食後横になるなら寝る向きは左右どっち?胃を守って消化促進
私達が食後の余韻にひたっている間、体内では消化器が必死に消化活動を行なっているのです。この時、胃の負担が軽減する姿勢をとってあげると消化が促進されるようになりますよ。
食後にとる姿勢については「右向きに寝るのが良い」「左向きで寝るのが良い」と2つの説が流れています。食後の消化を促進する向きは右と左のどちらが正しいのでしょうか?
ここでは食後の正しい過ごし方と横になる向きについて説明していきます。
食後に寝るのはNG?ありがちな誤解について
食後の寝る向きについてお話をする前に、まず「食後に寝るのは良いことか」という問題について…。
最近は「食後は寝たほうが健康に良い」と言われ、職場でも昼休憩に仮眠をとることが薦められるようになってきましたよね。
しかし、日本では昔から「食後に寝ると牛になる」と言われ食後に寝ることが戒められてきました。また「食後すぐ寝るのは肥満を招く」といも言われるため、食後すぐ寝ることに若干の抵抗を感じる人も多いのではないか、と思います。
結論から言うと、食後に寝るのは正しいです。食後はすぐに活動を開始せず、ゆっくり休むほうが健康のために良いのです。
胃に送り込まれた食べ物はすぐ消化されなければならないので、食後は消化器に血液が集まってフル稼働で食べ物の消化にあたっています。
この時、体を動かすと血液が全身に散らばってしまい消化器の機能が低下してしまいます。つまり消化不良を起こしやすくなるのです。逆にじっとして体を休めていると消化器に血液がスムーズに集まり、消化が促進されるようになります。
では、なぜ食後に寝るのは良くないと言われてきたのでしょう。その理由については、一般に次のように考えられています。
- 牛になる
- 食後にごろごろ寝るのが「行儀が悪い」「怠けている」という意味の戒め
- 肥満を招く
- 寝るとカロリーを消費しないため、食べた物が脂肪に変わるという考え
ちなみに「食後すぐ寝ると肥満を招く」というのは、ケースバイケースです。
食後に仮眠をとる程度なら、起きた後に活動してエネルギーを消費していくので、太ってしまうことはありません。むしろ体を休めることで消化が促進して食べ物がスムーズにエネルギー源に使われ、体脂肪が作られにくくなるメリットが得られます。
ただし!夜寝る前に食事をすると太りやすくなります。寝ている間は活動しないのでエネルギーを消費しない時間が長く続き、消費されずに余ったエネルギー源が体脂肪に変換されやすくなってしまうのです。
また当然ながら、食っちゃ寝を繰り返す人も太ってしまいますよ。
食後に横になるなら右?左?消化を促進する向きは…
食後に寝る時には仰向けではなく横向きで、基本的には身体の右側を下にして横になるのが正しいです。その理由は胃の形状が関係しています。
胃はひらがなの「し」のようなカーブを描いた袋状になっており、胃の入り口となる「噴門部」は体の左側、出口となる「幽門部」は体の右側にあります。
つまり胃の中の食べ物は、左から右に流れていくわけです。
逆に左側を下にして寝ると胃の出口が上になるため、胃の中の食べ物がスムーズに出口へ流れにくくなり、胃の中に食べ物がいつまでも残ってしまいます。
胃の次にある十二指腸での消化が進まない状態、つまり消化不良が起こりやすくなるのです。
ちょっと待った!左向きで寝たほうがいい2つのタイプ
テレビの健康番組から「食後は左向きで寝たほうが良い」といった情報が広がったこともあり、「右向き」と「左向き」の2つの情報が入り混じって聞こえてくるようになっています。
実は右向きも左向きも間違っていません。必ずしも食後は右向きで寝るのが良いというわけではなく、中には左向きで寝たほうが良い人もいるのです。
右向きで寝ると胃の入り口も下を向くため、胃の中の食べ物と胃酸が食道に逆流しやすくなり、食道に炎症を起こしてしまうおそれが出ることがあります。そのため、胃の内容物が食道へ逆流しやすい人は食後に右向きで寝るのを避けるよう薦められているのです。
胃の内容物が逆流しやすく食後に左向きで寝ることが薦められているのは、次のタイプにあたる人です。
- 逆流性食道炎
- 胃の形状が「瀑状胃」である
逆流性食道炎とは
逆流性食道炎とは、胃酸や胃の中の食べ物が食道に逆流してとどまり、食道の粘膜に炎症を起こす病気。欧米に多く日本ではあまりみられない病気だったのですが、日本でも患者数が年々と増加していくようになりました。
胃酸は食べ物を消化するために塩酸や「ペプシン」という酵素で構成され、強い酸性となっています。その胃酸や胃酸と混ざった食べ物が逆流すると、食道が強く刺激され粘膜のびらん(ただれ)や潰瘍が起こります。
胃と食道は胃酸に消化されないような防御がなされています。胃はムチンなどアルカリ性の粘液を分泌して胃粘膜の表面を中和しており、幽門部にある「下部食道括約筋」という筋肉が胃の入り口を締めることで胃の内容物の逆流を防ぐことができています。
しかし胃の機能が低下して下部食道括約筋がゆるんでしまうと、胃の内容物が食道へ逆流しやすくなってしまいます。
さらに食道の粘膜は胃のように保護されていないため、胃酸が逆流すると容易に刺激を受けてしまい、逆流性食道炎を引き起こしてしまうのです。
胃の内容物が逆流すると、呑酸(酸っぱいものがこみ上げてくる)や胸やけが起こりやすくなるほか、咳や喉の痛み、虫歯など酸の刺激によるさまざまな症状が出ることもあります。
逆流性食道炎の人が食後に右向きに寝てはいけないのは、
- 下部食道括約筋がゆるんでおり胃の内容物が逆流しやすいため
- すでに炎症の起きている食道に胃の内容物が逆流すると症状が悪化するため
といった理由があるためです。
すでに逆流性食道炎で受診している人には、医師から食後は右向きで寝ないよう指導が入っているかと思います。問題は、逆流性食道炎を引き起こしているのに症状を見過ごし放置している「隠れ逆流性食道炎」の人です。
隠れ逆流性食道炎の人は増えていると考えられています。胃のあたりが気になる人は逆流性食道炎ではないかチェックしてみませんか。
医療機関で用いられている共通の問診票(Fスケール問診票)を紹介します。
- 逆流性食道炎セルフチェック
質問に対して、ない=0点、まれに=1点、時々=2点、しばしば=3点、いつも=4点で答え、合計点を出してみてください。
- 胸やけがしますか?
