低価格のコンビニコーヒーが勢力を増す一方、フルサービス型の喫茶店チェーンも復活。そして2013年夏、激化する「カフェ戦争」にインスタントコーヒー大手のネスレが参戦。異業種も巻き込むカフェ大混戦の行方を追った。
1杯のコーヒーを巡る戦いが激化している。既存の大手カフェチェーンを脅かす第1の波が、急拡大した低価格のいれたてコーヒーだ。2008年にマクドナルドが豆のグレードを上げて「100円コーヒー」を刷新。この成功を受けて、昨年から大手コンビニ各社が、レギュラーサイズで1杯100~180円のいれたてコーヒーの提供を一斉に始めた。
特にセブン-イレブンの「セブンカフェ」は当初の年間目標を早々に上方修正し、年4億5000万杯を販売する勢い。購入者の約半数が女性といい、缶コーヒーの代替ニーズだけではなく、既存カフェの需要も取り込み、一躍、大手セルフカフェの一角に躍り出た。
第2の波は、地方からやってきた。無料のモーニングサービスや居心地の良い店内空間などを特徴とする「名古屋式」のフルサービス型喫茶店、コメダ珈琲店だ。長時間くつろげる場として、またはボリューム感のある軽食メニューやスイーツに引かれてファミリーレストラン代わりに使う人の支持も得ている。ドトールコーヒーショップやスターバックス コーヒーに迫る国内1000店体制を目指す構えだ。
既存のカフェチェーンなども、手をこまぬいているわけではない。ドトールは、より快適性の高い「白ドトール」へと急ピッチで既存店の改装を進めている。コンビニコーヒーに追い上げられる形になったマクドナルドも、専任バリスタがラテなどを提供する店内カフェ「マックカフェ バイ バリスタ」を増やす計画で、カフェ志向を強めている。
【急成長】格安・セルフサービス「コンビニコーヒー」
2012年から大手コンビニが「カウンターコーヒー」などと呼ばれる、いれたてコーヒーを相次ぎ強化。セブン-イレブンが1杯ごとにひきたてをドリップするマシンを導入したのに対し、ミルク系メニューを得意とするローソンなど戦略は分かれるが、いれたてコーヒーの提供店が一気に数万店規模に。
セブン-イレブンは約1万5800店に展開。客はレジでカップを受け取り、抽出マシンでコーヒーをいれる
【元祖格安】格安・セルフサービス「マクドナルド」
2008年にハイスペックなアラビカ豆を使った「元祖」100円コーヒーの「プレミアムローストコーヒー」で、大ヒットを記録。2012年には深煎りの豆を加え、香りとコクを強化した。
専任のバリスタが本格カフェメニューを提供する「マックカフェ バイ バリスタ」併設店も増加
【既存勢力】都市・セルフサービス「大手カフェチェーン」
一気に勢力を拡大したコンビニコーヒーに対して、既存のカフェチェーンはまだ静観の構え。都市部のカフェが飽和状態にあるなか、出店余地が大きい郊外立地に期待する向きが大きい。星乃珈琲店を積極展開するドトール・日レスホールディングスの他、銀座ルノアールも郊外型の「ミヤマ珈琲」のフランチャイズ展開を検討している。
■コーヒービジネスの主戦場は「郊外」へ
今後の主戦場となるのが、コメダ珈琲店が先行する郊外や住宅街立地だ。都市部に比べれば出店余地がまだあり、賃料や人件費も抑えられる。
すでにドトール・日レスホールディングスは、フルサービスの「星乃珈琲店」を郊外でも積極的に展開。強みである自社焙煎の豆を使い、1杯ごとにハンドドリップでいれる高付加価値コーヒーを提供している。カフェ・ド・クリエを運営するポッカクリエイトも、「ハンドドリップでいれたコーヒーを出す郊外型店舗を出店する」と言う。そのほか、スターバックスなどの大手も軒並み関心を寄せている。
【急成長】郊外・フルサービス「コメダ珈琲店」
郊外ロードサイドなどで積極的な店舗展開をするフルサービス型の喫茶店チェーン。モーニングサービスや名物スイーツの「シロノワール」、ゆったりとした座席などが特徴で、似た業態を他社が次々に出店。
【異業種】大手スーパー&外食チェーン
いれたてコーヒーの集客効果を見込んで、大手スーパーから外食チェーンまで、さまざまな業態が取り組みを開始。限られた需要を奪い合う混戦に。
イオンの子会社、イオンイーハートが東京のイオン葛西店に2013年5月に初出店した「カフェ コウアン」
すき家では、すでに1000店舗以上でいれたてコーヒーを提供。ホットコーヒーが100円と低価格
■コーヒーの味の方向性は微妙に違う
