第49話 体臭のきついギルドマスター?


「ふぇぇぇ!? ミャンミャンさんが!? 」

「ミャンミャン…… 何してるの? ノエルに!? 」

「別に! ノエルさんが大好きなので! 」


 なんで? 

 

 俺とノエルの間にミャンミャンが来て、さらにノエルの腕にミャンミャンの腕が絡みついている。

 肘が胸に当たってる! うらやましい!


「ふぇぇぇ! 私はリックの近くが…… 」

「ノエルさん! いきましょうね! 」

「ふぇぇ…… 」


 ミャンミャンがグイグイノエルの手を引っ張って行ってる。


 ちょっと待って!


「本当に普段からベッタリなのね!? はぁ、周りの人大変ねぇ」

「ふぇぇ!? ミャンミャンさん!? 」

「はい! もうすぐですからね! リックさん! ノエルさん! 」


 この洞窟は奥行きはないが天井が高く入り口が広い。

 大きなヴァリアントオウルが飛んで出入りする都合が良いみたい。

 

 山のふもとが裂けているように開いた洞窟の大きな入り口が俺達の前に現れる。

 入り口も王都の城門の倍以上の高さと横幅がある。

 

 洞窟の天井は岩肌がむき出してつららのようにところどころせり出している。

 地面は岩が時々むき出してある以外は土でところどころに、ヴァリアントオウルのものであろうか大きな糞が落ちている。


 幸い入り口が広いせいか、洞窟は多少薄暗いが歩くのには支障のない明るさが保たれていた。


「リックさん、タンタンはどこに!? 」

「イーノフさんが言うには、獲物をまとめて置いておくらしいから。とりあえず奥に向かって歩いて行こうか!」

「はい! 」


 洞窟の奥はなだらか坂になって、少し天井に向かって上がっている。 

 いや! これは大きな岩か!

 

 俺達のはその岩の大きくなだらかな坂道を上っていく。


「ふぇぇ! リック! 魔物の気配がします! あの岩の向こうに! 」

「うん! まさか!? ヴァリアントオウルか? 誘導に失敗した!? 」

「ふぇぇぇ! いや、そんなに大きな魔物じゃありませんよ! 」


 そっか、他にもこの洞窟に魔物がいるってことか? 

 

 俺達は岩の上に上って岩の向こう側を見る。

 

 岩の向こう側は俺達が登ったようになだらか岩が下りに続いていて地面まで到達すると、そこには小さな石が転がる比較的平坦なスペースが洞窟の奥まで広がっていた。


 この大きな岩が入り口から洞窟の最深部の見えなくして、目隠しをしているようになっている。


 あそこに!? 何かいる!


 あっ!!


 あれは? タンタン? 

 

 俺達から見える小さな岩の陰に無造作にタンタンが転がって、他にも岩の下から最深部まで平らになっている場所に動物の死体などが転がっている。


 ここが倉庫か!


 でも、タンタンの前に影が! 何かいるぞ!


「リックさん! あれ? タンタン! でも、前に居るのって! 」


 あの大きさと形は? サーベルウルフ!? 


 いや、紫の牙が光ってるからキラーサーベルウルフか?! どっちにしろ大変だ!


 しかも十頭以上いるじゃないか! クソ! 


「ノエルはここで援護して! 俺は…… ちょっとミャンミャン! また! 」


 鎌を抜いたミャンミャンが勢いよく岩を駆け下りていく! 俺は彼女を追いかけながら剣を抜く!


 でも、なんで!? 洞窟にキラーサーベルウルフが!? 


 まっいい! 


 とにかくミャンミャン達を!


 タンタンに近づこうとするキラーサーベルウルフに、ノエルが矢が放っている。

 数が多いから、一気に来られたらまずい! 


「ノエルー! 魔法で…… えっ!? 」

「タンタン! どいて! …… どけーーーーー!!! タンタンから離れて! 」

 

 ミャンミャンの鎌が紫色の光を帯びると!


 持ち手が長く伸びる!


 うわぁ!

 

 斜め後ろに振り上げたミャンミャンの長い鎌の刃が、彼女のかなり後ろを走る俺の近くまで来る! 

 あぶないよ! 


 妖艶に紫色に光るミャンミャンの振り上げた、鎌の持ち手から幾重にも刃が飛び出してくる!

 その形は魔物の牙のように鋭く幾重に連なった刃は禍々しい雰囲気を醸し出していた。


 すごい!


