甲状腺機能低下症について、4回のシリーズでお伝えしています。
第一回目は、甲状腺機能低下症の症状、検査、診断などについてお伝えしました。第二回目の今回は、その症状の改善と予防に科学的に効果のあると報告のある食事や食品について紹介します。
その前に、自己免疫疾患が原因となっている甲状腺機能低下症(橋本病)について、追加したいことがあります。
ヒスタミンと橋本病
橋本病の症状が、ヒスタミンの過剰蓄積によって起こる場合があります。特に、体内のヒスタミン過剰がSIBO(サイボ、小腸内細菌過剰繁殖)や遺伝子異常で起こっている場合です。
ヒスタミンは、多くの食品に普通に含まれている物質です。そして私達の体は、それを分解できるような仕組みをもっています。また、アレルゲンと接触した時などに私達の免疫システムはヒスタミンを分泌して対抗します。そのため、ヒスタミンはアレルギーと関連付けて考えられることが多い物質ですが、正常に働いていれば、悪いものではなく、神経伝達物質として働き、食物の消化を助ける酵素の分泌を促したりする働きをもっています。
ただ、過剰に分泌、蓄積されることで、様々な問題を起こします。
ヒスタミンの過剰分泌の原因は、主に腸内環境にあります。特に、問題なのは、(1)SIBO(サイボ、小腸内細菌過剰繁殖)や(2)遺伝子異常(ヒスタミンを分解する酵素DAOを造れない)によって起きる場合です。
註:SIBOとは、通常大腸にいるべき菌が、小腸や十二指腸で繁殖してしまっている病気で、現時点では抗生物質も乳酸菌治療も決定的な効果はないと言われています。
通常なら、腸内環境を整える効果のある発酵食品ですが、SIBOやDAO遺伝子異常を持っている人にとっては、甲状腺機能低下症を悪化させてしまう食品となります。なぜなら、発酵食品は、ヒスタミンの多い食品だからです。
橋本病と診断された方は、是非、SIBO検査とDAO(ジアミンオキシダーゼ)に関する遺伝子がホモ接合型でないかの遺伝子検査をすることをお勧めします。それによって次に紹介する食事法が異なるからです。
食事法
甲状腺機能に異常をもっている人に特徴的なことは、栄養失調に陥ることが多いということです。甲状腺機能が不全になると、胃酸だけでなく、様々な消化酵素やエネルギー代謝酵素の分泌が低下し、体内で栄養素を吸収する力が弱くなることに起因しています。
消化吸収機能だけでなく、解毒をつかさどっている肝機能も低下していきます。
そして、甲状腺ホルモンバランスの異常によって、情緒と関係する他のホルモンの生成・分泌にも影響し、うつになったり、感情の起伏が激しくなるなど、情緒・心の健康にとっても大きな影響が表れてきます。
そのため、
- 栄養素の吸収を行い、幸福ホルモンの90%を造っている腸内の環境を整えること
- 消化吸収の妨げになるような食品や食べ合わせを避けること
- ホルモンの材料となり、代謝を高めるような食品を積極的に食べること
が重要となります。
1. 良質な脂肪
善玉コレステロールは、ホルモンの材料になります。善玉コレステロールが不足すれば、必要なホルモンが体内で生成されなくなってしまいます。善玉コレステロールが豊富な良質な脂肪をしっかり摂ることが大切です。
良質な脂肪は、魚、オリーブ油、アボカド、亜麻仁油、ナッツ&シーズ、ココナッツオイル、抗生物質やホルモン剤が投与されずに育った動物のお肉やミルク、卵などに含まれています。
フラックスシードオイル(亜麻仁油)に豊富に含まれているオメガ3不飽和脂肪酸が、甲状腺機能低下による症状の改善に効果があるとする報告があります。また、SIBOの改善に効果があるとされるのはココナッツオイルです。
また、トランス脂肪酸(マーガリン、ショートニング、植物油脂)は食品ではありません。そして、低脂肪・無脂肪は、ホルモンバランスにとって何の役にも立ちません。
2. 良質なタンパク質
ホルモンを運ぶ役割をするトランスポーター・タンパク質は、その名の通り、タンパク質でできています。
良質なタンパク質というのは、抗生物質やホルモン剤を投与されずに育った動物のお肉やミルク、卵などの他に、豆類やキンワ/キノアやアマランス等の穀類を意味しています。
魚介類(特に鰹)、豚肉、鶏肉、ナッツ類(チロシン)
チロシンは甲状腺ホルモンの材料です。具体的には、遊離T4をT3に変換する成分です(T4、T3については、『甲状腺機能低下症の予防と改善 (1) – こんな症状ありませんか?』を参照のこと)。そのため、甲状腺機能低下症の人は、しっかりとチロシンを多く含む食品を食べて甲状腺ホルモンが正常に造られるようにすることが大切です。一方、甲状腺機能亢進症の人は、チロシンが多く含まれる食品は控えることが大切です。