各チェーンが提供するコーヒーの味はどのような傾向か。各店でサンプルを持ち帰り、味香り戦略研究所の味覚センサーを使って分析を試みた。
注目のセブン-イレブンのいれたてコーヒーは、「先味、後味ともに苦みのアクセントに重きが置かれている」(味香り戦略研究所の菅慎太郎氏)という。また、コメダ珈琲店については「喫茶店コーヒーは酸味を重視するケースが多いが、苦みに特徴がある」(菅氏)という。
今回スターバックスは深煎りのコーヒーを選んだため、苦みが突出している。その他は基本的に苦みと酸味のバランスを重視した味というなかでの違いだ。
※上記チャートは味香り戦略研究所調べ。2013年9月上旬に都内近郊でサンプルを収集
■巨人・ネスレが家庭外に進出
大手中心のカフェ戦争の余波を受け、さらに苦境に立たされているのが、主に個人経営の街の喫茶店だ。実は今、こうした零細店などを手助けする形でカフェ戦争に斬り込む新勢力が、業界の注目を集めている。インスタントコーヒーの市場では約7割のシェアを持つ最大手のネスレ日本だ。
ネスレ日本は代理店を通じて2013年夏から「カフェ ネスカフェ」の看板を出す契約店の募集を開始。スーパーなどの店内カフェも積極的に展開しており、カフェ業界の台風の目になりつつある
同社は総代理店のシーエヌジェイを通じて、「カフェ ネスカフェ」の看板を掲げる契約店を2013年夏から募集開始。契約店は月1万5750円のサポート料を払うことで、1台100万円程度する業務用マシン「ネスカフェ ミラノ」を借りられる仕組みだ。ネスレにとっては業務用コーヒーの拡販につながる。すでに街の喫茶店や、ランチ後の空き時間にカフェ営業を始めたい飲食店などからの問い合わせが殺到しており、「今後3年で全国1000店規模を目指せる勢い」(ネスレ日本)という。
2013年9月からカフェ ネスカフェの看板を掲げている東京・代官山の飲食店「シーフード カフェ アンド ダイニング ジン」。訪れると、店内の目立つ場所にネスカフェ ミラノが置かれ、ランチタイムは食事代にプラス100円で、ブレンドコーヒーやカフェラテ、カフェモカなど、10種類以上の多彩なドリンクが頼める。山方哲也店長は、「以前は他社のマシンを使っていたが、ミルクの泡立てに手間がかかり、ランチでラテを出すのは難しかった。ネスカフェ ミラノはボタン一つでラテができ、抽出後の豆を捨てるなどの作業も不要なのが決め手になった」と話す。
2013年9月から看板を掲げる東京・代官山の「シーフード カフェ アンド ダイニング ジン」
「金沢アイアンカレー」を売りにする代官山のジンでは、コーヒーの注文数がアップ
無償で貸与される業務用マシンでは、専用のソリュブルコーヒーを使ったラテなどが、ボタン一つで作れる
■飲食店で飲める「プレミアムインスタントコーヒー」の味
ネスカフェ ミラノで使用するコーヒーは、市販されている「レギュラーソリュブルコーヒー」のプレミアム版。これは、微粉砕した焙煎豆をコーヒー抽出液で包み込んでフリーズドライし、従来のインスタントコーヒーより香りやコクを強めたものだ。ネスカフェミラノには他に粉末ミルクとココアが装填されており、全自動で泡立ちの良いラテなどが作れる。
「付加価値の高いミルク系メニューを複数持つことが、街の喫茶店などの生き残りのカギ。ドリンクを数秒で提供できるので、テークアウト需要にも新たに対応できる」と、ネスレ日本ソリュブルコーヒービジネス部の深谷龍彦部長は話す。
気になる味の評価は、「むしろ、以前のレギュラーコーヒーよりおいしくなったという常連客が多く、客の9割以上が注文している」と山方氏。また、味香り戦略研究所の味覚センサーによる分析では、「ネスカフェ ミラノでいれたブレンドコーヒーは、味の主張がやや強めの酸味に表れている。50代以上の喫茶店世代にも受け入れられやすい味だろう」(味香り戦略研究所フェローの菅慎太郎氏)という。
カフェ ネスカフェの展開と同時に、ネスレは地方のスーパーなどが店内に小型カフェを設け、コンビニコーヒーのような集客効果を得るための支援も展開。こちらは、主にカプセルコーヒーマシンの「ネスカフェ ドルチェグスト」を無償で貸し出す方式で、年内に500店以上に増やす計画だ。
秋田県大館市の「いとく大館ショッピングセンター」。ベーカリーの横にネスレのカプセルコーヒーマシンを置き、低価格でコーヒーを販売