 タンタンを取り囲んでいたキラーサーベルウルフの集団に向けてミャンミャンが振り下ろされた!

 周囲に粉塵が舞い上がり、集団に向かって紫に光る刃が突き抜けていくと、キラーサーベルウルフが次々に真っ二つに切り裂かれていく!


 攻撃を終えた鎌は普通の長さに戻る。


 ミャンミャンは鎌を背中にしまうと、一心不乱にタンタンの元にかけつけると彼を抱きしめていた!


 まずい?! 急がないと!


 ミャンミャンの攻撃を逃れた五頭程のキラーサーベルウルフが彼女を取り囲む!


「来ないで! また! やってやるわ! 」


 背中から再度だした鎌をミャンミャンが構える!


 どうした? さっきみたいに鎌が伸びない!


「どうして? さっきはできたのに…… もう…… キャー! 」


 鎌を叩くながら、叫ぶミャンミャン!

 

 キラーサーベルウルフが牙をむくと、彼女の向かって三頭のキラーサーベルウルフが一気に飛びかかる!


 間に合えーーー!


 低く構えた俺は彼女の斜め後ろから! キラーサーベルウルフに突きをくらわす!


 先頭のキラーサーベルウルフの喉に剣が突き刺さり! キューという断末魔が洞窟に響き渡る。

 

 剣をつきさしたまま突きを、そのまま他の二頭にむけていく!


 飛びかかっていた他の二頭に突き刺されたキラーサーベルウルフの体があたり、二頭は態勢を崩して着地して倒れる!

  

 すぐにキラーサーベルウルフから剣を抜いた、俺は倒れた二頭の正面から距離を詰めると、まず一頭の首を剣で切り落とす!


 さらに剣を切り返すと、もう一頭も同じく首をはねる!

 キューという二度目の断末魔が二頭分、洞窟に響いていた。


 残りは二頭! こいつらは少し距離を取って身構えている。

 

「ミャンミャン! タンタンは大丈夫!? 」

「はい! 傷だらけですけど…… 気を失ってるだけです! 」

「そっか! よかった! じゃあもう下がってて! 」


 残りのキラーサーベルウルフの前に立つと、あいつらの口に肉が?

 そっか! ヴァリアントオウルの留守に獲物を盗みに来たって訳か! 


 なら…… 手加減はいらねぇな!


 剣先を下に構える。


 静かな洞窟の冷たい空気を切り裂く風の音! ノエルの矢が一頭の頭を貫く! 


 よそ見はダメだよ!

 

 キラーサーベルウルフの頭を貫通する矢の音に反応したのか、もう一頭のキラーサーベルウルフが一瞬だけ目線がノエルの方捜すように動く!


 俺はやつの隙をついて剣を喉元に突き刺した!

 

 ふぅ…… 終わったな!

 

 これでキラーサーベルウルフは全部片付いた。ミャンミャンはタンタンを抱きしめたまま泣いている! 俺は岩の上にいるノエルに手を振って合図をするとノエルも俺の方を見て頷いて反応している!


「ノエルー! タンタンを回復してくれるかな! 」

「ふぇぇ! はい! タンタンさん! よかったです…… 」


 すぐに岩の下まで降りてきて、目に涙を浮かべてノエルが回復魔法をタンタンにかけている。

 とりあえずこれで大丈夫だろう!

 

「ふぇぇぇ! まだ気を失ってますが! もう大丈夫ですよ! 」

「よし! それじゃあ俺が背負って…… 」

「いえ! タンタンは私が連れて帰ります! お願いします! リックさん! 」

「うん、わかった」


 洞窟の奥からミャンミャンはタンタンを背負って歩きだした

 俺は先導してノエルは後ろを歩いている。


 あれ? 洞窟の入り口に三人程の人影が!? あれは! メリッサさん達だ!


「三人とも、何でここに!? 」


 俺達の目の前には、別部隊のココとイーノフさんとメリッサさんがいた。 しかもなんで? 


「あたし達はヴァリアントオウル一匹をたおして、もう一匹を追いかけてこの近くまで来たんだけど見失ってね。巣に戻ったのかと思って来たんだけど来てないね! 」


 はぁ、それはわかりましたが、その顔は?


「ふぇぇぇぇ!? メリッサさんとイーノフさんの鼻をハンカチで覆ってるんですか? 」

「それは…… これが! 臭くて! うぉぷ! 」


 イーノフさんが瓶を見せてきた。 あれ!? これって? 

