CAEの罠~できたつもりの落とし穴

材料力学の教科書を開くと必ず最初のほうに載っている「片持ち梁」の計算。10mm角の正方形断面、100mm長、鋼の片持ち梁の自由端に980Nの力をかけた時の最大曲げ応力を求めよ…。公式は思い出せなくても、教科書の助けを借りれば理論解が588MPa程度だということは、メカ設計者なら誰でもできますね。

では、同じ問題をCAEの力を借りたらどうなるでしょう…。「なぁんだ、こんなモデル、作るのに1分、CAEで5分、まぁ10分もあれば、ビシっと答えだしますよ。えーと、片側固定だからこちらの端の面を完全固定、反対側の端の面に荷重をかけて…」と思ったそこのあなた、甘い、甘い…。片側固定で、自由端に力をかけて某CAEソフトにお任せして出た答えは、666MPa。何と10%以上も理論解から離れています。うーん、どうすればよいのでしょう?

「そうだ!メッシュを細かくすればいいんだ!CAEはメッシュ命だからね。」
と思った方は、まんまとCAEの罠にはまってくれました。もしお手元にCAEツールがあったらトライしてみてください。メッシュを細かくすればするほど最大応力は大きく、つまり理論解とはかけ離れていくはずです。

なぜでしょう…。

ここでのキーワードは「正しいモデル化」です。ご存じのように、CAEは近似のかたまりですので、最初の近似、つまり、モデル化で躓いてしまったら、正しい答えが出るわけはありません。では、この「片持ち梁」に潜む罠がどこにあったのか見ていきましょう。

 「こんにゃく」1枚を縦半分に切り、端の部分を片手で持ちます。どうでしょう、片持ち梁のようではありませんか? 横から見ると梁がたわんでいるようにみえます。(この場合は自重で変形しているので、前述の自由端への集中荷重とは違いますが、ここでお話しすることの本質とは関係ないので気にしないでください。)では、次に長手方向からこんにゃくを持っている手の部分を正面から見ると、なにか気がつきませんか? そう、もともと長方形だった断面が台形状に変形しているのです。ここで「!」と思ったら大したものです。

さて、少し視点を変えて材力の教科書を広げ、曲げ応力の式を見てみましょう。微分積分が出てくるややこしいところは飛ばして、結論だけ抜き出すと
    σmax=My / I
         σmax:最大曲げ応力
         M:固定端での曲げモーメント
         I:断面二次モーメント
         y:梁の厚み/2
となっています。「!」と思いましたか? そう、この式には断面の変形を表すところが何もないのです。つまり、断面がどのように変形するかという枝葉末節は省き、話を理想化しているのです。(工学的には、多くの場合このように考えたほうが有益なのは言うまでもありません。何せ何十年も前から教科書に書いてあるのですから…。)

では、最初に行ったCAEツールの計算は「理論派」、それとも「こんにゃく派」どちらでしょう? お察しのように「こんにゃく派」なのです。3次元CADで作成したソリッドモデルをCAEツールに渡した場合、梁の断面方向も長手方向も関係なく計算が進められます。つまり、断面方向の変形も正直に表現しようとするのです。

もうお分かりですね。宗旨の違う「理論派」と「こんにゃく派」を同じ土俵の上に乗せたことに「CAEの罠」が潜んでいたのです。

最初に述べたように、CAEの罠にはまらないためには、まずは対象を正確にモデル化するのが必須条件です。今回の問題で「こんにゃく派」を「理論派」に近づけるためにはどうすればよいのかを考えてみます。

最大曲げ応力が発生するのは固定端ですから、この部分に注目してみましょう。図をご覧ください。多少(かなり?)極端に表していますが、荷重をかけると梁の上面の位置も下がってくるはずというのが「こんにゃく派」の主張です。(断面を見るとつぶれたような感じ)

 

 

 

 

 

 

 

ところが、CAEのモデル化ではここを「固定端」として定義しました。お分かりですね、この拘束条件は、本来の「こんにゃく派」の主張とも矛盾するのです。模式的に図示すると次のようになります。端部で本来の曲げ以外で応力が発生しているだろうということがわかりますね。

 

 

 

 

 

 

 

では、正しいモデル化はどうすればよいのでしょう?そう、お察しの通りです。端部の下面部を固定して、あとは壁から離れないだけで、面内では動けるように固定してやればよいのです。

 

 

 

 

 

 

 

このような端部の拘束条件加えて、念のため断面の変形に関係する「ポアソン比」を0に設定して某CAEツールで再度解析したところ、応力は588.1MPa。なんと、ほとんど理論解(588MPa)と一致しました。(当たり前といえば当たり前なのですが…)

「CAEの罠」の一例を、くどくどと述べてきてしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。「現実に起こる問題の本質にいかに近づけたモデル化を行うか」ということが、正しくCAEを使うための第一歩だということを、あらためてご理解いただけたかと思います。

しかし… 多くの場合、この第一歩をきちんと行うのがものすごく難しかったりします。解析の専門家ならいざ知らず、設計者がこのハードルを越えるためにはどうすればよいでしょう?「何につけても王道はなし」というのが本当のところではありますが、上記のようなヒントを皆様に提供するのもソフトウェア供給側の使命であります。

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Enjoy your CAE!!