第32回 『瞬間の美しさ』

雨あがりの朝、雲の間から、ひとすじの陽が射してきました。レディースマントルのマントのような葉の上で、雫がコロコロところがり、光を躍らせています。森はしっとりと潤い、水田は緑の海になりました。

 

庭では、蝶やカエルや、小さな生き物たちが賑やかです。水辺には花菖蒲が咲き始め、梅雨の庭の風情になりました。表情豊かに移り行く、四季の景色はまるで万華鏡のようです。

 

 


■ダマスクローズの香り


6月初旬は、毎年楽しみにしている、ダマスクローズの季節です。今年は、友人に水蒸気蒸留器をお借りすることができて、自宅で初めての蒸留をしています。毎朝、早起きしては、花を摘んで。わが家のリビングルームは、実験室さながらです。

 

一日に、30~50輪くらいの花を摘み、花びらだけをはずすと100g~200gになります。花の分量に対して、どのくらいのウォーターを採取すると良いのでしょう?温度や時間は?日々、試行錯誤しながら、良い香りが抽出できるように実験中です。

 

 

蒸留したてのローズウォーターは、少々青臭いような生々しい香りがします。しばらく置いておくと、優しくさわやかなローズの香りとなります。残念ながら、ローズオットー精油が採れるほどの分量ではありませんが、あの『小さなボトル』の、精油一滴の貴重さが身に染みます。

 

 


■ハーブだより


ハーブガーデンには、花が咲き始めました。「カレンデュラ」は、種を採り、3月から育苗していたものです。「セントジョンズワート」は、夏至の日に咲くハーブとして知られていますが、今年は10日ほど早い、6月12日に一番花が咲きました。白いバラの下に咲いている背の高い草姿がセントジョンズワートです。宿根草で、こぼれ種でも周囲にどんどん広がり増えて行きます。どちらも浸出油をつくる大切なハーブです。

 

大型になるセージは迫力があります。「シロクマくん」と呼ばれる「シルバーセージ」は、花も綺麗ですが、花穂が上がる前の美しい葉の手触りが素敵!フカフカでビロードのようです。「クラリセージ」は、私の肩位まで大きくなります。

 

 

「イングリッシュラベンダー」が、甘く爽やかな香りを放っています。「ラベンダー」や「ニゲラ」は青や紫の花が美しく、この季節のハーブガーデンを彩ります。「コリアンダー」は、春先には、独特の葉の香りをタイ料理に。今はトウが立ち、花が咲いていますので葉の利用はお休み中。コリアンダーシードが待ち遠しいです。

 

 

植えた覚えがないのに。今年は、庭中いたるところに大粒のイチゴが広がって、赤い宝石をちりばめたようです。レッドカラントは、甘酸っぱいソースを作ります。ソラマメは、南イタリアの友人の畑から頂いて来ました。採れたての空豆の美味しいこと!大切に豆を保存して、命を繋ぎます。

 

 


■ゆるやかな瞬間の出会い


急なお客様がいらっしゃることになりました。実は私、お客様となると、事前に緊張したりしてアタフタしやすいのです。が、今回は、アタフタする間も無く「これから行くわね!」といらして下さって。お庭で花やハーブやレタスをつんで、一緒にガーデンサラダを作ったり、ブーケを作ったり。とても楽しく過ごすことが出来ました。いつもこんな感じで、過去や未来に気をもむことなく、くつろぎの中で「この瞬間」を味わうことが出来ると素敵です。

 

この季節、一瞬の摂り時を逃さないようにしたいものがあります。「山椒の実」です。今年は、庭の手入れやバラの蒸留で忙しくしていたので、すっかり忘れてしまっていました。

 

 

ふと、通りがかりに、山椒の木に呼び止められた様な気がして、見上げてみると、既に赤みがかった実が!摂り時が過ぎているではないですか!「あ~っ!ショック!」と思いながら、葉陰の木の実を探してみると、ちょうど摂り時の、鮮やかな緑の実が沢山なっていました。植物は、ちゃんと教えてくれるのですね!

 

 

梅やわらびやタケノコや……、自然の恵みの採り時は一瞬です。「忘れていたら教えて下さいね!」とお願いしておきました。きっと、私のちっぽけな頭で、あれこれと計画していなくても、「そろそろですよ!」と、ささやきかけてくれるんじゃないかしら。安心して大きな自然に身を任せていれば、ちゃんと、最適なタイミングで、必要なことに意識が向くものなのじゃないかしら。この頃、「自動操縦」のような素敵なその感覚に、信頼が生まれてきたところです。

 


■庭の愉しみ


 

 

「花を植えるのはなんのため?」と、よく考えます。でも、よくわかりません。理由なんてなくて、ただただ「綺麗に花が咲いているのが嬉しいから」。食べられないのにね。ひとりで、庭でゆっくりお茶を飲む時間がとても大切です。

 

 

実は、私はハーブをあまり積極的に利用しない時もあって……。ガーデンで風に揺れている姿を眺めたり、近くを通ると、ふわりと香りに包まれたり。それだけで、なんだかとても満たされてしまって。とにかく、ぼ~っと植物の中にたたずみ、溶けあうような感覚が好きなのです。

 

 

もともと和風の庭が造りこまれていたわが家です。松やツツジやサツキなど、和風植物と、花やハーブのコンビネーションも、年々調和がとれてきたようです。サツキの鮮やかなオレンジの色彩は素敵なアクセントです。

 

 

庭の中心となる植物は、よく考えて植えることもありますが、その周りに、花の種をパラパラッと播いておいて、あとは自然に任せておくのが好きです。つまり無計画なのですが、頭で考えたのではないお花畑が出現するのが何よりの楽しみです。

 

 

そろそろ、麦の収穫の季節です。そして、田植えが始まります。周囲の田んぼはもうずいぶん稲が大きく育っていますが、自然農のわが家はゆっくりマイペースです。

 

それでは皆さま、最後までおつきあいいただきありがとうございました。蒸し暑くなりますので、どうぞお体にはお気を付けて、楽しい夏をお迎えください。またお会いしましょう!