BMWの初の量産電気自動車となる「BMW i3」のデリバリーが2014年4月からスタートした。この電気自動車は、BMWの新しいサブブランドの第1号車だという。では、その「BMW i」とは何なのか? また、「BMW i3」はどのようなクルマなのか? そして、このクルマの買い時は? これらの気になる点を、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏が解説する。

2014年4月、日本市場にてデリバリーが開始されたBMWの4人乗り電気自動車「BMW i3」。インフラ整備にともなって実用車として認知されつつある電気自動車だが、BMWが作ったモデルは、描く世界観がこれまでの電気自動車とはちょっと違う

山積する世界の重要問題に対するBMWの答えが「BMW i」だった

BMWといえば「駆けぬける歓び」をキャッチフレーズに、走りのよさを前面に押し出すプレミアムブランドと知られている。環境やサスティナブル、エコという言葉とは正反対のイメージを抱く人も多いだろう。そのBMWが、なぜエコの象徴とでも言うべき電気自動車をリリースしたのか? それは今現在の世界が直面する問題に理由があった。現在の世界は、爆発的な人口増加、限られた資源、気候変動、都市の肥大化など、まったなしのシリアスな問題と向き合っている。ガソリンをジャブジャブ使って、快楽的にスピードを楽しんでばかりはいられなくなってきたのだ。

そこでBMWは、「駆けぬける歓び」を未来に継承するための戦略を打ち立てた。それが1990年代後半に掲げられた戦略、「Efficient Dynamics(エフィシエント・ダイナミクス)」だ。この戦略に沿ってBMWはクルマの燃費効率をアップ。1995年から2008年にかけて、新車1台あたりの平均CO2排出量を25%以上削減してきた。しかし、それだけでは足りない! とばかりに、2007年には「project i(プロジェクト・アイ)」を発足。社内シンクタンクとして「持続可能かつ未来志向のモビリティ・コンセプト」作りをスタートさせたのだ。そして、このプロジェクトの結果、BMWは大都市における持続可能なモビリティとして、2011年2月に「BMW i」という新しいサブブランドを誕生させた。

「BMW i」のユニークな点は「プレミアム」と「持続可能」というふたつの要素を兼ね備えるために、クルマのキャラクターだけでなく、素材から生産、リサイクルという、クルマにまつわるすべての面で品質改善を目指すところにある。たとえば組み立て工場となるドイツのライプツィヒ工場は合計出力2.5メガワットの4基の風力発電機によって生産に必要な電力を賄っている。また、アメリカ・モーゼスレイクの炭素繊維工場の電力も100%CO2フリーの水力発電だ。それ以外にも新しい素材の利用や生産工程の工夫なども行われ、最終的には、「BMW i3」の生産からリサイクルまでの車両ライフサイクル全体における地球温暖化ガス排出量は、「BMW 118d」の2/3にまで低減させられるという。しかも、「BMW i3」の走行をすべて再生可能エネルギーの電力とすれば、その差はさらに大きくなり、最大で1/2にまでできるというのだ。

そんな、まったく新しいアプローチで取り組んだ「BMW i」の最初のモデルとしてリリースされたのがシティコミューターの電気自動車「BMW i3」であり、その次に用意されているのが、俊敏なプラグインハイブリッド・スポーツカーの「BMW i8」なのだ。

「走り」のイメージが強いBMWブランドだが、実は極めてエコ意識の高いブランドでもあるのだ。それが1990年代後半から掲げられている「Efficient Dynamics」という戦略。これが“持続可能なモビリティ作り”のためのBMWの基盤となっている

カーボン&アルミのボディで電気自動車化のネガを払拭

「BMW i」による電気自動車は、ただモーター&電池を使い排気ガスを出さなければ済むわけではない。「駆けぬける歓び」を継承しており、しかも、持続可能でないとならない。それが「BMW i」というブランドのコンセプトなのだ。そこでBMWは、日本メーカーとは、まったく異なったクルマ作りを行った。日本メーカーは、ガソリン車同様のスチールの車体をベースに、これまでガソリンエンジンが搭載されていたところにモーターを組み込んだ。生産も従来のガソリンエンジン車とほぼ同じ方式を踏襲している。

