ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 黒いシミ2016年8月9日 23:09自己満足な小説です文章が拙すぎて、小説とも言えないようなものではございますがどなたかに読んでいただけると幸いです(矛盾) リビングの方から、何かが落ちる音がした。 その頃はちょうど雨のよく降る時期だった。だからまた、部屋干ししている洗濯物が床に落ちたとかそういう音なのだと思った。 読みかけの本を置いて、自室を出た。 でもリビングには洗濯物は落ちていなかった。全て、元のまま吊るされている。けど、ならさっきのはいったい何が落ちた音だったのだろう、などと思うことはなかった。 そんなことを疑問に感じている余裕はなかったからだ。 リビングにある背の低い小さなテーブルの向こう側、見知らぬ人影が立っていた。ただそれは人の形をしていても、とても人には見えなかった。 そいつは、全身が黒一色で染められていた。見ると、身体中が黒い液体の様なもので覆われている。その黒はそいつの身体の表面を絶えず動き回り、小さくズルズルと音を立てている。指先からは滴のように黒い液体がポタポタ滴っては、リビングの床に真っ黒な溜まりを広げている。「.....誰?」 声なんかあげるべきじゃなかったとすぐに後悔した。 声に気づいたのか、そいつはゆっくりと首だけを回し、こっちを見た。顔も液体で完全に覆われて眼も口も場所が分からないはずなのに、確かにこっちを見つめられたように感じた。 突然の黒い異常で、身動きがとれない。脚から全身へ震えが伝わってきた。 そいつに眼はない、ならどこで感じ取ったのか。そいつは顔を向けてくると不意に、人間なら口の部分にある液体が動いた。ザワザワと大量の黒い虫が蠢くかのように液体が退くと、その下の白い歯がむき出しになった。そいつは笑っていた。ニタニタと歪んだ笑みだった。口の形に裂けた液体の端がピクピクと痙攣している。 そいつの手には黒い杭が握られていた。杭は15センチほどの長さで、螺旋状の溝が彫られている太いアイスピックのような形状をしていた。 そいつの足が動いた。ゆっくりと向かってくる。そいつが一歩進む度にベチャッと液体がはりつく音がして、床に黒い足跡が残った。 逃げなければ。背を向けて玄関の方へ走り出す......ことは出来なかった。振り返るとすぐ近くにそいつがいたからだ。後ろにいるはずなのに。どうしてこいつはさもそれが当然であるかのように目の前にいるんだ。もう脚は完全に動かなかった。 握った杭の先がゆっくりと左胸に当てられた。「何でなんだ...」 その小さな声に、そいつは口元をさらに歪ませるだけだった。 杭が突き立てられた。 痛みはなかった。ただ杭が突き刺さった瞬間、心臓が異様に重くなったのを感じた。 何故だか赤い血は出てこなかった。代わりに黒い液体が傷口からブクブクと小さな泡をつくりながら漏れだしてきた。液体は小さな川のように枝分かれして服に染みをつくっていく。 そいつは突き刺さった杭を、両手を使ってさらに深く押し込んだ。 心臓がますます重くなった。 黒い液体がさらに激しく漏れだした。 そしてそいつは、ピクピクひきつる口角をさらに尖らせたかと思うと、刺し込んだ杭を一気に引き抜いた。 左胸から黒い液体が勢いよく噴き出した。 途端に心臓が信じられないくらい重くなった。あまりの重さに立っていられなくて、思わずその場にへたり込んだ。まるで胸に鉛を括り付けられたかのようだ。胃が不自然に小さく萎んでいき、重くて動かないはずの心臓は気味の悪い動悸を起こしている。額に嫌な汗がべたついている。そこでやっと、全身から汗が噴き出しているのを感じた。着ていたTシャツは既に、心臓から噴き出した黒い液体と冷や汗で、ベトベトと汚れきって身体に張り付いている。 なんとか顔をあげると、そこにはもう黒い人型の姿はなかった。 胸から吹き出た液体が溜まりをつくっている。その溜まりの中に、黒い泡が一つ浮かんでいる。 泡はしばらく溜まりの中をふらふらとどこか居場所を探すように漂っていたけど、突然弾けた。 直後、大量の泡が溜まりの中からたち始めた。まるで溜まりが沸騰しているかのようにボコボコと激しい音を立てながら溜まりから黒い泡が溢れ出し、細かいものから極度に肥大化したものまで大小様々な大きさのものを生みだしながら黒い液体は上へのびていく。 無数の泡は黒い飛沫をとばしながら、見覚えのある形を取り始めた。しばらくして、泡の勢いが止まってくる頃には黒い液体は完全に人の形を体現していた。 やがて泡が止まった。 黒い液体で出来た人型は、さっきのやつとまるで同じ見た目をしているように思えた。膝に手をついて、何とか立ち上がった。まだ鉛になった心臓と気味の悪い動悸は治まらない。 唐突に、人型を覆っていた液体が無くなり始めた。液体は人型の中、細胞一つ一つへ染み込むように消えていく。染み込んだ場所から人の肌の色が見えて、人型の身体のあちこちで黒と肌色のまだら模様をつくりだす。 模様はしだいに肌色の割合が多くなっていき、黒い液体が全て染み込みきるその最後、左頬の真ん中で小さな泡が弾けた。 黒いシミができた。 目の前の誰かが泣いている。 瞳から黒い涙を流して、下唇を強く強く噛みしめながら、静かに、必死に笑っている。 誰かは自分と同じ顔をしていた。 目の前で自分が泣いていた。 頬に薄黒い跡を残しながら、怒りに身を震わせていた。 そして言った。「■■■■■」 真っ黒な言葉だった。