ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 僕は・・・2017年2月26日 05:31「ポッド153より9Sへ受信。ブラックボックス反応感知。バイタルチェック、オールグリーン」・・・・なんの、声だ。「ポッド042、そちらはどうか」「ポッド042よりポッド153、2Bのブラックボックス適正温度へ上昇中、再起動まで予測、残り530秒」このなじみ深い機械的な音声は、僕はよく知っているはずだ。だが自分の記憶媒体と音声感知システムが上手く起動できていないのか、聞き取る音声はとても籠っていて、うまく表現できないが、気持ちが悪いと思った。・・・・まて、今、何か言ったか。「2・・・・B・・・」記憶媒体のチェックは終わっていない、なんなら自分の身体機能チェックも、己の音声媒体の再起動も手順通りにはやっていない。それでも、勝手に、何よりも先に、そう僕は呟いていた。「ポッド153よりポッド042へ、9Sの再起動を確認」「9、S・・・?」誰の事だ、それは、僕の事なのか。・・・そうだ僕だ、理解するのに数秒遅れてしまった。「おはようございます。9S」聴きなれたその音声は、仰向けになって倒れていた自分の頭上から聞こえてくる。完全にダウンしていた視界が戻ってきていた。眩しい。「ポッド・・・、ここ、は・・・・僕は・・・」「警告、9Sの記憶媒体に深刻なウィルスダメージの痕跡。7日前のブラックボックス完全停止による破損が原因と予測、提案、・・・緩やかな記憶データの自己修復」・・・緩やかに、とは。随分と人間くさい、いや、アンドロイドみたいな感覚的な発言をするものだ。「僕は、・・・っそうだ、A2と戦って・・・」がばっっと起き上がる。緩やかにとは言われてるけど、そんな悠長に言えるような記憶は、今の段階では戻ってきていない。自分の最後の記憶は、2Bと、いや、2Bそっくりに髪を切り落として、2Bの顔で、姿で、2Bを刺し殺したあのA2と殺し合って、相討ちして、完全に機能停止したその瞬間までだ。「・・・・僕は死んだんじゃないのか」「否定、・・・否、一部肯定する。ヨルハ部隊、スキャナーモデル九号S型は、7日前でのヨルハ近接戦闘プロトタイプ、二号との戦闘によりロスト。ブラックボックス信号も完全停止した」「なら、なんで・・・・」「報告、我々は当初の計画通り、ヨルハ部隊全滅を見届け、後にすべての残存データを削除し、ヨルハ計画の完遂を目的としていた。だが、それを中止。ポッド153の提案により、9S、および2B、A2のパーソナルデータを削除せず、サルベージすることを決定した」耳を疑う話だった。この、ポッドは僕らのサポートをすることを主としていて、そこに、僕らアンドロイドのような感情、個性はユニットに組みこまれていない。つまり、命令に背くという概念は持ち合わせてないはずなのだ。そして、ポッド達には、ヨルハ部隊を監視すること、全滅計画を見届け、後始末することすらもシステムに組み込まれていたのではないのか。「9S」「・・・なに」「身体機能に異常はありませんか」「えっ・・・し、心配してくれてる?」「・・・・」「な、なんか随分、人間臭くなったね、ポッド」「否定、我々ポッド随行支援ユニットに、人類の体臭の再現及び、実現は不可能。疑問、9Sの嗅覚システム」「あーあー、そういう意味じゃないんだけどなぁ・・・」思えばこうしてポッドと心穏やかに話すのも久しぶりな気がする。そうだ、殺される直前まで僕は、完全に「壊れてしまっていた」んだ。大好きだった、誰よりも守りたかった、彼女を失ってしまった。孤独感と絶望感で。塗りつぶされてしまったんだ。「・・・・っ!!」そうだ、2B「推測、2Bの安否確認の要求」「そうだっ、ポッド2Bは・・・」「報告、あなたの隣で眠っています」え、と目を丸くして、僕は言われた通りに隣に視線を向けた。さっきまでの自分と同じように、静かに横たわる、2Bの体がそこにあった。目を瞠った。「2・・・B・・・、2B・・っ」途端に、穏やかだと思っていた自分の感情が爆発しそうになる。それは自分の身体機能にまで影響を及ぼし、耐えきれずに感情のまま眠る2Bの体に縋りついた。あの時、A2に刺し貫かれた傷はない。「塔内部に遺棄されていた、多数の2Bモデルの義体の中に損傷率5%以下のものを発見、2Bのパーソナルデータをすべて移行」そう報告するのは、眠る2Bの頭上に浮かぶポッド153だった。「報告、義体の汚染ウィルスは先ほどすべて除去されたのを確認」「・・・っ!」生きているんだ。「2B・・・・聞こえ、ますか・・・っ?」震える声でそう呼び、震える手で、2Bの目を隠す漆黒のゴーグルを外す。彼女の綺麗な顔は、ちゃんとそこにある。「2Bっ・・・僕は・・・僕はあなたが・・・」震える喉は、損傷でもしているのかというくらい、声を上手く出してはくれなかった。― 9Sの声を聞いてると、なんだかほっとするいつだかそう言われたのを憶えている。びっくりして、嬉しくて、恥ずかしくて、どきどきして。「・・・あなたが僕の名前を呼んでくれると・・・・・」頬に触れる自分の手は、汚染された2Bモデルからもぎ取ったものではなく、自分のもの。「・・・っ安心・・・っっ、するんですよ・・・!」もう一度、呼んでほしい。二度と呼ばれないと思っていたんだ。あなたを失ったと思っていた。でもここにいるならもう一度だけ・・・「・・・・9S・・・」彼女の手を握り、胸に額を当てて祈っていた。その頭上に、優しい、彼女の声が降り注ぐ。「2B?僕が、わかりますか・・・・?」「・・・9S、私と、共に戦ってくれた、家族」「・・・・っ!!!」その一言を聞いてしまえば、もう。堰を切ったように流れる嗚咽と、涙を、彼女の戦闘服を汚してしまうことを厭わずに縋って擦り付けるように。こんな感情は初めてだ。あの時感じた絶望感だって初めてだった。A2に抱いたあの憎悪だってそうだ。でもそれと同じくらい自分の胸を締め付けて苦しいと思わせるこれは、知らない感情で。縋りついて離れない僕の頭をゆっくりと2Bは撫でて、ふふ、と力は弱いけど、笑う。「9S、貴方は、感情を出しすぎ」そう笑う彼女を見れば、その綺麗な瞳は涙で濡れている。