ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 カンジてDiving2016年10月22日 19:44【アニメ最終回後のお話】【※ハヤテくんが可哀相な仕様※】【ほんのりメサカナ】【細かいことは置き去りです】 こんな始まり方のみくフレもあるかもよ?というお話。 みくフレへの想いが募りすぎた結果の長さです(溜め込みすぎなんだな前回以上に、読みやすさやまとまりよりも、自分が観たい場面をくどくど書き散らしちゃった感じですスミマセン みくフレにロマンティックをあげたかったの… みくフレの風よもっと吹け☆ミ※表紙はフリー素材でいただきました。真っ白な雪に覆われ、凍えるけれど清らかな風が吹く世界。生い茂る森の木々に実ったりんごの赤色は、落ち着いた景色の中に彩りを添える。大いなる風の加護に祈り、人々は慎ましくも穏やかに己の受けた生を真っ直ぐに営む。例え、短くとも。この命は、誇りあるこの王国で大切に繋がれてきた歴史を確かに明日の空へ橋渡していく。そんな世界で生まれた。そんな世界で、周りの誰もがそうであるように、このルン-命-が尽きるまで生きていくのだろうとぼんやり思っていた。優しい笑みを湛えた軍人さんの大きな手のひらから、きらめきがいっぱいの”歌”を受け取るまでは。その端末にはそれまで生活してきた日々では聴いたことも無いような、何にも囚われない縛られない自由な音が飛び交っていた。りん・みんめい。ふぁいあーぼんばー。しぇりる・のーむ。らんか・りー。曲名とともに表記されていた歌い手たちの名前。曲を聴くだけでは実際どんな人間なのか詳しいところは分からない。けれどはっきりと分かるのは、どのアーティストもせいいっぱいの情熱と楽しむ気持ちを持ち、歌うことが大好きなのだとメロディーに乗って伝わってくる。それはまさしく尊い命の輝きだった。聴いていると体がルンルンと楽しい気持ちでいっぱいになった。ルンルンが満ちると溢れ出す。溢れ出したルンルンを自然とそのまま口ずさんでいた。大きな声で思いっきり歌って披露してみせると、村のみんなが笑顔で拍手した。みんなのルンもあたたかい輝きを湛えていた。ずっとこうしていたいと思うくらいに、楽しくて夢中になれた。どんな時よりも、生きていると感じた。その感覚を忘れられなくて、独立戦争後に”地球の歌は聴くな”と禁止令が出されてからもアングラの銀河ネットの電波を懸命に拾ってはきらめく歌声を聴き続け、歌い続けた。そんなある日、頼りない電波の荒波を乗り越えて新たに端末に漂着した運命の小瓶がフレイアを銀河に導く女神-ワルキューレ-の祝福の歌声だったー…。[newpage]「いやあ~盛況盛況!お陰様で今回もよく売れてるぜ!」「ま、俺の饅頭を焼く腕前にかかればー…!」「ほんに調子のいい男やねえ~。今回の売れ行きは私たちの歌があったからなんよー」「あー、ほいなほいな」「あ!?まーた私の真似しとるっ!」「まぁまぁ…お二人さんともおつかれさんっと」仕込んだクラゲ饅頭をまとめていた手を止めて、言い合いをし出したハヤテとフレイアの間にチャックはりんごジュースの缶を差し出した。二人できょとんとした後に、りんごジュースを受け取りながらやんわりと微笑み合った。今宵はフレイアがラグナにやって来てから二回目となるクラゲ祭り。例年海の神様を称える行事だが、今年はウィンダミアとの戦時からの復興のなか平和への祈りも色濃く込められた機会となっている。あの戦いの日々から約一年が過ぎ大きな損害を受けたラグナも人々が逞しく元の活気ある惑星に戻そうと努力してきた為、中心部のバレッタ市内においては段々と元のような町並みを取り戻し観光地として旅行客も集められるようになっていた。まさしくラグナ復興の活気付けとなる今宵のクラゲ祭りも多くの人々で賑わっていた。