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願いの叶う泉

心地よい風が肌を撫でて眠気を誘う。こんな天気ならば誰もが外で散歩したくもなるだろう。しかし彼女は違った。
「ふふふもうすぐや。久しぶりにアタシの大発明が完成する」
 晴天に包まれた外とは正反対に、真っ暗な地下の研究室で、シャイナ・セレデーナはなにやらいじりながら笑っていた。その姿はいつもの狩人のレディアントに、白衣を羽織るという不似合いなものだった。

「で、できた!!!!!」

 そして絶叫に近い大声を上げた。
「早速試作や!!」
 シャイナは白衣も脱がずに、その大きなものを持って甲板へ駆け出した。


「で、なんなのこれ?」
「ふわ~~~あ」
「泉、だよね?」
 そして甲板でおやつを食べていたミヒャエルとカノンノ・グラスバレー。気持ちよく昼寝をしていたリッド・ハーシェルの前でそれを広げた。

「チャカチャカン!きこりの泉!!!」
「やめようそういうの無理があるから」
 わざと昔のドラ○もんの真似をして声を枯らすシャイナに、いつになく冷静に言うミヒャエル。シャイナが広げたのはかなり大きめの緑色のカーペット。その中央に湖のようなものがある。
「どうなってるんですか?カーペットの上に水があるなんて・・・」
 カノンノは広げられたそれと、シャイナを交互に見る。
「まあ、説明よりも見せるよ」
 シャイナはミヒャエルが手をつけようとしていた肉まんを取った。そしてそれを湖に投げ込んだ。
「ちょ、私のおやつ!!」「いいからいいから」
 すると湖が光り、中から美しい女性が現れた。
「な・・・・」
「どうなってるのこれ・・・」
 驚くミヒャエルとカノンノを尻目に、現れた女性は口を開いた。
「あなたが落としたのは、この角煮饅頭ですか?それともこの普通の肉まんですか?」
「はいはいはい!!りょむぐ・・・」
「あ、アタシが落としたのは、その普通の肉まんです」
 両方と言いかけたミヒャエルの口を慌ててシャイナがふさぐ。すると女性はニコリと微笑んだ。
「あなたは正直者ですね。ご褒美にこの角煮饅頭をあげましょう」
 女性はそう言うと、シャイナに特大の角煮饅頭を手渡して湖に戻っていった。
「っとこういうわけよ♪」
「どういうわけでもいいから、それ頂戴!!」
 ミヒャエルはシャイナから角煮饅頭をひったくり口へ頬張る。
「お、おいしいぃいいいい!!!」

「えっと、これって『泉の精霊』っていうお話を元にした道具ですよね?」
 美味しそうに角煮饅頭を頬張るミヒャエルを見ながら、カノンノが口を開いた。
「猟師の間じゃ『金の斧 銀の斧』って題名で有名だぜ」
 リッドが続く。
「そう。それをアレンジして造ったのが、この発明や」
「ふぅん。でもさ、これってどういう仕組みなの?」
「ミヒャエル、もう食べたの?」
 口の周りのソースを舐めながらしゃべるミヒャエルに、カノンノは驚きの表情を向ける。
「簡単や。まずこの泉に投げ込まれたもののドクメントを。ジルディアのマナでコピーする。次にそのコピーしたドクメントから、持ち主のドクメントを読み取り、投げ込まれた物の上級バージョンを推測、それを作り上げる。そして女神がその2つを持ち、落とした人間にどちらを落としたかを訊ねる。最後に持ち主のドクメントを感知して、正直だったら上位のものを渡す。嘘ならばどちらも渡さない。という仕組みや」
「はぁ???」
「まあ、なんとなくはわかるな」
「ジルディアのマナも、そんな風に活用できるんだね。これも2つの世界の理が、少しずつ近づいてきたからかな」
 ミヒャエルは頭をひねるが、シャイナの説明は理解できない。しかしカノンノとリッドはわかったようだ。
「まあ簡単に言えば、泉に投げ込んだものよりも、よいものが出てくるってことだよ」
「そういうことか。なぁーんだ」
 リッドの簡単な説明でミヒャエルは理解が追いついたようだった。
「それじゃ、えい!」
 ミヒャエルは鞘から双剣を抜いて、それを湖で投げ込んだ。すると泉から上位レディアントの双剣を持った女神が現れた。
「やった!!本当に出てきた♪」
「レディアントをそれで上位にするって、感心できないんやけど・・・」
 元ディセンダーのシャイナは、ミヒャエルの行動に複雑な表情を浮かべる。