- おなかがはることがありますか?
- 食事をした後に胃が重苦しい・もたれるといったことがありますか?
- 思わず手のひらで胸をこすってしまうことがありますか?
- 食べたあと気持ちが悪くなることがありますか?
- 食後に胸やけがおこりますか?
- 喉(のど)の違和感(ヒリヒリなど)がありますか?
- 食事の途中で満腹になってしまいますか?
- ものを飲み込むと、つかえることがありますか?
- 苦い水(胃酸)が上がってくることがありますか?
- ゲップがよくでますか?
- 前かがみをすると胸やけがしますか?
合計点が8点以上の人は要注意。逆流性食道炎の可能性があります。
(草野元康 臨床と研究 82巻2号 379頁~382頁2005年 より参照)
また、次の生活習慣などを持っている人にも逆流性食道炎が起こりやすくなっています。
- 脂肪やたんぱく質の多い食事を好む
- 暴飲暴食をしがち
- 姿勢が悪い(猫背)
- 背中や腰が曲がっている
- 肥満
- 加齢が進んでいる
- ストレスが多い
- ピロリ菌を除菌している
脂肪やたんぱく質など消化しにくい食べ物が胃に入ると胃酸の分泌が促進されるため、これらを食べ過ぎると胃酸の分泌が過剰になって、胃や噴門部の動きが低下してしまう場合があります。
また姿勢が悪かったり肥満体型だったりすると胃が圧迫され、胃の内容物が上に押し出されやすくなってしまいます。
ピロリ菌を除菌すると胃酸の分泌が改善されますが、そのために軽症の逆流性食道炎が起こりやすくなってしまいます。
しかし症状は一時的なもので、ピロリ菌の除菌は胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんの発症リスクを抑えるメリットが大きいため、除菌を控える必要もありません。
そして胃腸科か消化器科、または内科を受診することもおすすめします。
かわった胃の形状、曝状胃の人は左向きで寝よう
胃の形状は人によって思っているよりも異なっています。正常な胃は左上から右下に向かってなめらかなカーブを描いた形状をしていますが、日本人の2~3割には、胃の入り口が低い位置にあり2つに折れ曲がっている「瀑状胃」がみられます。
瀑状胃は胃に内容物が溜まりやすく、食べ物が十二指腸に流れにくいので消化に時間がかかります。また拡張した胃の上部に胃酸が溜まるので、胃炎を起こしたり食道へ逆流して逆流性食道炎を起こしたりと、トラブルが起こりやすくなります。
瀑状胃の「瀑」とは、滝を意味する「瀑布」に由来しています。胃の上部に溜まった胃酸が滝のように落ちる、という意味でこの名前がつけられているようです。
瀑状胃そのものは病気というわけではありませんが、検診で医師に指摘されたり、逆流性食道炎に似た自覚症状で受診し発覚することが多くなっています。
瀑状胃は食後すぐだと胃の上部に食べ物が溜まっているので、右向きに寝ると食べ物が食道へ逆流しやすくなります。そのため、食後すぐは右ではなく左向きで寝ることが薦められています。
ただし瀑状胃の人は胃の形状が複雑なため、途中で寝る向きを変えてやる必要もあります。左向きのままでは食べ物が胃に残りやすくなるので、最初は左向き、次はうつ伏せ、最後に右向きへと寝る姿勢を変えていきます。
瀑状胃になりやすいのはメタボリックシンドロームの人、神経質な人ですが、生まれつきの体質も関係しているといわれます。また特に治療する必要はないもので、胃に負担のかからない食生活や生活習慣を心がけることが対処法となります。
左で寝ると胃もたれが悪化?右向きで寝た方がいいのは鉤状胃と胃下垂の人
食後の寝る向きは、基本が右向き、逆流性食道炎や瀑状胃の人は左向きと説明しました。
最近は逆流性食道炎の人が増えているという意味で左向きに寝ることが薦められるようになってきているですが、胃もたれする人の中には間違って左向きで寝てはいけない人もいます。
それは日本人に多い「鉤状胃(こうじょうい)」と「胃下垂」の人です。
鉤状胃は、胃の下部がかぎ針のように曲がった形状をしています。日本人に多くみられ、胃の下部に食べ物が溜まりやすいので消化に時間がかかりやすいのが特徴です。
