【超人シェフ列伝】パティシエの先駆け・高木康政さん

■喜んだ顔見たく野球も辞めた…魔法の「ダマスクローズ」で勝負

 フランス語でいう菓子職人、パティシエという言葉がすっかり定着するほど、本場スイーツのとりこになる女性が急増している。

 東京都世田谷区にある「ル パティシエ タカギ」のオーナーシェフ、高木康政さんは「今年は“バラの高木”でいく」と目を輝かせる。
 欧州で修業を積んだ人気パティシエの先駆け。最近では菓子メーカーのネスレと組み、チョコレート菓子「キットカット」の地域・期間限定のプレミアムタイプを発売して話題となった。

 その高木さんが、このところ、ブルガリア産のバラ「ダマスクローズ」にぞっこんだ。「もともとバラの香りは苦手だった」が、昨秋、偶然出会ったダマスクローズに衝撃を受けた。

 「それまで知ってたバラの香りとは決定的に違う」

 華やかな香りと上品な色に心が躍った。香りからイメージを膨らませ、味のバランスを整え、最適な形を思いめぐらせ…、約2カ月を経て完成したケーキは、その名もズバリ「ダマスクローズ」。
 テーブルに置かれると、すぐに漂う甘い香り。ホワイトチョコのムースからのぞく紫に近い紅色は、細かく砕いた花びらだ。中央のクリームにはローズジャムも混ぜ込まれ、さわやかに甘酸っぱい。
 ふわふわのムースの中にある花びらの不思議な食感が、バラの存在感を一層際立たせる。食べた後も口中にしばらく香りが残り、心地よくリラックスした気分になる。
 9歳のころ、母親に黙ってマドレーヌをつくった。帰ってきた母親は最初、「勝手に火を使って」と怒ったが、一口食べると、「おいしいね」といってくれた。その笑顔が忘れられないという。

 「食べてくれた人の喜んだ顔が見たい」。この思いが、パティシエの原点だ。

 16歳の夏までは、3歳から始めた野球で甲子園を目指していた。しかし、「遊びの誘惑に負けちゃって」、あっさり退部。卒業後、菓子職人になると決めて大阪の辻調理師専門学校に通い始めたころ、甲子園を初めて訪れ、胸の中にかつての夢が蘇った。
 我慢できず守衛に頼み込んで中に入った。そしてグラウンドの前に立った瞬間、後悔の波が押し寄せてきた。

 「なぜ、あのとき、野球をやめてしまったんだ。頑張り通せばよかった」

 以来、パティシエへの道のりは順風満帆ではなかった。「でも絶対にあきらめなかった。甲子園で、後悔する人生はもうやめようって固く誓ったから」とふり返る。
 ただし、がむしゃらに頑張るだけでは駄目だということは、2度にわたるフランスでの修業で学んだ。お菓子づくりに、「いい意味での楽天さ」は欠かせなかった。
 美術館や豊かな自然を楽しみ、ヨーロッパ流のファッションも興味津々で観察した。技術の研鑽(けんさん)とともに、色や形のセンスを、目にしたすべてのものから吸収して作品に生かした。

 実はバラをテーマにした作品づくりは2度目。15年前、世界的に権威あるフランスの洋菓子コンクール「ガストロノミックアルパジョン」に、バラのあめ細工を出品し、日本人最年少で優勝した。
 花びらの微妙な角度までこだわった繊細さ、あでやかなツヤが、「日本的な美を見事に表現したバラだ」と絶賛された。あめは、煮詰め方や引き方に高度な技術を必要とする。そのバラは「ローズジャポネーゼ」と称され、今でも語り草になっている。
 今回、ダマスクローズを提供する輸入業者は、バラの受賞作を覚えていて「あなたにこそ使ってほしい」と熱烈なラブコールを送ってきた。

 「あのときの頑張りが、今のダマスクローズとの出会いにつながったんだ。当時はその香りはおろか、名前すら知らなかったけどね」

 この6月には、ダマスクローズが咲く姿を見たい一心で、ブルガリアの「バラの谷」と称される地域を訪れる。「ダマスクローズの素晴らしさを日本に広める伝道師になる」つもりだ。その第一歩として、今年はダマスクローズを中心としたハーブ主体の店舗展開を予定している。
 さらなる夢は、「パティスリー」と呼ばれる、フランスであこがれてきた本場の菓子店のオープン。
 ヨーロッパでは、テリーヌやカナッペなどの総菜を扱うパティスリーも多い。これまでケーキのほか、アイスクリーム、チョコ専門店と、やりたいことをひとつずつ形にしてきたが、それらをつなげた集大成の店舗になる。

 「来年中にはオープンさせたい」と決意は固い。そのときには、たくさんのおいしい笑顔を見ることになりそうだ。(小坂真里栄)
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【プロフィル】高木康政
 たかぎ・やすまさ 1966年8月、東京生まれ。84年、辻調理師専門学校製菓部門フランス校に入学。卒業後、東京・銀座の「ホテル西洋」などで修業し、91年に再び渡仏。パリの有名レストランで腕を磨く。95年に帰国。2000年、「ル パティシエ タカギ」をオープン。02年にはチョコレート菓子専門店「ル ショコラティエ タカギ」を開店。
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【メモ】ル パティシェ タカギ(東京都世田谷区深沢5の5の21、(電)03・5758・3393)
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【取材協力】ザ・スーパーシェフ
 同社は、「ジャンルを超えた料理人同士の交流」および「新しい食文化の創造」をテーマに、日本料理界を代表するトップシェフ約100人をプロモートしている。