これはフレイアが言ったとおり、ワルキューレが各地で復興チャリティーライブを行ったり銀河ネット番組を通してケイオス総力での復興活動支援の模様を伝えてきたことによる大きな効果だった。あたたかい灯火を灯した屋台が軒を連ねる中を祭りを楽しむ笑顔の人々が行き交う。その風景を眺めていると、こうしてみんなを元気に出来て、ワルキューレとしてせいいっぱい歌ってきて本当に良かったなと感じる。幸せを噛みしめながら、チャックからのねぎらいのりんごジュースでフレイアは喉を潤す。今年も昨年と変わらず、Δ小隊メンバーとワルキューレメンバーでチャックの家の『裸喰娘々』が出す屋台で『クラゲ饅頭』をつくって売っている。チャック・ハヤテ・ミラージュが饅頭調理、チャックの三人の下の兄妹たちは看板を掲げての呼び込み、そしてワルキューレメンバー五人は屋台の前でこの時だけの特別なCMソングの『クラゲ音頭』を披露していた。三人と二人に分かれて当番制で回そうと言うことになり、今はマキナと大きなクラゲの着ぐるみにちいさな身を包んだレイナがお立ち台に立って歌っている。そのひょうきんな歌に多くの人が足を止めては笑ったり手を叩いている。先ほどのフレイアが当番だった時も、今回ついに屋台当番初参加の美雲のグルーブの利いた歌声にカナメとフレイアのハモりを重ねた特別なアレンジがとても盛況で…(あれ…?)思い当たって、あたりを見回してみる。美雲さん、どこに行ったんかね…?歌の当番が終わった直後は隣にいたはずなのに、ほんの少しハヤテと話している間に姿が見えなくなってしまっていた。「美雲なら屋台を見て回ってくるって」きょろきょろと見回していると、屋台裏に備え付けられた休憩用のベンチに座っていたカナメが教えてくれた。「ええ~っ!それなら私も行ったんに~…」「私も声を掛けたんだけど、”少ししたら戻るから”ってさっさと歩いて行っちゃったのよね」下がり眉で苦笑して言う。どうやらお約束の単独行動クイーンらしい。美雲らしい自由っぷりだ。でもー…「もうすぐヒカリクラゲが上がってくる時間だな」チャックが呟いた。周りの屋台が少しずつ明かりを片付ける準備を始め、行き交う人々は海を見渡せるスポットへと移動し始めている。年に一度の9月の新月のこの日、海中のヒカリクラゲが体を光らせながら地上に浮かび上がり卵を産む。その美しい幻想的な光景を観られるのがクラゲ祭りの一番のイベントなのだ。フレイアは昨年初めてその美しい光景を目にし、感激してやまなかった。あの時はメッサ-も一緒だった。とても大切な、かけがえのない思い出となった。だから今年は、美雲さんに言ったんに…。―今年は美雲さんも一緒にヒカリクラゲを観ましょうね!!―ええ。静かながらも頷いて美雲は返事をしたはずだ。それなのに…「なんで勝手にどっかに行っちゃうんかね~~~~~っ!!??」ガンッ!!と音を立ててベンチにりんごジュースの缶を置くと屋台から通りの往来へ足を向ける。「おい、フレイア?どこ行くんだ?」「美雲さん探さんと!!ハヤテのせいだかんね!!」「俺のせいかよ…」フレイアの腕を掴んで止めようとした手をハヤテは所在なさげに頭の後ろへ引っ込めてしまう。「フレイア」駆け出そうとするフレイアにカナメが声を掛ける。「は、はいな?」「あまりばらばらになるのも良くないから私たちはこのままここで待つようにするわ。屋台の裏からなら海は見えるし。でも、」優しく微笑みながら左手で髪をかき上げる。「あなたはきっと美雲と一緒にヒカリクラゲを観てきてね」手首の銀色のバングルが輝いた。「ほいな!カナメさん!」お決まりのWサインをしながら元気に返事をすると今度こそ美雲を探しに駆け出した。「”クラゲの下で愛を誓い合った二人は、永遠に結ばれる”…一緒に観たかったのではないのですか?」クラゲ饅頭の串をまとめながらそっと問いかけるミラージュ。「さあな。祭りは今年だけじゃねぇし…あいつの行きたいところに行けばいいさ」フレイアが駆け出して行った方へ右手で戦闘機を形作って泳がすハヤテ。「…ごめんね?