雪の話を書こうと思っていますのに、こちらはさっぱり雪が降りません。降りすぎてお困りの地域の方には、何とも申し訳ないことです。埼玉県では雪が降るのは専ら立春過ぎてからで、私にとっては雪は早春のものなのです。

 さて雪が少し降ると、次の日もしばらく溶けずに残ることがあります。我が家の周辺では、年に一回くらいは一尺くらい積もることがあり、雪かきでもしない限りは数日間残っています。そのように消え残っている雪を、古い歌ことばでは「友待つ雪」といいます。雪には雪の友達がいるというのです。あとから降ってくる雪を待っているかのように消え残っているというのでしょう。我々の祖先たちは自然の動植物を擬人的に理解していましたが、生物でもないものまで擬人的に理解していました。それでも太陽・月・星・風・海・石・木などに神格を与えるのは、何も日本に限らず世界中にあることでしょう。要するに崇拝の対象になり得るものは、擬人化されやすいものです。幼児なら「雪の子供」「雪のペンキ屋さん」などと、こどもの世界で擬人化することはあるでしょう。しかしさすがに大人が雪を擬人化することは珍しいのではないかと思います。

 「友待つ雪」を詠んだ歌をいくつか並べてみましょう。

①白雪の色わきがたき梅が枝に友待つ雪ぞ消え残りたる (家持集 284)
②春の日のうららに照らす垣根には友待つ雪ぞ消えがてにする (堀河院百首 残雪 91)
③降り初めて友待つ雪はうば玉のわが黒髪の変はるなりけり (後撰集 冬 472)
④訪はるべき身とも思はぬ山里に友待つ雪の何と降るらむ (新拾遺集 冬 657)

 ①は『万葉集』にはありませんが大伴家持の歌ですから、「友待つ雪」が万葉時代以来の古い表現であることがわかります。白梅が咲いている枝に、白梅と見分けが付かないように、白雪が跡から降るであろう雪を待っているかのように消え残っているのです。

 ②は春の残雪を詠んだもので、「かてに」「がてに」とは「・・・・することができないで」という意味ですから、垣根に降り積もった雪が、消え残っているのは、友を待っているからだと理解しているのです。今度、白梅の咲く枝に白雪が積もり、次の日も残っていたら、そんな気持ちで眺めてみましょう。

 ③には「雪の朝、老を嘆きて」という詞書が添えられています。降りはじめて、後から降って来る雪の友を待って消えずにいる雪は、私の黒髪が白髪に変わるのを待っているのと同じだというのです。先に降った雪が雪の友を待っているように、黒髪が白髪を待っているというのでしょう。友待つ雪とは関係なくても、白髪を白雪や霜に見立てることは、白髪を「頭(かしら)の雪」というように、常套的な理解でした。

 ④は、山里で人恋しくても誰も訪ねてこない寂しさを、「友待つ雪」になぞらえて詠んだものです。私は友を待っても訪ねてくるあてもないのに、雪はどのような気持ちで友を待つといって降っているのだろう、というわけです。古には雪に道を閉ざされてしまうと、訪ねたくても訪ねようがなくなり、人恋しさが募るものでした。ですから、雪を見るだけで友が恋しくなるのです。どんなに雪に閉ざされても、電話一本で話はできる現代人には、そのような心はもうわからないのでしょう。

 ところが友を待つ雪の心を何とも奥ゆかしく採り入れた、「友待つ雪」という和菓子があります。
京都の亀廣脇という店で作られている冬限定の菓子なのですが、見かけは三段重ねで、下から芋餡・黒糖餡・こなし(白漉し餡に小麦粉を混ぜて蒸したもの)が重なっています。下の芋餡は芋の色、中の黒糖餡は黒砂糖の色、上のこなしは真っ白で、消え残っていた芋餡の上に、少し時間をおいて真っ白なこなしの白雪が友を慕って降ってきたように見えるというのでしょう。「雪」と名付けられていますから、季節外れには売れません。しかし冬に風情のわかる友を招いて、共に過ごすときには、打ってつけの銘菓だと思いました。しかしせっかく「おもてなし」しても、その名前の意味するところが解らなくてはせっかくの名前が泣いてしまいます。名前の由来でも語り合いながら、「雪の中わざわざお運びくださりありがとうございます。お越しになるのをお待ちしておりました。このお菓子はかくかくしかじかで・・・・」と会話がはずめば、きっと楽しい時間を過ごすことができるでしょう。それにしても亀廣脇の御主人、お主、なかなかやりますなあ。とてもよい名前ですぞ。

1 コメント

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Unknown (親ちゃん)
2017-01-26 13:56:13
昨年末に一連の記事を知り、読み始めたら大変面白く、かつ大いに学習さしていただいています。実に解りやすくて、どのような方だろう・どれほどの知識をお持ちなのであろうと楽しみにしています。まず「うたことば歳時記」「唱歌」コピ-しました。ついで「年中‣節気」を読んでゆきます。

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