チロシンは、アミノ酸の1種で、体内でフェニルアラニンというアミノ酸から合成されます。他のアミノ酸から合成することができるため、必須アミノ酸ではありません。もちろん、食品から摂ることもできます。チロシンもフェニルアラニンも乳製品、豆類(特に大豆)、魚介類(特に鰹)、豚肉、鶏肉、ナッツ類に多く含まれています。
しかし、乳製品と豆類については注意が必要ですから、詳細を後述します。
チロシンは、神経伝達物質としても働くため、うつ病やADHD(注意欠陥障害)、精神分裂病、アルツハイマー、アルコール・薬物からの離脱症状などの改善または治療にも効果があります。
大豆(要注意)
大豆は、原則、発酵させてから食べるようにしましょう。大豆には、イソフラボンと呼ばれるエストロゲン様の成分(植物エストロゲン)が含まれており、それがゴイトロゲン(甲状腺腫誘発物質)として、甲状腺ホルモンのフィードバック機能をブロックしてしまうことが報告されています。
植物エストロゲンは、体内のエストロゲンが不足している時には、それを補い、過剰の時は抗エストロゲンとして働くことが報告されていますが、過剰摂取による問題も報告されていますので、何事もほどほどが重要ですね。
甲状腺機能だけでなく、エストロゲン過剰は、様々な婦人科疾患(乳がん、卵巣がん、不妊、PMSなど)の原因となります。女性ホルモンはエストロゲンとプロゲステロンの2つです。エストロゲンのみに執着して増やすことが女性のアンチエイジングにとって不可欠であるかのような、昨今の流行?誤認識?は、非常に危険です。
エストロゲン過剰が原因のひとつとされる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS、症状:無排卵月経、無月経、35日以上の月経周期、不妊など・・そうなんですよ。エストロゲンが多過ぎても月経がなくなるんですよ)と甲状腺機能低下症に高い相関関係があることも報告されています。PCOSで甲状腺機能低下症の人は糖尿病も合併して発症する確率が高いことも報告されています。
何事もバランスです。過ぎたるは及ばざるがごとしです。
なお、発酵された大豆製品、例えば、醤油、味噌、納豆、テンペなどは、ゴイトロゲンが失われています。ゴイトロゲンとなるのは、発酵されていない、例えば、豆腐や豆乳や大豆そのものです。
橋本病の人のうち、SIBOやDAO遺伝子異常がある人: 大豆は発酵・未発酵に依らず、避けることをお勧めします。大豆はヒスタミンの多い食品です。
ゴイトロゲンについては、次回、野菜のところで詳しく説明します。
その他豆類、全粒穀類、豚肉、キノコ類、魚卵、魚類(ビタミンB群)
豆類や全粒穀類、豚肉、キノコ類、魚卵、魚類に多く含まれているビタミンB群は、エネルギー代謝と深く関わりがあります。そのため甲状腺ホルモンの不足による代謝の低下を補ってくれると考えられていますので、積極的に食べてほしい食品群です。
DAO遺伝子異常のある人: ビタミンB6やB12はヒスタミンの分解を促進してくれますので、是非、豆類やナッツ類、シーズ類を多く召し上がるようにしてくださいね。ただし、ナッツとシーズの食べ方については、必ず、後述を参照してください。
SIBOのある人: 豆類・ナッツ・シーズ以外の食品からビタミンB群を摂るようにしてくださいね。
ビタミンB12は魚介類に多いビタミンです。動物性食品以外のビタミンB12源は、海藻だけです。でも甲状腺機能低下症を発症している人にとって、海藻は避けていただきたい食品ですから、ヴィーガンの人でSIBOあるいはDAO遺伝子異常による橋本病を発症している人は、サプリメント等でビタミンB12を摂ることをお勧めします。海藻については次回詳細をお伝えします。
ミルク・乳製品
橋本病を発症している人は一般的に牛乳に含まれているカゼインと呼ばれるタンパク質の消化分解を上手くできないと言われています。それは、ローミルクであっても同じです。カゼインについては、様々な自己免疫疾患との関係性が報告されている物質ですから、甲状腺に問題が無い人も注意が必要です。
ヤギと羊のミルクは、若干、牛乳と類似した構造をもっているものの、健康な人に害があるとする報告がありませんから、牛乳の代替品として飲んでも良いとは思います。でも既に自己免疫疾患を起こしている(橋本病等の)人は、避けた方が無難でしょう。
ラクダのミルクは、牛乳とかなり異なる構造をもっていることから、問題はないだろうと言われています。とはいえ、日本でラクダのミルクを探すのも難しいので、ミルクを飲まなくても他にタンパク源もカルシウム源もありますから、特に、橋本病をもっている人は、動物性のミルク全般を避けた方が良いでしょう。