メンバー可愛さには弱くて…」カナメに手を合わせられると苦笑いしてみせる。「フレフレったらクモクモに通信すれば良かったのに~。でもフレフレらしいかな」「猪突猛進女」マキナとレイナは駆け抜けていった風を笑い合いながら見送った。そんなやり取りを知らずに猪突猛進女はひしめく屋台と往来の間を駆け抜ける。[newpage]美雲がどこにいるのか分からずに飛び出してしまったが、頭の中で懸命に見当を巡らす。フレイアはヒカリクラゲの見える海の方向へと移動していく人々の流れに乗る。せっかくの今日この日に祭りに来たのだから、美雲だってヒカリクラゲを見ようと思うに違いない。でもきっと一人になろうと抜け出したのなら大勢の見物人で賑わう桟橋の方には向かわないだろう。静かで、人気がなくて、ここからそう遠くなくて、海が見える場所。賑わう往来の中を掻き分けながら知ってる場所を思い浮かべてー…、考えて思い浮かんだ風景に少しだけ切なさがこみ上げてきた。足を動かす想いは一層強くなった。―きっと、あそこやねー…。人混みから抜け出し、果たして信じた場所にたどり着いて周囲を見渡す。海からの少し冷たい潮風を感じる。「I know your blues…」歌が、聞こえる。虹色の、声。憧れの、歌声。ルンが疼いて、輝き出すのを感じる。「uh uh「uh yeah…」」歌わずにはいられなかった。ハーモニーを重ねながら歩み寄ると、見つけた背の長く綺麗に流れる髪を揺らして小高い岩の上から振り返った。「やっぱり美雲さんの声やったんね」探し求めていたその人に笑いかけると、新月の闇に隠れて見えづらかったが、確かに微笑み返してくれたのがやわらかな空気で分かった。ここはかつてフレイアとメッサ-が二人だけで、生きることに対する想いを語り合った砂浜だった。あの時は、岩の上にフレイアが乗り、その足下にメッサーが腰掛けていた。優しい死神が、美雲と引き合わせてくれたような気がした。[newpage]「どうしてここに?」小さなステージの上から腰の後ろで手を組みながら覗き込んでくる。「どうしてって、約束したじゃないですかぁっ。ヒカリクラゲを一緒に観るって!それなんに美雲さんが勝手におらんようになってー!」優雅に佇む姿にビシッと指差す。「カナメには言ったわよ」のらりと答える単独行動クイーン。「私にも言ってくれんか、ねっ…はわわっと!?」文句を付けようと、勢いを付けて砂浜から美雲の乗っている岩へと飛び乗ろうとする。が、慌てて走ってきた疲れの為か岩に足をかけたところで頼りなくよろめいてしまった。砂浜に倒れ込む、そう思って焦ったが体は倒れること無く、頼もしく力のこもった腕にふわりと引き上げられ、抱き寄せられた。落ちると思った視界が小高くなって、驚いて頭のルンが跳ねて光った。「だってあなたが、」ついさっきとは打って変わって弱々しい声がすぐ耳元で囁かれる。「彼と楽しそうに話していたから」ルンの光に照らされてやっと見えたその整った顔立ちは、心細そうにこちらを見つめている。腰に回して支えてくれている腕の強さを感じる。目の前で、その瞳が揺れている。息を呑んだ。フレイアはその揺らぎを見たことがあった。あの、ラグナでの決戦で、美雲が囚われていた時。いけん、美雲さんを泣かせちゃいけんっ…どうにかしたいという衝動が体を駆け抜けた。何かを、なんとか、言おうとして息を吸ったが「始まったみたいね」海面の方へ視線を遣って囁くと、美雲はフレイアの肩に手を置いて寄せ合っていた体を離した。[newpage]目線の先を追いかける。真っ暗だった夜闇の海面に、ぽつりぽつりと、ひとつずつ、あたたかな灯が浮かび上がってきていた。クラゲ祭りの一番の目玉、ヒカリクラゲの産卵が始まったのだ。一匹、また一匹とゆらゆらと海中から海上へと浮かび上がり、視界は次第にたくさんのクラゲの放つ輝きでいっぱいになっていった。「命の輝きね」ちいさな呟きに隣を見遣ると、美雲は穏やかな表情で目の前の幻想的な風景に見入っていた。