「あなたの落としたのは、この上位レディアントの双剣ですか?」
「はいはいはい!!そうです♪」
「「「ちょっとまてぇえぇえええ!!!」」」
 ミヒャエルの解答にシャイナ、カノンノ、リッドは大声を出すが遅かった。
「あなたは嘘を着いていますね。レディアントはあげません」
「え、あのその・・・」
 きょとんと眼を点にするミヒャエルを尻目に、女神はしかめ面のまま泉に潜ってしまった。

「なんてことしてくれるのよ!!!!私のレディアント!!!!」
「あんたアタシの説明聞いてなかったと!?なんであんな返答したんや!!」
「だって落とした物の上位をくれるってリッドが・・・」
「俺の名前出すなよ!?ってかそんな説明した覚えはねぇ!」
「もう私双剣士なのに、剣がなかったら戦えないじゃない!!どうしてくれるのよ!!!」
「だからあんたが説明をしっかり理解せんけ悪いにゃろうが!!」
 シャイナとミヒャエルは両腕をジタバタさせて、どんどん言い争いが激しくなる。
「甲板で何を騒いでいる?」
 そこへ顔を出したのはクラトス・アウリオンとリカルド・ソルダートだ。
「姉妹喧嘩だよ。頼むから巻き添えはごめんだぜ」
 リッドは大きくため息を吐いてみせる。
「えっと、実は・・・」
 カノンノは2人へ事情を説明する。


「なるほど。その話は聞いたことがあるな」
 腕組をしてクラトスが口を開く。
「ふん、やはりガキにはまだものがわからんようだな」
「ム、どういうことやそれ」
 皮肉っぽい笑みを浮かべるリカルド。すかさず食ってかかるシャイナ。
「武器とは新しいからよいのではない。手になじむから扱いやすいのだ。つまり古い方がより自分に合っているということだ。なぁクラトス」
 リカルドはシャイナからクラトスへと視線を移す。
「こ、ここへロイドを落とせば、今の反抗期ロイドからパパ大好きな昔のロイドへ・・・」
「考えが声に出てますよクラトスさん・・・」
「何を考えているのだこの男は・・・」
 カノンノは危険な笑みを浮かべるクラトスを恐る恐る見すえ、リカルドは呆れて頭を抱える。そのときだった。
「きゃぁああぁあああ!!」「ぬお!?」
 声の主はコレットっと理解するよりも早く、コレットは得意のこけるでクラトスへ体当たりした。そしてクラトスの眼前には例の泉がある。
 ザバーン・・・。一瞬の間にクラトスは泉の中へ突き落とされた。
「えええええええ・・・」
 そして泉から出てきた女神が抱えていた者に一同は声をあげる。
「あなたが落としたのは、この弱いクラトスさんですか?」
 そのクラトスは腕は折れる直前のしなびた小枝、顔からは生気が失われひからびている。という悲惨という言葉をそのまま現したような状態になっていた。
「アドリビトム最強の男が・・・。今ならチャットでも倒せるぞ・・・」
「シャイナの発明って、わりとグロいとこあるよね・・・」
 リッドとミヒャエルは顔を見合わせる。
「はーい。私が落としたのは、そのクラトスさんでぇす♪」
 周りの声を無視してコレットは笑顔で叫ぶ。
「なんだ。コレットも本気でクラトスさんを弱体化させたかったわけじゃないんだね」
 カノンノがホッと胸を撫で下ろす。
「いやちょっとまってこれって・・・」
 シャイナはあることに気づく。
「あなたは嘘をつきましたね。クラトスさんはあげません」
 女神はそう言うと、クラトスを抱えたまま泉の中へ戻ってしまった。
「エヘヘヘヘヘ♪クラトスさんが消えちゃった。これで邪魔者はいなくなるね。うふふふふ」
 コレットは可愛らしく踊りながら船へ戻っていった。
「む、むごい・・・」
 その場にいた誰もがドン退き、その後クラトスに冥福を捧げた。しかしすぐに次の出来事が起こった。


