北京レポート(38)甘い誘いにはご注意を
北京というところは、やたらマッサージ店が多い。単なるマッサージ店ももちろんあるが、いかがわしいマッサージ店もあるようだ。一つの風俗産業を形成しているのかもしれない。1990年の調査によると、60%のフットマッサージ店が何らかの性的サービスに関わっていたという。どんな店がどんなサービスをしているのか経験したことがないし、あまり興味がないので、どんなサービスなのか、残念ながらさっぱりわからない。 マッサージと言えば、もう二十五年前も前の事になるだろうか、マレーシアで、商売で知り合ったばかり中国人が、楽しい場所に行こうと、健康中心という所に、誘ってくれた。部屋の中に入ると、マッサージ台が置いてあり、そこで若い中国女性がマッサージをしてくれるのだが、あまりマッサージはうまくない。なにしろ英語が通じないので、お互いにコミュニケーションがとれないのだ。どうも、日本のソープランドのようなのだ。身振り手振りでスペシャルサービスは要るかと聞くので、要らないと答えると、しかたなさそうにマッサージを続けた。 終えて外に出ると、その中国人がやけにニヤけた顔で出迎えた。楽しい思いをしたかという意味だったらしい。後で、会社のエージェントに健康中心に連れて行った人の名前を告げると、眼を丸くして驚いていた。彼はマレーシアの中国人裏社会では、名の通った人だったらしい。結局、裏社会の有名人とは、商売を始める機会は幸運にもめぐって来ることはなかった。北京のマッサージも、この時のマッサージに類似したものかもしれない。 同じマレーシアで、出張でホテルにチェックインしたとたんに、ドアをノックされたことがある。ドアを開けると若い女性が立っている。他の人に見られたらまずいから、部屋に入れろと言う。「女はいらない」断ると、「どうしてもダメなの」と、すごすごと帰って行った。どうも、ホテルのボーイと売春婦がつるんで、カモになりそうな男の一人客を物色して、女をドアに立たせたようなのだ。 オリンピックが開かれる以前に良く出張で行った韓国でも、似たような話はよくあった。ホテルにチェックインすると同時に部屋の電話が鳴り始める。老齢の女性の声で、実は若い女性が日本語を習いたいと言っているのだが、部屋に送りこんでよいかと聞く。なるほど、新手の売春なのだと感心したが断った。もう今では、そんな電話はかかってくることはないかもしれない。 台湾では、空港からタクシーに乗り、ホテルに着いた瞬間から、タクシーの運転手が、「女はいるか」と聞いてきた。もちろん、断った。 こんなことは外国だけかと思いきや、国内でもあった。横須賀のホテルに泊まったら、私のところには電話は来なかったが、同行した外国人の人には、店に飲みに来ないかと女の人から誘いの電話が部屋にあったという。 こういった誘いは、どこの国でも、起こりえる話ではある。耳新しい話では、上記のように甘い誘いではないが、ニ国間で紛争がある場合は、身を慎まなければ、上げ足をとられて、スケープゴートになる例もある。 2010年の9月に、中国人漁船船長の逮捕事件の最中に、河北省でゼネコンの4人の社員が、許可なく軍事管理区域に立ち入り、不法に軍事目標をビデオ録画した疑いで、逮捕された。彼らは第二次世界他戦中の遺棄した化学兵器の調査のために中国に来ていたのである。結局、最後には処分は見送られ、解放されたようだが、見事にはめられた。 さて、また色っぽい誘いにもどそう。私が、フィリピンに駐在する前に、前任者からこういった話を聞いたことがある。本社で、国内販売代理店の店長をフィリピンに招待するとの企画が決まった。その接待をアレンジしろとの命令が本社より前任者に下った。フィリピンで遊ぶとしたら、何を遊ぶのかと言えば、ゴルフか女しかない。前任者は知り合いの飲み屋に渡りをつけ、日本から来る客の数だけ、女の子をそろえ準備した。客がホテルにチェックインすると、手配したバスに乗った娼婦たちがホテルに到着し、割り当てられた部屋へと送り込まれる。まるで、ベルトコンベヤーに人を乗せて、部屋へ送り込んでいくような作業だったそうだ。彼にとっては、決して嬉しくない作業だったろう。 幸運にも、私がフィリピンに滞在している間に、そういった接客のアレンジを本社から頼まれたことはなかったが、それにしても、何故日本人というのは女遊びでさえ、集団でなければならないのだろう。