先ほど一瞬吹き抜けた冷たい風が気にかかったが、その表情にぬくもりが戻ったようで内心安堵する。クラゲのあたたかい灯がわだかまりの氷を溶かしてくれたようだ。今は、めったに無いこの時間を楽しもう。きっと美雲もその気持ちは一緒のはずだ。「ほんに、命の色でいっぱいで、綺麗…」昨年も感じた感激が鮮やかに蘇る。闇のなかだった砂浜もゆらゆら漂うヒカリクラゲでほんわりと明るく照らされている。「…ところで眩しいのだけど」「へっ?そうですね、クラゲがぶっちゃいっぱいで…」「違うわよ。そ・れ。どうにか抑えられないの?」“目に入ると気が散るわ”と続けたと思ったら、頭の上でぴかぴかと輝いていたルンを思いっきり指先でツンツンと突いてきた。「ふわあああああああっ!!?さっ、触っちゃいけん~~っ!!」デリケートなポイントへの遠慮の無い強襲に触れられたルンとともに心臓も跳ね上がってしまう。幻想的な雰囲気はどこへやら…。フレイアの反応に美雲は意地悪な笑みを浮かべている。「落ち着きが無いわね」「み、美雲さんのせいですっ!それに…!できんもん…っ」意地悪な攻撃からルンを庇おうとして覆っていた手を、思い直して下ろす。正直な気持ちを伝えるなら、隠さない方がいい。不思議そうに様子を窺って答えを待つ瞳を真っ直ぐ見返す。「ルンを抑えるなんてできんっ。美雲さんと一緒にヒカリクラゲを観れて、ぶっちゃ嬉しいんやもん…っ」ルンには魂が宿っているから。ルンルンピカピカ、ありのままに溢れる喜びの光の粒を撒き散らしながら美雲の手を取った。やっぱりもやもやを残していたくない。繋がりを確かめたい。そんな気持ちがこみ上げて、美雲の左手を両手でそっと包む。すると目を丸くしながらも言葉を聞こうとほどかずにじっとしてくれた。「うれしい?」ぽつりと問いかけられる。驚いているようできょとんとしていた。純粋に答えを求める瞳で見つめ返してくる。こんな表情を見せてくれるようになったのは最近のことだ。「はいな!去年、この綺麗な景色を、ウィンダミアには無いようなラグナのこの景色をみんなで観られたのがほんに嬉しかったから…。今年こそは美雲さんも一緒に観られたら、もっともっとルンルンやろうなあって…」初めてヒカリクラゲを観たあの時。メッサーを含むΔ小隊メンバーとワルキューレのメンバーがいて、屋台の仕事も手伝って、たくさんの住民やお客さんともふれあえて。とても楽しくてー…激しい戦いのさなかのほんの一時のことではあったかも知れないが、間違いなくあの時の最高の幸せがぎゅっと詰まった瞬間だった。それは、がむしゃらに駆け抜けてきた自分が想像していた以上に胸があたたまる揺るぎない幸福だった。閉ざされたウィンダミアの世界から、この広い銀河へ飛び出したからこそ出会えたかけがえのない宝物だった。そんなきらきらと輝く世界へとフレイアを誘ってくれた女神様-美雲-と、きっともっと幸せな時間を一緒に作りたいなという想いが、ずっと胸にあった。「美雲さんは私の憧れで、大好きな人やから」照れくさくて、いひひと笑いながら包んでいる手を揺らす。憧れの女神様は静かに耳を傾けている。ほんのりとあたたかい体温が伝わってくる。美雲・ギンヌメールの美しい手とこうしてふれあうなんて。ワルキューレに入ったばかりの頃は、ダンスのパフォーマンス練習の時のふれあいでも恐れ多くて緊張しっぱなしだったものだ。けれど、間近で熱い歌声を聴いて、鋭い激励を受けて、迷いのない背中を見つめて、歌への真っ直ぐな情熱を知るほどに、憧れは強くなって、もっともっとこの手を繋いでいたいと思うようになっていった。歌っている時に声と声、目と目を合わせて手を取ってくれるのが嬉しかった。一緒に歌いたい。あの時。命懸けで歌を届けに飛び込んだ先で、初めて打ち明けてくれた想いは、ワルキューレに入るのを夢見ていた頃からフレイアが抱いてきた気持ちと同じだった。憧れていた女神様のまっさらな素顔はとても愛おしくて。