「ぶるぁあああ!!話は聞かせてもらったぞ!!!」
 声と同時に表れた強大な力に、思わず全員の背筋が凍る。
「バルバトス・ゲーディア!!?」
「ふははははは!!今日の俺は紳士的だ!知の舞子とやらぁ、そのくだらぬ道具、このオレがぁ役に立ててやろうではないかぁ!!」
「く、くだらない道具やって!?」
 バルバトスの暴言にシャイナは思わず身を乗り出す。
「まぁ、そこはバルバトスが正しいかも」
 剣を失くされた?ミヒャエルは今回はシャイナの敵のようだ。
「ぶるぁああぁああ!!さぁ女神よ!!この俺の願いを叶えるがよい!!」
「願いを叶えるものやないんやけどな・・・」
 ため息をつくシャイナをよそに、バルバトスは自身の持つ斧を泉へ投げ込む。
「あなたの落とした斧は、この斧ですか?」
 泉の女神が持っているものは、元の斧の5.6倍はありそうな大斧で、形も更に禍々しい。それから放たれる邪悪な力は背筋を凍らせるほどだ。
「それだそれだその斧だぁああぁああ!!!俺の求めている武器はそれだぁああぁああ!!!!!」
 全員はバルバトスの出した回答にホッと胸を撫で下ろした。泉の女神にそのような答えは通るはずがない。

「あなたは『自分の欲望』にとても正直な人ですね。この斧を差し上げましょう」

「えぇええぇえ!!!」
「オイコラマテ!!!」
「シャイナのボングラ!!!」
「ミヒャエル、ドサクサに紛れてなんてことを!?」

 女神の答えにカノンノ、リッド、ミヒャエル、シャイナの順番で声を放った。その間に、バルバトスは斧を手にした。
「ふははははははははははは!!いいぞいいぞいいぞいいぞ!!いいぞぉおおおおおお!!!!」
 4人の声を掻き消してバルバトスは吠える。その手に持たれた巨大な斧が、もともとすさまじい彼の力を更に増大させている。
「ちょっとこれ、どういうことよ・・・。バルバトスの力、あそこまで強くはないじゃないの・・・」
 双剣士なのに丸腰のミヒャエルは、息を呑んで後ずさった。
「長く使われた武器ってのは、使用者の力を増大させるものや。欲望に正直な武器を手渡したんやから、こうなっても仕方ないんやろうね・・・」
「呑気に説明してる場合かよ。こりゃヤバイぞ」
「だよね・・・」
 リッドはいつになく真剣な表情で剣を構える。それに応えるようにカノンノもオータムリリィを構える。
「うぅ・・・私は丸腰だ。誰かさんのせいで・・・」
「あんたは自業自得やろうが」
 細い目で自分を見るミヒャエルに、シャイナはため息交じりに言い返す。
「だけどアタシは確かにディセンダーを退いた身。シャシャリ出た結果がこれやもんね・・・」
 シャイナはすぐに寂し気な表情を浮かべる。その変化にミヒャエルは戸惑う。
「ちょっと、いきなりどうしたの・・・?」
「よかれと思って発明したものが災いを招く。これじゃグラニデの二の舞や。アタシは知の舞子失格なんかもね・・・」
「おいおい、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ・・・」
 シャイナを庇うように、リッドはその前に立つ。
「えぇい!!グタグタいじいじするなぁ!!私がなんとかするから!!」
 そんなシャイナを見てミヒャエルは大声を張り上げる。
「シャイナが造った発明でバルバトスの武器が強化されたことなんてね、今から私が笑い話に変えてやる!だからそんなにイジイジしない!!イアハートが見たら泣くよ!!」
 ミヒャエルは丸腰にも関わらずリッド、カノンノの前に仁王立ちする。
「さぁこいバルバトス!!私が相手だ!!」
「よっしゃ!あとはミヒャエルがなんとかしてくれる♪」
「声に考えが出てるよシャイナ・・・」
「さっきの泣くような仕草は演技かよ・・・」
 シャイナの黒い部分に、カノンノとリッドは再び後ずさる。

