般公表された「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」の概要である。
Ⅰ 今事務年度の監督・検査の基本的な考え方
デフレ脱却と金融機関が適切なリスク管理の下、適切な金融仲介機能を発揮することで、企業・経済の持続的な成長につなげ、これによって、金融機関の経営の健全性も持続的に維持される「好循環」を実現するという基本的な考え方は、昨年度と大きな変更はないようである。
Ⅱ 重点施策
重点施策は、①顧客ニーズに応える経営、②事業性評価に基づく融資等、③資産運用の高度化、④マクロ・プルーデンス、⑤統合的リスク管理、⑥ビジネスモデルの持続可能性と経営管理、⑦顧客の信頼・安心感の確保等、⑧東日本大震災からの復興の加速化、⑨公的金融と民間金融 の9項目が掲げられている。これらの重点施策は各業態の規模・特性等に応じて、具体的な着眼点・検証項目等として示されている。特に、「資産運用の高度化」ついては、投資信託販売態勢(金融機関が果たすべき役割・責任に関する経営の考え方、業績評価、現実に提供されている金融商品・サービス等)について、検証が行われるものと思われるので留意が必要である。「公的金融と民間金融」については、公的金融と民間金融の競合・補完状況がどのようになっているかについて実態把握を行い、公的金融と民間金融のより望ましい関係をいかにして実現するかといった観点から、新たに取り上げられている。
Ⅲ 具体的なモニタリングの取組み
金融モニタリングへの取り組みについては、①オンサイト・オフサイトモニタリングの一体化、②より良い業務運営に向けての建設的な対話の促進、③国際的な連携の強化、④関係者との対話の充実、情報収集の強化の4項目が掲げられている。特に「オンサイト・オフサイトモニタリングの一体化」については、昨年度から取り組んでいるものの、必ずしも情報の共有がスムースにいかず、金融機関の負担増等を招いているという面も伺われることから監督・検査両局における一層緊密な連携が期待される。
Ⅳ 各業態に対する監督・検査
1. 主要行等に対する重点施策及びモニタリング上の着眼点・検証項目等
(1)「産業の新陳代謝・経済の成長を支える成長資金の供給」に関しては、取引先企業の適切な評価、解決策の提案及び実行支援を、高度なサービスの提供が可能であるという主要行等の特長を踏まえ、前広かつ適切に行っているか検証するとしている。
(2)「顧客ニーズに即したサービスの提供」に関しては、①顧客ニーズ等を踏まえた適切な商品・サービスの提供、②顧客の利便性向上のための取組み(資金決済高度化等及び身体障がい者や高齢者への対応等)について検証するとしている。
(3)「顧客の信頼・安心感の確保等」に関しては、①業務の継続性の確保(システムの安定稼働及び業務継続体制の整備)、②情報セキュリティ管理の徹底、③サービスの不正利用の防止(インターネットバンキング不正送金への対応、マネー・ローンダリング・テロ資金供与への対応及び反社会的勢力との関係遮断等)、④TIBOR等の金融指標の不正防止を含め信頼性・透明性の維持・向上に向けた態勢整備等が検証項目とされている。
(4)「フォワードルッキングなリスク管理」に関しては、①グローバルな市場の変化等に対応したマクロ・プルーデンスの視点に基づく機動的な経営管理態勢及びリスク管理態勢の構築状況等、②統合リスク管理態勢等の確立・強化の状況(特にG-SIBs 等については、ストレステストの実施を通じたリスク管理態勢の更なる高度化、リスクアペタイトフレームワークの構築・活用、グループ全体のリスク管理の高度化、海外拠点等を含めたグループ・ベースでの与信管理・外貨等流動性リスク管理態勢の構築)等が検証項目とされている。
(5)「グローバル化に対応した経営管理態勢の構築」に関しては、①国際水準を見据えたグループ全体の経営管理の向上、②海外(クロスボーダー)業務の拡大を支えるリスク管理態勢の充実(特に、各国金融規制が急速に変化している中、外国当局から多額の罰金を科される事例が発生していること等を踏まえたオペレーショナルリスク、コンプライアンスリスクの管理態勢の向上に向けた取組み)、③海外金融機関の我が国における業務展開への対応(本店による適切な監督・支援)等が検証項目とされている。
2. 中小・地域金融機関に対する重点施策及びモニタリング上の着眼点・検証項目等
(1)「地域経済・産業の成長や新陳代謝を支える積極的な金融仲介機能の発揮」に関しては、 取引先企業の適切な評価、解決策の提案及び実行支援(企業の成長可能性や持続可能性を適切に評価するための取組状況及び取引先企業の状況に応じた適切な解決策や実行を支援するための取組状況)等について検証するとしている。