体も、心も、風に乗って引き寄せられていくのを感じた。ルンはぴかぴかと輝いて、体はぽかぽかとあたたまっていった。美雲さんも一緒やったんね。素直な想いに歩み寄れたことが、たまらなく嬉しかった。―それなのに…。言わなければならないことに立ち返って、ルンはへたりとしおれてしまう。そんな様子に美雲が顔を覗き込んでくるが、少しだけ戸惑って目線を俯かせてしまう。包んでいたなめらかな心地の手を、心許なくきゅっと握った。「…それなんに。ヒカリクラゲを一緒に観ましょうって誘ったんは私だったんに…、美雲さんを寂しくさせてもうて…悪いのは、私の方」ちいさく言葉にすると、繋がっている手がほんの少し揺れた。どんな想いで、ハヤテとの会話に夢中になっている自分を見ていたのだろう。自惚れかもしれない。けれど、抱き寄せられて間近で見たあの心細い表情は、どんなものよりも胸が締め付けられたのは確かだった。いつもは凜として美しい顔立ちに悲しい色が広がっていた。歌声も、寂しさをはらんでいた。そんなつもりは決して無かったのに、自分のせいで大好きな美雲をいつの間にか傷つけてしまっていた。フレイアが黙ってしまうと、周りで漂うクラゲたちがつくる夜の木漏れ日と、冷たい空気を含んだ潮風が二人の間をそっと通り抜けた。「嬉しがったりしおれたり…やっぱり落ち着きが無いわね」言われて顔を上げると、空いていた片手が伸びてきて髪を撫でられた。意外にも、すぐ傍のルンを突っつかれたりはしなくて。大切に扱われているようでくすぐったくて、心地よくて。思わずその手に顔をすり寄せたくなってしまうのをどうにか堪える。「今度はなんだかふるふる震えているわ」「あんまり見んといてください…えっち」ぶうたれてみせながら返すと不敵に微笑まれてしまう。優しくされたり、意地悪されたり。少しの不服さはあるが、あなたが笑ってくれるのならばそれでいいような気がしてくる。[newpage]「私も去年、あなたたちとは別の場所でヒカリクラゲを観ていたわ」ルンから視線を上げて美雲は海上を浮かぶクラゲを眺める。自身について話してくれるのは珍しい。「どこだと思う?」「うーんとぉ…」投げかけられて考えてみるが、当てられる気がしない。何せ去年のあの頃の美雲は今よりも更に謎だらけのミステリアスヴィーナスだったのだから。ステージ以外では、何を考え、どこでどうしているのか、本当に分からなかった。それが神秘の女神の魅力でもあり、その分色々な勘ぐりをしてみたりしたものだ。ひとつ突拍子もないものを挙げてみる。「空から!クラゲと一緒に飛んでいた!」「…あなたは私を何だと思っているの」左手の人差し指をビシッと空に突き上げたが、ため息と呆れ顔で返されてしまう。…やはり流石に違ったようだ。「うーん…ほんなら?」「ヒント。クラゲと一緒だったわ」神秘の女神の長い髪が潮風にふわりと揺れる。クラゲと一緒…?空を飛ぶのがはずれならば…。「あ~!もしかして!」「行くわよ」「ふぇっ?」答えに思い当たったフレイアのルンがピコンと光るのを認めたと思ったら、繋いでいた手をぐいっと引っ張っていく。正解の場所、岩の向こうの、クラゲが浮き上がっている海の方へ。「みっ、美雲さ~~~~ん!!??」叫びも虚しく、手を引かれるままに体は岩から離れ空を舞い、ザブンと大きな水音をあげて二人そろって飛び込んでしまった。突然のことに揺らめく波の中でおっかなびっくりしながらも足に力を入れてウィンダミア人持ち前の反射神経で体勢を立て直そうと試みる。砂浜からすぐの浅瀬の為、両足が海底に付いているのが救いだった。だがよろめきながらもバランスを取ろうとしているフレイアに構わず、美雲は手を引く強さはそのままに先へ進もうとしているようだった。「み、美雲さん!服も靴もびしょびしょなんよ!?」「気になるなら全部脱ぎなさい」「それじゃあなんもかんも気にしとらあ~~ん!!!」