非常に興味深い内容に満ちた本書ですが、その大まかな構成はといったシャンパンそのものに対する一般的な知識とといった専門分野的な内容のふたつです。
特に後者のシャンパンの泡に関する部分に本書の面白さがあるわけですが、
ここでは全編通して面白かった部分、へーっと思った部分をピックアップしてご紹介することで、
シャンパンの奥深さを伝えると同時に、
自分自身に対するメモ帳代わりとしたいと思います。
シャンパンは求められて生まれたものではなかった
シャンパンは瓶内で二次発酵させるという特殊な工程を経て液体内に炭酸を閉じ込めますが、
この手法はドン・ピエール・ペリニヨンという一人の若い修道僧によって確立されたと言われています。
なんですね。
しかし実はこの若き修道僧がはじめに試みたのは実はワインに不本意に発生した炭酸をいかにして消すかということだったと言うのだから面白いんですよ。
実は当時急激な寒冷化も手伝い、ワインが結果的に発泡してしまうと言う事態が起きていました。
これを良く思わないひとたちがドンペリニヨンになんとか発泡しない方法を見つけてくれと頼んだのがことの発端。
一方のドンペリニヨンは泡の発泡を抑える方法を模索しながらも、
ワインに生まれた発泡の神々しい輝きに感銘を受けていたとも言われているそうです。
そうこうしているうちに世間ではという考えが生まれ始めます。
その結果ドンペリニヨンは今度は発泡感をより安定させることを命じられるわけです。
普通に考えたら、はじめは消せと言われていた泡を今度は出せと言われて嫌になるところでしょうが、
ドンペリニヨンとしてはその依頼はむしろ嬉しいものです。
なぜなら他ならぬ彼自身がワインに生まれた泡に魅了されていたから。
こうしてドンペリニヨンが開発したコルク栓による瓶の密閉法やワインのブレンド技術がシャンパン作りの基礎として認知されていくこととなるわけです。
当時の修道院の想像図。笑
ドンペリニヨンはシャンパンの造り方を考えた人、生みの親と言われることもありますが、
これは遠からずも正しい答えとは言えないでしょうね。
確かにドンペリニヨンはシャンパンの今なお続く伝統的な製法の一部を編み出した人物ではありますが、
シャンパンの核となる瓶内の二次発酵は当時イギリスの貴族たちの間で行われていたものであると筆者は書いており、
ドンペリニヨンはその技術をまとめあげた人と考えることが出来そうです。
しかし今こうしてありがたがられて飲まれているシャンパンが実は失敗の産物であったという事実はとても興味深いことのように思います。
クープグラスの魅力
筆者がクープグラスについて書いている項があります。
クープグラスとは以下のような形状のグラス。
一見カクテルを入れるグラスのようにも見えますが、
実は昔はシャンパンはこのようなグラスで飲むのが一般的でした。
今はこういうフルートグラスが一般的ですね。
クープは口が広いので炭酸もとびやすく、温度も上がりやすいので近年では敬遠されるグラスでもあります。
筆者も
底が浅く口の広いクープグラスは安定が悪く、中身がこぼれやすいのです。さらにこのグラスでは、シャンパンのエレガントな泡の列が、美しく見えません。(同書 P41)
と語っています。
確かにシャンパンの特性を活かせるのはフルート状のグラスなのかもしれません。
しかし僕個人としてはクープグラスも捨てがたいかな。
泡の見た目に固執しなければ、泡そのものがシャンパンの美味しさに直結しないことは筆者も部分的に認めていますしね。
クープは泡のエレガントさは消してしまいますが、グラスそのもののエレガントさがあります。
これは持つ人を優雅に魅せてくれるようにも思いますし、
何より多様性があった方が面白いと思いますからね。
泡はチリから生まれる
この事実はちょっとびっくり。
シャンパンの泡はグラスの内側の凹凸から生まれるなど様々な説がありますが、
筆者はこれを一刀両断しています。
筆者曰くシャンパンの泡は空気中、グラスのふちについているチリからなっているというのです。事実チリのまったくないキレイな容器を用意して行われた実験ではシャンパンは泡立たなかったのだとか。
複雑な香味のもと
優れたシャンパンはトースト香のような独特の香りを持つと言われています。
これに限らずシャンパンは普通の白ワインでは持ちえない独特の厚みのある香りや風味を持っていると僕は思っていたのですが、
それは瓶内での発酵作業中に酵母が液体に完全に溶けだすことで付与されるとのこと。
熟成を経たシャンパンはよりリッチな香りをまとうことになるわけです。
瓶内での二次発酵が味わいに複雑をもたらしていたというのはあながち間違いではないと言うことですね。
泡立ちが繊細だとおいしい?
シャンパンは泡立ちがきめ細かい方が美味しいと言われることがあります。
これは結果的にその傾向がある、という風に筆者は考えているみたいです。
つまり泡が繊細だから美味しいのではなく、
美味しい高級なシャンパンには繊細な泡のものが多い。
なぜなら概して良いシャンパンは熟成期間が長く、
その過程で炭酸が少しずつ抜け出て落ち着いていってしまうからです。
しかしこれは逆を言えばシャンパンのうまさは泡だけにあるのではないということです。
シャンパンの魅力的で複雑な香味はその独自の製法からくるもので、
泡は副次的な物にすぎないのでは?という僕の暴論はある意味では的を得ているのではとも思いました。
まぁ、シャンパンなんですから泡があるにこしたことはないんですけどね。
泡が落ち着いてる時にしか感じられない美味しさもあるよってことを知ってほしいですね。