フィリピンの売春婦の間では、日本人は金払いが良く、一回で終わり、しつこくないから楽だという話を聞いた事がある。同じ金を払っても、中近東系の人は、売春婦の間での評判はあまり良くないという。 余談だが、フィリピンに駐在している間に、本社から日本に帰化したアメリカ人上司が来たので、バーに連れて行き接待した。一緒に酒を飲む女性を選ぶ段になって、上司はスペイン系ルックスの美しい女性を指名したが、指名された女性は、きっぱり断った。金の問題ではないという。バーに座って指名を待っているだけでは最低賃金しかもらえない。指名されるだけで、店から歩合がもらえ、さらに店の外に連れ出されれば、店側も連れ出し料金がもらえ、彼女も一晩寝るだけで、それ相応の金がもらえる。それでも嫌だという。なぜかと聞くと、アメリカ人で老人だからと言う。以前に老人の客で嫌な事があったのかもしれない。上司は「もうその気はないよ」と笑ってすませたが、寂しそうではあった。 ホテルに売春婦を送り込んだ話で、中国版では重大犯罪となった。記憶に新しい話題だったので、覚えている方も多いだろう。リフォーム詐欺で有名になった会社が社員旅行で200人の社員を連れて広州の珠海市にやってきた。ホテルに到着して、優秀社員を表彰するための表彰式をホテル内で行った。その際に、有名なナイトクラブから女性を派遣してもらい、表彰式に出席させた。一部の社員がホテルにその女性を連れ帰ったことが発覚し、集団買春事件となって大事となった。もともとは、ホテル側が公安、警察とも根回しをして、バレることがないはずだった。果たして、分け前にあずかれなかった人の密告なのか、遊んだ人数が集団だったため目立ったのかバレた。 可哀そうなのは、ホテルの総経理助理とナイトクラブの関係者の中国人。一番罪の重い人は、無期懲役と財産没収。二番目に罪の重い人は、懲役15年と12年。ほう助した人10人は、懲役2~10年と罰金刑という判決がくだった。社員旅行を企画した日本人三人は国際手配となったが、日本政府は引き渡しを断ったので、国内で、いまだにのうのうと暮らしているだろう。根まわしで賄賂を受け取った公安局、観光局など関連部門に在籍する責任者15人は党・政府紀律に違反したとして処分されている。 これで懲りて、もうこういった事件はないだろうと思いきや。今度は同じ広東省の広州でも似たような事件が起きた。日本の超有名な企業の社員7名が逮捕されたと言う。日本から出張にきていた人たちが、夜の街にくりだし、カラオケスナックに行き、店からホステスを連れ出したと言う。普通は全部でニ万円くらいが相場でそういうことができるそうだ。ホテルに女性と入って行為におよぼうとしたと同時に、公安が現場に突入したという。これは、あらかじめ公安がホテルの防犯カメラや盗聴システムを利用して情報を入手していたからだろう。日本人はほとんど気がつくことはないだろうが、有名なホテルには、宿泊者や訪問者を監視するカメラや盗聴設備が備えられている。公安はいつでもそういった設備を目的にあわせて利用することができる。長期で滞在している人達の間では周知の事実だ。さらに街頭には監視カメラが据えつけられ、反体制派の人間の行動監視のみならず、外国人の行動も監視されている。民間人だから大丈夫なぞということはないのは、上記の集団買春事件にあるとおり。特にそういった機器を通じて常時監視されるのは、日本のジャーナリズム関係の人、政治家、外交官、そして先進技術のコアの部分をもっている人などが対象になりやすい。 どうも広州では、こういった日本人がらみの下ネタ事件が絶えないらしい。ナイトクラブは中国では「夜総会(イエゾンホアイ)」とよばれる。飲んで歌ったり踊ったり、女の子を連れて帰れる店と連れて帰れない店があるそうだ。北京に住んでいる人に聞いたら、北京でも女の子を連れて帰れる店と連れて帰れない店があるそうだ。北京はクラブ系とスナック系で分かれている。クラブもスナックも日本語をカタコト話す若い女性とカラオケを楽しむことができる。クラブだと店内で飲むだけで女の子へのチップが300元(3600円)払う必要がある店もあるらしいが、連れ出しはどうなのだろう。スナックだと、連れ出しはだめだと聞いている。チップは必要ない。とはいえ、買春は中国でも処罰の対象だ。10日以上15日以下の勾留と5000元以下の罰金が科せられ、場合によっては国外退去だが、それにしても珠海市で売春をアレンジした中国人への処罰が重すぎる。 