「明るい労務管理改革」~魅力ある会社にするための基盤作りに向けて~
最終回(第六回) 「代謝(人材の入れ替え)」の労務管理
1.会社・組織にはいい新陳代謝が不可欠です!
●新陳代謝の狙いを定める
新陳代謝(しんちんたいしゃ)とは、「古いもの」が「新しいもの」に入れ替わることを言いますが、
会社や組織の新陳代謝は少しひねって考えることが必要です。
「古い社員」(年配の社員)が退社し、入れ替わりに「若い社員」が入社するだけでも、職場雰囲気の活性化に
つながりますが、基本的には「現状維持」の新陳代謝です。
会社の新陳代謝では、「自社に不適な社員」が退社して「自社に適した社員(経験・能力・人格が会社のニーズに
マッチする社員)」が入社することで、これからの経営に合わせた人材構成に近づけていくことが大切です。
随時この新陳代謝を繰り返すことで、常に経営の変化に対応できる人材集団を維持し続けることを狙うのです。
●社内異動も組織の新陳代謝に不可欠
同じ仕事を長期間担当しマンネリ化した社員、同じポストに長くいる管理職、成果を出せない社員などは、部門を
変える(異動させる)ことを検討しましょう。
異動する社員は活性化する機会を与えられ、代わりに異動してくる(あるいは入社してくる)社員により、
その部門も活性化します。
この活性化する度合いが、「人事の妙」と言われており、経営者の力量を表す重要な要素です。
なお、お金を扱う部門の社員、購買部門などの発注権限を持つ社員などに対して、不正ができない牽制機能やチェック
機能があることは当然ですが、定期的な業務分担見直しや他部門への異動も機能として持っておくことが必要です。
これも適正な組織運営上の新陳代謝と言えるでしょう。
●いい社員が辞めていませんか?
退職者のチェックをしていますか? もし、会社にとって必要な社員が退社しているのならば、その分組織力が低下
することになります。
逆に必ずしも必要とはいえない社員や業務遂行に問題がある社員が退社していれば、組織力にはさほど影響はありま
せん。
いい社員が辞めるときは、単なる本人のキャリアプランやライフプラン上の退職理由だけではなく、人間関係や上司の
マネジメント能力不足など組織運営の問題がないかどうかを考えてみることが必要です。
社員が退職する際に、エグジットインタビューを実施する会社があります。
本当の退職理由を聞き出すと共に、会社の問題点なども同時に聞き出せる絶好の機会であるからです。
本音を聞きだすことが難しいケースは多々ありますが、インタビューは通常人事担当者がおこないます。
必要に応じて昔の上司や先輩を指名し、時には外部機関に依頼することもあり、できるだけ有用なインタビューをしよ
うと工夫しています。
いい社員が辞めてしまうのとは逆に、問題のある社員が退職していく場合には、社内で良い「人材循環」の仕組みが
回っていると考えてよいでしょう。
退職が発生した場合には、それが会社にとって「いい退職」なのか、「悪い退職」なのかを把握しておくことは、
組織運営上不可欠だといえます。
2.代謝(退出)の仕組み
●会社は雇い続ける義務、社員は雇わせ続ける義務がある
以下に代謝の仕組みを記載していますが、安易な代謝を勧めているわけではありません。
会社は、雇った以上、社員を継続して雇う義務があります。
逆に、社員は、雇われた以上、雇わせる義務(会社がその社員を継続して雇用したくなるような仕事をする義務)
があると考えます。
これは法的に義務付けられたものではありませんが、一般的な概念として、会社や社員に課せられた社会的義務と
いえます。
会社や社員がこの社会的義務を果たせない場合には、積極的な代謝を実施する必要があると考えます。
●社員が雇用させる義務を果たしていない場合には
①気づき退職(自主退職)
社員が自社に適した人材ではない場合には、適さない理由を本人に伝えることで、本人が自主的に退職していく
