2. 運動時の体液の恒常性維持
水は体重の約60%を占め、そのうち20%は細胞外液、残りの40% は細胞内液である。すべての細胞は細胞外液に接し、細胞が正常に機能するためには細胞外液の電解質組成、浸透圧、pH、ガス組成、温度、栄養素などの恒常性を保たなければならない。運動時の筋肉代謝亢進にしたがって、筋肉の必要とする栄養素は増加し、産生された老廃物、熱量は体内で緩衝後、体外へ排泄されることで、筋細胞周囲の細胞外液の恒常性が維持される。だから、運動を継続することができるのだ。しかし、運動継続に伴う発汗などによって水分、電解質が失われ、筋細胞周囲の細胞外液の状態も悪化する。そして、もし、それらが回復できなければ筋代謝が阻害され運動能が低下する。
1) 水、電解質の生体内での役割
2) カルシウム(Ca)
成人男子の体内Ca 量は約1-1.5kgであり、その99%以上が骨に含まれ、1%弱が歯、筋、細胞外液に含まれる。骨、歯以外に含まれる遊離イオンは筋肉収縮、神経伝達、血液凝固、細胞内情報伝達などに重要である。
血中Ca濃度は、10mg/dl でそのうち遊離Caイオン濃度は5mg/dl、残りはアルブミンなどの血清蛋白質と結合している。Caの血清濃度は、骨からの遊離Caイオン、小腸から吸収されるCaイオン、そして、腎臓から排泄されるCaイオンのバランスによって決定される。
骨の破骨細胞によるCaの溶出(骨吸収)と骨芽細胞による骨へのCaの沈着(骨形成)は絶えずおこっている。これを骨のリモデリングと呼ぶ。日常の運動によって骨に機械的刺激が加わると骨芽細胞が活性化し骨沈着がおきる。その他、骨形成促進因子として、成長ホルモン、カルシトニン(主として甲状腺から分泌)、エストロゲンがあり、骨吸収促進因子としてパラソルモン(副甲状腺から分泌)、活性型ビタミンDがある。さらに、骨吸収抑制因子として、カルシトニン、エストロゲンがある。このようにCa代謝は、年齢、性別、運動量に大きく影響される。
日本人のCa 1日の所要量は約600mgで、成長期、妊娠、授乳期には約1,500mgのCaを食事から摂取する必要がある。この際の腸管からのCaイオン吸収には活性型ビタミンDが働く。
また、腎臓でCaイオンは、近位尿細管とヘンレの上行脚で大部分受動的に再吸収される。さらに遠位尿細管でもパラソルモンがCaイオンの吸収を促進する。
一方、日本型食事では含有量が限られており、注意しないと骨内のCaが動員されて骨粗しょう症となり、骨折などを引き起こし易くなる。特に閉経後の女性で著しい。 その対策として、1日1200mg以上のCa を摂取することが推奨され、さらにCa代謝に関与するビタミンDの摂取とともに、運動を実施することが重要である。
3) 鉄(Fe)
Feの体内含有量は3-5gで、その一部は赤血球内の血色素(hemogolobin) として、また筋肉内ミトコンドリアのチトクローム(cytochrome) に含まれ、好気的リン酸化によるATPの産生に重要である。また、Fe はヘモジデリン (hemosiderin ) や フェリチン (ferritin) の形で肝臓、脾臓、骨髄に貯蔵され必要に応じて利用される。植物性食物に多く含まれるFe 3+ は動物性植物に含まれるFe 2+(ヘム鉄)に比べて吸収率が30%程度と低く、そのため植物性食事(たとえばホウレンソウ)で鉄を摂取する場合には、ビタミンCを同時に摂取して、Fe 3+ をFe 2+に変換する必要がある。たとえば、1回の食事でオレンジジュースをコップ1杯摂取すると鉄の吸収率が3倍増加する。
長距離ランナーなどの持久性トップアスリートでは、血漿ヘモグロビン濃度が、臨床的な貧血の判定基準(女性で12g/dl、男性で13g/dl)以下に低下することが報告され、「スポーツ貧血」とよばれてきた。その原因として、汗への鉄喪失、運動による赤血球の機械的破壊、ストレス反応として脾臓での赤血球の破壊亢進、などが考えられている。しかし、汗の中の鉄喪失はさほど多くなく、また持久性のトップアスリートでは最大酸素摂取量の比例して、血漿量も増加するので、ただ単にヘモグロビン濃度の低下のみで貧血と判断するのには問題があろう。むしろ、血清ヘモジデリン濃度は、貯蔵鉄の量を反映するので、体内のFe バランスを判定するのによい指標となる。
4) ナトリウム(Na)、カリウム(K)、塩素(Cl)
平均的日本人における1日のNaイオンバランスとその体内分布では、体内の全Naイオンの70% は遊離型で主として細胞外液にClイオンと共存している。残りの30%は、骨に結合型として分布している。1日に全Na量の5% が代謝回転している。一方、Kイオンは体内にNaと同量含まれるが、そのほとんどが、細胞内に分布し、特に筋肉細胞内に全身の90% のKが含まれる。1日に全身の3% が代謝回転している。これらの電解質の主な働きは、体内の細胞内外の水分量を保持し、浸透圧勾配によってそれぞれの体液区分の水分移動に関与する。また、細胞内外のNa、K イオンの不均一な分布は細胞内外に電気的勾配を形成し、これは神経の興奮伝達、筋肉収縮、さらの汗腺、消化腺などの外分泌腺における分泌の駆動力となる。
食塩(NaCl)は食物中に多量に含まれており、普通の食事をしていれば、1日8-12gを摂取することになり、これは1日必要量の2-3倍に相当する。また、Kに関しても食物中に多量に存在するために摂取量よりもむしろ排泄の方が問題となる。しかし、大量発汗時には汗1リットル当たり1.5-3g のNaClの喪失がおこるので、細胞外液が喪失するので、食塩の迅速な補給が必要となる。
5) 水(H2O)
1日当たり体内水分量は約2.5リットルである。水分摂取に関しては、食物中に含まれる水分(1000ml)と飲料水によって補給される(1200ml)のがほとんどだが、食物が体内で燃焼するときに生じる代謝水がわずかだが存在する(100ml)。水分喪失として、(汗ではなく)皮膚から失われる水分量が600ml、呼気中に失われる水分量が350mlである。これら無意識に皮膚や肺から失われる水分を「不感蒸泄」と呼ぶ。その他、尿として1500ml、便中に100ml排泄される。また、汗として失われる量は、暑熱環境下で激しい運動をした場合であって、1日最大8-12 リットルにまで増加する。