ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 SSつめあわせ2017年2月19日 21:11始まりを告げる/アオイごろりとソファに横たわると、目の前に影がおちる。見上げれば電球を隠すようにアオイくんが私に覆いかぶさっていた。「なあ、」吐息交じりに投げられた声に、そっと腕を持ち上げる。私から見て右側に寄った結び目に手を伸ばす。するりとゴムから抜けた髪がアオイくんの顔を覆った。髪の隙間から見える瞳が私を捉えて離さない。「ありがと」短く呟いたアオイくんの顔が近づく。ふわふわとした柔らかい毛が私の顔にかかった。触れるだけのキス。少し唇を離して、今度は唇に吸い付きながら、私の手からゴムを奪う。ちゅうと音を立ててから離れていったアオイくんが、バサリと髪を後ろにかきあげる。そのまま雑に一つにまとめて、また私に顔を近づけた。「一房垂れてる」結びきれていない髪を軽く引っ張る。その手がアオイくんの大きな手に包まれた。「そういうことは今しないの。……どうせあとで結び直すから、いーんだよ」そう呟いたアオイくんの唇が私の唇を塞ぐ。ペロリと唇を舐められて、答えるように口を開けば、熱い舌が入り込んできた。[newpage]赤い糸/ハルトボタンが取れた。こういう時にしか出番がない裁縫箱を取り出す。うっすら埃をかぶっているのは見なかったことにしよう。最近ボタンが取れるようなこともなかったから仕方ないね。最低限の色数しかない糸から一番目立たない色を選んでボタンを縫い付ける。普段裁縫をしないとはいえボタンをつけるくらいのことはできるんだよな。まあそれくらいはできておかないとな。そんなことを思いながらちゃちゃっとボタンを付け直した。さてしまうかと蓋を閉じようとしたところで目に入る赤い糸。運命の赤い糸なんかできゃあきゃあいう歳ではないけれど、たまにはそんな気分になるときだってある。赤い糸を取り出して、適当な長さで切ってテーブルの上に置く。裁縫箱は元あった場所にしまいこんだ。切った糸を手に、ソファーで寝息を立てるハルトくんの顔を覗き込む。まだまだぐっすり寝ていそうだ。そっと手を握っても身動き一つ取らない。うむ。握った手を離して小指をそっと他の指からはがす。締め付けないように糸を回して軽く結ぶ。ハルトくんみたいに器用じゃないからちょっと歪なリボン結びになってしまった。ハルトくんの長くて筋張った白い指に赤い糸が映える。その糸を目で辿っていくと私の手元にたどり着く。ふふ、と小さく笑い声が漏れてしまった。糸の端をくるりと指に巻きつける。残念ながら片手でちゃんと結ぶような技術はないからこれで満足するしかない。少し手を前に伸ばして小指に巻き付いた糸を見つめる。楽しい。でもそろそろこれを外して証拠隠滅をしなければ。というかいまさらちょっと恥ずかしくなって顔が熱くなってきた。「かわいいことしてる」少し掠れた声が横から聞こえた。ぎこちない動きで横を見ると、目を薄く開いたハルトくんと目があった。起きてる。糸を離して逃げようとするも、その前にハルトくんに腕を掴まれてしまい失敗に終わった。そのままぐいと腰を引き寄せられてハルトくんのすぐ隣に。「俺も結んでいい?」そう聞きながらハルトくんは私の返事を待たずに糸を結ぶ。綺麗に左右対称なリボン結びにすごいと小さく呟いた。ほんとハルトくんは器用だな。ハルトくんに糸を結ばれた手を持ち上げて眺めていると、ハルトくんの手がそのすぐ横に並んだ。糸の結び目が並び合う。私が結んだほうが歪で虚しくなるんだけどハルトくんはどうしたいんだろうか。「ふふ……」嬉しそうに笑う声がする。こてんとハルトくんの頭が私の頭に乗せられた。並んでいた手が重ねられて握られる。「だいすき」そんな言葉とちゅっという音が頭上で聞こえる。寝起きゆえかいつもより甘く響く声に思わず硬直した。心臓に悪い。じわじわと熱くなる頬と重くなる頭の上。