3. 炭水化物
低炭水化物ダイエット、炭水化物抜きダイエットは、T3濃度を低下させ、甲状腺機能を不全にすることが報告されています。
精白された単純な炭水化物(白米、白い小麦粉、うどん、パスタ、白砂糖)を避け、精白されていない複雑な炭水化物(玄米、雑穀、全粒粉、豆類、芋類)を多く食べるようにしましょう。
橋本病などの自己免疫疾患をもっている人の中には、低炭水化物ダイエットによって体調が改善する人もたまにいます。でも一般的には、橋本病の患者の多くは、胃酸などの消化酵素の分泌が低下しているので、タンパク質が効率よく消化できません。そのため、タンパク質よりも消化の良い炭水化物を多く摂るようにすることで、体に必要なエネルギーが得られ、慢性的な疲労感が改善すると考えられています。
グルテンフリー(橋本病の人)
グルテンは、小麦、大麦、ライ麦などに含まれているタンパク質の一種で、うどんのコシやパンのモチモチ感をだす成分です。シリアック病やグルテン不耐症をもっている人がグルテンを食べると、自己免疫疾患に似た症状を引き起こすことが知られています。そのため、自己免疫疾患と診断された人の多くが、実は、シリアック病ではないかと、近年、考えられています。
つまり、自己免疫疾患である橋本甲状腺腫の人が、実は、シリアック病が原因で、甲状腺機能低下を起こしている可能性は否定できません。
医療機関で、シリアック病に特化した検査を受けることもできますが、自宅でできる簡単な方法としては、2-3週間、グルテンを含む食品を口にしないで、様子をみることです。
また、エイミー・マイヤーズ医学博士が診断した橋本病患者のうち、シリアック病をもっていた人は、10%だったのにも関わらず、90%の人がグルテンフリー食事療法の後、体調が改善したと報告されています。
つまり、橋本病の人については、シリアック病かどうかに関わらず、グルテンを抜いた食事が症状の改善に効果があるということではないでしょうか。
アーモンド、その他ナッツ類に関する注意点
アーモンドやその他ナッツにある薄い皮にゴイトロゲン(甲状腺腫誘発物質)が含まれていると言われています。そのため、ナッツ類を食べる際には、薄皮をむいて中身だけを食べるようにしてくださいね。
甲状腺機能低下症の人にナッツアレルギーの人が多いという報告もあり、偶然ではないように思います。
4. 腸内環境を整える
腸内細菌は、体内の栄養吸収と代謝に大きな影響をもっています。そして私達の体と心に必要なホルモンを造り、ビタミンをも造っています。また、免疫細胞の60%は腸内にあるんですよ。
近年研究が進められているマイクロバイオーム(共生細菌のDNA)ですが、私達自身のDNAの100倍、細胞数の10倍もの数の細菌が私達を内外から取り囲んでいて、彼等の健康が、宿主である私達の健康に大きな影響をもっていることが判明されてきています。
既にその関係性が判明されつつある炎症性大腸炎やうつ病だけでなく、自己免疫疾患についても共生細菌との関連性が示唆されています。
未だ因果関係を証明するまでには至っていないものの、そうした他の病気との関連性や示唆される因果関係から、甲状腺機能低下症、特に、自己免疫疾患による橋本病などにおいて、腸内細菌が果たす役割は大きいように思います。
腸内細菌のエサとなる食物繊維の多い野菜や果物、腸内細菌を増やす発酵食品を食事の中に積極的に摂り入れていく価値はあるように思います。
ただし、橋本病の人は、SIBOやDAO遺伝子異常がないことを必ず確認してくださいね。そして、SIBOやDAO遺伝子異常がある人は、発酵食品を避け、代りに、ハチミツ(マヌカハニー)や水溶性食物繊維を多く含む食品を(果物と野菜)召し上がるようにしてくださいね。
おまけ: ヒスタミンの多い食品
- 発酵食品全般
- 発酵乳製品:チーズ、ヨーグルト、ケフィアなど含む
- お酢(酢で漬けたピクルスを含む)
- 味噌、醤油、納豆など
- スモーク肉類(ハム、ソーセージなど)
- 大豆と大豆製品(豆腐、豆乳など)
- 卵
- 柑橘類
- ドライフルーツ(特に、アプリコット、チェリー、クランベリー、プルーン、レイズン、デイツ等)
- トマト、トマト製品(トマトソース、ケチャップなど)
- ホウレン草
- 食品添加物全般
- チョコレート
- クローブ、シナモン、チリなど
次回も引き続き症状の予防と改善に効果のある食事と食品について紹介していきます。
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参考文献: