「ドリップコーヒーってどうやって淹れたらいいの?」と思われている方も少なくありません。実際にそんな声を聞くことがありますし、ネットなどでもそういったコメントをよくみかけます。
ただ、コーヒー好きの方はもちろん、カフェや喫茶店で働いている方でさえ「ドリップコーヒーには"正しい淹れ方"がある」とは言えないでしょう(むしろ、プロのほうが"正しい淹れ方"なんて恐れ多くて使えないかもしれません)。
それでは、なぜドリップコーヒーには正しい淹れ方があるとは言えないのでしょうか。正しい淹れ方がないとすれば、どうやって自宅でコーヒーを淹れたらいいのでしょうか。
ドリップコーヒーのレシピは様々
まず、最初に言えることはドリップコーヒーのレシピはお店によって様々であり、レシピによって淹れ方や使う道具も違うということです。
ときどき、「コーヒー教室に行ってプロのコーヒーの淹れ方を教えてもらったんだ」という方がいらっしゃいますが、「プロ」にも様々な人がいて、そのプロ一人一人がお店によって全く違うコーヒーの淹れ方をしています。
たとえば、『ドリップコーヒーの最新技術』という様々なカフェのドリップレシピが描いてある本を見てみましょう。
この本によると、有名な「カフェ・バッハ」のレシピは以下の通りです。
1人前
豆の量:10グラム
湯温度:82~83℃
抽出量:約150ml
挽き具合:中挽き
ミル:ディッティング
それでは、他のカフェはどうでしょう。これも有名な「堀口珈琲」のレシピと比較してみます。
2人前
豆の量:30グラム
湯温度:93℃前後
抽出量:300ml
抽出時間:4~4分半
ミル:フジローヤル
1人前と2人前のレシピなので、必ずしも直接比較ができるわけではありませんが、単純計算で1人前にしてみると、堀口コーヒーはバッハの1.5倍の豆を使用して10℃以上高い湯温度でコーヒーを抽出しています。
どちらが正解というわけでもなく、どちらが間違いというわけでもありません。
少なくとも、いずれのカフェも大勢のファンがいるお店ですし、お互いのやり方を間違っているなんて言ったら大変なことになるでしょう。
ここでは紹介を省きますが、レシピが違えば淹れ方も全く違います。このように、ドリップコーヒーには(少なくとも今のところ)"正しいレシピ"というものは存在しません。
コーヒーの淹れ方はまだまだ変化中
なぜこんなことが起こるのでしょうか。
いろいろな理由はありますが、大きな理由は4つほどあるかと思います。
- コーヒーは教育制度がなく、誰でも"プロ"になれる
- コーヒー豆自体の品質が昔と今で変化し続けている
- 抽出だけでなく焙煎や豆選びといった複雑な工程が多い
- 味に関しては好みの要素も大きい
以下の記事で以前もご紹介しましたが、バリスタ、あるいはコーヒーのプロであることに特別な資格や経験は必要ありません。誰でも自称すればバリスタになれてしまいます。
こういった現状が、コーヒーのレシピや淹れ方のバラつきとなっている大きな理由の一つでしょう。
また、コーヒー豆の品質も昔と今では変化し続けています。
たとえば最近話題のスペシャルティコーヒーですが、こうした概念が提唱されたのは1980年代で、歴史としてみればほんの40年もありません。
日本に伝わってからの歴史で言えば20年もないのではないでしょうか(実際日本スペシャルティコーヒー協会ができたのは、ほんの13年前です)。
スペシャルティの歴史について詳しいことは以下のサイトで紹介してあるので、興味のある方は見てみるとよいでしょう。
ここで「スペシャルティコーヒーがその他のコーヒーより優れているかどうか」の議論は避けておきますが、少なくとも品質自体は時代によって常に変化しているため、それに合わせてレシピや淹れ方が変化するのも当然です。
そして、コーヒーの抽出には焙煎から豆の選び方から様々な工程が関わってくるという問題があります。
そのため、たとえコーヒーの抽出のプロであっても焙煎自体は経験が浅かったり、コーヒー豆の流通などにはあまり関われていないといったことがあります。そのために、レシピの統一が難しい部分もあるのでしょう。
最後に、こういった前提を踏まえたうえで、「コーヒーの味には好みがある」ということもとても重要です。
当然、好みに正解・不正解を付けるのは難しいでしょうし、それがあるからこそレシピや淹れ方が多様になっていると言えます。
"美味しいコーヒー"を淹れたいならカフェに行こう
ここまでで「正しいコーヒーの淹れ方はありません」という話をさんざんしてきたのですが、それでは「どうやって自宅でコーヒーを淹れればいいの?」思われるかもしれません。
ただ、"正しいコーヒーの淹れ方"はありませんが、"美味しいコーヒーの淹れ方"ならあります。
それは、自分の好きなカフェや喫茶店の淹れ方をパクッてしまうことです。そのコーヒーは"正しい淹れ方"ではないかもしれませんが、少なくともあなたにとっては美味しいコーヒーであることは間違いないでしょう。
「なんだそんなことか」と思われるかもしれませんが、なぜか"正しいコーヒー"を淹れようとする方の多くは、カフェや喫茶店をほとんどめぐりません。
最初に出会った本やカフェのやっていた淹れ方をそのまま自宅で再現し続けるだけになってしまっているため、つまり"正しいコーヒーの淹れ方"にこだわり過ぎるため、自分にとって美味しいコーヒーを探す努力を怠ってしまうのです。
美味しいコーヒーを淹れたいなら、リサーチは欠かせません。いくらドリップチャンピオンの作ったレシピだろうが、有名な自家焙煎店の作ったレシピだろうが、自分にとって美味しくなければ意味がないのです。
自宅で美味しいコーヒーを淹れたい方は、まず自分の好きなお店を見つけて、そのお店が使っている道具をそろえるところから始めてみるとよいでしょう。