秋田県大館市内の「いとく大館ショッピングセンター」は、ベーカリーの横に併設する形でネスレのカフェインショップを設置。ブレンドコーヒーが1杯100円、ラテ系も180円と低価格で提供しており、1日平均50~60杯、週末には100杯以上出る日もある。セブンカフェで1日の平均販売数が約83杯というので、上々の実績。地方スーパーにとってネスレのブランド力を借りられるメリットは大きいはずだ。
今後ネスレは、「人が集まるあらゆる場所をカフェ化していく」(深谷氏)。地方のスーパーやドラッグストア、道の駅など、従来コーヒーを売りにしていなかった“異業種”までも巻き込み、カフェ戦争の台風の目となりそうだ。
ポプラでは2013年10月末までに関西や関東、中四国の300店でネスレの業務用マシンを導入。注文客の3割が女性で、リピート率のアップにもつながっている
■注目の米国発「サードウエーブ」
米国の西海岸を中心に生まれたコーヒー文化「サードウエーブ」の流れも、国内のチェーン店が取り入れ始めた。
サードウエーブは、国や産地だけでなく生産農家まで明確にし、単一種の「シングルオリジン」のコーヒー豆を使い、豆の個性を引き出す焙煎、いれ方を追求する動き。シアトル系の深煎りコーヒーのカウンターカルチャーとして生まれたため、豆に合わせて浅煎りの焙煎も行い、マシン抽出ではなくハンドドリップでいれる店が多い。
「サードウエーブ」とは、90年代後半から米国で起こった動き。シアトル系カフェのエスプレッソやカフェラテに対し、厳選したコーヒー豆の味を引き出すため、浅煎りも行い、ハンドドリップなど抽出法にも工夫を凝らす焙煎業者や専門店が受けている。写真は米国でサードウエーブを牽引する「ブルー・ボトル・コーヒー」。日本に誘致する動きも出ている
日本では、すでに一部のスペシャリティーコーヒーを提供する焙煎業者やカフェが同様の取り組みをしている。そのなかで、いち早くチェーン展開を目指すのがロイヤルグループのアールアンドケーフードサービスだ。
「スタンダードコーヒー」はロイヤルグループのアールアンドケーフードサービスが、チェーン展開を目指す新ブランド。生産農家が明確な豆を使い、ハンドドリップ(360円)などで提供。今後5年で50店を展開する計画で、スタンダードコーヒーで使う豆をグループの店舗でも販売していく。木材を生かした店内(写真左)。コスタリカのラヒルダ農園など、4つの指定農園の豆を使う(写真右)
2013年3月に東京・溜池山王に出店した「スタンダードコーヒー」では、三菱商事傘下のアートコーヒーから仕入れた指定農園・焙煎方法の豆を、1杯ごとにハンドドリップなどで提供する。「客の感度が高い都心を中心に5年で50店体制を目指す。シアトル系カフェの次の業態を探すデベロッパーからの引き合いが多い」(ロイヤルホールディングスの野々村彰人取締役)。2014年は都内の大型オフィスビルに2店出す計画だ。
写真左:注文を受けてから豆をひき、2分ほどかけて丁寧に1杯ずつハンドドリップ。写真右:同店のコーヒーは豆によって異なるが、良質な酸味が特徴
■ミスタードーナツも「サードウエーブ」を意識
ダスキンが運営するミスタードーナツも、ブラジルの指定農園の豆を用意し、サードウエーブを意識したというコーヒーを2013年9月から全店で導入。現状はマシンで4~5杯分を抽出する方式だが、「今後は店内で1杯ごとに抽出するなど、もう一歩踏み込んだ取り組みをしたい」(ミスタードーナツ事業本部の眞鍋陽一郎室長)と話す。
安くてうまいコーヒーが増えるなか、今後はコーヒーの付加価値をどう演出するかが問われそうだ。
ミスタードーナツはブラジルのセラード地区の指定農園の豆を使うなど、サードウェーブの流れを取り入れたという新コーヒーを、2013年9月から全店で販売。4段階の異なる焙煎度合いの単一種の豆を使い、以前よりコーヒー粉の使用量も増やした。今後は1杯ごとの抽出も検討するという。抽出時間などマシンの設定を変更(写真右)。豆の粒度は以前より粗くした
1種類の豆を中煎りから極深煎りまで4段階で焙煎し、酸味や苦みを引き出した。マシン抽出するなど米国のサードウェーブの流れとは微妙に異なるが、全国チェーンで可能な範囲で取り組む
(日経トレンディ 勝俣哲生 写真:古立康三、大高和康、高山透)
[日経トレンディ2013年11月号の記事を基に再構成]
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