なぜか、日本人の売春は集団で行うためか、目立つ。そうすると公安の注意をひきやすい。また、中国には昔、青幇という秘密結社があったくらい、横のつながりが強い、相互扶助的な良い意味でも悪い意味でも、そういった中国システムは様々な形で現代中国社会に残っている。たとえば、工友会というサークル的な組織や同郷の人が集まる組織、さらに小区というコミュニティまである。日本企業で働いていたが、クビにされて恨みを持っている人が、公安に知人を利用して、クビにした人の素行を調査し、密告することさえ可能なのだ。 北京市内等における犯罪でめだつのは、空港、観光地、ショッピング中の旅券(財布)等の盗難が多い。それ以外では、いわゆる「ぼったくりバー」での被害の発生も報告されている。 以上は、「飲む」「買う」のほうだが、もう一つ注意するべき事がある。「打つ」の方だ。 賭博は中国でも、かなり盛んなせいか、反賭博キャンペーンや活動も、テレビで放映されている。一般的には、中国で有名な「賭け事」は、ダイス、トランプ、麻雀の三つだろう。テレビで放映されたのは、イカサマの一部を、スタジオで再現してみせるやり方だった。トランプの裏表紙に細工してあり、特殊なメガネで何の札かをあてる。麻雀牌を全部裏にして並べ、麻雀牌の裏の竹模様から、次から次へと牌をあてていく。ダイスや牌をすり替えたる。多種多様な技術が放映された。賭け事のイカサマとマジックは良く似ている。どちらも、見ている人の盲点や錯覚を利用し、いかに人を騙すかという技術では同じだ。しかも、マジックの種明かしはほとんどしないのと同じで、イカサマ師がトリックを明かすことはない。知り合いが中国の麻雀を打ったことがあるというので、感想を聞いてみたら、フリテンや花牌ありのルールで、日本のルールとは異なるということだった。慣れない賭け事には、近寄らない方が無難だろう。 残念ながら、こういった事例が、なかなか「他山の石」とならないかもしれない。「前車の覆るは後車の戒め」という諺もある。二国間の微妙な問題が起きている時は、身を慎まなければスケープゴートともなりかねない。変わってきているとはいえ、社会主義国家は資本主義国家とは微妙な点で異なることを心に留めていただきたい。 なぜ、ここまで言うのかと思われるかもしれない。実は、中国のやり方をよく見ていると、「報復」と「隠し」という政策が、行われてきた。たとえば、アメリカで中国軍部によるサイバー攻撃が行われたと大々的に、報じられると、当然ながら国の威信が傷つく。それを隠ぺいするために、中国に進出している相手国企業のあらさがしをして報道すれば、相手国の企業の威信をも傷つけ、間接的に相手国の威信を傷つけ報復したことになり、ほら、アメリカだって汚いことをやっているじゃないかと同等の立場をとれることになる。 たとえば、アイフォンの修理に関して、新品交換せず部品交換で済ませていたという事実を公に公表し、相手側の謝罪が得られると、勝ちほこったように相手を貶(おとし)める。前段で述べた、2010年の中国人漁船船長の逮捕事件も同じだった。ゼネコンの4人の社員が、不法に軍事目標をビデオ録画した疑いで、逮捕されたのも、船長逮捕に対する報復措置の一環であったことは、間違いない。 企業というのは、企業活動している以上、100%クリーンな会社はなかなかありえないだろう。中国の公安は、そういった企業の弱点を攻めようとする、情報収集し、攻める機会をねらっている。もし、弱点を見つけることができなければ、当然、その会社の社員の行動までも監視する可能性も否定できない。その会社が有名な会社であれば、あるほどその報復のインパクトは強い。 スケープゴートにならないためにも、ぜひとも先人の失敗を後人はよく学び用心してほしいものだ。
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興味深く読ませて頂きました。
常に監視されている、場合によっては嵌められるという話は中国のみならずロシアやアメリカでさえも行われてきたと聞きます。
どうもそれが国際常識な様で、知らない日本人が非常識なのかも知れません。
この辺の知識をパスポート交付時に教育しろとは言わないまでも、週刊誌等がもっと取り上げても良い様な気がするのですが。
やはり、強い者に対するに対するマスコミの遠慮なのでしょうか。