◯トコノール開発秘話
トコノールは発売から50年以上経つロングセラー商品です。
革のトコ面・コバ仕上剤として、半世紀以上に渡り日本国内のみならず海外のクラフターからも、圧倒的な支持を集めています。
ここからは、そんなトコノールについて、誕生秘話や改良の歴史、商品の変遷などをご紹介します。
語り=SEIWA技術部長 聞き手=SEIWA企画部 岡田和也
■「トコノール」誕生の由来
だれでも簡単に、ムラなく使えるトコノールは、どのようにして生まれたのでしょうか? まず、トコノールは弊社が革工芸に関する薬品や工具を扱いはじめた、革工芸事業の黎明期に生まれた商品です。その当時、弊社におられた革工芸作家の谷 保仁先生に協力を仰ぎ、使用感を聞きながら開発されました。その経緯について、当時を知るSEIWA技術部長に尋ねました。
『こんにち日本で発展した革工芸の大元はアメリカから始まりました。レザーカービングなどの技術は、アメリカで発祥し高められ、そこから世界的に広まった技術です。革のローケツ染等の染色技法は、後々日本で編み出された技術です。レザーカービングの技術が日本に伝播した頃、そのまま取り入れた技術もあれば、独自に昇華させた技術もありました。弊社は元々工業薬品メーカーであったため、それより以前から薬品や工具を自社生産していました。会社設立当時から研究室を設置し、化学的に解析しながら研究開発を行い、より良い製品作りを行っていたのです。そのため革に関する薬品の研究開発もいち早く取り組み、先駆者としてどこよりも早く商品化できたのです。
薬品の開発にあたっては、お客様の声はもとよりアメリカのタンディ社(当時のフィービー)の製品等を参考にしました。当時の彼らの製品は、靴墨なら色をつけるだけといった具合に、単機能の製品ばかりでした。また、仕上剤としてツヤを出したい時にはつや出し剤が有りましたが、防水性が著しく低く、雨にふられると流れてしまうといった欠点が散見されました。当時の技術社員は、そういった製品を自ら使用し、試験しながら独自の開発を進めたようです。その開発項目のひとつに、トコノールがあったのです。
■トコノールの改良
半世紀前、初期のトコノールは現在のCMCやふのりに近く、つまり「糊」に近いものでした。塗った後に成分が表面をコートしているような「肉厚感」がありませんでした。
もちろん作業中に感じる触感は現在と大きく変わりませんが、乾燥すると水をつけて磨いただけのような「パリっとした感じ」でした。すなわち、薬剤として何も表面に残っていない感じだったのです。薄い糊だけで毛羽立ちを上から押さえているだけのもので、それは効果が損なわれるまで、つまり毛羽立ってしまうまでの期間も短かったのです。
その後、少し時代が下り、1980年代中頃のことです。
当時トコノールの原材料に使用していた薬剤は、輸入品も多く使用していました。ところがこの薬剤の製造元が製造を中止したり、廃止になってしまい、輸入できなくなりました。そこで材料がなければ作れないため、原材料を一新しました。原材料の薬剤は約10種類程度を使っていましたが、その半分程度を新規に国内調達可能なものと入れ替え、同等以上の性能を目指しました。性能向上を目指して試験を繰り返した結果、以前のトコノールから性能を向上させることに成功しました。この時改良したトコノールは、現在皆様にお使いいただいているトコノールの性能および使用感に近いものです。
改良したトコノールは、輸入材料から国産材料に切り替え、以前のトコノールより「肉厚感」を出すことに成功しました。「肉厚感」というのは、言い換えると「質感」ということです。新しいトコノールで磨いた革のほうが、革の質感を残しています。たとえばガラス板などで磨くと、面の毛羽立ちは一様に押さえられますが、革の質感はトコノールのほうが高い。ほかの製品は、のりの弱い被膜で押さえられているので、薄くて硬い膜が張ったような、若干固い感じに仕上がります。
トコノールは毛羽立ちを押さえながらも、柔軟性に富みます。この効果はトコノールにワックス成分を配合したことによります。ワックスはろう質の油の一種ですから、糊だけでトコ面の毛羽立ちを抑えるよりも革に馴染み、柔軟性と温かみが出ます。ワックス成分を配合したことにより、毛羽立ちを押さえる糊の上に、薄いワックスの膜ができ、この2層効果で表面を丈夫にし、防汚効果も獲得しました。
■トコノール[無色]が白いのはなぜ?
ワックスと樹脂が入っていることが最も大きな理由です。本来樹脂もろう質の油の一種であるワックスも水に溶けることはありません。牛乳などと同じように、水の中に細かい分子として分散している状態です。そうすると光が乱反射するため、我々の目には白く見えるわけです。革に塗った後に水分が抜けていくと、お互いの分子間にある水分が抜けて結合するため、乱反射がおさえられて透明に見えます。
■「トコノール」ネーミングの由来
今から半世紀前、新商品のトコ・コバ仕上剤の名称を考案する際、社内で検討した末に「言葉の語呂と響き」でできたようです。ひとつめは、革のトコ面のall(オール)、つまりトコ面のすべてに使える、革のギン面以外の毛羽立った部分のすべてに使えるという意味です。革の「トコのオール」に使える、そこから転じて「トコノール」というネーミングが生まれました(笑)。
ふたつめは、音の響きです。響きとして子音が「イ」「ウ」「エ」などより、言葉の末尾が「オ」で伸ばしたほうがいいと当時の社員は考えたようです。ナ行で言うと、「ニー」「ヌー」「ネー」より、「ノー」と伸ばしたほうが響きがよい。一方、革のトコ面に塗るため「トコ+ヌール」というネーミングも候補にあったようですが、前述の「オール」と子音の響きから「トコ+ノール」で「トコノール」に決まりました。』
トコノール商品デザインの変遷
写真左側は1970年代中頃~80年代中頃までのパッケージです。右に行くほど新しく右端が最新です。