しかし、この方法だと、大量の駆動用電池の分だけクルマが重たくなってしまう。重量増は、ただでさえ短い電気自動車の航続距離をさらに縮める。当然、動的性能も悪化する。そこでBMWは、斬新な手法を採用した。それが「Life Drive(ライフ・ドライブ)構造」だ。これは、クルマを、乗員を乗せる「ライフ・モジュール」と、モーターや電池といったパワートレインを備える「ドライブ・モジュール」という、2つのパーツに分けるというもの。「ライフ・モジュール」にはカーボン素材を、そして、「ドライブ・モジュール」にはアルミ素材を採用することで、同等サイズの従来の電気自動車と比較して約340kgもの軽量化を実現したのである。ちなみに、ガソリン車を同じサイズの電気自動車にすると、200kgほど重量が重くなるというが、「BMW i3」は、そこからマイナス340kg、つまり、ガソリン車よりも約140kgも軽くすることができるのだ。

車両の組み立てを行う、ドイツのライツィヒの工場には出力2.5メガワットの風力発電装置4基が設置され、組み立てに使用する電気をまかなっている。カーボンボディの原材料は、日本の三菱レイヨンのもの。広島から輸出され、アメリカで加工され、さらにドイツのヴァッカースドルフの工場を経てライプツィヒの工場でカーボンボディとなる

ここで「BMW i3」のスペックを確認してみたい。理解しやすいように、ライバルとなる日産「リーフ」の数字も合わせて紹介しよう。「BMW i3」の車両サイズは、全長4010×全幅1775×全高1550mm。対する「リーフ」は、全長4445×全幅1770×全高1550mm。全長は435mm、リーフのほうが大きく、全幅と全高はほぼ同じだ。また、「BMW i3」の車両重量は1260kg(レンジエクステンダー装着車は1390kg)で、「リーフ」は1460~1430kg(グレードにより異なる)と、「BMW i3」のほうが約200kgも軽い。そして、「BMW i3」に搭載されたモーターは最高出力125kW(170ps)、最大トルク250Nm。いっぽうの「リーフ」は最高出力80kW(109ps)、最大トルク254Nm。つまり、「BMW i3」のほうが、ボディは小さくて軽いのに、モーター出力は1.5倍以上もあるのだ。

ライバルとなる日産「リーフ」と比べると、全長で435mm、車両重量では約200kg、「BMW i3」のほうが小さくて軽い。それでいて、搭載するモーターの出力は、「BMW i3」のほうが1.5倍以上もパワフル。これが、環境に配慮しながらも「駆けぬける歓び」を実現しているのだ

気になる一充電あたりの航続距離はJC08モードで229km、「リーフ」はJC08モードで228kmと、ほぼ同じような数字になっている。ただし「BMW i3」には、航続距離を伸ばすための発電用小型エンジンを搭載したレンジエクステンダー装着車が用意されている。こちらのモデルならば、航続距離は、最長300kmほどに延長するという。

最後に重要なのが車両の価格だ。「リーフ」が約287~368万円のところ、「BMW i3」は499万円、「BMW i3レンジエクステンダー装着車」は546万円。ざっと150~180万円高い。ちなみに、日本国内の電気自動車に対する補助金は「BMW i3」でも日本車同様に受けられる。昨年までの実績をベースとした補助金額は、「BMW i3」で約40万円、「BMW i3レンジエクステンダー」で約75万円程度になるとか。つまり、「レンジエクステンダー装着車」は高いけれど、補助金でかなりの部分がまかなえる計算になる。

持続可能でありながらも「駆けぬける歓び」をしっかりと実現

続いて試乗インプレッションといこう。写真で見る「BMW i3」も相当に個性的だが、現物の印象はさらにインパクトがある。BMWお約束の、フロントのキドニーグリルはあからさまなダミーであるし、ブラックボンネットの2トーンカラーも珍しさ感を盛り上げる。サイズは小さいけれど、数多あるコンパクトカーとは違うモノだということが見る人すべてに理解できるだろう。しかも、ドアは観音開き。「MINI」の一部車種やマツダの「RX-8」に採用されてはいるが、これも異色。しかし、使ってみれば開口部が広く、乗り降りはしやすい。ただし、後席の人が一人で後ろのドアを開閉するのは至難のワザ。とは言え、普通は運転手がいるのだから、後席だけに人が乗るケースは少ないだろう。