……おや?「ハルトくん?」呼びかけても返事はない。その代わりに聞こえるのは規則的に聞こえる呼吸音。寝た……。席を立とうにも手を掴まれて頭を乗せられたこの状態では身動きもろくに取れない。寝てるハルトくんにいたずらした報いか……。静かにため息をついて目を閉じる。どうせ動けないならこのまま一緒に仮眠をとるしかないな。意識が落ちる直前にハルトくんが笑う声が聞こえた気がした。[newpage]再会の幸福を噛みしめる/ハルト腕を回した暖かいなにかが動くのを感じて意識が浮上した。まだ重い瞼をあげる。伸ばした腕の中に何かがある。視線を上げていくと整った顔が目に入る。ああ、そうだ。ハルトくんと一緒に寝たのか。起こさないようにそっと彼から離れて体を起こす。二年ぶりの再会を経て、積もる話もあるだろうとハルトくんの部屋に泊まりに来たのが昨日の話。いつ寝てもいいようにとベッドに潜って話をし始めて、どこまで意識が残っていたか。どっちが先に寝落ちたのかすら記憶にない。ただ、とてもよく眠れていた気がする。こみ上げるあくびをかみ殺して隣を見下ろす。本当にハルトくんがそこにいる。自然と手を伸ばしていた。ふわりと頬に触れてもハルトくんは身動き一つとらない。柔らかいし、温かい。現実だ。するりと輪郭をたどるように指を滑らせた。すべすべしてそうだなと思っていた頬も、触れるとうっすらと髭の存在をかんじさせる。男の人なんだなあ。ハルトくんはまだ寝ている。確認してからハルトくんの頬に自分の頬をくっつける。あったかい。でも恥ずかしくなってすぐ離れた。もちもちだなあ……。ハルトくんの頬が触れた部分を指で触れる。まさかこうして触れることができる日が来るなんて。どうしようもなく嬉しくなって隣に寝転んでハルトくんの体に腕を回す。ぴったりくっついて息を吸えば、甘い香りが鼻腔をくすぐる。ハルトくんの肩におでこを押し付け、幸せだなあと口を緩めた。少しの間そうしてから顔を離す。少し見上げるとハルトくんの首筋が目に入る。さすがにそこで遊んだら起きてしまうか。そこを素通りしてハルトくんの顎に唇を押し付けた。音を立てないようにそっと離れる。なかなかに恥ずかしいことをしてしまった。そもそもハルトくんが起きていないからといって好き放題やりすぎではなかろうか。いまさら顔に熱が集まるのを感じる。「満足した?」そんな声がしたと思えばハルトくんの腕の中にいた。「え、いつ……え?」頭が真っ白になる。いつから起きていたんだろう。混乱する私をよそに、ハルトくんが微笑んだ。「ずっと起きてた……寝たら、君がいなくなってしまうような気がして」「え、ずっと……?」「目は閉じていたけどね」顔がどんどん熱くなる。寝ていなかった?そんな、そしたら私がやったこと全部ばれていた?寝ていると思ってちょっと大胆な行動をしたのに。何も言えずにいる私を抱きしめているハルトくんの体が小刻みに揺れる。「君に触れてもらえることが、嬉しくて……」笑いを含んだ声でハルトくんがつぶやく。「それで俺からも触れたくなって……寝たふりを続けられなくなっちゃった」ぎゅうぎゅうと腕に力が込められる。ぴったりとくっついてしまってハルトくんの表情は見えない。どくどくと響く心臓の音は私のものだろうか。なんとか動く手をハルトくんの背中に回した。「好きだよ」ハルトくんの声がする。私も好きだと呟けば嬉しそうに笑う声が聞こえた。じわりと目頭が熱くなる。幸せを感じて涙する日が来るなんて。なんとなく涙が出ていることをハルトくんに知られたくなくて、ぐいとハルトくんの肩に顔を押し付けた。[newpage]ちょっと休憩/ハルトパソコンの前で彼女が唸っている。キーボードから手を離して腕を上げたり肩を回したり。時計をみると彼女がパソコンに向き合ってから2時間近くたっていた。休憩させないと。読んでいた本を机に置いて立ち上がる。息を吐いて首を回してから「よし」と呟いて再びキーボードに手を置いた。