(2)「顧客ニーズに即したサービスの提供」に関しては、①顧客ニーズ等を踏まえた適切な商品・サービスの提供、②顧客の利便性向上のための取組み(資金決済高度化等及び身体障がい者や高齢者への対応)等が検証項目とされている。
(3)「顧客の信頼・安心感の確保等」に関しては、①業務の継続性の確保(システムの安定稼働及び業務継続体制の整備)、②情報セキュリティ管理の徹底、③サービスの不正利用の防止(インターネットバンキング不正送金への対応、マネー・ローンダリング・テロ資金供与への対応及び反社会的勢力との関係遮断)等が検証項目とされている。
(4)「フォワードルッキングなリスク管理」に関しては、①金利等の水準やボラティリティの動向等マクロ・プルーデンスの視点に基づくリスク管理態勢、②統合的リスク管理態勢の確立、ビジネスモデルに応じたリスク管理態勢及び収益管理態勢の充実(管理手法の妥当性)等が検証項目とされているほか、適切な金融仲介機能を持続的に発揮する観点から、「財務基盤の強化」が掲げられ、「資本増強を視野に入れている場合には、その選択肢の一つとして、金融機能強化法の活用について検討を促していく。」とされている点には留意を要しよう。
(5)「経営管理態勢の強化」に関しては、各金融機関の経営管理態勢の機能状況(社外取締役の確保及び社外取締役が有効に機能するための態勢整備、持株会社の役割の明確化及びグループ全体の経営管理高度化に向けた取組み状況)等が検証項目とされているほか、顧客サービスの向上等の観点から、中長期的な観点に立って、経営戦略とIT 戦略が整合的なものとなるよう、専門人材の育成・確保も含め、経営陣が主体的に議論することを促していくとしている。
3. 保険会社等に対する重点施策及び監督・検査上の着眼点・検証項目等
(1)「保障・補償機能の適切な発揮」に関しては、①保険金等支払管理態勢の組織的、継続的な機能発揮、②利用者利便等の視点に立った迅速かつ適切な請求案内事務等の実施のための態勢整備、③保険契約者の立場に立った能動的な取組み等が検証項目とされている。
(2)「顧客保護と利用者利便の向上」に関しては、①適切な保険募集管理態勢の確立(代理店等の管理態勢、商品内容説明態勢、アフターフォロー態勢の整備状況等)、②相談・苦情処理態勢の充実、③業務の継続性の確保(システムの安定稼働及び業務継続体制の整備)、④外部委託・再委託も含めた情報セキュリティ管理の徹底(クラウドサービスにおける顧客データの運用状況の確認等)、⑤サービスの不正利用の防止(不正請求防止への対応、マネー・ローンダリング・テロ資金供与への対応及び反社会的勢力との関係遮断)等が検証項目とされているほか、当局としても保険に対する顧客ニーズが多様化する中、商品審査の実効性の確保及び迅速化に取り組んでいくとしている。
(3)「リスク管理の高度化の促進」に関しては、統合的リスク管理の促進(統合的リスク管理態勢の整備、保険引受リスク管理態勢、資産負債の総合的な管理(ALM)の状況、資産運用能力の向上)等が検証項目とされているほか、ORSA(Own Risk and Solvency Assessment)の制度化やソルベンシー評価の見直し等について引き続き検討を行うとしている。
(4)「経営管理態勢の強化」に関しては、①取締役会等の機能発揮状況(社外役員を含めた取締役会等の議論等の状況)、②監査態勢の強化(監査役監査、内部監査、外部監査の連携及び機能発揮状況)、③経営戦略等(中長期的な経営戦略や経営課題についての経営陣の認識、事業計画や営業目標の進捗状況)等が検証項目とされており、特に、大手保険会社については、監査役に対しヒアリングを行い、実効性のある監査態勢が構築されているか検証を行うとされており十分な留意が必要である。
4. 金融商品取引業者等に対する重点施策及び監督上の着眼点・検証項目等
(1)「顧客ニーズに応える経営(資産運用の高度化)」に関しては、「好循環」の実現を目指していく必要があるとの観点から、①金融商品取引業者等の経営の考え方、業績評価、金融商品・サービス等(投資運用業者については、フィデューシャリー・デューティーを踏まえた商品開発・運用及び系列の販売会社との間で運用の独立性の確保、証券会社等については、顧客ニーズ・利益に真に適う商品の提供)、②顧客の適合性を踏まえた商品説明や商品自体の透明性を確保(投資運用業者については、商品内容やリスク特性、運用体制等に関し、投資家に対する情報開示に向けた積極的な取組み、証券会社等については、顧客が商品のリスク特性や販売手数料等について十分に理解した上での投資を実施するための顧客説明態勢の整備)が検証項目とされていることには十分な留意が必要である。また、当局としても、NISA 導入の趣旨等も踏まえ、投資家の金融リテラシー向上に向け、金融経済教育の促進に向けて取り組むとしている。