クルマに乗り込むときは、ボディシェルの断面部に注目してほしい。上屋の「ライフ・モジュール」がカーボン製なのが見てとれる。運転席からの眺めも、従来のクルマとは異なる。メーター類はPCのような四角いモニターで、アナログ針などは見当たらない。またデザインだけでなく、ドアの内張りやトリムの素材感も普通とは違う。繊維が残っているようなケナフ麻由来の内装材や、ざらざらと表面加工されたユーカリウッドのトリム、ペットボトルのリサイクル材を使ったシート表皮などが印象的。堅いプラスチックと冷たいスチールではなく、ナチュラルな雰囲気のインテリアとなっている。これも「BMW i3」の大きな特徴だろう。

後席の窓は開閉不可。狭苦しいかな? と思って試しに座ってみたが、意外に窮屈ではない。ちょうど顔の横に大きな窓があるし、4人乗りなので左右の寸法はたっぷりある。小さな子どもなら十分に余裕があるうし、大人でも、よほどの長距離でなければ問題ないサイズだ。

個性的な観音開きのドアを採用。開口部が広く乗り降りしやすいが、後席に座った人が自分で後部ドア閉めるのは、なかなか難しかった

インテリアのデザインは、これまでのクルマにはなかった近未来的なもの。ステアリング奥にはインストゥルメントパネル、センターコンソール上部には10.2型マルチディスプレイが装備される

ドアトリムなどの内装材に使われているのは、さまざまなエコ素材。といっても決してチープな印象ではなく、ナチュラルな、やわらかさを感じさせてくれる雰囲気があった。レザーシートや、ユーカリウッドのインテリア・トリムはオプションとなる

センターコンソールには、カーナビなどの操作を行う「iDriveコントローラー」を装備する

続いて肝心の走り。発進はほかの電気自動車同様、スムーズで力強い。そして、すぐに気づくのがボディ剛性の高さ。ガチッとソリッドな筐体を動かしている感がひしひしと伝わってくる。

大通りに出るために、一時停止をしようとアクセルを緩めると、予想外に強い回生ブレーキがグイとばかりに車速を落とす。余裕をもって早めにアクセルを戻せば、それだけで停止寸前までもっていけるのだ。日本の電気自動車には、これほど強い回生ブレーキは存在しない。しかし、最初は驚くが、慣れてくると、これはこれで使いやすいことに気づく。アクセルペダルを一定にしていれば速度をキープ、踏み込めば加速、戻せば減速。つまり、アクセルひとつで走り切れてしまう。ブレーキを踏むのは予測外のことが起きたときや、完全に停止する一瞬だけ。強烈な回生ブレーキを得られる、電気自動車ならではの操作感だった。

ひとつ気になったのは、足の硬さだ。BMWジャパンの説明によると、「日本の立体駐車状に納められるようにするため、車高を下げています。ルーフアンテナを低くしたのと、Mスポーツ相当のスポーツサスペンションで車高を下げました」とのこと。つまり、スポーツサスの分だけ足回りが硬いのだ。管理の行き届いた路面ならまだしも、荒れた路面を走るときは、それなりの覚悟が必要だろう。

ライバル車となる日産「リーフ」よりもパワフルで、なおかつ軽量な「BMW i3」。その加速感は強烈だ。しかも駆動輪は後輪。さらに前後の重量配分もBMWらしく50:50を実現し、足回りにはスポーツサスを装備。タイヤは、転がり抵抗の低い155/70R19という特別サイズで、細いけれど、径が大きいというもの。接地面を前後方向に稼いで、必要なグリップを確保している。これにより、コーナリングでの不安もほとんど感じることがない。こんなクルマを走らせて楽しくないはずがない。ちょっと背が高く、未来感たっぷりの「BMW i3」だが、「駆けぬける歓び」は古色蒼然のBMWそのままであった。

走行感覚は、電気自動車ならではのパワフルなもの。想像以上に回生ブレーキが強くが、慣れてくるとアクセルワークだけで、加速、速度キープ、減速が行えて扱いやすい

「BMW i3」は本当に買いなのか、それとも時期尚早か?

「BMW i3」を端的に言い表すとすれば、「BMWが高い理想を掲げて、新しいコンセプト&製法で作ったシティコミューター」となる。志の高い新しい乗り物だ。しかし、視点をちょっと変えて意地悪に言えば、大きめのBセグメントのクルマなのに4人しか乗れず、航続距離は200kmちょっと。オプションを追加してもようやく300km。それで500万円もする! となる。果たして「BMW i3」は本当に購買に値する存在なのだろうか?