そんな彼女の頭に手を置く。「わ、ハルトくん」「一旦休憩したら?」「うーん」「そろそろ目も疲れてるだろうし」彼女がパソコンを使うときにかけている眼鏡をそっと外す。代わりに俺の手で目を覆うと、彼女の肩から力が抜けた。「ハルトくんの手、あったかい……蒸しタオル使ってるみたい……」「きもちいい?」「うん……」背もたれに体重を預けた彼女の頭が俺の方に倒れてくる。それを体で支えて、空いてる手で頭を撫でた。「ちょっとしたら声かけるから、目を閉じてゆっくりしてて?」「うん……お言葉に甘える」彼女が長く息を吐いて黙り込む。上を向いたせいで薄く開いた口元にが目に入った。少しカサついている。後でリップバームを塗ってあげよう。でもその前にキスがしたい。あまりしつこくすると止まらなくなるし、彼女の邪魔にもなってしまうから、ちょっとだけ。……そんなことを考えていたら今すぐにでもキスしたくなってきた。でも、我慢しなければ。彼女の目を休ませるために。こみ上げる欲望を押さえ込んで、唇から視線を外す。そうなると自然と彼女の体のほうに目がいってしまう。なだらかな胸元のラインと無防備に投げ出された手足。……あまりにも無防備すぎる。キュッと唇を噛んであらぬ方向に飛ぼうとする思考を引き止めた。だめだ。多分ここで手を出したら明日の朝彼女に一週間キス禁止を言い渡されてしまう。小さく息を吐いて目を閉じる。落ち着け、我慢だ。目を開けて彼女を見下ろす。そろそろいいだろうか。あまり長くしていると本当に眠ってしまいかねない。手を離すと目を閉じていた彼女がゆっくりと瞼を持ち上げる。「へへ……ありがとう」俺を見上げてふにゃりと笑いながら彼女が言う。気付いたら上半身を屈めてその唇に吸い付いていた。音を立てて角度を変えて何度か吸い付き、名残惜しく思いつつも止まれるうちにと彼女から離れる。驚いた顔の彼女に小さく笑って唇を指で押した。「リップ持ってくるね」そう言って逃げるように彼女から離れる。落ち着けと自分に言い聞かせながら、でもリップバームを塗って彼女の唇の柔らかさを感じたら、また止まらなくなるのではないだろうかと思い至る。でもこのリップバームは俺が彼女に塗りたくて買ったものだから……止まらなくなったらその時に謝ろう。小さな丸い容器にそっと下心を隠して彼女のところに戻ることにした。[newpage]抱き枕/ハルトん、と小さく呻きながらハルトくんが頭を押し付けてくる。同時に腕にも力が入って、その中に閉じ込められている私のお腹に食い込んだ。私はもうちょっと起きていたいから寝るならちょっと離れてほしい。なんて思ってはいるものの、丸い頭とそのてっぺんのつむじをみているとこのままでいいかって気持ちになってしまう。悪戯心がむくりとわきあがって、つんつんとそのつむじを指でつついた。首をすくめてむずがるように首を振る。かわいい。ぽんぽんと頭を撫でると力が抜けていった。そのままさらさらと髪を指で梳かす。綺麗な髪だなあ。いじっていたスマホを放り投げてハルトくんに向き直る。よいしょと腕を伸ばしてハルトくんの頭を抱き込んだ。このまま寝たら明日の朝ハルトくんはどんな反応をするだろうとぼんやり考えていると、徐々に思考がまとまらなくなってきた。もういいか。このまま寝てしまおう。するりと滑るハルトくんの髪に頬を寄せて目を閉じることにした。[newpage]じょうずになりました/ハルト「君からキスしてほしい」ふに、と唇を押してハルトくんが小首を傾げる。「え?」と私も首をかしげるとハルトくんは「ちゅーして」と上目遣いで覗き込んでくる。その言い方はずるい。「……じゃあ目とじてて」嬉しそうに目を閉じてハルトくんが頭を前に出す。こういうのは勢いが大事だ。肩を掴んで唇を押し付ける。離れようと思うよしたところで後頭部を押さえ込まれた。ぬるりとハルトくんの舌が唇を割り開く。息を奪うようなキス。急なことで慌てつつも、なんとか唇が離れる隙に息をする。