日本皮膚科学会
第49回中部支部総会・学術大会ランチョンセミナー(抜粋)
「皮膚の潤いを保つ方策」
(1998年10月10日 於: 神戸国際会議場)

1998年12月「メディカル朝日」(朝日新聞社)別冊掲載
特集『アトピー性皮膚炎などのドライスキンが改善』
●セラミド配合外用剤の保湿効果●
より

健康な皮膚を維持するために

-- 保湿の重要性と保湿剤 --


田上 八朗
東北大学医学部皮膚科
教授
最近、セラミド配合剤の保湿効果が注目されているが、10月10日、神戸国際会議場で開催された日本皮膚科学会第49回中部支部総会・学術大会ランチョンセミナー(会長・市橋正光神戸大学教授、座長・辻卓夫名古屋市立大学教授)でも「皮膚の潤いを保つ方策」と題して、セラミド配合剤の有用性についての報告があった。ここにその一部を要約して紹介する。

表皮細胞は表皮の下部、基底層でつくられ、およそ1カ月かけてゆっくりと上昇して最外層の角層に至り、だいたい14日で角層のいちばん上から脱落するといったサイクルを繰り返している。表皮細胞の役割のひとつに体内環境の維持があるが、それを担っているのは、死んだ表皮細胞の積み重なりである角層である。この角層は外陰部や瞼など最も薄いところで5、6層、手足の末端などでは20層以上、腕や体では14、15層の層構造をなしている。

この角質細胞を電子顕微鏡で見ると、無構造であるが、セラミドやコレステロール、脂肪酸といった脂質が細胞の間をびっしりと埋めていることがわかる。それはちょうど、食パンにバターを塗り、それを積み重ねたサンドイッチのような構造となっている。これらの細胞間脂質は水と脂がたくさんの層を形成し、物質浸透を妨げる役目を果たしている。この角層を埋める細胞間脂質がバリアとなって、外部からの刺激物の進入や体内からの水分喪失を防いでいるのである。

角層が厚いところほど、そのバリア機能も高いが、乾癬や皮膚炎の鱗屑では角層は厚くとも、こうしたバリアが壊れていて、外部からの物質の透過性が高まっている。これは通常、皮膚のターンオーバーが約1.5カ月なのに対して、こうした皮膚の場合には1週間以内に角層がつくられて脱落するという速いスピードで皮膚のターンオーバーが繰り返されるため、十分な機能をもつ角層が形成されないからである。

一方、角層には吸湿性という特徴もある。採取した角層には乾燥状態でも5%ぐらいの結合水が含まれているが、正常角層の場合、湿度を上げると80%ぐらいからぐんぐんと水を吸うのに対し、病変部のものはそんなには吸わない。

では、この吸湿作用に何が影響しているのであろうか。そこで、お年寄りの乾皮症や乾癬を角層を調べてみると、脂や水に溶けるアミノ酸が少ないことがわかる。角層の下層、顆粒層にあるフィラグリンが蛋白分解酵素により角層内で分解されアミノ酸となるが、健康な角層にはこのアミノ酸が多く含まれている。一方、乾癬の場合にはほとんどアミノ酸がなく、蛋白質の塊のまま剥け落ちてしまう。皮膚炎や角化異常のある疾患では、表皮の最終産物である角層も影響を受け、その水分を保持し、皮膚の表面をしなやか、滑らかに保つ働きも低下し、臨床的に鱗屑が形成されるのである。つまり、角層のこのアミノ酸と脂質とが皮膚の吸湿性に影響しているのである。

ところで、角層のもつ2つの働き、つまりバリア機能と水分保持機能が両方とも低下したものが、一般的な皮膚炎や魚鱗癬・乾癬であり、バリアは保たれているが水分保持が低下しているのがお年寄りの乾皮症と分けることができる。こうした水分保持機能の低下した角層は、冬季のような乾燥した環境においては、亀裂を生じやすく、これによって当然、下部の生きた表皮は傷害を受けて皮膚炎を生じやすくなり、ますます機能的に劣った角層をつくるという悪循環に陥る。

1%の界面活性剤を用いた24時間パッチテストを行うと、アトピー性皮膚炎患者の乾皮症の場合、刺激後1週間でも高いレベル水分喪失が見られる。しかも、界面活性剤の刺激を受けていろいろなサイトカインが出現するが、表皮細胞のみならず、真皮の線維芽細胞、血管内皮も刺激を受けて炎症を起こすことが知られている。

つまり、乾燥した状態の皮膚というのは、化学的な刺激に弱く、またバリアの破壊が起きやすいのである。そのため、角層の水分保持機能を保つように働く外用剤、すなわち保湿剤の塗布が、角層機能の低下しやすい小児、中年女性、老人をはじめ、アトピー性皮膚炎、魚鱗癬、手の皮膚炎の患者では必要である。

 

 

保湿剤の使い方

ほりかわたつや
堀川達弥
神戸大学医学部附属病院
皮膚科講師
いちはしまさみつ
市橋正光
神戸大学医学部附属病院
皮膚科教授

保湿剤を皮膚に外用する目的には、(1)皮膚の乾燥を防ぎ、角層の水分量を維持すること、(2)バリア能が減少した皮膚に刺激性物質または抗原などが外部から侵入するのを防ぐことが第一義的な目的であると考えられる。特にアトピー性乾燥皮膚や、加齢とともに著明となる下腿の乾燥皮膚などでは、保湿剤を外用することは有用である。最近のアトピー性皮膚炎の増加のためか、医療用に用いられる保湿剤に加えて、医療用の薬剤の補助的な外用剤として使用すると有効な保湿剤も市販されている。セラミドの減少が皮膚乾燥の主な原因のひとつとされているが、このセラミドを配合した保湿剤もまた、市販薬としてしか入手できないのが現状である。

また一方で、保湿剤による刺激反応や接触皮膚炎を呈する場合もあり、皮膚科医がさまざまな保湿剤のうち、どれを使用するのかを選択することはより重要になってきた。保湿剤の使い方についての私見を述べてみたい。

角層の保湿にはセラミドが重要

アトピー性皮膚炎発症の原因の全容はいまだ不明であるが、その多くは遺伝性または環境因子が発症に大きく関与すると考えられるアレルギー性疾患である。アトピー性皮膚炎の増悪とそう破とは密接な関係があり、痒みは皮膚の乾燥によって助長されると考えられている。すなわち、アトピー性皮膚炎では角層の保湿能が低下しており、特にスフィンゴ脂質のセラミドやアミノ酸などよりなるnatural moisturizing factor の減少がその原因となっていることが明らかになってきた。アトピー性皮膚炎では皮膚の乾燥を伴うことが多く、また乾燥皮膚はそう痒を強め、そう破による増悪と密接に関係していると考えられる。

電子顕微鏡によるアトピー性皮膚炎の乾燥皮膚の研究によれば、正常皮膚が滑らかでフラットな状態であるのに対し、アトピー性皮膚炎のドライスキンでは乾燥しているだけでなく、凹凸不整となり、個々の角層細胞間の隙間が大きくなっていることが知られている。このように、ドライスキンとは乾燥して角層が枯れ葉のように曲がってしまった状態と考えられる。

角層の構造を見てみると、正常では角層細胞の間を主にセラミドからなるスフィンゴ脂質が埋めている(図1)。実際には、セラミドだけではなく、中性脂肪やコレステロールも含まれている。また細胞内にはアミノ酸や少量の尿素、乳酸、さらにはピロリドンカルボン酸などもあり、これが水と結合する。さらに最外部の皮表をスクワレンやワックスエステルなどの皮脂と呼ばれる脂質が角層を覆っている(図2)

図1
図2
図をクリックすると拡大図を見ることができます。

 

保湿剤の保湿機序
では、皮膚からの蒸散を抑えるために、ワセリンあるいは脂のようなものを外用するとどうなるのだろうか。細胞間脂質と結合している水もあると思われるが、ワセリンなどを塗ると、皮表からの水の蒸発が抑えられる。このため、角層内の水分量が増えるが、この効果はemollient効果と呼ばれている(図3)。もうひとつは、外用剤に含まれる成分自身が水と結合して蒸発を防ぐことによって蒸散を抑える機構があり、これを行うのがmoisturizer(真の意味での保湿剤)である(図4)。つまり、保湿外用剤には2種類のものがあり、1つはemollient効果のみのもの、他はemollient効果だけでなくmoisturizerとしても働くタイプのものである。

