Sponsored Links
ゆんぎとニキビ。
「ゆんぎ。」
「ゆんぎってば。」
彼が寝ているベッドの縁に腰を下ろし、
すぐ側で名前を呼ぶが彼は微動だにしない。
死んでんじゃないの。
「ねぇ、ゆんぎってば。」
少し声のボリュームを上げて
尚且つ体を控えめにユサユサと揺さぶると、
ようやくうっすらと瞼が開かれた。
『………ぁんだよ。』
これ以上ないくらいの不機嫌MAXの声を出されるが、私はそんなことは気にしない。
こんなんでへこたれていたらこの人とは付き合えない。
それよりも……。
「ね、見て。でっかいニキビできた。」
『…………………。』
自分の頬を指差し、ゆんぎが見やすいように左の頬を突き出したが、彼はギュッと目を瞑り布団を頭から被って私に背中を向けようと体を動かした。
「あ、ちょっと!」
慌ててその肩の辺りを掴み、両手で元の仰向けに押し戻すと、はぁ、とくぐもった小さなため息が腕の下から聞こえてきた。
『マジで……、』
「本当なんだって。」
『違ぇ!そっちじゃねぇわ!』
寝起きの割に元気のいい声を上げると、被ったばかりの布団を片手で押し退け、そこからしかめっ面のゆんぎが姿を現した。
「痛いんだよ。」
『それ、ニキビじゃなくて吹出物な。』
そう言ってベッドの上で体を起こし、首の後ろをポリポリと掻きながらギュッと目を瞑るゆんぎ。
「あ、ひどー。」
『ひどいのはお前だ。俺が寝たの、何時だと思ってんだ。』
「遅かったよね。」
『お前、分かってんなら……、』
不機嫌な声のまま私を睨んだが、
彼はすぐに『ふはっ、』と笑った。
『や、マジすげぇな。』
プクッと赤くなった頬を見て笑い、手を伸ばしてそこに触れようとするから、身を後ろに引いて彼の手を逃れる。
「痛いんだってば。」
『食生活の乱れじゃねぇの。』
「ゆんぎも同じもの食べてるじゃん。」
『お前は甘いもん食うだろ。』
…………確かに。
それは否定できない。
太るのも分かってるし、こうやって肌の調子が悪くなるのも重々承知しているが、食べたいものは食べたいんだからしょうがない。
『ブサイクな顔すんな。』
顔をしかめていた私を見て
ゆんぎは失礼すぎる言葉を容赦なく発する。
『いま何時?』
「昼過ぎ。」
ふわぁ、と大きな欠伸をしながら両手を上にあげて大きく伸びをすると『寝足りねぇ、』と呟いた。
「何時に寝たの?」
『3時くらい?』
「充分、寝てるよね。」
『俺には少ねぇの。』
「寝過ぎ。」
『普段が少ないからな。』
ふぅん、と頷いてみせて彼から視線を外し窓越しに空を見上げる。
いい天気。
ゆんぎとどこか行きたかったけど
彼は寝不足解消したそうだし
私は大きなニキビが出来てるし
今日は家で大人しくしとくしかないかなぁ。
『なに?何かあんの?』
「ううん、別に。」
『お前、吹出物で俺を起こしたのかよ。』
「ニキビね。」
『どっちでもいいわ。それで起こしたんだろ?』
「暇だったから。」
『なんだよ、』
彼は喉を鳴らすように笑って、再びゴロリとベッドに横になった。
『何もないなら、また寝るけど。』
「いいよ。おやすみ。」
腰かけていたベッドから立ち上がろうとした時にゆんぎに腕を掴まれたので彼を振り返ると、額に片腕を乗せたゆんぎが私を見ていた。
『やっぱ完全に目が覚めた。』
「ゆんぎなら、いつでも寝れるじゃん。」
『あ、ひどー。』
「え、似てない。」
明らかに数分前の私の台詞と声音を真似したが、残念ながら全然似てない。
『お前、鬼だな。』
「目が覚めたんなら、ゆんぎスーパー行ってきてよ。」
『は?なんで俺が、』
「ニキビがやだから。」
『誰も見てねぇって。』
「いや。」
『化粧すりゃいいだろ。』
「隠れると思う?」
『いや?無理だろ。』
掴まれていない方の手で彼のお腹の辺りにパンチをすると『ぐっ、』と苦しそうな声が聞こえた。
「行ってきてよ。夜ご飯なにもないよ。」
『お前も行くなら付き合ってやってもいい。』
「だから、」
『いいじゃん、別に。』
ゆんぎは、私を掴んでいた腕を離して体を起こし、ニキビには触れないように私の頬を撫でると、
『気にすんな。』
と言って笑った。
『そんなんするから余計に悪くなんじゃねぇの。』
マスクをして玄関に出た私を見るなりそう言って顔をしかめるゆんぎ。
『気にすんなって言ったのに。』
「そうだけどー。」
『外せ、外せ。』
「やだやだ!」
ゆんぎがマスクを剥ぎ取ろうとするから、両手で押さえて必死に抵抗するとマスクを押さえていた手を握られ、グッと顔が寄せられた。
「なに、」
『キスできねぇじゃん。』
「はっ?外じゃしないでしょっ!」
『分かんねぇぞ。』
とぼけた顔をして首を傾げ、肩をすくめる仕草をする。
「し、しないしっ。外じゃしないしっ。」
『今は?』
「へ?」
彼は緩く唇を噛んで私の手を離し、そのまま私の耳にかかるマスクを外すとゆっくりと近付いてきて、そっと唇を重ね合わせた。
唇を挟むように軽く数回触れあったあと、
『な?』と言って顔に皺を寄せる。
「………恥ずかしいなら、しなければ良いのに。」
私がぽつりと呟くと、
『お前、やっぱ鬼だわ。』
彼は大きいとは言えない目をなくなりそうなほどに細め、目尻に皺を寄せて恥ずかしそうに笑うと、持っていたマスクをポケットに突っ込み、その手で私の手を握った。
『これも俺のキャラじゃないんだけど。お前が触らないように、だかんな。』
本当、キャラじゃない。
何してくれてんの。
ゆんぎは、何も言わない私をチラリと見下ろす。
『ばか、お前が照れんな。』
「そんなこと言ったって、」
自分でも頬が赤くなるのが分かったけど、
こればっかりは、どうしようもない。
『顔、赤くなってるから目立たねぇぞ。』
「じゃあ、またニキビ出来たら今度からこうしてよ。」
『は?人に頼りすぎだろ。甘いもん控えろ。』
ゆんぎはそう言って顔をしかめた。
だけど彼は、
スーパーに行って新しいデザートを見つけて買おうか買うまいか悩んでいた私に、
『しょうがねぇな、』
と言いながら目を細め、
“入れろ“とでも言うかのように
持っていた買い物かごを私に向けて差し出した。
ニキビひどくなったら、
甘やかすゆんぎのせいなんだからね。
私は、頭の中でそんな言い訳をしながら、
彼が持つかごの中に遠慮なくデザートを放り込んだ。
.
Sponsored Links
Sponsored Links
Sponsored Links