しばらくハルトくんにされるがままになっていると、最後に舌に吸い付いてから離れていった。「なにするの」「したくなったから」「まったく……」「でも、上手になったね」「え?なにが」「えっちなキス」ぽかんと口を開いてしまう。ん?と小首を傾げるハルトくん。じわじわと顔が熱くなってきたのを感じる。「えっちなきすって……」「自覚なかった? じゃあもう一回」「いや、いいから」近寄るハルトくんの顔を手で押さえると少し不満げな目で見つめられた。そんな目で見られても困る。ハルトくんの口が開くのを手のひらで感じた。がじ、と歯がたてられる。ああ、これはやばい気がしてきた。ハルトくんの手が私の手首を掴んだ。「そういう気分になっちゃった」ぐいと手を押しやって、唇が触れそうになるまで距離を詰めて、ハルトくんが囁いた。[newpage]まほうつかい/アオイ (パロ)ふいとアオイくんが杖を振ると、そこからキラキラとした光の粒子が出てくる。「すごい。魔法みたい」「みたい、じゃなくて魔法なんだけどな」頬杖をついたアオイくんが笑う。確かにそうかと頷いて、改めてアオイくんに向き直った。「魔法ってなんでもできるの? ハリポタに出てくるような感じ?」「まあだいたい。流石に死の呪いなんかはないけどな」一瞬アオイくんの表情が陰る。この話題はあまり突っ込まないほうがよさそう。ばれないように頭をひねって次の話題を考える。「魔法使いだって言ったことは?」「お前以外にはないよ」「うそだー」「ほんと。言う必要もないだろ? 使わないんだから」「使おうと思わないの?」「……使わないよ。滅多なことがない限り。そうじゃないと、馴染めなくなる」アオイくんの視線が下がる。顔を隠すように頬杖をついてしまった。昔何かあったのだろうか。「でも私にはおしえてくれたし、魔法見せてくれるんだね」ぽつりと呟いた言葉にアオイくんが目を見開く。頬杖をついたまま横目で私を見て、また顔を隠した。「……お前ならって思ったから」「え?」「お前なら、変に距離を取ることもないだろうし、それに、笑顔になってくれると……」尻すぼみになる最後の方は聞き取れなかった。手の隙間から覗くアオイくんの耳は赤い。「魔法なんて使わなくてもアオイくんは私を笑顔にしてくれるけどね」そう笑うとアオイくんは顔を上げて、ちょっと呆れたような、でも嬉しそうな顔で笑ってくれた。[newpage]ツインテールの日/アオイ「今日はツインテールの日だよ」そう言って俺の前に立つ彼女の髪はまっすぐ下りたまま。「結べばいい?」貸してと手を出すと、やれやれというように首を振られた。なんだって言うんだ。「私がツインテールにしたって痛々しいだけでしょ」「はあ?」「まあそういうわけでアオイくん、ツインテールにしよ」「ちょ、おい……」止める間もなく髪が解かれる。パタパタと俺の後ろに回った彼女が髪をすくい上げる。「男のツインテールも痛々しいだろ」「私は楽しいよ」「俺は楽しくないけど」ブツブツいいながら頭を動かさずにじっとする。頭上から微かに鼻歌が聞こえた。随分ご機嫌だな。ぐぐ、と頭皮が引っ張られる。いててと呟くと「ごめん」と半笑いの声が落ちてきた。反省もなにもしていない。なだめるようにポンポンと頭がたたかれる。俺よりも幾分小さな手が頭に乗るのはなかなかに心地よい。「できた」と楽しげな声がして、いつの間にか閉じていた瞼を開く。正面に戻ってきた彼女が嬉しそうな笑みでこちらを見ていた。「かわいー」「はいはい」「ついでだから女装する?」「ついでの意味がわからないな」腕を伸ばして彼女を引き寄せる。うわあと色気のない声をだして彼女が俺の膝の上に乗った。ぐるりと腰に腕を回して逃げられないようにする。「アオイくん怒ってる?」「怒ってないけど」「じゃあはなして」「それは嫌」すり、といつも通りに彼女の肩口に頬を寄せると「くすぐったい」と逃げられる。そうか、今はこっちにも髪があるのか。首を振るとぺしゃりとかすかな音が聞こえた。「髪が当たってるよアオイくん」「あててるんだよ」「わぷ、口にはいる」「はは」何度か首を振っていると髪をぐいと引っ張られた。軽くとはいえまあ痛みはある。やめなさいと彼女の腕をつかめば、あっさりとその手は離れていった。「そうだ。写真撮っていい?」「却下」「ええ」「お前も同じ髪型にするならいいけど」「それはいやですね」「じゃああきらめてください」けちーと耳元で彼女が喚く。適当に流していると後ろからシャッター音が聞こえた。「こら?」「後ろ姿だからいいでしょー」「後でおぼえてろよ」「今じゃないのか」「今がいい?」「いつでも嫌です」「はいはい」彼女の肩に顎を乗せる。後で何をしてやろうかと考えつつ、今はこのままくっついていようとそっと目を閉じた。「……なにかたくらんでる?」「まだなにも」「……離れたい」「離しません」「うわくるしい」ぎゅうぎゅうと腕に力を込めると彼女が呻く。それに小さく笑っているとぱしりと背中を叩かれた。顔を少しずらすと彼女の髪が顔に触れる。やはり後で同じ髪型にしてやろう。ばれないようにそっとその髪を唇で食んだ。[newpage]夜更かしと翌朝/ハルト「夜更かししようか」そういって目を細めたハルトくんが私をベッドに押しやる。されるがままにまだひやりとしている布団に潜り込んだ。ライトをつけてハルトくんを待つ。「図書館から借りてたやつでよかった?」「うん。そろそろ返却期限だし」本を二冊持ってハルトくんがベッド脇に立つ。布団を持ち上げるとそこにハルトくんが入ってきた。週に一度の読書の時間。ハルトくんは今日も小難しそうな本を読んでいる。ちらりと内容を盗み見ても全く理解できない。しおりを挟んでいたページを開く。どんな話だったか。前のページを見て内容を思い出す。隣からぱらりと紙をめくる音が聞こえた。私も目の前の本に集中しようと文字を追い始めた。不意に本にしおりが挟められる。そのまま本が取り上げられて、パタンと閉じられた音が聞こえた。「いいところだったのに」「そろそろ夜更かしもおしまい」すこし眠そうな声でハルトくんがいう。どさりと音を立てて本を置いて、ハルトくんが私に向き直った。その腕がぐるりと私を包む。「今日はもうねよ?」すり、と髪に頬を寄せられる。じわじわとハルトくんの体温が伝わってきて、一緒に眠気までうつってきた。「そうだね、寝よっか」ハルトくんの腕の中からどうにか自分の腕を出して電気を消す。腕を布団の中に戻し、ハルトくんの脇腹に添える。あたたかい。手の下のお腹が規則的に膨らんではへこんでを繰り返す。もう寝たのか。頭上からもすぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてくる。それをBGMに、私も襲い来る眠気に身を任せた。意識が浮上する。まだ重い瞼は閉じたまま、すぐ隣にある温もりに顔を押し付けた。ぼやぼやとまだ夢の中をさまよっているような思考が不意にすっきりと覚醒する。今何時だろう。休日とはいえ、すこし寝過ぎたかもしれない。体を捩ってハルトくんの腕の中から抜け出そうとする。ぎゅうと締め付けられた。ぐぅと小さくうめき声をあげると、回った腕が小刻みに揺れる。「おきてる」「うん。おはよう」ちゅっと頭上から音がした。ハルトくんはもう起きていたのか。しっかりした口調にそんなことを思う。腕の力は強いまま、目の前に見えるのはハルトくんの体だけ。「いまなんじ?」「お昼」「えっ」ぐいとハルトくんの体を押して距離を取る。顔をあげれば遮光カーテンの隙間から明るい光が差しているのが見えた。ついでに目覚まし時計を手に取ると、短針が頂点よりちょっと右に傾いていた。「こんなに寝るつもりでは……」「たまにはいいんじゃないかな」そう呟きながらハルトくんは私の手から目覚まし時計を奪う。体を起こそうとした私を布団に引き戻すように抱きしめ直して、ぴたりと額をくっつけてくる。こうなるとなかなか離してもらえないんだよなあ。家事をしないといけないという考えとこのままハルトくんにくっついていたい気持ちがせめぎあったのは一瞬だけ。抵抗をやめてハルトくんの頭に腕を回す。そのまま頭を抱えるように横になれば、ハルトくんが小さく笑い声をこぼした。[newpage]酔ったふり/ハルト日付は少し前に変わった。どうしても出なければいけない飲み会があると渋い顔をして出て行ったハルトくんはまだ帰ってこない。数時間前に「先に寝ていていいよ」とメールが来たけれどなんとなく寝る気にはなれなかった。ぼんやりと宙をみていると、鍵ががちゃりと回される音が聞こえた。ばっと立ち上がって玄関に向かう。少し顔を赤くしたハルトくんが立っていた。「おかえりなさい」「ん、ただいま」もそもそとした動きで靴を脱いで、カバンを雑に置いてハルトくんが私に腕を伸ばす。応えるように腕を開くとハルトくんがぎゅうと抱きついてきた。随分とお酒くさい。背中をぽんぽんと叩くと頭に頬ずりをされた。「ハルトくん酔ってる?」「ふふ……」「どっち……」「んー」はっきりとしない答えを返しながらハルトくんは腕に力を込める。酔っているのかなあ。珍しい。お酒は強いと言っていた気がするし、一緒に飲むときに酔った素振りを見せたこともなかった気がする。「すき」あまい声が耳に吹き込まれる。思わずびくりと体を揺らしてしまった。くすくすと楽しそうな笑い声が耳元で響く。たまに息がかかってくすぐったい。背中に回していた手を離して、ハルトくんから離れるために二人の間に差し込む。ぐ、と腕に力を入れようとした瞬間、かぷりと耳たぶを噛まれた。「ひっ……ちょっと!」「ふふ……だいすき」また甘く囁きながらするりと手を取り指を絡めてくる。両手が封じられてしまった。どうしよう。ちゅっちゅっと耳元に何度も口付けられている。ハルトくんは酔うとスキンシップ過多になるのか。飲み会の場でこんなふうにふにゃふにゃになってたのかな。あ、ちょっと心配になってきた。「ハルトくん飲み会の間の記憶はある?」「ん? あるよ」「今みたいに他の人にベタベタしてた?」「するわけない」さっきまでのふわふわした声が嘘のような声音が突然聞こえておもわず「えっ」と声を出してしまう。「……きみにだけ」また声を和らげてハルトくんがくっついてきた。唇で頬を挟むようにキスをしてくる。……本当に酔っているんだろうか。すこし、というかだいぶ怪しい。「ハルトくんもしかして酔ってない?」「うぅん……わかんない」ハルトくんが頬から唇を離して、さらに体も離していく。少し潤んだ瞳で私を見つめて、そしてこてんと首を倒した。「俺に触られるの、いやだった?」眉が八の字になっている。ずるい。そんな言われ方をしたら何も言えなくなる。嫌じゃないよと返すと嬉しそうにへにゃりと笑った。かわいい。「あ、酔ってるならお水飲んでさっさと寝ちゃおうか。シャワーは明日にしちゃって」「ん……」繋がれたままの手を引くとハルトくんはこくりと頷いた。手を離す気はなさそうだ。後ろ歩きの状態でハルトくんを引っ張っていく。「……手離してくれないと水注げないよ」台所についても離れない手を軽く振ると、かなり不満げな顔をしながら片方の手を離してくれた。その空いた手でハルトくんがコップを取り出す。蛇口の下にコップを持っていったのをみてレバーを引く。ある程度みずが入ったのをみて元に戻す。なんだこれ。すぐに隣からごくごくと水を飲む音が聞こえた。見上げると目に入る喉仏。上下にうごくそれを眺めていると、ハルトくんがコップを置いた。「のんだ。から、ねよ?」くい、と私の手をひいて、今度はハルトくんが私を寝室まで引っ張っていく。途中でスーツのジャケットを脱いでネクタイを外して、ばさりとそれらをソファに落としていった。しわになるとぼやくと大丈夫と返ってくる。何が大丈夫だというんだ。止まってちゃんとハンガーにかけようと思っても、ハルトくんが腕を引く力が存外強くて止まることができない。