こうした保湿効果がある物質として、昔からよく知られている尿素や乳酸、さらにプロピレングリコールやグリセリン、ソルビット、1,3-ブチレングリコール、コラーゲン、ヒアルロン酸、ビタミンEがあげられるが、それらに加えて最近ではセラミドが注目されている。それらの化学構造を見ると、グリセロールやエチレングリコール、プロピレングリコール、乳酸では、OHとC、Hが単純な格好で並んでいるのに対して、尿素では少し構造が異なっているが(図5)、いずれにも保湿効果があると考えられている。

これらの保湿剤にはどれほどの吸湿力があるかについての研究によれば、試験管内では10日目ぐらいまではピロリドン酸、グリセリン、ソルビットなどでどんどん水を吸収することがわかっている。実際に皮膚に塗布した場合には、尿素やグリセリンを外用したほうがポリエチレングリコールなどよりも角層の水分量が増えるといわれている。

図3
図4
図5
図をクリックすると拡大図を
見ることができます。

 

尿素の作用と副作用

外用剤に混入すると保湿効果が強い尿素について述べたい。尿素は昔から知られている薬剤であり、角質溶解作用と保湿作用がある。10%以上あれば保湿効果は十分あるが、20%のほうがその効果はやや高いことが知られている。また止痒作用や殺菌作用、蛋白融解作用も少しあると考えられている。実際に尿素を外用すると、10%の尿素で外用3時間後の角層水分量は増加していることがわかっている。

しかし、尿素には刺激性があるという問題点もある。尿素は一次刺激性物質ではないため、刺激性の皮膚炎は起こさない。その刺激性は浸透圧が高いために起こってくると考えられている。

 

その他の保湿剤とその副作用

こうした尿素を含有する尿素軟膏にはウレパールやケラチナミン、パスタロンなどの保湿外用剤があるが、その他の保湿外用剤として、ヘパリン類似物質のヒルドイド軟膏、ビーソフテンがある。またプロペトやサンホワイトのようにピュアにして、少し使用感をよくしたワセリンも販売されている。さらに、アズノール軟膏、ユベラ軟膏、ザーネ軟膏なども保湿効果を狙って使われることがある。

こうした保湿外用剤は乾燥を防ぐ効果とともに、乾燥によるそう痒を抑える効果、さらにバリア効果も期待される。しかし一方で、例えばラノリンを含有するアズノール軟膏、ザーネ軟膏、ユベラ軟膏などでは接触皮膚炎といった副作用が報告されている。また、ラノリンアルコールを含有するヒルドイド軟膏でも接触皮膚炎が報告されている。特に、アトピー性皮膚炎の場合、ラノリンあるいはラノリンアルコールに対する接触皮膚炎を起こしやすいという報告もある。さらに、ワセリンやアズノール軟膏などの保湿外用剤には、べたつきといった不快感があるのも事実である。

 

グリコセラミド含有外用剤の使用例

そこで、保湿外用剤による接触皮膚炎を起こしやすいといわれているアトピー性皮膚炎患者に対するセラミド含有外用剤を使用した私どもの経験について述べる。

アトピー性皮膚炎における保湿能の低下は、セラミドが減少したため経皮水分喪失量の増加、水分保持能の低下を来たし、表皮水分量が低下すると考えられている(図6)。セラミド配合クリーム、ローションのアトピー性皮膚炎、特にドライスキンに対する効果を検討した。

このセラミド配合クリームの保湿効果を、健常人のボランティアを使って調べてみると、その外用直後の保湿効果はヒルドイド軟膏に比べるとやや低いものの、水分量は外用直後から少しずつ上がり始め、外用2時間後から24時間後では図7のように十分な効果が見られる。