仕組みです。
具体的には、経営者や上司との面談、人事評価によるフィードバックなどの機会をつくり、本人が自社で働き続ける
ことが良い選択ではないと、気づかせることです。
強制的に代謝を進める方法ではありませんが、効果はかなり高い方法です。
②普通解雇
就業規則の解雇事由に該当する場合に、会社が一方的に雇用を打ち切る方法です。
社員が労働提供義務を怠っている場合に普通解雇に該当します。
社員の債務不履行により、これ以上雇用を継続できないと会社が判断した場合に取る手段です。
具体的な解雇事由として、能力が著しく劣っている、勤務態度が悪い、欠勤など私的な理由での休みが多い、などが
あります。
円滑に解雇するには、解雇に至った事実を記録することが必要です。
・育成を繰り返したが効果がなかった または 本人が真剣に取り組まなかった、
・異動しチャンスを与えたが効果がなかった、
など、雇用を継続し続けようとした内容とその結果を記録するなどして、解雇の正当性を証明できるよう準備して
おくことが必要です。
③懲戒解雇
就業規則に記載されている懲戒事由に該当する場合に、会社が一方的に雇用を打ち切る方法です。
組織運営上の秩序を著しく乱す行為があり、その社員を排除する必要がある場合に該当します。
具体的には、会社のお金を着服した、法律に反する行為をした、無断欠勤を続けたなどの裏切り行為に対し、
懲罰委員会などで公式に処分を決定します。
頻繁に発生することはないと思いますが、会社を守るためには実行しなければならない代謝機能だと考えます。
●会社が雇用する義務を果たせない場合には
①早期退職優遇制度
早期退職優遇制度の定義は会社によってさまざまですが、社員個人の選択を重視した代謝の仕組みです。
大企業などで、比較的高齢者を対象に第二の仕事人生を支援する制度として運用されていることが多いようです。
具体的には、50歳以上で転職する際の転職休暇付与や退職金の上乗せ、独立支援の援助などがあります。
一般的には継続して運用される制度が多く、社員の若返りを図る、年齢構成を是正するなどの目的を持った趣旨で
実施されます。
②希望退職制度
業績が悪くなり(あるいは悪くなることが確実に予想され)、人員削減を実施せざるをえない経営状況になった時に
希望退職がおこなわれます。
通常は多少経営体力が残っている時に実施することが多く、退職金の上乗せ や 会社負担で再就職支援会社の
サポートを受けられるようにするなど、手厚い条件が提示されます。
退職条件の提示は 会社が再生するための投資であり、会社の再生に貢献することになる希望退職へ応募した社員に
対して優遇された退職条件を提示することは当然だといえます。
具体的には、既に記した退職金上乗せや再就職支援会社の紹介に加えて、取引先等の転職先の紹介、有給休暇の買い
取りなどがあります。こうした希望退職への応募受付は、二週間から一ヶ月の期間を定めて一時的かつ短期間で実施
するケースがほとんどです。
こうした希望退職制度も早期退職制度と同様に、社員に選択する権利があり、自主退職を促す制度です。
今後の経営再生に向けて残ってほしい社員に対しては、事前に面談し残留を促す、あるいは希望退職を承認しない
などの制限を設ける、などを実施することはできます。
③整理解雇
最後の人員削減手段です。希望退職他、経営を維持するための人員削減施策を実施したにもかかわらず目標人員削減
数に達していない場合などに実施します。
整理解雇の4要件に該当することが実施の条件となります。
(1)人員整理の必要性- 整理解雇を実施しなければならない経営上の必要性があること
(2)解雇回避努力義務の履行- 整理解雇を避けるための努力を会社が尽くしていること
(3)被解雇者選定の合理性- 対象者の選定に合理性があること
(4)手続の妥当性- 労働者側との間で十分な協議が尽くされていること
3.退職者のこんな時どうする?
