ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 4話2017年1月12日 17:21 ピピピピピピという一定のリズムを刻みつつもこちらの目を覚まさせるのに充分な音で目が覚める。枕元に手を伸ばし、手探りでそれを探し当てスイッチを押して止める。 時間を確認した所、まだ朝の7時。プリキュアが始まるまで後1時間半もあるのでまだ寝ていたいがそうはいかない。 今日からバイトが始まる。……今日からバイトが始まる。大事な事なので2回言いました。 そう考えただけで、今いる布団が外の寒すぎる空気と相まって一層愛おしく感じる。 離れたくない。ここを離れてしまったら、厳しい現実と向き合わなくちゃならなくなる。という俺の何時ものニート思考が布団からの脱出を拒む。 だが、今回ばかりは現実と向き合わなければならない。このバイトの稼ぎが、俺の予備校代と財布の中身に直結しているのだ。俺にはPS4を迎え入れるという使命がある。 気だるい体に喝を入れ、思いっ切り体を起こす。 朝食を手早く済ませ、スウェットからジャージに着替え、自転車に跨り家から出る。時刻は7時半前。 言われた時間は8時だったし、ここからサイゼまでそんなに時間はかからない。でも、8時ぴったりに来てもそれはそれでやる気がないと思われるだろうと思い、少し早めに出たしだいだ。……ん?これ社畜の考えじゃね?気にしたら負けだよね。もう諦めよう。 ちなみに見送ってくれる人はいませんでした!小町も親父も母ちゃんも寝てました! あの息子がバイトに行くんだよ?気分的にはじめてのおつかいと同じくらい。まぁ俺高校生だし、テレビの取材もないし、そんなに愛されてないし。自分で言ってて悲しくなってきた。 平塚先生。あんた何時もこんな気持ちで出勤してたんですね……。早く旦那さん見つけて幸せになって下さい!じゃないと俺貰っちゃいます! ✕ ✕ ✕ 店の裏にある駐輪場に自転車を停め、裏口を目指して歩く。手袋、マフラー、コートと着てきたが漕いでいる最中はあまりその恩恵にあやかれず、ちょっとした隙間をぬって冷たい冬の朝の空気が体中を駆け巡っていた。 つまるところ、今もの凄く寒い。 早く店内に入って、暖かい暖房に当たりながらゆっくりだらだらしたい。え?仕事?ナニソレシラナイナー。 近くに関係者以外立入禁止と書いてあるドアがあったため、そこを開けて中に入る。あぁあったかい。暖房はついてないみたいだが外よりは温かい。 よくわからない場所だったが、昨日の記憶を辿ったところ、店長の部屋の直ぐ近くみたいで、すぐさま店長の部屋へと向か──「あら、早いですね」 ──えなかった。 後ろから俺を呼ぶ声は、昨日俺を揺さぶった(物理的にも精神的にも)声と同じで、ドキッとしながらも後ろを振り向く。「お、おはようございます。水本さん」「おはようございます。比企谷くん」 俺が挨拶をすると、柔らかな微笑みを浮かべながら挨拶を返してくれる。「私より早いなんて、そんなにバイトが楽しみだったんですか?」「い、いえ。あ、あははは。それより、今日俺は何をすればいいんですか?」 何て答えればいいのか分からず、取り敢えず笑って誤魔化し、さり気なく話題を変える。我ながら上手くいった。もうドヤ顔を披露してもいいレベル。「そうでしたね。では私に付いて来てください」 そう言いながら、水本さんは俺の前に立ちどんどん歩き始める。俺もその後ろをぴったりとではなく、かなり間を空けて斜め後ろを歩く。 それを不信に思った水本さんが、歩くのは止めず、こちらに首だけを向けながら話しかける。「どうしてそんなに間を空けて歩くんですか?」「クセです。気にしないでください」「でも「気にしないでください」……分かりました」 少しばかり強引だったろうが俺の勝ちだ。しゅんとした水本さんにほんの少しだけ残ってる良心が痛まないわけではないが、会って1日の人に自分の情報をあれこれ話す必要はない。 しばらく歩くと昨日と同じ場所に着いた。昨日と違うのは、バイトに合格してるっていうくらいかな。あ、水本さんが部屋じゃなくて目の前に居るのか。 水本さんが中に入ったため、俺もそれに続いて入る。俺が室内に入った後、水本さんは俺の後ろにある扉の鍵を閉める。 顔は俯いていて、表情が見えるわけもなく、何の意図があって、と聞こうとしたが胸に突如ポスっという音と共に重みが加わる。 昨日と同様の女性特有の甘い香り。額を胸板にグリグリと押し付けられて少しむず痒いし、控えめに背中に回された華奢な腕も何故かは知らないが少しばかり震えている。 と、冷静に状況判断をしてはいるが、正直ヤバい。俺の理性とか理性とか息子とかがパンク寸前で、今すぐにでも目の前の女性を力いっぱいに抱き締めたい……って!落ち着け俺!流れに流されるのだけは止めろ。冷静になれ俺。取り敢えず何か話しかけてこの状況を打開しないと。「あ、あにょ、水本しゃん、離れて「私嫌われるような事しましたか?」……へ?」「私、嫌われるような事、しましたか?」 あかん。これはあかん。 ただでさえ平常時からできる美人さんなのに、ここに来てギャップ萌えとか反則級だ。チートだ。無理ゲーだ。 しかもこれは狙ってやってない。絶対天然物だ。人工養殖の一色のとは訳が違う。この人の涙目上目遣いの前ではあいつのなんて霞む。霞み過ぎてもはや何なのか判別出来ないまである。 ………早く仕事内容教えて欲しいんだけど、流石に今言うのは野暮ってもんだろなぁ。 あぁ、どうしてこうなった……