(2)「金融商品取引業者等の健全性の確保」に関しては、大規模証券会社グループ等について①フォワードルッキングなリスク管理、②グローバルな視点からの監督(国際水準を見据えたグループ全体の経営管理・リスク管理の向上や海外(クロスボーダー)業務の拡大を支えるリスク管理態勢の充実)が掲げられていることに留意を要する。
Ⅴ 各業態に対する監督・検査の手法
(1) 主要行等
①3メガバンクグループについては、「水平的レビュー」の下、共通する重要課題(例えば、グループ経営管理、海外業務等)を検証項目とし、統一目線でベストプラクティスや業界共通の実態・課題の把握などを重点とし、オフサイト・モニタリングを基本としつつ、必要な範囲でオンサイト・モニタリングを実施するとしている。
②その他の主要行等については、ビジネスモデルの多様性にかんがみ、オフサイト・モニタリングやターゲット検査など、各金融機関のリスクプロファイルに応じたモニタリングを実施するとしている。
③外国銀行支店等については、個別の在日拠点の業務内容やリスク特性に見合ったリスク管理態勢が整備されているかを中心にモニタリングを実施、オフサイト・モニタリングを基本として、必要と認められる在日拠点にオンサイト・モニタリング(ターゲット検査)を実施するとしている。
(2) 地域金融機関に対する監督・検査の手法
①地域銀行については、規模等に応じて複数のモニタリング・チームを組成し、日常的に検査局・監督局(財務局を含む)一体でモニタリングを実施していくほか、継続的なデータ収集・分析・ヒアリングによるプロファイリングの充実を中心とした、オフサイト・モニタリングを実施するとしており、必要な範囲でターゲット検査を実施するとしている。また、経営管理のあり方などの業界横断的な重要なテーマについては、「水平的レビュー」の手法を活用、オフサイト・モニタリングを基本として、必要な範囲でオンサイト・モニタリングを実施するとしている。
②協同組織金融機関(信用金庫・信用組合)については、各財務局の検査・監督部門が一体となってモニタリングを実施するとしている。なお、「水平的レビュー」についての言及はなく、当面、実施されないものと考えられる。
(3) 保険会社等に対する監督・検査の手法
大手保険会社に対しては、前事務年度に引き続き、「水平的レビュー」による検証を基本とし、水平的レビューの実施に当たっては、オフサイト・モニタリングを基本としつつ、必要な範囲でオンサイト・モニタリングを実施するとしており、社外取締役、監査役、内部監査部門との意見交換を重視するほか、各事業部門からのヒアリング等により、実態把握を進め、潜在的なリスクに対する感度を高めるとしている。なお、当局として保険監督者国際機構(IAIS)等における、保険監督の強化等に係る国際的な議論の進展を踏まえ、必要な対応を進めるとしている。
(4) 金融商品取引業者等に対する監督の手法
金融商品取引業者等に対する検査は、証券取引等監視委員会が担っていることから、「金融モニタリング基本方針」では監督手法のみが示されているが、実施に当たっては、必要に応じ同委員会との緊密な連携を強化し、「水平的レビュー」の手法を活用するとしている。特に、国際的に活動し大規模で複雑な業務を行う証券会社グループ等については、各事業部門からビジネス動向に関して随時ヒアリングを行うこと等により、リアルタイムの実態把握を進め、各国金融行政当局等と連携を強化し、グローバル・ベストプラクティスを念頭に置いた検証を行うとしている。
以上が、今般公表された「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」の概要である。当該方針の前文にもあるように、昨年度から策定・公表されている「金融モニタリング基本方針」は、平成19事務年度より金融庁で取り組まれている「ベター・レギュレーション」(金融規制の質的向上)の一環である。本年度においても、検査局・監督局の連携を一層進める観点から、金融モニタリング基本方針と監督方針の統合が行われ、手法的にも「オフサイト・モニタリング」により重点が置かれている。今後とも必要に応じ見直されるものと思われるが、金融モニタリングの基本的考え方である①マクロ・プルーデンスの視点、②重要なテーマについて業態横断的な実態の把握・分析、課題の抽出、改善策の検討(水平的レビュー)、③より優れた業務運営(ベスト・プラクティス)に近づくといった観点で、引き続き、金融モニタリングが実施されるものと考えられる。各金融機関においては、「より質の高い業務運営及び商品・サービスの提供」が求められていることを念頭に、「建設的な対話」を進めることが肝要であろう。
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