 確かあのヴァリアントオウルをおびき寄せるために作った薬だよな。


 臭いって!? どれどれ?


 イーノフさん達の近づいて鼻を瓶に近づける……


「やめな! 直接かいだら…… イーノフ! 早く! しまいな! 」


 メリッサさんが俺とノエルの姿を見ると慌ててさけぶ!

 すぐにイーノフさんが瓶をひっこめたけど!


 遅かったみたい……


 ぐわぁぁぁぁー! 


 なっ何これ?

 腐った肉の臭いとむわっと漂う強烈な刺激的なにおいが!


 鼻の奥が…… いっ痛い! しかも目にも染みる! 何これ? 


 俺とノエルは思わず鼻をつまんでいたが!


 鼻をつまむとそこの臭い残るような気がした俺は手を離すと、臭いがしない空気を何度もすって鼻の空気を入れ替えるようにしていた。


「ふぇぇ! 臭いです!! 」

「ほんと! 何か鼻にツーンとくるんだけど……  」

「ふぇ…… ゴホッ、ゴホ! 」


 あっノエル! あまりの臭いに思わず、咳き込むノエルの背中をさすっていると涙が自然と溺れる。


「どうしたんですか? それ? どうしたんですか!? 腐ったみたいな…… 」

「わからない! 作って瓶に詰めた時は臭わなかったのに…… いざ使ったらこんな臭いが…… おかげで僕とメリッサの制服に臭いが染みついちゃって…… 」

「うわぁ…… ほんとうにくさい」


 ミャンミャンもタンタンを背負って俺達の近くにやって来て、周囲の残り香やイーノフさん達の制服からでる臭いを嗅いだのでだろう怪訝な表情をしている。


 あれ? でも、一緒にいるココは平気な顔をしてるし布を鼻に当てたりもしてない!


「そういえば? ココは? この臭い平気なんだ? 」

「えっ!? あたいは平気だよ? そんなに臭わないよ! みんなどうかしてるよ! 」


 そうなんだ? ココはこの臭いが平気なんだな、どういうことだろう?


 うん? ミャンミャンがココに近づいて。


「そうか! この薬って?! ココの体液が元ですよね!? 」

「ミャンミャン! あんたなんでここに!? あたいは帰れっていったよね? 」

「えっ…… それは…… ほら! 私が必要だってリックさんとノエルさんが! 」

「もう、あんた! すぐにわかる嘘をつくんじゃない! 何をしたの! 」


 ミャンミャンが俺の後ろに隠れて、ココの様子を伺っている!

 ちょっと、そんなに動き回ったらあぶないよ! 回復してるとはいえ、タンタンを背負ってるんだから! しかもなんで!? 俺の後ろに隠れるのさ!

 

「ミャンミャン! あたいも怒るよぅ!? 」

「ココ! 私がタンタンのことが心配で、二人に無理矢理ついてきちゃったの! ごめんなさい…… 」


 少し悲しそうな声でゆっくりとミャンミャンが話し出すと、ココは困った顔をしてる。


「ミャンミャン! わかったよぅ、もう帰れって言ってもおそいよね。良い!? 後で罰として特別訓練だかね! 」

「うん…… ありがとう。ココ! 」

  

 いた! 俺の背中をミャンミャンがつねる!


 思わず俺は彼女の方に顔を向ける。


 なんで? 


 俺に目を釣り上げて怒ってるの? つねられたのは俺の方なのに!


「私が背中の後ろで困ってるのに! リックさんは全然助けてくれないんですね! 」

「えっ!? なっなんで!? 俺が? 」

「さっき、同じようなことをした、ノエルさんはかばったくせに! もういいです! 」

「ふぇぇぇ! ミャンミャンさんが私を見る目が怖いです…… 」

 

 ちょっと、ミャンミャン! ノエルをいじめるのやめなさい! 

 まったく、メリッサさんとイーノフさんが呆れた顔でなぜか俺をみている。


 えっ!? 俺が悪いんですか!?


 俺の顔にミャンミャンは自分の膨れた顔を見せてくる。


 そんな顔されても……

 

 俺の困った様子にミャンミャンはフンって感じで首を動かして、ココの方に行ってしまった…… なんだ? これ?!


