昨年12月に『雉女房』を出版された、染色家の柚木沙弥郎さん。
これまでも多くの絵本を手がけ、民芸のあたたかさとモダンさを持った絵で読むひとを魅了してきました。
染色と絵本、画集、インスタレーション……さまざまな世界を行き来する、自由な創造力の秘密とは。
あそびごころにあふれたお宅にお邪魔してお話をうかがってきました。
4月に三越銀座で、5月から8月まで世田谷美術館でと、
続々と個展が控えている柚木さん。
『雉女房』
村山亜土/作 柚木沙弥郎/絵
文化出版局/刊
1,836円(税込)
世界を旅したときに出会ったものたちと暮らす。
「よかったら、みんな集まっておいでってね」
作品の中にモデルとして「呼び出す」こともあるそう。
3階建ての自宅は、どの階にも制作できるスペースと
たくさんの蔵書が。絵本なども気になるものがあると
ご自身で求めるという。
―昨年出版された『雉女房』は、水彩の溶け合う色が、切ない物語にぴったりです。型染め、ドローイングなど、絵本によってさまざまな表現方法を使われていますが。
今まで水彩は使ってこなかったんだけれど、やってみたいと思って。イギリスで水彩画を習ってきたひとがいてね、そのひとが教えてくれた。
ぼくが学生のころは、粗末な水彩絵の具しかなかったから、難しいものだと思っていたの。だけど、しかるべき紙にちゃんとした絵の具を使えば汚い色にならない。ものすごい気に入っちゃって。技法は、「しばらくこれをやっていなかったからこれでやろうか」とかね。
パリで個展をやると、向こうのひとはお愛想や義理では買わないし、染色なんて知らなくてもおもしろいと思えば買う。日本じゃ、みんな技法のことばかり考えて、これは工芸、これは美術とか細かく分けすぎる。絵なら絵でいいじゃない。技法も結構だけどそれだけじゃない。そのひとがどういうものをつくりたいかって、その方が大事でしょ。絵本は子どもが見るもんでしょう、子どもにとって技法なんて関係ないことであって、もっとダイレクト。人間が本来持っている感覚を通して作者のこころが子どもに伝わるのだと思うよ。
―染色と、絵本を描くことに違いを感じますか。
両方とも表現のかたちは違うけれど、ぼくの中では、ただの説明ではない、という点で同じです。ぼくの絵本を描くようになったきっかけは、ぼくの作品を置いている「クラフトスペースわ」というギャラリーが10周年を迎えるというので、何かやりたいねって言って。それで『魔法のことば』*を自費出版したんです。アメリカの原住民のことばに絵をつけて。
絵本ってのは、自作自演の映画みたいなもので、おもしろいでしょう。同じ場面に同じ動物を何度も描かなきゃいけなかったりってのはくたびれちゃうけどね(笑)。絵本の方が時間がかかるけど、「えいやっ!」ってやった方がよくできる。何度も描き直してたら勢いがなくなっちゃう。
*『魔法のことば』 のちに福音館書店より刊行、現在絶版。
―同じ登場人物を何度も描かなくてはいけないというところで、つくりはじめる前にそれぞれのキャラクターを設定したりするのでしょうか。
まあね。『ぎったんこ ばったんこ』に出てくる子ねこの中に、しっぽが折れてるのがいる。一番みそっかすみたいの……
へまをするっていうか、ちょっと出てきて愛嬌を見せる。編集者が、そういうのが一匹いた方がいいって言ってね。子どもは何度もくり返して見るから、これがたのしいらしい。そういう、遅れていくのもいいもんですよ。
―制作に煮詰まることはあるのでしょうか。そういったときはどのように気分転換をされるのでしょう。
それは締め切りがあるからしょうがないよね。学生の頃から、試験勉強ってあるじゃない? 間際までやらない。ギリギリまでね。で、ギリギリになったらいい考えが出てくるの。たっぷり時間があったらいいってもんじゃない。わざと自分でそう仕向けたりね。制作はね、やっぱり勤勉じゃないと駄目だよ。フラフラしてたんじゃできないね。もちろんずっとやってるわけじゃないよ。でも考えてなくちゃ。明けても暮れてもそのことを考えてなくちゃ。どこか静かなところにたてこもるっていうほど殊勝じゃないけど……一生懸命やるね。
できたらひとつに集中したい。あっちこっち気を取られていると駄目。その時じゃなきゃできないんだよね。だから同じことを二度やれと言われてもちょっといやかな(笑) 。
気分転換は、画集や写真集を見たりプラモデルをつくったりするね。おもしろくなってついやり過ぎないように気をつけながらね。
―追いつめられた方がいいものが生み出せると。
こっちから「こうやってやろう」というよりも、いつも受け身でいるんですよ。何か提案とか企画に出会うことを……材料にするっていうと悪いけど、それをきっかけにするっていうのかな。「こういうことやりたい」っていうのと向こうから来たものを自分の中ですり合わせて。
―向こうからくれば、自分の興味さえあえば染色以外のこともやる、というスタンスなのでしょうか。
染色だとか絵本だとか……何をやるにも、特別こういうことをやろうって思うわけじゃない。自然にね。みんなあんまり考えすぎるんじゃない?自分にはできないと思ったり。染色の世界から絵本の世界へ、ということも大げさなことじゃない。そう思ってやればもっと楽だよ。
チャンスを逃さないこと、どんなに自分に向かないと思えるようなことも、そんな機会を大切にして本気で取り組むことです。自分が気がつかなかった能力を発見する喜びが必ずあるんです。(撮影:神ノ川智早)
柚木沙弥郎
1922年、東京に生まれる。美術史を学ぶため東京大学に入学するも、
戦争で勉学が中断される。大原美術館に勤務した折に民芸に魅せられ、
染色家の芹沢銈介氏に師事。型染めによる作品を発表してきた。
1958年、ブリュッセル万国博覧会で銅賞受賞。
1990年、第一回宮澤賢治賞受賞。1996年、初の絵本『魔法のことば』
(CRAFT SPACE わ。のちに福音館書店)で国際図書賞を受賞。
作家活動と並行して女子美術大学で教鞭を取る。
1987年より退官するまで同大学の学長を務める。
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