神秘の女神はなんだか楽しそうに笑いながらのらりと返し、止めようとする言葉も聞かずに水深の深くなる方へと向かっていく。周りにはもちろんヒカリクラゲが満ち満ちと漂っていたがそのわずかな隙間をぬうように進路を取っている。今夜のクラゲは触れてしまっても刺してくることは無いが、クラゲの体を傷つけぬよう注意している美雲の気遣いが伝わってくるようだった。自由気ままなようで、やはり優しい。二人でびしょびしょになって戻ったらカナメに怒られるかもしれないなと内心苦笑し、行動にどきどきしながらも、はりきってばしゃばしゃと歩を進める背中を止める気はもう失せてしまった。自分の右手を力強く引く確かな繋がりを信じられたから。水が腰の高さ辺りまで来るほどになってきた。流石に体も浮いてしまいそう、そう考えていると「気にしなくてもいいのに気にしてしまう」突然足を止めて美雲が呟いた。「元気になったり落ち込んだり、」背を向けて前を見たままで、表情が分からない。「頼りなくふわふわと漂って、」長い髪先が波間に揺れている。「でも時々、心奪われるほどのきらめきを見せる」ほぅ、と感嘆のようなため息を漏らしながら右手を夜空を漂うヒカリクラゲにかざす。「“感情”って、このクラゲたちに似ているわね」そう言って振り返ったルビーレッドの瞳は、水面に反射するクラゲの輝きを受けてきらきらと輝いていて。その表情は、興味深い発見をした純粋な喜びに満ちていて。あまりにも綺麗で。目が離せなかった。繋いでいる手から伝わる熱を感じて、鼓動が高鳴っていく。「体の力を抜きなさい」「え、」またも突然の”指示”。と、同時に両手を取って、美雲は深みに向かって後進して泳ぎだした。フレイアの体を引いているというのに軽やかに進んでいく。言われるがままに力を抜くと、されるがままにとうとう体が浮かぶ。引き寄せられて、肩を抱かれて、「息を吸って」「ほ、ほいなっ!」どうやらこのままもっと”進む”つもりらしい。すうっと慌てて息を取り込むと、美雲の誘いで、二人の体は海の中の世界へと飲み込まれていく。[newpage]ごぽごぽという水音を耳にしながら海中に潜ると、美雲はフレイアを引きながらも手足を流れるように動かして自然で優雅なしなりで泳ぎ進んでいく。長い髪は尾ひれのようにひらひらと美しく揺れている。まるで、人魚のようだった。その神秘的な後ろ姿に、視線を奪われる。こんなにも美しく泳ぐ人はきっと他にはいないだろう。深く潜るほどに、どんどんどんどん惹かれていく。あなたの前世は星の歌い手だけじゃなく、人魚姫の時もあったんじゃないかな。そんなおとぎ話のような想像が思わずかき立てられた。潜りだしてからどれだけ経ったのだろう。夢中で背中を追いかけていたようだ。人魚姫がゆるやかにスピードを落として動きを止めたので、意識が我に返った。美しい顔がこちらに振り返り、得意げな表情で辺りを指差している。促されるまま周りを見渡すと、目の前に広がるのは、光の海―…。上も、下も、右も、左も、海上から眺めるときよりもずっとたくさんのクラゲが漂い、輝きに包まれている。ゆらゆらと気ままに漂い、仲間たちとぷかぷかとふれあい、そのうちにザブザブと波行く海上へ命の粒を抱いて向かっていく。ヒカリクラゲのあたたかな命の輝きが星のように、透明度の高いラグナの海中を満天に照らしている。―海の中に広がる銀河みたいやねー…。すいすい泳いでいく姿は流星のよう。群れる様は天の川のよう。感激しながら、フレイアは美雲と目を合わせて微笑み合った。穏やかなまなざしに嬉しさがこみ上げた。去年は一人きりでこの光景を観ていたと言う美雲が、今は自分の手を引いてこのとっておきの秘密を教えてくれている。今、漂うクラゲ以外にはこの海中の空間にはたった二人きり。なんだかデートをする恋人同士のような雰囲気だ。……?自分が、美雲と、デート…?泡のようにぷっかりと単純な思考のなかで突然生まれてしまったイメージを、頭を横に振って慌てて消しさろうとする。