ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 【サンプル】x事情2【国二】2017年6月12日 11:57「なんなの」「入浴剤です」いや私はお前の行動について聞いたつもりなんだけど。「泡風呂になるやつなんですけど…」タイルに膝をついてぱしゃぱしゃと水面を波立たせる。だけど残念ながら投げ込まれたそれは水底で自身の色をじんわりと広げていくだけで泡風呂とは程遠い。頬を膨らませて浴槽を覗き込む横顔。ああ、もう、子供じゃないんだからなんでそんな顔するかな。とりあえずそのままじゃ体が冷えてしまう。中に入るように促して、私は風呂に不釣り合いなピンクを手に取った。「これ、お湯はるときに入れるんじゃないの」店で見るのはそういうタイプが多いからきっとこれもそうするんだと思う、どこで手に入れてきたか知らないけど、ちゃんと説明を聞いてから使ってよね。持った塊は溶け始めてぬるりとした感触。だけど発泡剤のせいなのかボツボツザラザラと穴が開いている、手のひらに垂れてくる色も相俟って正直気持ち悪い。あまぁく苺の香りがするのもまた不釣り合いだった。「蛇口、まわして」国見を抱きかかえる体勢なおかげで水道まで手が届かない。立ち上がるほどでもないし、そもそも私はこんなことしたくない、もう出るだけだったのにどうしてこうなった。ん、と小さな返事のあとに水道からお湯が出てくる。透明な色は塊に触れて白い泡を産み出す、私の手はあっという間に泡に飲まれてグロテスクなピンクも見えなくなった。「わぁ」子供みたいな反応、嬉しそうに泡ごと掬って自分から水道まで近づけていく。両手から泡が溢れる姿は傍目から見れば面白い。でもこのままだとせっかく出てきた泡が浴槽から流れてしまう。排水で調節しながら入浴剤が溶けきるのを待った。「ショートケーキみたい」ふわふわの白の下から覗く薄ピンク。そして鼻孔をくすぐるのは甘酸っぱい苺の香り。この条件が揃えば連想するものは大半の人が同じだろう。私だって例に漏れずそう思った。「甘くないのが残念ですけど」「そーだね」ふぅと国見が泡を飛ばす。さほど空気の含まれていない小さな泡は期待ほど飛ばずに落ちて消えていった。たまにできる大きな泡越しに見える景色は歪んで、くらくらする。ひとつ、大きく息を吐いて白い首元に顔を埋めた。「髪、伸びたね」鎖骨ぐらいかな。これだけの湿気のなかでも国見の髪はさらりと揺れていた。「お風呂のときはまとめろって言ったじゃん」「まだいけるかなって」全然いけてない。完全に毛先が浸かって濡れている。ところどころに浮いた白、それはそれで艶髪に映えているけども。ゆらゆらと揺れる…これは水面と言うべきなんだろうか。泡が口元に近づいてくるから慌てて体を離す。「くっついてても良いのに」「…甘かったら考える」「えー」まだ毛先を泡に浸けたままの国見は体ごとこちらに向いた。不規則に揺れる白の中に、それとは違った白い肌が見え隠れしている。「……」「…、どうしました?」何かを言いかけた様子だったけど、私の視線が一点に向いていたせいで内容が問いかけに変わった。文字通りに首を傾げてしまうから更に髪が浸かる。出してあげようと手を伸ばしても一緒に泡を掬い上げてしまったら意味がない、私はおとなしくまた腕を沈めた。「いや、胸が浮くって話は本当なんだなって思って」「……。えっ、なにを今更…ハッ」「これみよがしに驚くな」両手で口を覆って眉を寄せる、黒い瞳は何度も私の顔と胸を往復していた。ふざけんな。「触ります?」言いながらさっき沈めた腕を取られる。興味はないけど振り払うほどの嫌悪もない、されるがままに手のひらを胸に持ってかれた。ふんわり。そう表現するのがぴったりだと思う。言ってしまえば脂肪なのに柔らかくて、それこそお菓子みたいな。あー本当に浮いてんだなって下から持ち上げてみて確認する。泡と、肌と、時おり覗くピンクが妙に厭らしかった。「っ、ちょっと」「触られるだけじゃつまんないです」手のひらに収まらない私と違って遠慮なく触ってくる国見の手。見えないくせにピンポイントで狙ってくるのがムカつく、勝手に触らせたのはそっちだろうが。離れさせようと手を掴もうとしたら、逆に手を取られてしまった。「珍しいですね」いつもならもう少し抵抗するのに。きゅ、と握られた手首に泡の感触。滑るから無駄な抵抗をしないんだ、と言い訳。別に許したとか期待してたとかそんなんじゃない。「あまかったら、いいんですよね」浴室に反響した声が耳に入ってくる。ゆっくりと一文字ずつ、溶けこむみたいに。最初は何を言ってるか理解できなくて、顔がゼロ距離まで近づいてからさっき私がそんなことを言ったな、と思考が追い付いた。もちろん拒否する時間なんてない。<<中略>>ボタンの掛け途中で手から離れていく。それくらい自分で取りに行くのに、ぱたぱたと足音は遠ざかってしまった。…人のリラックス中にいきなり入浴剤を投げ込んできたのと同一人物とは思えない。いや、掴みどころがないということでは一緒か。すん、と小さく鼻を鳴らすとまだ自分から苺の香りがした。ふわふわの生クリームみたいな感触が不意に蘇る。隣に視線を落とすと、すっかり存在を忘れていたペットボトルが転がっていた。喉が渇いているのか自分でも良くわからない。でも気を失ったことは確かだし、ちゃんと飲んでおくべきなんだろう。……“ちゃんと”。思い出して自分自身にダメージを与えながらボトルに口を付けた。冷えすぎてても体に良くないのは知っているけど、やっぱりぬるいと美味しくない、半分ほど飲んで軽くなった容器はベッドサイドに退けておく。「電気、消しますよ」「ん、ありがと」横になっていると隣にパジャマを置かれた。薄暗いなかでズボンを履いていると国見も布団に入ってくる。どこかちょっとだけ、違和感。