ボラQ118:学習者から濁音の「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」の発音は同じようだけど何が違うのかと聞かれました。私も何が違うのかわかりませんでした。教えていただけると幸いです。
ボラとも先生A118:「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」の発音は現代日本語(共通語・標準語)では基本的には区別はないとされていますが、書き表す場合は区別する必要があります。特にPCや携帯などでは「じ」「ず」と入力すると目的の言葉が出てこない場合があるからです。
「ぢ」「じ」「ず」「づ」は「四つ仮名」と呼ばれ、昔から問題になっていた日本語の表記です。日本語の歴史的な変化として、以前の記事で日本語のハ行が最初は〔p〕だったこと、それが平安時代には「ファ」から「ワ」に変化したこと(「ハ行転呼」)について触れましたが、ザ行とダ行の音(特に「じ」「ぢ」「ず」「づ」)も鎌倉時代頃から次第に(おそらく東北日本から関東地方、関西方面に向かって)区別がなくなってきました。
下図はwikipediaの「四つ仮名」からの転用ですが、その変化が見て取れます。
①「じ」「ぢ」「ず」「づ」の区別がなく、全部同じように発音する地域
②「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」の区別がない地域
③「じ」と「ぢ」の区別はないけれど、「ず」と「づ」は区別する地域
④「じ」「ぢ」「ず」「づ」をすべて区別する地域
東北地方の言葉は「じ」「ぢ」「ず」「づ」を区別しない特徴から「ズーズー弁」と呼ばれることがあるそうです。また、最近は(マスコミや学校教育による)共通語・標準語の影響が強く、人の移動も盛んになっているため、すべての地域で②への統合が進んでいるそうです。
共通語・標準語の表記は文部科学省の「現代仮名遣い」(1986年内閣告示)の規定に基づいていますが、これは②の地域の区別を基準にしているので、基本的に「じ」と「ず」を使い、「ぢ」と「づ」は例外的に使うとしています。
では、どういう場合が例外になっているかというと、⑤「同音の連呼」と⑥「二語の連合」の場合です。
⑤の「同音の連呼」というのは簡単に言えば「チ+ジ」「ツ+ズ」という発音のときは「ちぢ」「つづ」と書くということです。たとえば、「ちぢみ」(縮)、「ちぢむ」(縮む)、「ちぢれる」、「ちぢこまる」、「続く」「鼓」「つづり」などです。
⑥の「二語の連合」というのは、複合語の場合に「ち」か「つ」で始まっている後ろの言葉が「連濁」で濁音になった場合、元の言葉がすぐ分かるように「ぢ」や「づ」を書くということです。たとえば、「みかづき」(三日月)、「はなぢ」(鼻血)、「そこぢから」(底力)、「いれぢえ」(入れ知恵)などです。「連濁」については以前の記事」(No.65)ご覧ください。
ただし、例外的な規定である⑤と⑥にも例外があります。⑤の例外は「いちじく」「いちじるしい」の2語だけですが、⑥の例外は「せかいじゅう」(世界中)「いなずま」(稲妻)など、かなりたくさんあります。
これは歴史的な「語源意識」を反映させようとしたためです。規定では「二語に分解しにくいもの等」は「じ」「ず」にするのを「本則とする」と書かれていますが、語源意識というものは人によって違うため、「じ」にするか「ぢ」にするか、または「ず」にするか「づ」にするかは人によって違うことになります。
上記のwikipediaの「四つ仮名」の最後には「四つ仮名を含む語」が多数列挙してありますが、これを全部覚えるのはまず無理だと思われます。結局、「じ」「ず」でだめなら「ぢ」「づ」を書いて(使って)みるか、辞書などで確認する、というのが実際的な対応だと思います。
最後になりますが、「四つ仮名」の変化が起きた理由について私見を一言申し上げます。
「じ」「ぢ」「ず」「づ」以外のザ行とダ行の音はなぜ変化しなかったかを考えてみると、変化が起きたのがイ段とウ段だからだったと考えられます。つまり、以前の記事(No.23とNo..68.)でも触れたことですが、母音の「イ」と「ウ」は子音に近い性質があります。それは口の中で舌が上あごに非常に近くなって空気の流れが邪魔されるからです。
また、タ行は舌を上あごに付けて発音し、サ行は舌を上あごに近づけて発音しますが、そのときに舌が上あごに非常に近い母音が続くと、舌と上あごとの分離(破裂や摩擦)が不十分になってしまうために、イ段とウ段の音に変化が起こったと考えられます。
さらに、なぜ濁音だけに変化が起きたかを考えてみると、清音と違って濁音は声帯を震わせるという母音の基本的な機能を持っているために、母音の影響が残りやすい濁音で口蓋化が起きたのではないでしょうか。