結局そのままベッドまできてしまった。もぞもぞと布団に入り込んだハルトくんが布団を持ち上げる。その隣に寝転ぶとハルトくんがぐいぐいと距離を詰めてきた。「ねえ、おやすみのちゅー、して」至近距離で見つめながらハルトくんがそうつぶやく。「え?」と声をだすと「ちゅう」とハルトくんが唇を尖らせる。いい年した男性がちゅうというとは。ちゅう発言に驚いて何もできずにいると、ハルトくんが口を尖らせたまま瞼を下ろしていた。これは完全にキスまち顔だ。そんな顔を見せられては放置を決め込むわけにもいかない。その形のいい唇に自分のそれを押し付けた。体を離すと、ハルトくんが満足そうに目を細めていた。「おやすみ……」そう言ってハルトくんが目を閉じる。相変わらず眠るのが早い。私も寝ようと瞼を下ろした。「……よってなかったって言ったら怒る?」聞こえてきた声に瞼が持ち上がる。目の前のハルトくんの瞼は降りきったまま。気のせいだろうか。なんとなくもやっとした気持ちのまま、今度こそ眠りにつこうと全身から力を抜いた。[newpage]ゲームに嫉妬/ハルトスマホのゲームをしているとハルトくんが覗き込んできた。斜め後ろに気配を感じながら、それを無視してゲームを進める。「……男ばっかり」「まあ、そういうゲームだからねえ」ソファの座面が沈んで温もりがぴったりとくっついてくる。頭を肩に乗せられてちょっと動きづらい。「どうしたの?」「どうもしない」少し拗ねたような声音。またゲームをやっているからだろうか。前々からハルトくんはゲームに嫉妬するところがある。「うっ……かっこいい……」ゲームの展開に思わずつぶやくと肩が重くなった。首を回してもここからじゃハルトくんの顔は見えない。気にしないことにしてゲームに意識を戻す。すぐにぐりぐりと頭が首元に押し付けられた。「ハルトくん?」「……きにしなくていい」ぐりぐりと頭を押し付けながら言われても無理な話だ。まあきりのいいところだからゲームを一度終わらせてスマホを脇に置く。もう一度ハルトくんの方を見ると、至近距離で青い瞳と目があった。「やめたの?」「ハルトくんが拗ねたから」「……拗ねたわけでは……」むっとした顔でハルトくんがつぶやく。どう見ても拗ねていたと思うんだけど。「じゃあゲームやろ」スマホを手に取るとすぐに抜き取られた。ハルトくんを挟んで向こう側に置かれてしまってはどうにもできない。やられた。「すねたって言ったら構ってくれる?」随分と可愛らしい質問だ。こういうのって女子が言うべきものなんじゃないだろうか。女子力が負けているように感じながら、腕を持ち上げてハルトくんの頭を撫でた。「ゲームに嫉妬するなんてハルトくんはかわいいなあ」「かわいくない」「かわいいは嫌?」「君からの言葉はなんでも嬉しいけど、でもちょっといや」頭を撫でる私の手にハルトくんの手が重なる。頭から頬を撫でるように手を誘導された。すべすべのほっぺたを手のひらでふにふにしてあそぶ。気持ちよくてもう片方の手も伸ばすと、ハルトくんは嬉しそうに笑っていた。そのままほっぺたをふにふにしているとハルトくんが目をとじた。無防備な顔だ。ちょっとした悪戯心がわいてきて、うすく開いていた唇に自分のそれを押し付けた。すぐにぱっと体ごと離れると、驚いた顔をしたハルトくんが私を見ていた。その顔がじわりじわりと赤くなっていく。「……ずるい」はぁと大きく息を吐いて、ハルトくんが顔を伏せる。怒った、なんてことはなさそうだ。どうやらハルトくんに驚きは提供できたらしい。わりとすぐに顔を上げたハルトくんがじっと私を見つめる。なんだろう。「……もういっかい、キス」私の手をつかんでハルトくんの頬に持っていく。その手に擦り寄せるように首を傾けて、ハルトくんがおねだりしてきた。どこでそんなあざとい仕草を覚えてくるんだろう。どう考えたって策士だ。ハルトくんの可愛さについてかんがえていると、ハルトくんが動いた。