●有給休暇残日数を全部消化して退職すると言われたら
有給休暇消化を認めなければなりません。
よくある質問として、「年度初めに付与してまだ二ヶ月しかたっていないのに、有給休暇を全部消化して退職するのは
おかしい。月割りで付与すべきではないか。」があります。
労働基準法に定めた有給休暇日数については、月割りで付与できません。ただし、法律を上回った有給休暇を付与して
いる場合には月割りでも構いません。
また、「退職時に有給休暇を買い取ることはできるか?」との質問があります。
会社が買い取る義務はありませんが、有給休暇を取得させない意図がなければ、退職時に有給買い取りは問題ないと
考えます。
●未払い残業代を請求されたら
最近は労働者の権利意識が高くなってきており、退職時に過去の未払い残業代を請求する、あるいは労働基準監督署に
申告する(駆け込む)事例などで会社から相談を受けることが多くなりました。
退職者に限った事例ではありませんが、通常から適正に労働時間を管理し支払っておく必要があります。
なお、労働基準監督署からの呼び出しによる調査、あるいは会社訪問による調査が実施されることがありますので、
時間管理の資料等を整備しておくことが必要です。
●「自分は名ばかり管理職」だったと言われたら
労働基準法では、管理監督者は「休日、休暇、労働時間」を適用しないとしています。
つまり、休日出勤手当や残業手当は支給対象ではないとしています。
昨今マクドナルドの店長が管理監督者ではないとの地裁判決が出たので、ホットな話題です。
以下は厚生労働省で出している行政解釈をまとめたものです。地裁判決もこれに従った判決となっています。
①労働時間に縛られない働き方が求められる役付き者
労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請され、重要な職務と責任を有している
こと。
②実態に基づく判断
社内資格や職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目し判断。
③待遇
基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、
ボーナス等の一時金の支給率等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か
等について留意する必要があること。
この行政解釈を厳密に解釈すると、部長以上でなければ該当しないと言われています。なのに、世間では課長以上は
管理監督者の扱いとしており、もうしばらくはこの解釈ギャップは続くだろうと予想しています。
さて、退職者への対応ですが、会社が名ばかり管理職だと認めるか否かです。安易に「名ばかり管理職」だったと
認めることは、現存する管理監督者の扱いを変更することにつながりますので、慎重な対応が必要です。
●不当解雇だと言われたら
普通解雇、懲戒解雇、整理解雇をおこなう際に予想されます。
普通解雇の場合には、就業規則の解雇事由に該当するか、育成や指導をしたか、本人の努力はどの程度だったかなど
を記録しておき、正当な解雇であることを主張できるようにしておきます。
懲戒解雇の場合には、就業規則の懲戒解雇事由に該当するか、他の懲戒事例と比べてバランスが取れているか
(このケースだけ重い懲罰となっていないか)、懲戒事由となった事実確認をしているか、経営者の恣意的な意向は
入っていないか、などをチェックし、正当な解雇であることを主張できるようにしておきます。
整理解雇の場合には、すでに記した4要件すべてを満たしているかどうかを再確認します。
なお、お互いの主張がかみ合わず解決できない場合(労働組合が相手方の場合を除く)には、労働基準局長の助言・
指導・あっせん手続き、労働審判などにより解決を図ることになります。
●退職届を撤回したいと言われたら
退職届を会社が受け取り、人事権のある人事部長や経営者が承認した時点で退職の合意が成立し、以後は退職届を
撤回する義務は会社にはありません。これは民法上の原則です。
しかし、判例等では、会社が退職承認通知書や退職辞令を交付する前であれば撤回できるとしたものもあります。
退職届を受け取るまでの経緯、受け取ってからの対応、撤回申し出を受けるまでに欠員補充のための採用を行ったか
など、会社から見て撤回しがたい理由があれば、社員からの退職届撤回申し出を断ることは十分可能です。
4.まとめ
先日セミナーで「社員にとって魅力的な会社とは?」について話をする機会がありました。気軽に引き受けたものの、
一般的に言える「魅力的な会社」を考えることは、思った以上に難しいものでした。
いろいろ考え悩んだ挙句、長たらしいですが以下のようにまとめました。
「ポリシーを持って社員に愛情をそそぐ経営者・管理職(上司)がいる会社」が社員にとって魅力的な会社だという
定義づけです。
セミナー後、多くの参加者から同感できた旨の話を聞き、安堵したことを記憶しています。
労務管理の主体は、経営者や管理職です。ポリシーと気持ちを込めた労務管理をおこなっていただけば、きっと魅力的
な会社になることができると信じています。
半年間に亘り、ご購読いただきありがとうございました。