このセラミド配合クリーム(AKクリーム、0.5%セラミド配合)およびローション(AKローション、0.85%セラミド配合)を、平成8年6月1日から平成9年4月31日までに、神戸大学医学部附属病院皮膚科を受診したアトピー性皮膚炎患者20人(軽症4人、中等症12人、重症4人)に対し、1日2~3回外用した。なお、他の治療は不変とした。またステロイド外用剤は1例のみで、この症例は開始前1カ月以上、症状に変化がなかった。

そして、表1のような評価スコアにより外用4週後に評価を行った。

図6
表1
図7-A

グリコセラミド含有クリームの保湿効果
図7-B

ワセリンの保湿効果
図7-C

ヒルドイドの保湿効果
図7-D

ケラチナミンの保湿効果
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見ることができます。

 

70%が改善、そう痒・紅斑も減少
その結果、全般改善度を見ると、約70%に改善が見られた(図8)
また、そう痒、紅斑、鱗屑のスコア変化をみると、そう痒と紅斑で外用前と外用後に有意に減少が見られた(図9)

また使用感についてのアンケート調査も行ったが、クリームの使用感について「よい」と答えたものが約75%、「普通」は20数%で、「悪い」と答えた人は0であった。肌へのなじみについても「よい」が65%ぐらいで、やはり「悪い」は0という結果であった(図10)。また、少しべたつくと答えた人が少数いたが、半分以上の人が「べたつかない」と答えており、70%以上が「しっとり感」「さっぱり感」を挙げている(図11)

ローションについても、全体的な使用感について「よい」と答えた人が80%程度で、「悪い」は0となっている。肌へのなじみについても、50%近くが「よい」あるいは「普通」と答えている(図12)。べたつき感についても同様な結果で、「ない」というのがほとんど、しっとり感も「よい」というのがほとんどだった(図13)

副作用については、刺激感だけがあったが、それもほとんどは軽度のものだった。しかし、中等度のものもあり、特に重症の方ほど刺激感が多いという傾向がみられた(図14)

有効例を呈示する。図15の患者さんはステロイドを使っていないが、外用2週後で皮膚はかなり滑らかになっている。図16も外用4週後でかなりよくなっていることがわかる。

これをまとめると、アトピー性皮膚炎患者の乾燥皮膚に対して、セラミド含有外用剤(AKクリーム、AKローション)を使用したところ、70%に効果を認めた。そう痒や紅斑も有意に減少が見られた。アンケート結果では、全体的な使用感はクリームで77%、ローションでは82%が「よい」と答えている。副作用としては、軽度の刺激感を訴える者がいたが、ほかには特別な副作用は認められなかった。 

 

図15
図をクリックすると拡大図を見ることができます。

図16
図をクリックすると拡大図を見ることができます。
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図をクリックすると拡大図を
見ることができます。
市販のものでもよいものは
使うべき

最後に、保湿外用剤についての私たちの考えを述べたい。

患者によって、保湿外用剤の使感、刺激性は異なるので、それぞれの患者にとって使用感のよいものを選んでなければいけないのではないか。

また、アトピー性皮膚炎の患者でステロイド外用剤の副作用が出ている人、あるいはステロイド外用剤を使用したくないという患者の場合、保湿剤あるいは非ステロイド系消炎剤を外用することが多い。その場合、ワセリンを使用するようにしているが、ワセリンだとべたつく、あるいは塗っていると調子が悪くなる、痒くなるという人もおり、どうもワセリンが悪い人もいるのではないかと考えられる。このような場合、ワセリンを用いてパッチテストを行うと、陽性反応が出る人も見られ、ワセリンの接触皮膚炎というのもあるのではないかと私どもは考えている。したがって、患者の訴えをよく聞いて、数種類のものを順次使い比べる必要があると思われる。また、外用剤を使用していて、皮膚症状が悪くなれば、どのような外用剤であろうと、パッチテストすべきと考えている。

最後に、保険で承認されている保湿外用剤は少ないのが現状である。保険適用のある、よい保湿外用剤を開発していただく必要があるのではないかと思う。しかし、そういったものがない現状では、AKローション、AKクリームのような、市販薬のなかにもいいものがあれば、それを使うことも選択肢のひとつと考えられる。

参考文献

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