ぐいと距離を詰めて唇にキス。離れていった後に、まだつかんでいた私の手のひらにキス。突然のキス二回に目を丸くしていると、ハルトくんが悪戯っぽくわらった。「ゲームしてたのと同じ時間、俺のことも構ってね」[newpage]バレンタイン/ハルトチョコレートを細かく刻んで湯煎にかける。じわじわと溶けていくそれを眺めていると、不意に肩が重くなった。「この後は?」「テンパリングをします」「てんぱりんぐ……」私の言葉をおうむ返しにするハルトくんに小さく笑ってボウルの中をかき混ぜる。いい感じだ。ボウルを外して水を張った大き目のボウルに底をつける。ちらりと後ろを見ると、ハルトくんに頼んでいたガナッシュの分割は終わっているようだった。よしよし。温度もいい感じに下がってきた。湯煎に使っていたお湯の中に水を入れて温度を下げる。そこにボウルを移せばもうオッケーだ。「これからガナッシュにコーティングします」「はい」「なんか適当にこのチョコにくぐらせる感じで」「てきとう……」ハルトくんの眉が八の字になる。適当な説明で申し訳ないとおもいつつ、やって見せれば早いかとフォークを出してガナッシュをその上に置いた。「なんか、こんな感じで」さっとくぐらせてクッキングシートの上に戻す。「なるほど」というつぶやきが聞こえた。私の手からフォークが奪われる。さっと同じ工程をハルトくんがこなす。まってくれ私より普通に上手い。敗北感に打ちひしがれている横でハルトくんはどんどんチョコをコーティングしていく。つらい。チョコペンでできたチョコにお絵描きしてよう。ペン先を切ってチョコを出す。……ハートを描きたかった。なんだこれ、三角か?「それは?」「チョコペンでお絵描き」「俺もやりたい」「はい」チョコペンを手渡す。慌てたような声が聞こえたのも数回だけ。すぐにコツをつかんだのか、市販品かと言いたくなるチョコが量産されていく。これだから手先が器用な人間は。くっ、と内心で悔しさをかみしめているとハルトくんが振り返る。「チョコペン、余ったんだけど……」「うーん、食べていいよ」「このまま?」「そのまま」チョコペンをじっと見つめてハルトくんが動きを止める。早くしないと固まっちゃうのに。「あ」となにか思いついたかのような声を漏らしたハルトくんは私に背中を向けてしまった。「なにしてるの?」「ひみつ」楽しげな声だけが返ってくる。そう言われると気になってしまうのが人の性。その向こうを覗こうとしたら肘で押された。雑な扱いだ。仕方ないからハルトくんが仕上げたチョコをながめることにした。めちゃくちゃ綺麗。どうしよう来年から手作りチョコ渡してられないな。「こっち見ていいよ」「あ、はい」ハルトくんのほうに顔を向ける。なにやら楽しそうに笑みを浮かべている。すこし嫌な予感。ハルトくんがすっと手を持ち上げる。その手の甲には何かがかかれていた。「EAT ME……?」「そう。食べていいよ」たべていいよと言いながらハルトくんが私の頬に手を添える。捕食者の目だ。勝てない。ハルトくんの指が唇に触れた。ぬるりとした感触と甘い香り。チョコだ。そう認識して舐めとろうとした矢先、ハルトくんの口が私の唇をぱくりと覆った。チョコを舐めとろうと出した舌ごと、ハルトくんの熱い舌にからめとられる。動揺して下がろうとした体はハルトくんに抑え込まれた。甘い舌が口の中に入り込んでくる。不意打ちは卑怯だ。せめてもの反抗だと舌に歯を立てると、それすら楽しんでいるかのようにハルトくんが目を細めた。少しの間口内を荒らしまわった後、甘い液体を口の中に残して舌が出ていく。チョコと2人分の唾液が混ざったそれをこくりと喉を動かして嚥下した。「俺からのチョコ、どうだった?」なぜか壁際に私を追い詰めながらハルトくんが口を開く。どんな答えを期待されているんだろう。いや、どう答えても行き着く先は同じような気がしてならない。熱を帯びたその瞳と目があって、気づけばまた唇を奪われていた。