胃下垂は胃が正常な位置より下まで下垂する症状です。胃のぜん動機能が弱くなるので消化不良が起こりやすくなります。
鉤状胃や胃下垂は自覚症状のない場合もありますが、次のような症状も特徴的です。
- 食後に胃もたれしやすい
- 食後に膨満感がある
- 食欲不振を起こしやすい
- 油っこい物を食べると胃の調子が悪くなりやすい
- 下痢や便秘を起こしやすい
鉤状胃や胃下垂の人は胃酸の分泌が低下していることも多いのですが、食べ物を消化しようとして胃酸の分泌が活発になり胸やけや胃痛を起こすこともあります。
逆流性食道炎や胃酸の分泌が過剰な人は、空腹時にも胸やけが起こりやすくなりますが、鉤状胃や胃下垂の人はどちらかというと食後に症状が起こりやすいのが特徴です。
鉤状胃や胃下垂が疑わしい人は、胃の機能を高めるために左向きではなく右向きで寝て、食べ物が胃から十二指腸へスムーズに流れるようにしましょう。
鉤状胃と胃下垂は特に治療を必要としませんが、消化不良を起こすことで胃の不快な症状を伴いやすいので、胃に負担をかけない食生活や生活習慣を心がけることが大切です。
また鉤状胃から胃下垂に進行することも少なくありません。胃は腹筋で支えられているので、胃下垂は腹筋が弱い人(特に女性)に多くなっています。
胃もたれしやすい人は、腹筋のトレーニングを中心に適度な運動を日常生活に取り入れ、腹筋を鍛えましょう。
ぐっすり寝てはダメ!食後に寝るならどれくらいが適切?
消化を促進させるためとはいえ、食後は思い思いに寝れば良いということでもありません。休み方が間違っていると、寝起きにかえって胃もたれがして気分が悪くなるので注意が必要です。
食後すぐに寝る時のコツは、寝ると言っても「ぐっすり寝る」のではなく「横になるだけ」にとどめることです。
ぐっすり寝てしまうと消化器も休んでしまうので胃の中に食べ物が残ったままとなり、胃もたれが起こりやすくなってしまいます。昼食後にぐっすり昼寝したら、寝起きに胃がムカムカして気分が悪かったことがある人も少なくないのではないでしょうか。
この時、上半身を少し高くして休むと胃の内容物の逆流を防ぎ十二指腸へ流す効果が高まります。ソファにクッションを置いて横になったり、ベッドで上体を起こして休むと良いですね。
職場の昼休憩など横になれない場合は、座ってややうつむき加減、体の右側または左側が心もち下になるような姿勢で静かに過ごすと良いでしょう。
どうしてもぐっすり寝たい場合は、食後30分以降に寝るようにしてください。また、夜は就寝時間の3時間くらい前までに夕食を済ませましょう。
高齢者は噴門の筋力が低下しており胃の内容物が逆流しやすいので、背中を30度以上起こして最低30分は座って過ごすようにしましょう。
食後でなければ左向きで寝るのも良いかもしれない
食後でなければ左向きで寝るのも良いかもしれません。インドの伝統医学「アーユルヴェーダ」では、睡眠中は体の左側を下にすることを薦めています。
アーユルヴェーダの専門医John Douillard博士は、左向きで寝ることに次のような効能があると言っています。
- 主要なリンパ管は体の左側にあるのでリンパの流れが改善される
- 心臓に向かってリンパ液が流れ、心臓の負担を軽減する
- 肝臓のデトックス機能を高める
- 脾臓の機能を高める
- 消化を促進させる
- 胆汁が流れやすくする
ただし西洋医学では左向きで寝ると心臓に負担がかかりやすく、右向きで寝ると重い肝臓が下になって胃や腸を圧迫しないため、右向きで睡眠をとるのが良いと薦めています。
実際に横たわってみて体が楽だと感じる方の姿勢で就寝するのがベターかと思います。
基本は右、胃酸の逆流を防ぐなら左で30分と覚えておこう
忙しい人は食事を終えてすぐに仕事や家事に取り掛かりたくなると思いますが、消化のためには良くありません。これからは胃をいたわるために食後に少し休む習慣を取り入れたですね。
基本は右向き、空腹時や食後に胸やけや腹痛の起こる人は胃酸の逆流を防ぐために左向きで、ぐっすり寝るのではなく横になって30分過ごすのが良いと覚えてきましょう。