なんで、そんな、ちんちくりんの田舎者が一緒に歌えるだけでもゴリヤヴァイような人とデートなんて…!恋人なんて…!恐れ多いことを…?平静を装いたくとも、浮かんだイメージは消えてくれない。ずっと憧れだった人。気高さのなかに、誰よりも純粋な想いを持ってる人。鼓動が次第に速くなり、頭のルンが忙しく点滅しだしている。急に、手を繋いでいることが恥ずかしくなって、意識してしまう。なにをこんなにも慌てているのだろう。挙動不審になってきたのは明らかなようで、美雲が顔を覗き込んで様子を窺ってくる。ずっとずっと、追いかけてきた人。長いまつげに、穢れの無いルビーレッドが瞬く瞳が、近づいてくる。ルンがぞくぞくする。―はわっ、はわわわわーーー!?ブクブクと泡が立つ。動揺して一息、口から空気を逃がしてしまった。すぐに口を閉じたが、気持ちが焦ってくるとともに呼吸が苦しくなってきた。種族の特性のお陰でクリアだった視界も揺らぎそうになる。繋いでいた手も緩めてしまいそうになったが、するりと両手を取られて、細長い指に絡められた。[newpage]あぁ、人魚に捕らわれるのかな。くらりとそんなイメージが浮かんで体の力も抜けてしまいそうになる。迫る呼吸の限界に、ふたたび空気が逃げだそうと唇がおののきだしたその時―…、視界の端で長い髪先が揺れて、絡めた手が引かれて、二人の間の隙間が埋められて、冷たい海に触れていたはずの唇に、あたたかくてやわらかな感触が落とされた。同時に、呼吸の苦しさが消えた。自分だけのものではない吐息とシンクロしている感覚を覚える。抜けてしまいそうだった体中の意識が呼び覚まされて、気がつく。今、美雲と、キスをしている。端正な顔立ちが、ルビーレッドの瞳に流れる長いまつげが、これまでのどんな瞬間よりも近くにある。突然で、夢のようで、驚くべきことなのだが。意外にも、緊張や焦りはこみ上げず、鼓動はゆったりとしたリズムで落ち着いている。けれど、確かなどきどきとした高揚感に繋いだ手と唇が熱を持つ。美雲が触れてきたのがただフレイアを助けるためだけじゃないのだと、分かるから。溶け合った吐息から伝わってくる。好き、という気持ち。今、ようやと分かった。ずっとあなたを追いかけてきて、追いつきたくて、一緒に歌いたくて、手を繋ぐのが嬉しくて、気持ちを共有出来ることに喜んで。あなたを想うといつも何よりも体が熱を持って、ルンが輝き出すその理由。あなたと歌えば、あなたと一緒なら、どこまでも飛んでいけるようなパワーが湧いてくるその理由。惹かれていた。恋していた。きっとずっと、この唇を求めていたんだ。フレイアの呼吸の乱れが整い、あたたかな体温が戻ると美雲の顔が離れる。―行かないで。空いてしまった距離に途端に切なさがこみ上げ、胸が焦がれた。絡めている指に力を込めると、ふっと目を細めて見返される。揺れる視界の中、じっと見つめ合うと右手だけ解いてそのまま頬にあてがわれた。海中でもぬくもりが頬に染み渡るのを感じる。あなたの心に愛があるのが伝わってくる。触れあうと、確かに、互いの熱が上がる。このぬくもりが好き。甘えるように手にすり寄って瞳を閉じると、ふたたび唇がやわらかな感触に塞がれる。角度を変えてじっくりと食まれる。先ほどよりも劣情をはらんだ刺激を感じて震えそうになりながらも懸命に押し付けて求めると、繋がる呼吸が振れて、美雲が意地悪に笑うのが分かった。やはりこんな触れあいの時もこの女神には敵いそうもない。けれどその楽しそうな表情は何よりも美しくて。誰よりもその自由で純粋な素顔に近づくのを許されたことが嬉しかった。好き。その気持ちを感じ、心を満たして、ルンがきらめきの粒を散らす。歌声を重ねるように、唇を重ねて、呼吸を重ねる。繋いだ右手の指を絡ませ体を寄せ合いながらゆらゆらと漂う。音の無い海中でも、美雲と一緒に歌って踊っているような気がした。クラゲたちが瞬く銀河の海の中、二人きりの世界で、何度も何度も。夢中になってキスを交わして。見つめ合って。