| 日本の伝統風習であったというお歯黒をやってみたいと思った。 江戸時代の人に出来て、21世紀に生きるこの僕に出来ないはずがない。 1978年、東京都出身。漂泊の理科教員。名前の漢字は、正しい行いと書いて『正行』なのだが、「不正行為」という語にも名前が含まれてるのに気付いたので、次からそれで説明しようと思う。 > 個人サイトまさゆき研究所 新棟 製法を調べます『古釘などの鉄くずに、お粥や茶葉などを混ぜて壺に詰め、2ヶ月くらい発酵させるとドロドロした非常に臭い液体ができる』 子供の頃、「まほうの薬を作ります」とか言ってこんな感じのことしたことがある。あとで母親に見つかって大変なことになった。 『この液体に、ヌルデという植物の虫こぶから作った「ふし粉」という粉を混ぜて歯に塗る』』 これはよく見かけるツツジの虫こぶ。まだかわいい。 食べ残しと鉄くぎを発酵させた異臭を放つ液体を、虫が寄生して奇形化した植物とともに、歯に塗る。 昔の人の、お歯黒に対する情熱が理解できない。 お歯黒、ネット通販で買えました。上記の物を自宅で作るなどと言うと、おそらく妻に離縁されてしまうので、お歯黒の素は買うことにした。 意外なことに黒くない。ぱふぱふした粉。 お歯黒は、科学的には「タンニン酸・鉄イオン・カルシウム」の混合物であるらしく、異臭発酵やアブラムシなどに頼らずとも、薬品を混合して作ることができる。 科学バンザイ。21世紀バンザイ。 さあ、さっそく歯に塗ってみよう。 お歯黒、歯からは取れないさて、ここで子供のころ「理科はかせ」と呼ばれた僕の勘がはたらく。 これ、歯に塗るというか、歯に染み付く系の成分じゃないだろうか。おそらく元の白い歯には戻らない。こんなもの、自分の歯に塗りたくない。 だが、そんな僕の手元に都合良く、塗ってもいい歯がある。 去年抜いた親知らず。 恥ずかしいので、画像は小さめにした。 親知らず、捨てるのも惜しいので、なんとなくとっておいた。せっかくなので、この機に活躍してもらおう。 お歯黒パウダー、その黒さを発揮おそるおそる、お歯黒パウダーを水に溶かすと…… ふあっ! 黒くなった! ナスの皮のごとき、色の深さ。 最初は疑いの目で見ていた黄土色の粉だが、「ねるねるねるね」もかくや、と思うばかりの変色ぶりである。こいつは頼もしい。 さあ、これを親知らずに塗ります 黒……っ! 黒……っ! まさに圧倒的、黒……っ! あっというまに黒く染まった。 しかし調べるところよれば、かつて新婚の女性はお歯黒がなかなか歯に染まず、せっせと毎日塗ったという。 ということは一見黒く見えるこの歯も、実際はそんなには黒くなって無いのではないだろうか。 ということで洗ってみると……。 全然染まってない!! きれいさっぱり落ちてしまった。小学生の頃、歯のエナメル質は鉄よりも硬いと習ったが、さすがに手ごわい。 それでもあきらめずに何度も塗ってみる。 2回目 3回目 んー……。なんか、イカ墨パスタを食べた後、ぐらいにしか染まらない。これは時間がかかりそうだ。 歯は漬け置きをしておいて、お歯黒を少しだけ口に入れてみようか。 渋っ! そして鉄臭っ! 人類が口にしうるものの中でも一等級にまずい。血の味がする渋柿みたいなまずさだった。毎日こんなもの口に入れてたなんて、昔の新婚女性はどれだけ我慢強かったんだ。心底尊敬する。 舐めた後、呪いのシミのように舌から黒が取れない。 お歯黒、あっさり落ちるそれから6時間ほど漬け置きした親知らず。 漆黒に染まりたる、我が身体の破片(かけら) ほどよく黒も染み込んだのではないだろうか。 満を持して引き上げてみよう。 おお、けっこう染まってる!! これは上出来だ!黒というより、紫に近い感じだが、ここまで染まれば、歯磨きをしてもそう簡単に落ちることは無いだろう。 試しに磨いてみよう。 ハイ、落ちましたーー!! ものすごい歯の白さである。 むしろクリニカのCMで使ってもらってもいいぐらいじゃないだろうか。 もう一度お歯黒漬けにして、勝負は明日に持ち越す。 お歯黒24時心機一転、新しい粉を出して漬け直した親知らず。 かれこれ、24時間お歯黒に漬け込んだ。 何やら毒の沼地に現れたモンスターみたいになっているが、正体は日本の伝統文化である。 さあ水洗いしてみよう。 おお!染まった!? 昨日よりも、圧倒的に黒の付き方が安定している。色も深く浮世絵で見るお歯黒のようだ。ブラシでこすっても落ちない。明らかに成功だ。成功! 21世紀のお歯黒、成功! しかしこれ、磨いても取れないのだろうか。昨日のは磨いたら結構いい勢いで落ちた。歯磨きしてみよう。 あれ、けっこう取れた……、でもまあ、こんなもん? 取れたといっても、クリニカで10分ぐらい磨いてこれだった。普通に磨く分にはほぼ落ちない。昔の人も、週に1回は染め直して黒さを維持してたというし、もしかしたらこのぐらいがお歯黒の限界点なのかもしれない。 成功なのかわからないが、成功。さてそんなことより、塗りながら一つのコツを覚えた。 お歯黒パウダーは水を入れ、混ぜてすぐじゃないと黒く歯に染まらない。時間が経つと、ただの黒い粉になってしまう。 今日のぼくらが、染髪剤のA液とB液を混ぜて速やかに髪に塗るように、昔の人もあくせく急ぎながら歯の色を染めてたのだろうか。 そう思うと昔も今も、人が体を染めるのに同じ苦労をしているようで、ちょっとおかしくもある。 虫こぶについてもっと知りたい人は、これを読もう(超マニアックです) |