「それより、ココ! さっきの臭いの話だけど、ちゃんとお風呂にちゃんと入ってる? 」

「失礼だよぅ! ミャンミャン! それに私の体液の他にも臭いのする草とかいれたでしょぅ!?」

「だって! ココだけ臭いの平気だし、蛇は自分の毒じゃ死なないでしょ? それに熟女の体液って名前からして」

「なっなによぅ! あたいがくさいっての? 」

「普段は臭わないけど、イーノフさん薬を作る時に煮詰めてたから、臭いが凝縮されたのかもよ!? 」


 確かに、ココの体液がこの薬には入ってるからな!


「なるほど! ココの体臭が凝縮されるとこんなにくさいのか! 」

「ふぇぇぇ!? ココさんってほんとはこんなにくさいんですか? 」

「えっ!? なんだい! リックとノエルまで! 怒るよぅ! 」


 ミャンミャンも鼻をつまんで目を細くして慌てたようすのココをみている! メリッサさんも少し疑う表情でココを見ている。


「みっ、みんなひどいよぅ! あたいの臭いじゃないよ! ほらほら! 」


 泣きながら、みんなの鼻に自分の手を持って行って臭いをかがせている。


「くさくないよぅ…… あたい…… 」 

「ほら! もうみんなからかうのやめなよ! もう! 」

「イーノフ、あんただけだよぅ! 」


 イーノフさんに駆け寄って、抱き着こうするココを巧みにかわしている。 

 表情が微妙な感じだし、口では紳士的なこと言ってるくせにあれは絶対に内心ではくさいと思ってるな!

 

「ほら、もうやめなよ! 臭くてもココはココだよ! みんな! 」

「メリッサ! それは…… なんか違うよぅ! 」


 メリッサさんがうまく? まとめていた。多分ココは傷ついているけどね。


 あっ! また泣きそう! 

 

 うん? 


 上空を旋回するこの影は! ヴァリアントオウル!

 空を見るとヴァリアントオウルが翼を広げて一匹俺達の上を旋回していた。上空で鳴き声がする。 悲しそうな怒りに満ちたような鳴き声だ。


 巣に勝手に入って、さらにつがいの一匹を倒したんだから、当たり前か!

 

「ちっ! 巣に戻ってきたね! みんな! といあえず! タンタンは助けたんだ! 逃げるよ! 」


 メリッサさんがみんなを先導して逃げようと森に向かっていく。

 ヴァリアントオウルが鳴きながら飛んで向かってくる!


 えっ!? ノエル?! ノエルがヴァリアントオウルとみんなの間に立って弓を出す!


 俺は足を止めてノエルの元に戻る!


「ふぇぇ! リックはみんなを連れて先に行ってください! ここは私が! もうこれ以上タンタンさん達を危険な目に! 」


 ノエル…… そっか! ずっと責任を感じてたんだね。


 だったら…… 俺も! 一緒だよ!


「ノエル! 俺も一緒だよ! だって俺達は相棒だろ!? 」

「ふぇぇ! リック! 」


 俺はノエルの手を握って彼女に微笑みかける。

 彼女は俺の目を少し見て、ほほを赤くして目線を下にした。


 ノエルの手…… 少し震えてる! 大丈夫だよと耳元でささやいて強く握る!


「リック! ノエル! タンタンとミャンミャンは任せな! ちゃんとあのヴァリアントオウルと決着をつけなよ! 」

「はい! 」

「あと…… そうやってイチャつくのは家でしなよ! 今は任務中だよ! 」

「ふぇぇ!? 」

 

 ちょっと! メリッサさん! 変なことを言わないでください! 

 メリッサさんに言われて俺の手をノエルが振りほどいた!


 ちょっとさみしい……


「そうだ! そうだ! 任務中にイチャつくな! まったく! 」

「こっこら! あんたは部外者でしょ! 」

「なっ、なんですか!? いち王国民としてあの兵士達の目に余る行動は…… 」

「ふぇぇぇ! ミャンミャンさん怖いです! 」


 なんか、ミャンミャンが勢いよくメリッサさんにまで絡んでる。 

 あっ…… またノエルが涙目になってる!


 しょうがないな。ゆっくりと髪に少し触れて、頭をなでると嬉しそうだ!


「だから! そういうところが…… ムカ…… 」

「ほら! もうヴァリアントオウル来るんだから邪魔すんじゃないよ! 」


 メリッサさんに肩を押されて抱きかかられるようにして、ミャンミャンは森に連れられていった。 ミャンミャン…… 


 なんであんなに? ノエルに!?


 それにタンタン背負ってるんだから早く逃げなよ! もう! 

 

 さぁ、ヴァリアントオウルさん! 決着をつけようか!