ベゲタミン
2005年から2010年までの5年間でも、不審死からのベゲタミンの成分3種の検出が増加しており、過剰摂取時に致死性の高い薬の2位の薬だと同定されていた。ベゲタミンは外来患者には用いるべきではない、極力処方を回避すべき、いかなる場合にも処方すべきではない医薬品、飲む拘束衣と言われていた。
ベゲタミンの成分の一つであるフェノバルビタールは、20世紀初頭に合成されたバルビツール酸系薬である。1940年代にもパリのローヌプーランは、H1受容体の拮抗薬であるフェノチアジン系薬物が、バルビツール酸系の作用を増強したり、体温制御を欠損させ低体温化をもたらすといった生理作用を研究した。
第二次世界大戦後には、フランスの外科医アンリ・ラボリは、麻酔科医のユグナーと共に、遮断カクテル(カクテル・リティック)を用い、手術後ショック反応を減らす目的で、バルビツール酸系を増強する研究を行っており、フェノチアジン系のプロメタジンを加えた時、いい反応を得た。
そこでラボリは、ローヌプーランに問い合わせ、フェノチアジン系のRP4560(後にクロルプロマジンと命名される)という化合物があるとの返答を得て、そしてクロルプロマジンを用い、麻酔薬とみなした。遮断カクテルの一例は、クロルプロマジン、プロメタジン、メペリドンといった組み合わせであった。
ベゲタミン自体は、1957年(昭和32年)、広島静養院の松岡龍三郎により創製されたとされている。なお日本国外では全く販売されていない。ベゲタミンはラボリの遮断カクテルに類似し、各成分が効果を増強しあう。
ラボリの研究のすぐ後に、ジャン・ドレーらは、クロルプロマジン単剤の投与で、患者を静穏化することを発見した。バルビツール酸系は、依存を形成しやすい上、治療域と毒性域が近く、過剰摂取時に致命的となりえるため、現在では、より依存が形成しにくく、安全なベンゾジアゼピン系に置き換えられた。
特に2010年代に入り、後述するように、乱用や死亡の点から問題視されていた。ナショナルデータベースの処方の分析から、2011年でも、ベゲタミンは入院患者の約15%、外来患者の約8%に処方されており、20代の患者に限っても6.4%に処方されていた
ベゲタミンA・Bが、伴に2016年(平成28年)12月31日をもって、供給停止となることが塩野義製薬から発表された。日本精神神経学会から「薬物乱用防止の観点からの販売中止」の要請を受けたことによる。
脳の中枢に直接作用し、催眠鎮静作用を現す。
ベゲタミンに含まれているクロルプロマジンは、α1受容体に親和性を持ち、この受容体を遮断するため強い鎮静作用を示す。
フェノバルビタールは、バルビツレート結合部位-ベンゾジアゼピン結合部位-Cl-チャネルと高分子複合体を形成するGABAA受容体に結合し、Cl1チャネルの開口時間を延長することで、GABAの抑制作用を増大させ神経細胞の興奮を抑制し、催眠作用を示す。
なお、プロメタジンは抗ムスカリンM1受容体遮断作用により抗パーキン作用を併せ持ち、クロルプロマジンの副作用であるパーキンソン症状を抑える働きを併せ持つ。しかしこのような併用は避けることが推奨されている
錠剤種と含有量
ベゲタミンには、A剤とB剤があり含まれる成分の量が異なる。
A剤は赤く着色され、B剤は白く着色されており、A剤が赤玉、B剤が白玉と呼ばれている。
2010年代の位置付け
後述する死亡の危険性の経緯に加え、飲む拘束衣と言われ、上述の通り、多くの症例を比較的安全にコントロールできる薬剤が登場してきたことから、医師・薬剤師向けの処方箋医薬品に関する書籍にも「本薬の投与は極力控える」と記述されている。
2012年の「日本うつ病学会」のうつ病の診療ガイドラインでは、ベゲタミンを含むバルビツール製剤は推奨されない治療に分類され、極力処方を回避すべきであるとしている。
2013年の日本睡眠学会による睡眠薬のガイドラインでは、バルビツール酸系は深刻な副作用が多く、現在はほとんど用いられない、と勧告されている。
一般的に多いのは服用後のめまい、ふらつき、注意力の低下、翌日への持ち越しなどである。
過剰摂取によって救急搬送された676名のデータの解析から、ベゲタミンを過剰摂取した場合、4日以上の集中治療室への入室が20%、誤嚥性肺炎の発症が29%と他の薬よりも突出していたことが判明している。
死亡の危険性に関して
1999年にも、ベゲタミンは統合失調症の入院患者に使われることも多いが、依存や耐性、また過量服薬時の致死の危険のため外来患者には用いるべきではないとされている。
2005年から2010年まででも、不審死からのベゲタミンの成分3種の検出が突出していることが報告された。これは処方割合が多いからということではなく、2016年には、110種類の精神科の薬を過剰摂取した日本のデータから、過剰摂取時に致死性の高い薬の2位の薬だと同定され、3位の薬よりも、8.5倍の死亡リスクを持っていた。
- ^ a b 福永龍繁「監察医務院から見えてくる多剤併用」、『精神科治療学』第27巻第1号、2012年1月、 149-154頁。 抄録
- ^ a b c 引地, 和歌子、奥村, 泰之、松本, 俊彦「過量服薬による致死性の高い精神科治療薬の同定 : 東京都監察医務院事例と処方データを用いた症例対照研究」、『精神神経学雑誌』第118巻第1号、2016年、 3-13頁、 NAID 40020721720。 抄録
- ^ a b 『精神科薬物療法』 松下正明(総編集)、編集:牛島定信、小山司、三好功峰、浅井昌弘、倉知正佳、中根允文、中山書店〈臨床精神医学講座14〉、1999年3月、276頁。ISBN 978-4521491714。
- G.ツビンデン、L.O.ランドール、中村圭二『向精神薬の薬理 トランキライザーのすべて』朝倉書店、1971年。4頁。
- 奥村泰之、野田寿恵、伊藤弘人「日本全国の統合失調症患者への抗精神病薬の処方パターン:ナショナルデータベースの活用」 (pdf) 、『臨床精神薬理』第16巻第8号、2013年8月10日、 1201-1215頁。
- 『今日の治療薬2012』810頁。