「ふはははは!!ディセンダー!その度胸に敬意を表し、まずは貴様から血祭りにあげてやる!貴様のあとに、カイル。デュナミスを、そして最後はスタン・エルロンを血祭りにあげてくれるわぁ!」
「なんでこの私がカイルやスタンよりも、扱いが低いのよ!!!」
「ぶるぁあぁ!ならば貴様の実力が、スタン・エルロンよりも上かどうか、この俺が見定めてくれるわぁ!」
「望むところよ!!」
 ミヒャエルとバルバトスは叫び、互いの距離を一気に詰める。
「ダメミヒャエル!いくらなんでも丸腰じゃ・・・」
 思わず叫ぶカノンノだが、戦闘モードになったミヒャエルに、その声は届かない。
「畜生!!こうなりゃいちかばちかだ!!」
 叫ぶなりリッドは、引かれていた女神の泉をバルバトスの前へ投げた。
「な、なにぃいい!!!」
 バルバトスは鋭く踏み込んだ矢先、リッドが投げた湖にその足が漬かる。次の瞬間には音を立ててバルバトスは湖に落ちていた。
「よっしゃ、狙い通りだ!」
「リッド、すごい!」
「え、何が起こったの??」
 ミヒャエルは何が起こったか理解できずに、思わず尻餅をついた。
「でもこの展開って・・・」
 シャイナは、これから起こるべくことを予想して顔をしかめた。

「あなたが落としたのは、この綺麗なバルバトスですか?」

 シャイナの予想はすぐに現実になる。泉の女神が抱えて出てきたのは、バルバトスは華奢ながらスマートな体つきをしており、その容姿はレイスの色違いと間違われるような美貌になっていた。
「え、えええええええぇえぇええええ」
 あまりの変わりっぷりに、誰もが自身の顔の原型をとどめないほど驚いた。
「もう一度伺います。あなた方が落としたのは、この綺麗なバルバトスですか?」

「いやいやいや、もっと汚ったないのです!!!」
「申し訳ないです!!本当に落としたのは粗大ゴミみたいなヤツです!!」
「環境汚染物を泉に投げ込んでしまって、すみませんでした!!!」

 美貌のバルバトスを抱える女神は、ある意味すごかった。そのなんとも言いようのない貫禄に、シャイナ以外の3人、ミヒャエル、リッド、カノンノは完全にひれ伏した。
「皆さんはとても正直者ですね。ではこの綺麗で環境に優しいバルバトスを差し上げましょう」
 無駄にセリフが増え、女神はバルバトスを下ろし、泉へ帰っていった。
「やぁみなさん、こんにちは。僕は生まれ変わったバルバトス・ゲーディア。以後お見知りおきを」
「い、いや、なんというか・・・」
「よろしくッス・・・」
 放心しているカノンノをよそに、とりあえずミヒャエルとリッドは頭を下げる。その時・・・。

「ぐぬおおおぉおおお!!!汚い環境汚染物の俺はどうなるのだぁあ!!」
「私も中にいるのだぞ!!」
 湖からバルバトスと、先ほどコレットによって突き落とされたクラトスが、あがきながら飛び出してきた。それを女神は表情を変えずに片手で押さえつけている。

「なぁ、俺そろそろ昼寝していいか?」
「私もそろそろロックスのお手伝いをするね」
リッドは呆れ顔でため息をつき、カノンノは虚ろな眼をして船内に戻っていく。

「なんだかんだ言っても、アタシの発明は盛り上がったやろ?」
「そうだね、圧倒的にくだらなさで」
 シャイナは笑顔でピースをして、ミヒャエルもまたため息をつく。その後ろでは綺麗なバルバトスが夕日を眺めている。泉からは今だにクラトスとバルバトスが騒いでいた。




あとがき


 大変お久しぶりです。ナガレボシです。皆様、私を覚えてくれていますか?

ミヒャエル
「もはや連載が不定期というよろも、サボリがちなナガレボシです」

シャイナ
「言い訳は仕事とかプライベートとか、聞き飽きたものばかりです」

ごめんなさい。でも実際に忙しかったのです。あとはスランプですかね。書きたいことは山ほどあるのに、まとまらない。仕事は忙しいし趣味もある。気がついていれば、全然書いてなかったというわけです。
 とまぁ、私のことはこれくらいでいいとして、ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。このお話のネタは、もう説明する必要もないと思います(汗)。久しぶりだったもので、ギャグを書いてみました。
では、ここまでのおつきあい、ありがとうございました。