午後、「丁度チョッサー(1等航海士)が揚げ荷前のホールドチェックに廻るから付いて行ったら良いよ、チョッサーは本船に乗船前に“自動車船海技チーム”で当社が運航する60隻余りのPCC(Pure Car Carrier:自動車専用船)の積み付けを担当していたから面白い話も聞けると思うよ。」という船長の言葉に、カワサキ君はチョッサーに付いて垂直梯子を何段も降りて、やっと一番下の車輌甲板にたどりつきました。チョッサーがカワサキ君ににやにやして聞きます。

「カワサキ君の身長はどのくらいかな?」

「175cmです」

「それならこの車輌甲板を全速力で走っても頭をぶつける事はないね。この車輌甲板は高さが185cmあるんだよ、昔の船は165cmとか170cmで背の高い人は首を曲げて猫背にして歩いたものなのだ。ところがここ数年前から、車高が170cm前後のRV車の輸出が多くなって、一定幅の間隔(8cm~10cm)をとったら170cmデッキには積めないので、最近の自動車専用船では最低でもデッキの高さを185cmにしている船が多いんだよ。」

整然と並べられた完成車、カワサキ君もよく街の駐車場に車を入れる事はあってもこんなにきっちり、無駄なく積んでいるのを見たことはありません。そこでチョッサーに質問しました。

「全部で何台の乗用車を積んでいるのですか。予定の車両を積み切れなくなる事はありませんか。」

「本船の積載能力は6,000RTなんだけれど、RTというのは長さ4.125m、幅1.55mの乗用車のモデル名で積み付け台数を表す単位なんだ。つまり1RTの乗用車を、前後30cm、左右10cmの間隔をとって6,000台積めるという事なんだ。ということは、本船の有効車輌積載面積は(4.125+0.3)x(1.55+0.1)x 6,000=43,800㎡になる。つまり、公式サッカーグランド(縦105m、横68m:面積7,140m2)の6面分以上に相当する広さの駐車場に、びっしりと乗用車を積むことと同じになる。もっとも、今の乗用車は全体的に大きくなっているから、平均して長さ4.5m、幅1.7mとすると、1台当たりが4.5×1.74/4.15×1.55で1.25RT位かな。そうすると本船で4800台の乗用車を積む事が出来ることになるんだ。
今回の航海はエキスカベーター等の大型の建設用機械を積載しているので、7デッキのデッキパネル2枚をリフトアップしているから実際には4,752台の積載になっている。この積み付けプラン(ストウェージ・プラン)は東京の本社で作成していて、私も3年間やっていたんだ。パソコンが普及する前の初期の頃は、100分の1の各デッキ毎の図面に、各乗用車のサイズを同様に100分の1の形に切り取った“型紙”を並べていって、何台積めるのか検討をしていたんだ。しかし、今は、各船の図面をコンピューターで入力し、積載車両のモデルも自動的に入力して、積み付けプランの作成をパソコンの画面で手早く出来るSPS(Stowage Planning System)を開発したんだ。
本船“まりんはいうぇい”の貨物艙は12デッキあり全部で41区画に分けられているんだ。実際のストウェージ・プランでは、サイズの違う各車両を前後30cm、左右10cmの間隔で、余すスペースなく効率良く積むのだけれども、現場でもし1区画に予定より1台ずつ積み台数が減ったら全部で41台が入らなくなってしまう。接触等のダメージ発生の恐れを気にして、ゆったりと積み付けては折角のスペースが勿体無い、採算にも影響するしね。」

カワサキ君はスターンランプ(車輌積載口)付近に、まだ10台ほどのスペースがあったことに気がついたのですが、これは10個の区画にはそれぞれ予定より1台ずつ多く積載したのだと納得しあえて質問を控えました。

積み付けプラン(12デッキ)

なんでも来いのPCTC

カワサキ君はチョッサーに付いて最下層の1デッキから狭い垂直梯子を登り、6デッキに出てきました。この垂直梯子の入口には蓋がつけられています、この蓋は万が一火災などの時には火はもとより、煙が他の区画に廻らないように航海中は閉めていくのです。また、車輌甲板の41の区画は、5つの防火区画に分かれていて、仮に一つの区画で火災が起こっても、他の区画には火災が延焼しないようになっているそうです。

さて6デッキの後部スターンランプ付近に辿り着いたカワサキ君は、大型車輌を目にしました、よく工事現場で見かけるあれです。

「チョッサー、あんなものまで積むのですか、乗用車だけかと思いました。」

「あれはエキスカベーターと言って、高さが399cm重さが35トンもある重車輌なんだ。本船の6デッキは、通常では高さが240cmしかないから、その上層の7デッキのパネルを2枚持ち上げて、その部分を高さ440cmに調整してあの貨物を積載したのだよ。7デッキは元々210cmのデッキだから、200cm迄の高さの乗用車の積載場所で、2枚しかパネルを上げなかったのは7デッキの他のスペースを有効に使うためなんだよ、勿論パネルを持ち上げた7デッキの2枚分約40台のスペースが積むことの出来ない無駄なスペースになってしまうが致し方ないね。」

「あんな重車輌を積んだらキャタピラーで、デッキに損傷を与えるのではないのですか。それに時化の時に動き出すことも?それにこの間キャプテンから聞いた復元性も小さくなるんじゃないのでしょうか?」

チョッサーは、スターンランプ入り口に置かれている古いホーサー(係留用ロープ)を指差して

「積み込み時はデッキの損傷を防ぐ為に、キャタピラーの下にホーサーや板を敷きながらデッキ面を傷つけないようにゆっくり動かして積み込むのだよ。それに固縛金具も大型車用のSWL(使用安全強度)1.5トンの物を使って、その車両の重量に見合った充分な本数を取っている。大型車輌は余り船体の重心を高くしないように、また、他の乗用車積載デッキよりもデッキ強度を大きく設計している乗り込みデッキ(スターンランプの架かるデッキ)に積載するのが常だね。最近建造されている大型車積載可能の自動車専用船PCCは、PCTCとも言われ、PURE CAR /TRUCK CARRIERの略で、トラック、バスは元よりブルドーザーやエキスカベーターの類まで積載する事が出来るんだよ。」

(注:当社のPCTCでは、一部上部デッキに建設機械を積載する船がありますが、復元性の計算をして、安全に運航が出来るように、重心を下げるべきバラストの調整、追加補油等万全を期しています。)

「ところでカワサキ君、名古屋でスターンランプから乗船した時に何か数字が目に付かなかったかい?」

「そういえばSWL○○トンというのと、H=240、265,440ですね、なにを意味する数字かわかりませんでした。」

「先に言ったSWL100トン、つまりこのスターンランプには100トンの荷重の車両まで走行可能で、あとは6デッキの高さが、先に言った7デッキをリフトアップする事で、265cmにも440cmにもなるという事だね」

なにからなにまで新しい事のチョッサーの説明に、カワサキ君は息を呑むばかりでした。