「BMW i3」の価値を考える前に、まずは電気自動車という存在の特殊さをおさらいしよう。現状の電気自動車は、ガソリン自動車に完全にとって代わるものではない。これが重要だ。現状はガソリン車ほどの航続距離を確保することが難しく、純粋な電気自動車は短距離利用に限定した形で提案されている。つまり、週末のたびに遠出をしたり、毎日のように200km以上走行したりする人には向いていない。あくまでも近場での買い物に限定してクルマを使う人のためのものなのだ。また、所有するためのハードルも高い。電気自動車のオーナーは自前の充電設備(具体的には200Vの電気自動車用コンセント)をカーポートに備える必要がある。これは、集合住宅や月極駐車場では、ほとんど不可能。結果的に、駐車場付きの一戸建ての人しか買うことのできない製品になっているのだ。

つまり、「BMW i3」をはじめとする電気自動車は、利用方法とクルマを保持する環境の両方をクリアして、ようやく買うかどうか? という境地に辿り着くクルマなのだ。

家庭用の200Vでの充電はフロント部から。急速充電は日本方式のチャデモ仕様で、車両の右後ろのパネルに備わっている。満充電まで200Vで7~8時間、急速充電だと約30分だ。チャデモ仕様は日本向けだけの特別な仕様となる

「BMW i3」用に開発されたアプリ「BMW iリモート」をスマートフォンにインストールすれば、バッテリーの残量や航続可能距離などの車両データに、離れた場所からでもアクセスすることができる

ちなみに、「電気自動車の普及は全国津々浦々まで急速充電設備が整わないと無理」という主張がある。確かに、そういう状況になれば、電気自動車は完全にガソリン車の代替品となることが可能だろう。しかし、現状そうではないことは自動車メーカーも理解している。だからこそ、BMWは短距離専用のシティコミューターとして「BMW i3」を送り出したのだし、続くスポーツカーの「BMW i8」は航続距離の心配がないプラグインハイブリッドとしたのだろう。

また、「BMW i3」にはレンジエクステンダーが用意されている。これを使えば300kmの航続距離が確保できる。実際に、1日の走行で300kmを越える人は、それほど多くないはずだ。また、戸建て所有で、しかも500万円のクルマの購入を考えている人であれば、クルマを複数台所有する経済力を備えている可能性が高い。つまり、遠くへ行くときは、別のクルマで行けばいいというわけだ。個人的には、急速充電器はたくさんあったほうが安心ではあるが、別に現状でも電気自動車オーナーになるのに問題はないと考える。もちろん不便ではあるが、それよりもランニングコストの低さや所有する満足感、走りのよさというメリットの方が大きいと思うからだ。

こうした電気自動車の所有に対するハードルをクリアできた人に対して、「BMW i3」の価値は? と聞かれれば、答えは「文句なしに買いです」と答えたい。もちろん日本製の電気自動車よりも値段は格段に高い。しかし、内容も格段に「BMW i3」の方がよいのだ。カーボン&アルミのボディという非常に凝った、しかも高コストの専用車体があり、走りもBMWの名に恥じないファンなもの。デザインだって、誰がどう見ても最先端。これだけの魅力に対して500万円という価格は、かなりリーズナブルと言えるだろう。ちなみに、BMWのガソリン車である3シリーズも同じような価格帯だ。たとえば「BMW 320d」(ディーゼル・エンジン搭載車)はちょうど500万円。確かに「BMW 320d」ならば、オールマイティに使える。しかし、3シリーズは旧態依然の内燃機関車。それに対して「BMW i3」は新世代の乗り物。そこに価値を見出すことのできる人であれば、間違いなく「BMW i3」は買いだ。

「BMW i3」の車両本体価格は499万円、航続可能距離を約300kmに延長する「BMW i3 レンジエクステンダー装着車」は546万円。現状、ガソリン車に完全にとって代わる存在とは言えないが、新感覚の乗り物として、これまでになかった価値を提案してくれるはずだ

モータージャーナリスト/鈴木ケンイチ

新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材、ドライブ企画まで幅広く行う。いわば全方位的に好奇心のおもむくまま。プライベートでは草レースなどモータースポーツを楽しむ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。