永遠を感じた。命輝く恋に、溺れていた。[newpage]バシャンッと海面を激しく叩きつけ、這い上がる。「ぶっっっ、はあっ~~~!!??」思いきり胸を膨らませて酸素を吸い込む。顔を撫でた潮風がなんだかとても懐かしく感じる。全身満遍なくびしょ濡れになった体には夜の空気がとても冷たい。ラグナの夜闇と砂浜が臨める。あがった息に肩を上下させながら見上げると、海上を浮かび上がっていたヒカリクラゲたちの姿はもうまばらになっていた。ダイブしてから、一体どれだけの時間が経っていたのだろう。「ハア…ハア…ッ…さ、流石に風に召されるかと思ったんよ…」「鍛錬が足りないのよ」背中からフレイアの体を抱いて支えながら美雲が言った。「たっ、鍛錬も何もっ!美雲さんのせいですってば!!?あああ、あんなんっ、誰だって…!!」「あら、なんのことかしら?」唇に細長い人差し指をあてながらニヤリとからかいの視線を送られる。「みっ、美雲さんが…っ!」「私が?」「…っ、その、」「はっきり言わないと分からないわ」またもせわしなくなってきたルンを面白がるように観察してくる。うぅ、やはり敵わない…。言い返そうとフレイアは口を開けたり閉じたりしてみるが言葉に出来なかった。思い返すと、どきどきし過ぎて言えなかった。キスの最中、美雲に…舌を、絡め取られたなんて。流石にそんなことをされてしまえば、呼吸が乱れとてもそのままでいられなくなり、激しくもがいて美雲から離れ、ついに海面めがけてまっしぐらに浮上してきたのだ。…途中美雲は背中を支えて助けてくれたが、慌てる自分を見てにっこり笑っていたあの表情は忘れまい…。…。自分の中に突き刺して、全てを奪われてしまいそうになったあの感触も、忘れることなんて出来なかった。頭の上のルンから、つま先まで、強い何かが駆け抜けてしびれるようだった。本当は、その刺激に、何もかも身を任せてしまいたかったのかもしれない。…そんなこと、とても口には出来なかった。黙ってしまっていると、唇に人差し指があてられ「りんごの味がしたわ」「…っ!」嬉しそうな微笑みとともにウィンクを貰う。照れすぎて最早どんな顔をしたらいいのか分からない。けれどルンのきらめきと、そのまま手を滑らされた頬は正直にりんご色になっているのだろうなと感じた。美雲が、一度解いていたフレイアの右手をふたたび取って繋いで、水面にゆらゆらと遊ばせた。照れるけど、ぬくもりを感じて安心した。傍では二匹のクラゲがのんびりとやわらかな明かりを灯して漂っている。クラゲ祭りの賑わいのピークの時間帯も過ぎ、元々落ち着いた場所だった辺りはすっかり静かになっていた。聞こえるのは潮風に揺れるさざ波の音くらいだったが、静けさの中で自分と美雲の心音も聞こえてきそうな気がした。「あなたが好きよ、フレイア」虹色の声が、静寂の隙間を裂いて、耳元で囁く。「あなたと一緒に居ると、色んなことを感じて、色んな気持ちになるの。ずっとあなたの傍に居て、あなたの色んな顔を見ていたくなるの。あなたがいつも、私に心をくれるの」命の時間が刻まれた右手を引かれ、抱き寄せられて、腕の中に閉じ込められる。「ねぇ、フレイア。私の、好きって気持ち、伝わってる…?」この上なく、愛に濡れた声だった。抱かれた胸元から見上げると、フレイアのルンに照らされて、美雲の顔もりんご色に染まっていた。初めて見る表情だった。見つめ合う瞳が、堪らなく愛おしい。ルンがルンルンする。「ほいな!」元気な声を返す。涙ぐみながらもとびきりの笑顔が弾け出すのを感じながら、大好きな人にぎゅっと抱きついて、拙くとも全力の愛を込めたキスを返した。幸せに溢れる笑顔を見たかったから。愛のキスを交わし合えば、ずぶ濡れの体もあたたかくなる。ずっと一緒に生きていけば、きっと、もっと。二人の上に瞬く星たちが、ダイブする前よりも眩しく見えた。END歌詞引用『GIRAFFE BLUES』他、ワルキューレの楽曲よりイメージ・キーワード拝借